14 / 41
「仲間割れ」
しおりを挟む
「仲間割れ」
夏子、陽菜、良太郎と大樹が花音の奪回に成功して、リサイクルショップニコニコに戻り、やろうぜ会メンバーが揃った30分後、クール便を装った麻酔薬を仕込んだ荷物と謎のガスマスクの3人組に急襲され3時間半たった。
午後10時、2階リビングに上がる階段の手前で良太郎に折り重なって倒れた陽菜が目を覚ました。うっすらと瞼を開くとぼやけた視界がクリアーになっていく。部屋の中央に夏子と弘道と満、少し外れて智が倒れている。和室には大樹と彩雲、そして陽菜の下で良太郎が寝息を立てている。陽菜の前に見覚えのないバッヂが転がっていた。
(ん、んん…、いったい何があったんやろか…?鉄板にビール…?食べ残しのお好み焼き…。やろうぜ会のお好みパーティーしててみんな酔いつぶれて寝てしもたんか…?それにしても、みんな行儀悪い寝かたやな…。あー、頭痛い…。そんなに激しい飲み方したんやろか…。それにしても良太郎に重なって寝てるなんて、私、酔って良太郎を襲ったんかな…。)陽菜が時計を見ると、時計は午後10時3分を示していた。
ふらふらと立ち上がり、テーブルの上を見ると、ほとんど飲まれていないビールや缶チューハイが並んでいる。(あれ、みんな飲み潰れた感じやあれへんな…?それにまだ10時やろ?なんかおかしい気がするけど、思い出されへん…。とりあえずみんなを起こさなあかん。)
陽菜は、「良太郎、良太郎、起きてんか!」良太郎の肩をゆすった反応はない。ウイスキーの匂いが鼻につく。(あれ、良太郎ウイスキーなんか飲まへんやろ…。って言うか部屋中にウイスキーの匂いが充満してるやん。こりゃ、コークハイやハイボール飲んでたってレベルやあれへんで…。なっちゃんの上には満君と弘道が重なってるし…。智や彩雲や大樹さんいてる前で「乱交パーティー」はあり得へんよな…。)陽菜は、頭がクリアにならないまま皆に声をかけた。
「弘道、満君、ちょっと起きて!あんたら乗っかってたらなっちゃんが起きられへんやろ。彩雲、智も起きや。大樹さんも起きて!」
二人に重なってのしかかられた夏子を起こすために近づいた。床に広がる満の吐しゃ物が視界に入った。
「あーあ、満君、18歳やのに飲んだらあかんやん。弘道がおるのに、逮捕されてしまうで。まあ、ばれへんうちに処理しといたろか…。」
キッチンにタオルとティッシュを取りに行き、床をタオルで拭き取ると満の口元をティッシュで拭う際、満の口元に二つの錠剤が残っていることに気が付いた。指で錠剤をつまむと、ティッシュに包んでテーブルの上に避けた。
弘道を夏子の上からどけて、続いて満の身体を移動させると、満の身体の下にウイスキーのポケット瓶と薬の錠剤のブリスターパックが出てきた。錠剤が4錠残っている。(あちゃー、もしかして弘道が警察で押収した「違法薬物」でもパクってきて、みんなで薬物パーティーでもやったんか?いや「正義感の塊」の弘道に限ってはそんなことはあれへんし、なっちゃんが許すはずがない…。それに薬物の怖さを一番知ってる彩雲が止めへんはずがあれへん。それにしても、もう一人おったような気がするんやけど…。とにかく、誰かが起きてくれへんと埒があかんわ。それにしてもウイスキーの匂いで「二度酔い」しそうや…。先に換気やな。)陽菜は換気扇を回し、窓を全開にした後、7人に声をかけ続けた。
最初に良太郎が目を覚まし、二人で他の6人を起こし続けた。午後10時半に満を除く全員が目を覚ました。互いに話し合うが何が起こったのか記憶がない。最後に満が目を覚まし
「あの煙が出る変な荷物はどうなったんですか?最初に倒れた夏子さんと智さんは無事だったんですね。彩雲さんが「麻酔ガスや」って叫んではりましたけど、「毒ガス」ではなかったんですね?」
と呟いた。
「ん?「変な荷物」ってなに?彩雲、「麻酔ガス」ってなんや?」
夏子が問うが、誰も返事ができない。
「今が10時半ってことは、俺ら全員その「麻酔ガス」で眠らされとったってことなんか?それにしても、全員記憶がないってどういうことや?お好み焼きがんちゃんでやろうぜ会の会合ってことやったやろ?なんでなっちゃんの店に居るねん?全然状況が把握できへん…。」
弘道がうなった。
はたと陽菜が気がついて全員にむかって言った。
「私が最初に目を覚ました時に、床に落ちてたのがこのバッヂ。そんで満君の下にあったんがこのウイスキーボトルと薬の錠剤やねん。」
陽菜が3点をテーブルの上に並べると、良太郎と彩雲がウイスキーボトルと錠剤のブリスターパックを手に取り、呟いた。
「こんな安物のウイスキーなんか俺ら誰も飲めへんやろ。」
「それに、この錠剤ってマイスリーの10mgやん。10mgいうたらきつめの不眠症の薬やねんけど、こんなもんここに居るメンバーで飲んでる奴なんか居れへんやろ…。」
彩雲が少し考えこんで再び呟いた。
「このマイスリーっていう薬はベンゾジアゼビン系の睡眠薬やねん。それも10ミリグラムって言うと相当きついねんな。もしかすると、何者かが私らの記憶を消そうとしたんかもしれへん…。」
「えっ、記憶を消すってどういう意味なん?今日の午後の記憶がほとんどあれへんこととなんか関係あんの?」
夏子が素っ頓狂な声を上げると、彩雲が看護師としての知識を思い出すように語った。
「この薬は、強いアルコールと一緒にとると「薬物性健忘症」っていって、記憶喪失状態を引き起こすんよ。空のブリスターパックひとつに、4錠残ったパックがあるってことは、私ら8人に10ミリグラム錠剤を二錠ずつウイスキーと一緒に飲ませられたって推測できるんやけど…。ただ、それやと満君だけが記憶にある「箱」や「麻酔」って言う記憶の説明がつけへんけどな…。」
すると陽菜が思い出したように
「あー、満君、その錠剤を飲みこんでへんねん。18歳で飲み慣れてないのに、きついウイスキーを飲まされたから吐いてしもたみたいやねん。これがその錠剤やねんけど…。」
とテーブル上のティッシュに包まれた錠剤を彩雲に手渡した。彩雲は錠剤の色と残されたパックの錠剤を見比べると残念そうに言った。
「せやな、陽菜の予想で当たってると思うわ。ただ、満君の言う「箱」と「麻酔」って言葉だけじゃなんもわからへんわな。」
「あの…、その「箱」なんですけど、今この場にはないですが高級肉の懸賞が当たったって、6時半くらいに宅配便が持ってきたんです。それで智さんが受け取って夏子さんが開けた途端に白い煙が箱から噴き出して…。あぁ、そういえば、和室に寝てた大樹さんの妹さんはどうしたんですか?」
満が話すと、大樹が大きな声で問うた。
「えっ、花音が居ったんか?満君、そこをしっかりと思い出してくれ!」
満はゆっくりと思い出すと、
「夏子さん達4人で妹さんを「魂の解放」教団から奪還してきたんじゃなかったですか?まあ、弘道さんにはその奪還作戦は「内緒」ってことやったですけど…。それで「がんちゃん」から場所替えで、僕たち4人がお好みを持ち帰りにしてもらってここに来たんですから…。」
記憶をつなぎ直した良太郎が陽菜に言った。
「陽菜ちゃん、この店の防犯監視カメラ映像を確認や。それと、今日の午後の僕たちの移動履歴をGPSデータで確認するからパソコンだして!」
陽菜が取り出したパソコンを良太郎が次々と操作していく。防犯監視カメラの映像から、6時に彩雲から陽菜が電話をもらい、6時10分に弘道、智、彩雲、満の4人がリサイクルショップニコニコに到着。彩雲が花音に何某らの薬物が使われている可能性を指摘し、その後、花音のシュシュにGPSが仕込まれていたことを良太郎が発見し無効化した。その10分後に宅配便がクール便を装って荷物を届け、夏子が箱を開けると同時に煙が噴き出し、皆が倒れていく中、部屋に乱入してきたガスマスクの3人組に良太郎と陽菜が倒され、その後、8人に錠剤とウイスキーを流し込み、花音を背負って出ていく姿が録画されていた。
夏子、陽菜のスマホのGPS移動履歴から、教団近くの道路上で花音を奪還したことも分かった。智のボイスレコーダーにも会話が残っていた。さらに陽菜が部屋で拾ったバッジが「魂の解放教団」のものと判明した。
「もう、これだけあいつらの悪事の証拠が揃ったら弘道も文句ないやろ。花音ちゃんは薬漬けにされ、なにがしらの「奉仕」を強制されて、今日、こないして「違法」な形で私らを襲って、再び花音ちゃんを拉致していったんやからな。これは十分に「成敗」に値するんとちゃうんか?なあ、みんな!」
夏子が発破をかけたが、弘道は否定的に夏子に言った。
「あかん、なっちゃん、ここまで来たら後は「警察」の話や。少なくとも、日南田さんの妹さんをなっちゃん達が「違法」に拉致したのも事実や。
それに俺も調べたけど、前に智が言ってたように「魂の解放」教団は独自に軍用ライフルを集めて、自分らで使えるように加工してる可能性も高い。あいつら東大阪の鉄工所を借り切ってなんかしとんねん。俺ら素人がライフル銃相手に何ができんねん!いままでの敵のインチキ地上げ屋や売春組織相手とはちゃうねん!命がかかってんねんからな…。そんな危険な「成敗」になっちゃんを…、いやなっちゃん達皆を行かすわけにはいけへん!」
いつになくきつい調子で言う弘道に一瞬夏子はたじろいだが、
「せやけど、警察が動くには時間がかかるやろ。私らにも記憶を消すような薬を使うような奴や。花音ちゃんの事を考えたら、そんなのんびりしてる時間はあれへんねん!」
と夏子は弘道の胸ぐらをつかんで食ってかかった。
「あほう!いい加減にせえ!」
「ぱしっ!」っと、弘道の平手が夏子の頬を打った。
「弘道、何するんじゃい!女の顔叩きやがったな!顔は女の命やぞ!」
夏子は逆上して、弘道に殴りかかるがその攻撃の全てはパーリングですべてかわされた。
「今のなっちゃんには何を言うても無駄やな。冷静になって考えてみろや。銃で撃たれたら死ぬんやぞ。頬を打たれて怒ることもできへんようになるんやからな。そこも考えて頭冷やせや!とにかく、教団相手の「成敗」は俺は反対や!」
「もう知らんわ!弘道!そんなに公務員の椅子が大事やったらこの場にお前は要らん!嫌いや!もう出ていけ!うわーん!」
泣きながら叫ぶ夏子に「わかった…。良太郎、智、俺の言うてる意味をお前らやったらわかるやろ…。今回は全て「無し」や。くれぐれもお前らはあほな真似すんなよ…。」と言い残し、弘道は出ていった。
陽菜がやさしく夏子に寄り添う。智がバッヂを手に取ると
「このマークはまさに「魂の解放」教団のものやな。防犯監視カメラに写ってた陽菜ちゃんの蹴りで二人を倒した時点で落としていきよったんやろ。オウムの時の弁護士一家誘拐事件の時もバッジが決め手になったように、これを弘道に渡して大阪府警に動いてもらうことにするのも手やけど…。」
と言葉を詰まらせた。ふと、夏子が顔を上げて、
「ひよった弘道なんか頼らんでもええ。あいつがあんなに腰抜けやとは思えへんかったわ。警察に任せたら智もスクープになれへんやろ。ここは、私らだけで花音ちゃんを再救出や!陽菜ちゃん、良太郎、満君も力を貸してほしい。」
と夏子が声をかけると、意外にも彩雲が先に返事をした。
「しゃあないなぁ…。夏子がこない言い出したら止まらへんのは私が一番理解してる。夏子には借りもあるし、今回は弘道の代わりに私がメンバーに入ったるわ。」
「よろしくお願いします。」と頭を下げる大樹を前に、「しゃあないな、私はなっちゃんがやるって言うんやったらとことん付き合うで。」、「陽菜ちゃんがなっちゃんにつきあうなら僕も陽菜ちゃんについていくわな。メカと装備は任せてくれ。」、「俺は、スクープになるんやったらそれでええで。情報の面でそんなカルト教団潰したるで!」、「弘道さんには申し訳ないですけど、僕はここまで来たら夏子さんと良太郎さんに従います。」と五人も夏子に同意した。
「もちろん、僕もなっちゃん達、皆さんに任せっきりにすること無いように協力しますんで、何とか花音を救い出す手伝いをお願いします。」
大樹が言うと夏子が全員に檄を飛ばした。
「おっしゃ、今回はこの7人で「成敗」や!早速作戦を練るで!」
早速、良太郎と満が教団のサーバーにハッキングをかけ門真本部のセキュリティーについて調べた。3日前に調べた赤外線レーダーと理事室の鉄のシャッター以外にもレーザーセンサーや超音波センサーも装備されていることが分かった。
教団建物の図面と各部屋の利用信者の名簿が手に入り、花音のいる部屋が特定できた。防犯カメラのデータもハッキングにより、こちらで閲覧できるようになり花音が鍵付きの医務室のような部屋にいる様子も確認できた。
また、「倉庫」と図面の中にあった部屋のカメラ映像を確認した後にデータホルダーの「極秘」とタイトルがつけられたファイルあった金属部品のマシニングセンター加工用のCAD図面データが見つかり、それが銃の重要部品と弾頭と薬莢の設計図データであることがわかり、カメラモニターを交互に見て良太郎が声を上げた。
「へー、ほんまにカラシニコフAK-47が並んでるわ。20丁はあるで!更に、地下室は「射撃訓練」できる設備まであるやんか。発射不能のモデルガンでも、これだけの部品があれば発射可能やし、実弾まで作っとんねんな。こりゃ、驚いたなぁ!」
「良太郎、ちなみに素人が作ったような銃で効果はあるんか?」
画面に見入る良太郎に智が興味深げに尋ねた。
全員が息を飲み良太郎の回答を待った。
「せやな、弾頭はほんまもんのカラシニコフで使われてるもんとはちゃうけど、真鍮を削り出しで作ってるから、先が丸い拳銃弾と違って7.62ミリのフルメタルジャケットの貫通力はバカにできへん。銃に使う火薬は普通には手に入れへんから、花火をばらして作ってると考えても射程は200メートルは飛ぶし、ロングドリルで銃口に穴をあけてきちんとライフリング加工されてたらその倍は飛ぶから油断はできへんでな。」
と真剣に答えた。
「でも、良太郎の作ったポリカーボネートの防弾チョッキ着とったら大丈夫やろ?今までも何回か撃たれたけど大丈夫やったやん。いつかは、良太郎特製のスマホケースで助かったこともあったしな。」
陽菜が皆を安心させようと言葉を挟んだが、良太郎は難しい顔をしたまま、うつむいて呟いた。
「いや、陽菜ちゃん、そんなに甘いもんやあれへんねや。銃の威力は、銃身の長さ、弾の大きさと形状、火薬の量と質で決まるんや。まあ、女性信者がそうそう使いこなせる銃じゃないんやけど、流れ弾でも当たるときは当たるから、ボディーアーマーは少し考え直さなあかんかもな…。」
夏子、陽菜、良太郎と大樹が花音の奪回に成功して、リサイクルショップニコニコに戻り、やろうぜ会メンバーが揃った30分後、クール便を装った麻酔薬を仕込んだ荷物と謎のガスマスクの3人組に急襲され3時間半たった。
午後10時、2階リビングに上がる階段の手前で良太郎に折り重なって倒れた陽菜が目を覚ました。うっすらと瞼を開くとぼやけた視界がクリアーになっていく。部屋の中央に夏子と弘道と満、少し外れて智が倒れている。和室には大樹と彩雲、そして陽菜の下で良太郎が寝息を立てている。陽菜の前に見覚えのないバッヂが転がっていた。
(ん、んん…、いったい何があったんやろか…?鉄板にビール…?食べ残しのお好み焼き…。やろうぜ会のお好みパーティーしててみんな酔いつぶれて寝てしもたんか…?それにしても、みんな行儀悪い寝かたやな…。あー、頭痛い…。そんなに激しい飲み方したんやろか…。それにしても良太郎に重なって寝てるなんて、私、酔って良太郎を襲ったんかな…。)陽菜が時計を見ると、時計は午後10時3分を示していた。
ふらふらと立ち上がり、テーブルの上を見ると、ほとんど飲まれていないビールや缶チューハイが並んでいる。(あれ、みんな飲み潰れた感じやあれへんな…?それにまだ10時やろ?なんかおかしい気がするけど、思い出されへん…。とりあえずみんなを起こさなあかん。)
陽菜は、「良太郎、良太郎、起きてんか!」良太郎の肩をゆすった反応はない。ウイスキーの匂いが鼻につく。(あれ、良太郎ウイスキーなんか飲まへんやろ…。って言うか部屋中にウイスキーの匂いが充満してるやん。こりゃ、コークハイやハイボール飲んでたってレベルやあれへんで…。なっちゃんの上には満君と弘道が重なってるし…。智や彩雲や大樹さんいてる前で「乱交パーティー」はあり得へんよな…。)陽菜は、頭がクリアにならないまま皆に声をかけた。
「弘道、満君、ちょっと起きて!あんたら乗っかってたらなっちゃんが起きられへんやろ。彩雲、智も起きや。大樹さんも起きて!」
二人に重なってのしかかられた夏子を起こすために近づいた。床に広がる満の吐しゃ物が視界に入った。
「あーあ、満君、18歳やのに飲んだらあかんやん。弘道がおるのに、逮捕されてしまうで。まあ、ばれへんうちに処理しといたろか…。」
キッチンにタオルとティッシュを取りに行き、床をタオルで拭き取ると満の口元をティッシュで拭う際、満の口元に二つの錠剤が残っていることに気が付いた。指で錠剤をつまむと、ティッシュに包んでテーブルの上に避けた。
弘道を夏子の上からどけて、続いて満の身体を移動させると、満の身体の下にウイスキーのポケット瓶と薬の錠剤のブリスターパックが出てきた。錠剤が4錠残っている。(あちゃー、もしかして弘道が警察で押収した「違法薬物」でもパクってきて、みんなで薬物パーティーでもやったんか?いや「正義感の塊」の弘道に限ってはそんなことはあれへんし、なっちゃんが許すはずがない…。それに薬物の怖さを一番知ってる彩雲が止めへんはずがあれへん。それにしても、もう一人おったような気がするんやけど…。とにかく、誰かが起きてくれへんと埒があかんわ。それにしてもウイスキーの匂いで「二度酔い」しそうや…。先に換気やな。)陽菜は換気扇を回し、窓を全開にした後、7人に声をかけ続けた。
最初に良太郎が目を覚まし、二人で他の6人を起こし続けた。午後10時半に満を除く全員が目を覚ました。互いに話し合うが何が起こったのか記憶がない。最後に満が目を覚まし
「あの煙が出る変な荷物はどうなったんですか?最初に倒れた夏子さんと智さんは無事だったんですね。彩雲さんが「麻酔ガスや」って叫んではりましたけど、「毒ガス」ではなかったんですね?」
と呟いた。
「ん?「変な荷物」ってなに?彩雲、「麻酔ガス」ってなんや?」
夏子が問うが、誰も返事ができない。
「今が10時半ってことは、俺ら全員その「麻酔ガス」で眠らされとったってことなんか?それにしても、全員記憶がないってどういうことや?お好み焼きがんちゃんでやろうぜ会の会合ってことやったやろ?なんでなっちゃんの店に居るねん?全然状況が把握できへん…。」
弘道がうなった。
はたと陽菜が気がついて全員にむかって言った。
「私が最初に目を覚ました時に、床に落ちてたのがこのバッヂ。そんで満君の下にあったんがこのウイスキーボトルと薬の錠剤やねん。」
陽菜が3点をテーブルの上に並べると、良太郎と彩雲がウイスキーボトルと錠剤のブリスターパックを手に取り、呟いた。
「こんな安物のウイスキーなんか俺ら誰も飲めへんやろ。」
「それに、この錠剤ってマイスリーの10mgやん。10mgいうたらきつめの不眠症の薬やねんけど、こんなもんここに居るメンバーで飲んでる奴なんか居れへんやろ…。」
彩雲が少し考えこんで再び呟いた。
「このマイスリーっていう薬はベンゾジアゼビン系の睡眠薬やねん。それも10ミリグラムって言うと相当きついねんな。もしかすると、何者かが私らの記憶を消そうとしたんかもしれへん…。」
「えっ、記憶を消すってどういう意味なん?今日の午後の記憶がほとんどあれへんこととなんか関係あんの?」
夏子が素っ頓狂な声を上げると、彩雲が看護師としての知識を思い出すように語った。
「この薬は、強いアルコールと一緒にとると「薬物性健忘症」っていって、記憶喪失状態を引き起こすんよ。空のブリスターパックひとつに、4錠残ったパックがあるってことは、私ら8人に10ミリグラム錠剤を二錠ずつウイスキーと一緒に飲ませられたって推測できるんやけど…。ただ、それやと満君だけが記憶にある「箱」や「麻酔」って言う記憶の説明がつけへんけどな…。」
すると陽菜が思い出したように
「あー、満君、その錠剤を飲みこんでへんねん。18歳で飲み慣れてないのに、きついウイスキーを飲まされたから吐いてしもたみたいやねん。これがその錠剤やねんけど…。」
とテーブル上のティッシュに包まれた錠剤を彩雲に手渡した。彩雲は錠剤の色と残されたパックの錠剤を見比べると残念そうに言った。
「せやな、陽菜の予想で当たってると思うわ。ただ、満君の言う「箱」と「麻酔」って言葉だけじゃなんもわからへんわな。」
「あの…、その「箱」なんですけど、今この場にはないですが高級肉の懸賞が当たったって、6時半くらいに宅配便が持ってきたんです。それで智さんが受け取って夏子さんが開けた途端に白い煙が箱から噴き出して…。あぁ、そういえば、和室に寝てた大樹さんの妹さんはどうしたんですか?」
満が話すと、大樹が大きな声で問うた。
「えっ、花音が居ったんか?満君、そこをしっかりと思い出してくれ!」
満はゆっくりと思い出すと、
「夏子さん達4人で妹さんを「魂の解放」教団から奪還してきたんじゃなかったですか?まあ、弘道さんにはその奪還作戦は「内緒」ってことやったですけど…。それで「がんちゃん」から場所替えで、僕たち4人がお好みを持ち帰りにしてもらってここに来たんですから…。」
記憶をつなぎ直した良太郎が陽菜に言った。
「陽菜ちゃん、この店の防犯監視カメラ映像を確認や。それと、今日の午後の僕たちの移動履歴をGPSデータで確認するからパソコンだして!」
陽菜が取り出したパソコンを良太郎が次々と操作していく。防犯監視カメラの映像から、6時に彩雲から陽菜が電話をもらい、6時10分に弘道、智、彩雲、満の4人がリサイクルショップニコニコに到着。彩雲が花音に何某らの薬物が使われている可能性を指摘し、その後、花音のシュシュにGPSが仕込まれていたことを良太郎が発見し無効化した。その10分後に宅配便がクール便を装って荷物を届け、夏子が箱を開けると同時に煙が噴き出し、皆が倒れていく中、部屋に乱入してきたガスマスクの3人組に良太郎と陽菜が倒され、その後、8人に錠剤とウイスキーを流し込み、花音を背負って出ていく姿が録画されていた。
夏子、陽菜のスマホのGPS移動履歴から、教団近くの道路上で花音を奪還したことも分かった。智のボイスレコーダーにも会話が残っていた。さらに陽菜が部屋で拾ったバッジが「魂の解放教団」のものと判明した。
「もう、これだけあいつらの悪事の証拠が揃ったら弘道も文句ないやろ。花音ちゃんは薬漬けにされ、なにがしらの「奉仕」を強制されて、今日、こないして「違法」な形で私らを襲って、再び花音ちゃんを拉致していったんやからな。これは十分に「成敗」に値するんとちゃうんか?なあ、みんな!」
夏子が発破をかけたが、弘道は否定的に夏子に言った。
「あかん、なっちゃん、ここまで来たら後は「警察」の話や。少なくとも、日南田さんの妹さんをなっちゃん達が「違法」に拉致したのも事実や。
それに俺も調べたけど、前に智が言ってたように「魂の解放」教団は独自に軍用ライフルを集めて、自分らで使えるように加工してる可能性も高い。あいつら東大阪の鉄工所を借り切ってなんかしとんねん。俺ら素人がライフル銃相手に何ができんねん!いままでの敵のインチキ地上げ屋や売春組織相手とはちゃうねん!命がかかってんねんからな…。そんな危険な「成敗」になっちゃんを…、いやなっちゃん達皆を行かすわけにはいけへん!」
いつになくきつい調子で言う弘道に一瞬夏子はたじろいだが、
「せやけど、警察が動くには時間がかかるやろ。私らにも記憶を消すような薬を使うような奴や。花音ちゃんの事を考えたら、そんなのんびりしてる時間はあれへんねん!」
と夏子は弘道の胸ぐらをつかんで食ってかかった。
「あほう!いい加減にせえ!」
「ぱしっ!」っと、弘道の平手が夏子の頬を打った。
「弘道、何するんじゃい!女の顔叩きやがったな!顔は女の命やぞ!」
夏子は逆上して、弘道に殴りかかるがその攻撃の全てはパーリングですべてかわされた。
「今のなっちゃんには何を言うても無駄やな。冷静になって考えてみろや。銃で撃たれたら死ぬんやぞ。頬を打たれて怒ることもできへんようになるんやからな。そこも考えて頭冷やせや!とにかく、教団相手の「成敗」は俺は反対や!」
「もう知らんわ!弘道!そんなに公務員の椅子が大事やったらこの場にお前は要らん!嫌いや!もう出ていけ!うわーん!」
泣きながら叫ぶ夏子に「わかった…。良太郎、智、俺の言うてる意味をお前らやったらわかるやろ…。今回は全て「無し」や。くれぐれもお前らはあほな真似すんなよ…。」と言い残し、弘道は出ていった。
陽菜がやさしく夏子に寄り添う。智がバッヂを手に取ると
「このマークはまさに「魂の解放」教団のものやな。防犯監視カメラに写ってた陽菜ちゃんの蹴りで二人を倒した時点で落としていきよったんやろ。オウムの時の弁護士一家誘拐事件の時もバッジが決め手になったように、これを弘道に渡して大阪府警に動いてもらうことにするのも手やけど…。」
と言葉を詰まらせた。ふと、夏子が顔を上げて、
「ひよった弘道なんか頼らんでもええ。あいつがあんなに腰抜けやとは思えへんかったわ。警察に任せたら智もスクープになれへんやろ。ここは、私らだけで花音ちゃんを再救出や!陽菜ちゃん、良太郎、満君も力を貸してほしい。」
と夏子が声をかけると、意外にも彩雲が先に返事をした。
「しゃあないなぁ…。夏子がこない言い出したら止まらへんのは私が一番理解してる。夏子には借りもあるし、今回は弘道の代わりに私がメンバーに入ったるわ。」
「よろしくお願いします。」と頭を下げる大樹を前に、「しゃあないな、私はなっちゃんがやるって言うんやったらとことん付き合うで。」、「陽菜ちゃんがなっちゃんにつきあうなら僕も陽菜ちゃんについていくわな。メカと装備は任せてくれ。」、「俺は、スクープになるんやったらそれでええで。情報の面でそんなカルト教団潰したるで!」、「弘道さんには申し訳ないですけど、僕はここまで来たら夏子さんと良太郎さんに従います。」と五人も夏子に同意した。
「もちろん、僕もなっちゃん達、皆さんに任せっきりにすること無いように協力しますんで、何とか花音を救い出す手伝いをお願いします。」
大樹が言うと夏子が全員に檄を飛ばした。
「おっしゃ、今回はこの7人で「成敗」や!早速作戦を練るで!」
早速、良太郎と満が教団のサーバーにハッキングをかけ門真本部のセキュリティーについて調べた。3日前に調べた赤外線レーダーと理事室の鉄のシャッター以外にもレーザーセンサーや超音波センサーも装備されていることが分かった。
教団建物の図面と各部屋の利用信者の名簿が手に入り、花音のいる部屋が特定できた。防犯カメラのデータもハッキングにより、こちらで閲覧できるようになり花音が鍵付きの医務室のような部屋にいる様子も確認できた。
また、「倉庫」と図面の中にあった部屋のカメラ映像を確認した後にデータホルダーの「極秘」とタイトルがつけられたファイルあった金属部品のマシニングセンター加工用のCAD図面データが見つかり、それが銃の重要部品と弾頭と薬莢の設計図データであることがわかり、カメラモニターを交互に見て良太郎が声を上げた。
「へー、ほんまにカラシニコフAK-47が並んでるわ。20丁はあるで!更に、地下室は「射撃訓練」できる設備まであるやんか。発射不能のモデルガンでも、これだけの部品があれば発射可能やし、実弾まで作っとんねんな。こりゃ、驚いたなぁ!」
「良太郎、ちなみに素人が作ったような銃で効果はあるんか?」
画面に見入る良太郎に智が興味深げに尋ねた。
全員が息を飲み良太郎の回答を待った。
「せやな、弾頭はほんまもんのカラシニコフで使われてるもんとはちゃうけど、真鍮を削り出しで作ってるから、先が丸い拳銃弾と違って7.62ミリのフルメタルジャケットの貫通力はバカにできへん。銃に使う火薬は普通には手に入れへんから、花火をばらして作ってると考えても射程は200メートルは飛ぶし、ロングドリルで銃口に穴をあけてきちんとライフリング加工されてたらその倍は飛ぶから油断はできへんでな。」
と真剣に答えた。
「でも、良太郎の作ったポリカーボネートの防弾チョッキ着とったら大丈夫やろ?今までも何回か撃たれたけど大丈夫やったやん。いつかは、良太郎特製のスマホケースで助かったこともあったしな。」
陽菜が皆を安心させようと言葉を挟んだが、良太郎は難しい顔をしたまま、うつむいて呟いた。
「いや、陽菜ちゃん、そんなに甘いもんやあれへんねや。銃の威力は、銃身の長さ、弾の大きさと形状、火薬の量と質で決まるんや。まあ、女性信者がそうそう使いこなせる銃じゃないんやけど、流れ弾でも当たるときは当たるから、ボディーアーマーは少し考え直さなあかんかもな…。」
20
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる