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「騎兵隊」

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「騎兵隊」

 「プシュッ」、「プシュッ」っと打撃力の強い45口径コルトガバメントが鍵穴に向け発射されると「ガンっ」、「ガコっ」っと鍵のロックごと部屋の中に押し込まれ、大きな穴が開き、廊下から部屋の中の様子が見て取れた。
 「急いで連れ出せ!」と言う組長の言葉に二人の「平っぽ」組員がドアを引き開け、部屋の照明をつけた。奥のベッドで寝ている花音の姿が夏子の視界に入ってきた。(もうあかん、連れ出されてしまう!ごめん大樹!私では止められへん!せめてもの抵抗を!)と夏子が飛び出しかけた瞬間、廊下の向こうから、ルチャリブレ(※メキシコプロレスに見られる空中戦を得意とするプロレススタイルの意。)のマスクマンメキシカンプロレスラーの様な派手なレスラーマスクを被った真っ赤なジャージの女と正面に大きくヒョウの顔がプリントされたトレーナーの女が飛び込んできた。
 廊下に残っていた組長と3人のやくざのうち黒スーツの男二人に深紅のジャージ姿の女のドロップキックと同時にフライングネックブリーカーが炸裂し廊下の床と壁にしこたま後頭部を打ち付け白目をむいた。振り向きざまに、ガバメントを持った男の手にハイキックが決まると拳銃は廊下の奥に転がった。
 そこにヒョウ柄トレーナーの女が飛び込むと入り身投げで男の身体が半回転し、後頭部から廊下に叩きつけられた。突然のマスクマンの乱入に驚きの表情を見せた組長の後頭部に赤ジャージの女の延髄切りが決まり崩れかかったところ懐に入り込んだヒョウ柄トレーナーの女の小手返しで組長は180度回転した。頭から廊下に落ちそうになったが、とっさに受け身を取り直撃を避けた。

 「へー、柔道のたしなみがあるみたいやな。」
ヒョウ柄トレーナーの女が呟くと、組長は懐から38口径のリボルバー銃を取り出した。その瞬間、「武器の使用は反則やで!」と赤ジャージの女の右の踵落としが組長の右手に握った銃の上に落ち、「ボグッ」という鈍い音と共に、組長の右手首は良からぬ方向に曲がった。
「ぐあっ!」
と叫び変な方向に向いた右手に左手を添えようとした組長に
「痛いの我慢させるのは悪いから、お休みさせたるわな。」
 ヒョウ柄トレーナーの女の「正面打ち呼吸投げ」で組長はくるっとその場で半回転すると脳天から廊下に叩きつけられた。

 救護室の中に入っていた二人の平組員が「おやっさんに何するんじゃい!」、「貴様らナニモンや!」と白鞘の短刀を抜くと二人のマスクマンに襲い掛かってきた。
「あーあ、お前ら男のくせに「すてごろ(※素手での喧嘩の意)」もできへんのかい。今時のやくざは情けないのう!」
「いやいや、無敵のニコニコ商店街タッグチャンピオンに向かってくるだけましやで。その「無謀な勇気」は褒めたらなあかんのちゃう?」
と突き出した「短刀ドス」を二人は簡単にかわすと、相手の腕を逆L字に取り、懐に入っての「三強投げ」と、顎へのローリングソバットで相手を後ろに倒してからのベッドの淵でのバク転を加えたムーンサルトドロップで2人同時に瞬殺した。
 6人のやくざの意識を刈り取ったことを確認し、二人のマスクマンはマスクを脱いだ。そこには夏子のよく知った顔があった。
「わー、稀世姉さんと直さんやー!助けに来てくれたん!「騎兵隊」って稀世姉さんと直さんの事やったんや!きゃー、もう大好きー!」
 夏子が絶叫して二人に抱きつきはしゃいでる間に、良太郎は6人のやくざたちを後ろ手にインシュロックで縛りあげていった。

 「あ、あかん、喜んでる場合やないわ!あと6人、やくざが残ってんねやった!」
と夏子が冷静になると
「あぁ、確かに表で突っかかってきた「アホ」が6人おったな。まあ、わしと稀世ちゃんとで10秒かからんとしばきあげたったけどな。カラカラカラ。」
「せやね、準備運動にもなれへんへなちょこやくざ1ダースじゃ物足りへんな。私と直さん相手やったら戦車かメカゴジラくらい持って来てくれなな!ケラケラケラ。」
直と稀世は大声で笑った。
 その横で良太郎はギアバッグからアーマーを取り出し、夏子に手渡した。そこに陽菜、智と大樹が入ってきた。
「稀世姉さん、直さんがやっつけたやくざは6人束にしてきたで。一応、各自持ってた「短刀」と「拳銃」も並べて写真撮って送っといたで。こっちも同じでええんやったな。」
と智が言うと、良太郎は頷き「満君、智の撮った画像確認したら「次」頼むで」とイヤホンマイクに向かって話した。

 7人がかりで6人のやくざを廊下に引きずり出し、インシュロックで連結させ
「さあ、大樹、お姫様の奪還や!」
夏子が声をかけ、ベッドを振り返るとベッドに寝ているはずの花音の姿が見えない。
「えっ、花音ちゃん居れへんようになってるやん!どこ行ったんや!さっきまで居ったんやろ?テレポーテーションしたかUFOにアブダクションされたか?」
陽菜が叫んだ。大樹がすぐに救護室の奥にあるドアが 空きっぱなしになっていることに気が付いた。その瞬間、全員のイヤホンに満の声が飛び込んできた。
「花音ちゃんは司祭が担いでエレベーターホールにいます。3階の理事室に逃げ込まれると厄介です。すぐに追いかけ確保してください!」

 やろうぜ会の4人と大樹が建物中央にある階段に走り、稀世と直がそれに続いた。遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた気がしたが、気にせず一気に3階まで駆け上がった。階段を上り切った廊下の奥正面にあるエレベーターホールの扉は開きっぱなしになっており、理事室から灯りが漏れていた。部屋の奥に花音を肩に担いだ司祭の姿が見えた。
「こんにゃろ!花音ちゃんを返せ!」
叫び、飛び出した夏子の声に反応し、司祭は花音をソファーに投げ出すと理事用の大きなデスクの奥にある木製の衣装箪笥から黒く光るものを取り出した。

 「なっちゃん、あかん!カラシニコフや!突っ込むな!」
良太郎の声が響くと同時に「バララララ」と機関銃の連続発射音が響いた。夏子は後ろに吹っ飛ばされた。
「キャーっ!なっちゃん!大丈夫!」
と陽菜が悲痛な叫びをあげ駆け寄った。夏子のボディーアーマーの正面に約10個の穴が開き紫煙が立ち上っているが流血はない。
「痛ってーっ、肋骨何本か持っていかれたわ!」
の言葉で軍用ライフルの威力に全員が恐怖した。

 司祭はカラシニコフの弾倉が空になったことに気づき、デスクにある引き出しを開け隠しボタンを押した。理事室に仕込まれた厚さ3センチの鋼板が上から降りてくる。重量2トンの鉄のドアが降りてしまえば侵入は不可能だ。良太郎はとっさに廊下に置かれていた消火器を降りてくる鋼鉄のシャッターの下に滑り込ませた。
 消火器がメキメキと音を立てへしゃげ、白い泡の消化液をぶちまけた。かすかに5センチほどの隙間を残し、シャッターは閉じられた。
 稀世が「私に任せて!」と前に出て重量2トンのシャッターを引き上げようとするが当然のごとく1ミリも動かない。外から聞こえるパトカーのサイレンが大きくなり近づいていることがわかる。
 まもなく、複数のサイレンが大きくなり、パトカーが教団施設内に入ってきたと思われた。その直後、館内に「警察や!皆、銃を持って迎撃や!我々には「魂の解放」教団の神がついている!共に戦おう!」と司祭の声が響いた。数十秒後、施設各所から「バラララララ」とカラシニコフの発射音が複数響いた。
 イヤホンに「教団による警察への銃撃戦が始まったみたいです。」と満の声が入り緊張感が一気に高まった。
 
 鳴り響く銃撃音の中、続いてイヤホンから、満の声で「司祭がデスクを移動させてます。非常用脱出口から逃げようとしているのかもしれません。ここで妨害できるのは理事室の照明を落とすくらいです。」と入ってきたが夏子達にはどうしようもない。「くっそー、ここまで来て逃げられてしまうんかい!」と肋骨を抑えた夏子がうめき、あきらめムードが出かかった。理事室の照明が落ち、シャッターの隙間の向こうは漆黒の闇となった。良太郎は、廊下を見渡し叫んだ。
「陽菜ちゃん、智!この廊下の奥に置かれてる消火器を2本持って来てくれ!」

 陽菜は夏子の元を離れ智と共に消火器を取ってきた。
「良太郎どないすんの?シャッターの隙間からホースの先を入れて中に噴射するんか?」
と陽菜が問いかけると
「ちゃうちゃう、陽菜ちゃんは扉の右、智は左に位置してくれ。僕が今から一瞬シャッターを上げるから、上がった瞬間に消火器を盾に差し込んでほしいねん。そしたら70センチくらいの隙間ができるやろ!そしたら全員で突入や!」
と良太郎は答えるとギアバッグから厚さ4センチ、長さ10センチ幅8センチほどの機材にボンベらしきものがついたものを二つ取り出し、プッシュスイッチのついたケーブルで接続した。
 「良太郎、何なんこれ?」の陽菜の問いに
「簡単に言うとエアバッグの部品や。いっきに2つ爆発させるからシャッターが持ち上がった隙に消火器をまっすぐ差し込んでや。智も頼むで!いくぞ、5、4、3、2、1、オン!」
のコールと同時に破裂音と強い火薬の匂いが漂い、鋼鉄のシャッターが跳ね上がった。

 陽菜と智は絶妙のタイミングで消火器を差し込んだ。グリップの部分が飛び白い泡が飛び散り視界を奪われたが、50センチの隙間が残った。
 速攻、夏子が横に転がりながら理事室に突入した。室内は装飾用のキャンドルスタンドに灯ったかすかな炎だけで、横たわる花音の寝顔とカラシニコフの弾倉を再装填する司祭のシルエットだけが浮かんでいた。
「くそっ!ただでやられるかい!」司祭の叫びと同時に再びアサルトライフルの連射音が室内に響いた。夏子は横に転がり、ソファーの陰に潜んだ。しかし、カラシニコフの7.62ミリのフルメタルジャケット弾はソファーを紙のように突き破って「チュン」、「チュン」と夏子の耳に風切り音を響かせると、左頬と左耳に熱いものを感じさせた。
 夏子が手を添えると「ヌルっ」とした生暖かい感触があった。

 「なっちゃん大丈夫か!カラシニコフの弾倉は30発!発射音が止まったら突っ込め!僕らもあとに続く!」
良太郎の声が響くと夏子はソファーから飛び出して蝋燭の向こうに浮かぶ司祭の影にむかって飛び込んだ。夏子に銃口と視線が真正面から一直線に向いているのが分かった。(弾が残ってたら死ぬ!)と思ったが弾は出なかった。司祭は引き金を引くのをあきらめ、AK-47を振り回した。
 夏子はとっさに左腕でガードを固めたが全長870ミリ、重さ4.2キロの鉄の「こん棒」と化したアサルトライフルの直撃に「ボキッ」っという鈍い音と「ぎゃっ!」という叫び声と共に夏子の身体は吹っ飛ばされ、変装用のかつらが飛んだ。
 やみくもにフルスイングされたカラシニコフは、理事用のデスクの上に置かれた燭台も弾き飛ばし、赤いパトカーのランプの光が差し込む正門向きの窓のサイドに掛かった高級なカーテンに燃え移った。瞬く間に炎は窓枠を覆い、天井へと伸びていった。良太郎が予想していたように壁の中には鉄板が仕込まれており、化学繊維でできたクロスは炎を上げて燃えさかるが鉄板で作られた壁は残った。しかし、屋根はそうではなかった。天井に広がった炎は薄い天井板を瞬く間に燃え尽くし、その上のはりをむき出しにした。
 そこに陽菜、良太郎、智に続いて大樹と稀世、直が入ってきた。

 「もはやここまでか…。」
司祭は力なく呟くとデスクの引き出しを開け、新たにボタンを押した。「ボンっ」、「バンっ」、「ドガン」、「ボムっ」と施設の離れたところで4度の爆発音が鳴り響いた。「施設と、居住棟で4か所炎が上がりました。監視カメラではまだ子供や女性が2階に取り残されてます。」と満の声がイヤホンから響いた。
 大樹が飛び出し司祭を殴り倒した。司祭は仰向けになって不気味に笑っている。
「稀世姉さんと直さんと智は信者さんの避難救援に向かって!このままやとほんまにブランチ・ダビディアン事件になってしまう!なんも悪さしてへん信者さんや子供は全員助けたって…。」
折れた左手をブランと下げ、夏子が起き上がって炎に囲まれた理事室の中で稀世と直に頭を下げた。
「わかった。なっちゃん達も無理したらあかんで!」
と稀世が言うと、3人はシャッターの隙間から館内に戻って行った。

 その時、理事室の書庫がガラガラと動き、その奥にあった扉から教祖の天宮城伊織が現れた。
「おいおい、ここでラスボス登場かいな!ここまで騒ぎを大きくした責任はしっかりとケジメ取らせたるかなら!」
と夏子が喧嘩を売ると、予想外の反応だった。
「ずっと、隣の部屋で今日の出来事は見聞きさせてもらってました。「鍵のウルトラマン」さんの勇気と愛に満ち溢れた行動と言葉に感銘を受けました。無垢な信者の事を優先して考えていただいたことに深く感謝いたします。つきましては、司祭ともども、裁きを受ける所存でございますので皆様方も避難してくださいませ…。」
 物腰やわらかく、語り掛ける教祖の姿は前回あった教祖とは別人に思えた。
「せやな、とっとと逃げんとこの安普請の建物はすぐに崩れ落ちてしまうわな。じゃあ、非常脱出口を開けてもらおか。」
夏子が言うと教祖はおとなしく、デスク下の脱出口を開けるボタンを押した。ゆっくりと開く床面の下に、階下に抜ける縦のはしごが見えてきた。
 ほぼ全開に近づいた時に、司祭が突然立ち上がり花音を抱き起こし盾にした。右手には小型拳銃、左手には手りゅう弾を持ち花音の背後に立った。
右手で手りゅう弾のピンを抜き、グリップを握り
「少しでも動いたら即、こいつと一緒に爆破させるぞ。」
拳銃を皆に向けつつ花音と一緒に少しずつ脱出口へと近づいていく。
 すっかり屋根は焼け落ち、梁に火が燃え移っている。炎で照らされた理事室内で、司祭はかつらの取れた夏子の顔に気がついた。
「貴様はあの時の…。思い出したぞ、貴様だけは地獄に送ってやる!」
と司祭は夏子に拳銃を向け引き金を引いた。



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