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「プロローグ カルト教団「魂の解放」による急襲」
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『夏子と陽菜の犯科帳4(The FINAL)~インチキ新興宗教から洗脳娘を救い出せ!~』
「プロローグ カルト教団「魂の解放」による急襲」
大阪の中堅都市門真市の中央部、京阪電車の「門真市駅」東側にある門真市駅東商店街(通称「ニコニコ商店街」)の端にある「リサイクルショップニコニコ」の前に、軽自動車のワゴンRが急停止した。
助手席からひょろっと背が高く、痩せた仲田陽菜が飛び降りると、隣の笹井写真館とリサイクルショップニコニコの建屋の隙間に身を隠した。キュルキュルとフロントタイヤを鳴らしてワゴンRは、猛ダッシュで商店街を東に向かって走り去った。陽菜は、建屋の隙間から顔を出し、教団関係の追跡者がいないか確認をする。
5秒、10秒…、30秒、1分。リサイクルショップニコニコの前の道は、宅配便のトラックや商店街の顔なじみ以外は通らず、心配していた追跡は受けていないことを確認し、陽菜はスマホを取り出し、ワゴンRを運転する坂川夏子に電話を入れた。
「なっちゃん、追跡者は無し。入り口のカギをあけるから急いで戻ってきて。店の入り口前で、花音ちゃんと大樹さんを降ろしたら二人で花音ちゃんは店の中に放り込むからね。一応、車にGPSとかつけられてる可能性も考えられるから、なっちゃんは2ブロック先のコインパーキングに停めに行って。」
「陽菜ちゃん、了解やでー!花音ちゃんは、大樹が起こそうとしたんやけど相変わらず意識がないままやから、大樹に背負ってもらうようにするわな。じゃあ、あと30秒で戻るわ!」
と電話を切ると、30秒ぴったりで店の前に車をつけた。
「大樹さん、急いで。」陽菜が後部座席のドアを開けると、大樹が眠ったままの花音を抱きかかえて降りて来た。陽菜が手を貸し、白い教団着姿の花音を大樹の背の上に乗せると「なっちゃん、オッケー!」と陽菜は後部座席のドアを強く閉めた。「あいよ!」と夏子は再びアクセルを踏み込み、ワゴンRは東へと走っていった。
「大樹さん、店の奥の階段で二階に上がって、リビングのソファーに花音ちゃんは寝かせてあげて。」
陽菜は、店の前の道を左右確認し、他に誰もいないことを確認するとサッと店の中に入った。二階に上がり、ソファーに花音を寝かせつける大樹に
「目は覚ましそうにないんかな?寝返りうって、落っこちてもあかんから和室にエアマット敷くからこれでも飲んどいて。」
と冷えたミネラルウォーターを渡し、電動ポンプでエアマットを膨らましシーツをかけると、二人がかりで花音をソファーからエアマットに移し、タオルケットをかけた。
「あぁ、陽菜ちゃんありがとう。緊張と興奮で喉がカラカラやったことに、今、気がついたわ。関係ない陽菜ちゃんとなっちゃんを巻き込んでしもてすまんなぁ…。」
申し訳なさそうに、大樹が頭を下げる。陽菜もボトルのキャップを開けて、一口飲むと大樹に囁いた。
「気にせんでええよ。私らはいつもこんなんやねん。この間、「魂の解放」の会館の前で大樹さんと出会って、もう他人やないやん。特に、なっちゃんは「正義感」の塊やからな。私らは少なくとも「魂の解放」教団より、大樹さんのいう事を信じてるで。そんでもって、なっちゃんは私の大親友やから、なっちゃんが信じ、なっちゃんが護りたいものに手を貸すのは当然や。
まあ、後で私の仲間も紹介するから、きっと花音ちゃんと大樹さんにとって何かしらの解決策を提示できるんとちゃうかな?」
「ガチャッ」と階下で音がして、一瞬、陽菜と大樹は身構えたが「私―、夏子や。」の声に「ほっ」っとため息をついた。
「大樹、これからどないする?一応、この後私の仲間「やろうぜ会」と集まる予定してて、その中に警察官の弘道もおるからもう一回相談してみるか?まだまだ「ヒラッポ」の巡査やけどええ奴やからな。あと、マスコミ関係っていうか、番組制作会社のもんや、盗撮盗聴にハッキングはお手の物の二人のスーパーエンジニアも揃ってるからな!あと、まあ、看護師もおるから花音ちゃんの様子も見てもろたらええわ。門真の戦艦大和に乗ったつもりでおってくれたらええで!カラカラカラ。」
夏子は大樹に緊張をほぐすように大げさに笑いながらこれから会うべき仲間を紹介した。大樹は夏子に軽く頭を下げて呟いた。
「なっちゃん、ありがとう。申し訳ないけど、僕一人じゃ花音をどないすることもできへんかった…。なっちゃん達を頼りにさせてもらうわな。」
部屋のデジタル時計が午後6時のベルを鳴らした。「おーい、磯野―、野球しようぜー!おーい、磯野―、野球しようぜー!」と日曜夕方の国民的アニメの登場人物のお決まりのセリフが陽菜のスマホの呼び出し音として鳴った。陽菜がスマホを取り出すと画面には「中島彩雲」と出ている。陽菜がスマホをタップすると賑やかな音楽と共に彩雲の声がスマホから響いた。
「陽菜か?彩雲やけど。約束の5時半から30分経ってるのに何してんねん?もうみんな揃って待ってんでー。ちなみに夏子も一緒か?もう、待たれへんからお好みは焼きに入ってもろてるで。今どこにおんねん?」
「あー、ごめん。ちょっと連絡できへん状況やってん。実は…」
と午後5時半に約束していた「お好み焼きがんちゃん」の「やろうぜ会」の飲み会に遅れた理由を伝えた。「ほーい、弘道君、良太郎君、智君、お好み焼けたでー!なっちゃんと陽菜ちゃんの分はどないするんや?」と電話の向こうで店主の岩本徹三の声がする。「あー、ちょっと待ってください。」と弘道の声が入ったと思うと、電話は地元交番勤務の警察官の同級生篠原弘道に代わられた。
「陽菜ちゃん、この間の「例の教団」の絡みか?飲み物はまだやからお好みは「お持ち帰り」にしてもろて、なっちゃんの店に行こか?」
10分後、リサイクルショップニコニコのインターホンが鳴った。インターホンのモニターにはコンビニ袋を持った四人の男と一人の女が映っている。
「陽菜ちゃん、なっちゃん、お好み焼き八枚とビール持ってきたで!」
上坊良太郎がモニター越しに声をかけた。
「あー、鍵は開いてるから勝手に入って上がってきてんか。」
夏子が声をかけると五人は二階のリビングに上がってきた。
真っ先に隣の和室で寝ている花音の服に関西ローカルの地元テレビ番組制作会社に勤めている穴吹智が気がついた。
「なっちゃん、陽菜ちゃん、隣の部屋で寝てる女の子って潰れた倉庫街に最近できたカルト新興宗教の「魂の解放」の信者服とちゃうんか?もしかして、なんか事件に巻き込まれてるんか?えらいスクープの臭いがするんやけど…。」
とポケットからHDムービーカメラを取り出した智に夏子が叫んだ。
「あほっ、智、寝てる女の子を無断で撮影すんなや。そんなんやから、お前は彼女できへんねん!」
大樹が申し訳なさそうに、やろうぜ会のメンバーに頭を下げて挨拶をした。
「皆さん、せっかくの飲み会を邪魔してしまってすみません。篠原君と上坊君以外の方は初めまして。そこで寝ている「花音」の兄の日南田大樹と申します。先ほど、いわれたように妹はカルト新興宗教の「魂の解放」の二世信者です。今日は、なっちゃんと陽菜ちゃんに協力を得て、教団本部から妹を奪還してきたところです。皆さんにご迷惑をかけるつもりはなかったんですけど、他に頼れるところも無いんでご迷惑おかけしています。」
年齢が一番若い18歳の高校三年生の相須満がタブレットを取り出し「魂の解放」について検索をかけた。
「ふーん、ウィキによると二代目教祖天宮城伊織、35歳の女性を教祖とする設立四十年の新興カルト宗教団体ですね。本部は国外にあり、多くの信者による「寄付」や「お布施」での「家庭崩壊」や親から強制入信させられた「二世信者」の問題で、全国で訴訟も多いし海外からの違法薬物の流入窓口になってるんじゃないかって疑惑も社会問題化してる教団ですね。」
満が読み上げると看護師の彩雲が鼻を鳴らした。
「クンクン」と花音に近づくと、「お兄さん、ちょっと失礼するね。」と断りを入れて、花音の首筋に顔をうずめた。ある種の確信を得た表情で、信者服の袖をめくり、肘の内側を確認した。更に、手足の指の股をチェックした後に、「失礼するね」と左手で花音の口を左右から挟み、口を開けると舌を右手でつまみ持ち上げると、舌の裏をチェックした。
「お兄さん、怒らないで聞いたってや。あんたの妹さん、「覚せい剤」か「何かしらの薬物」やってるか、打たれてる可能性があるわ。この、「かつおだし」風の汗の臭いは女性「シャブ中」独特の臭いやな。」
と大樹に告げた。ショックを隠せない大樹に夏子がシビアな表情で伝えた。
「大樹、彩雲は薬物患者を扱う精神科病棟の看護師やからええ加減なことは言えへんよ。この間、大樹から聞いてた花音ちゃんの様子や言動なんかからしても、彩雲の話は聞いておいて損はあれへんで。
仮に、教団で薬物投与されてるとするならば一刻も早い対処が必要やし、薬物が絡んでるなら弘道の出番もあり得る訳やろ?」
智が興味深げにメモを取り始め、弘道に質問を投げかけた。
「おい、弘道、この子が覚せい剤や薬物を使ってたら処罰されるんか?それとも保護対象になるんか?」
弘道は少し考えこんで「自信はないけど…、」と前振りをして
「薬物は基本的に所持は即逮捕案件やな。使用は、薬物の種類によって対処が違ってたような気がする…。まあ、彼女が自分の意志で使用したわけやなく、誰ぞに「打たれた」って話やったら、保護の対象にもなりえるんやったと違ったかな?」
と答えると彩雲が「教団に打たれたんやったら、放ってはおかれへんな。何の薬物にしても、「薬」は人を壊してしまうからな。」と花音の髪をなでた際に、ふと手が止まった。「彩雲、どないしたん?」と陽菜が声をかけると「この子のシュシュがおかしい。なんか堅いもんが入ってる。」と花音の長い髪を束ねていたシュシュを外し指でつまんで呟いた。
「これ、絶対なんか入ってるで…。」
良太郎は和室のエアマットの横に移動し座り直すと彩雲からシュシュを受け取り、ウエストバックからヴィクトリノックスの十徳ナイフを取り出すとシュシュを切り裂いた。「コロン」と黒く四角いプラスチックの塊が床に転がり落ちた。
「あかん、これGPSとちゃうか?こんな女の子にシャブ打つような奴や。念のため使えんようにするわな。」
良太郎はプラスの精密ドライバーで2か所のねじを外すとケースを割り、ボタン電池を取り出した。
「おっ、一気に「事件」の臭いが強まったな!」とワクワクする智の横で弘道は「あーぁ、なっちゃん、また厄介なモン拾ってきたな…。」とため息をついた。
「まあ、弘道、そう言いなや。「義を見て為さざるは勇無きなり」がやろうぜ会のモットーやろ。それとも警察官の弘道は大樹と花音ちゃんを見殺しにするような冷たい奴やったんか?」
と切り出した夏子が弘道に過去の経緯を説明した。約十分程、説明をしたのち「ピンポーン」とインターホンが鳴った。寝ている花音を除く八人に緊張感が走る。智が「俺が出るわ」と受信ボタンを押すと、モニタ―に「宅配便」の配達員が小ぶりな段ボールを持って立っていた。「チルド便のお届けです。受取りお願いします。」との声を聞き、全員が安堵した。
智が荷物を受け取り、戻ってきて夏子に渡すと「当選おめでとうございます」と書かれた白い段ボール箱に貼られた手書きの送り状の品名を見て喜んだ。
「がおっ!「A賞、チルド高級松坂牛焼肉3キロセット」やて!懸賞かなんか当たったんやろか?持って来てくれたお好みと合わせて、今からみんなで焼肉パーティーしょうか?陽菜ちゃん、ホットプレート出して!満君と弘道は皿と箸の用意、良太郎と智はグラスとビールの準備や。」
バタバタとリビングにホットプレートや皿とグラスが並べられ、彩雲と智は夏子が段ボール箱のガムテープをはがすのを覗き込んだ。突然、箱の中から白い煙が噴き出した。
「あかん、これ麻酔ガスの臭いやで。すぐに窓開けて換気や。」
彩雲が叫び、すぐに倒れると同時に、夏子、智が倒れた。段ボール箱が床にひっくり返り、一段と煙の噴出が強まる。
「なっちゃん、大丈夫か?」、「夏子先輩!」と夏子を抱き起こそうとした弘道と満が折り重なる。続いて大樹が倒れた。
隣の部屋で花音のおでこの汗を拭いていた陽菜に、シュシュに仕込まれていたGPSを片手にスマホで調べ物をしていた良太郎が
「陽菜ちゃん、ガスを吸わんようにエアマットの栓から中の空気だけ吸うようにして!」
と叫ぶと、お好み焼きが入っていたコンビニ袋に空気を溜めると口に当て、換気扇のスイッチを入れ、リビングキッチンの窓を開けると階下から複数の靴音が響きガスマスクを着けた三人の宅配便の制服を着た女と布ツナギを着込んだ二人の女らしき者が土足のまま乱入してきた。
「何やお前ら!」とつかみかかった良太郎の首筋に先頭の女が黒い物体を押し当てた。「バリバリバリ」という音と同時に先端が青白く発光すると良太郎はその場に倒れた。
「良太郎に何すんねん!許せへんぞ!」
と陽菜がハイキックで二人を蹴り倒すも、狭い室内で体勢を崩し倒れ込んだところガスマスクの女が陽菜の首筋にスタンガンを押し当てるとスイッチを入れられた。
「あかん…、目の前が暗くなっていく…。」
薄れゆく意識の中で3人のガスマスクの女が和室に入り、花音を抱きかかえ部屋を出ていくのを見送ることなく記憶が途絶えた。
「プロローグ カルト教団「魂の解放」による急襲」
大阪の中堅都市門真市の中央部、京阪電車の「門真市駅」東側にある門真市駅東商店街(通称「ニコニコ商店街」)の端にある「リサイクルショップニコニコ」の前に、軽自動車のワゴンRが急停止した。
助手席からひょろっと背が高く、痩せた仲田陽菜が飛び降りると、隣の笹井写真館とリサイクルショップニコニコの建屋の隙間に身を隠した。キュルキュルとフロントタイヤを鳴らしてワゴンRは、猛ダッシュで商店街を東に向かって走り去った。陽菜は、建屋の隙間から顔を出し、教団関係の追跡者がいないか確認をする。
5秒、10秒…、30秒、1分。リサイクルショップニコニコの前の道は、宅配便のトラックや商店街の顔なじみ以外は通らず、心配していた追跡は受けていないことを確認し、陽菜はスマホを取り出し、ワゴンRを運転する坂川夏子に電話を入れた。
「なっちゃん、追跡者は無し。入り口のカギをあけるから急いで戻ってきて。店の入り口前で、花音ちゃんと大樹さんを降ろしたら二人で花音ちゃんは店の中に放り込むからね。一応、車にGPSとかつけられてる可能性も考えられるから、なっちゃんは2ブロック先のコインパーキングに停めに行って。」
「陽菜ちゃん、了解やでー!花音ちゃんは、大樹が起こそうとしたんやけど相変わらず意識がないままやから、大樹に背負ってもらうようにするわな。じゃあ、あと30秒で戻るわ!」
と電話を切ると、30秒ぴったりで店の前に車をつけた。
「大樹さん、急いで。」陽菜が後部座席のドアを開けると、大樹が眠ったままの花音を抱きかかえて降りて来た。陽菜が手を貸し、白い教団着姿の花音を大樹の背の上に乗せると「なっちゃん、オッケー!」と陽菜は後部座席のドアを強く閉めた。「あいよ!」と夏子は再びアクセルを踏み込み、ワゴンRは東へと走っていった。
「大樹さん、店の奥の階段で二階に上がって、リビングのソファーに花音ちゃんは寝かせてあげて。」
陽菜は、店の前の道を左右確認し、他に誰もいないことを確認するとサッと店の中に入った。二階に上がり、ソファーに花音を寝かせつける大樹に
「目は覚ましそうにないんかな?寝返りうって、落っこちてもあかんから和室にエアマット敷くからこれでも飲んどいて。」
と冷えたミネラルウォーターを渡し、電動ポンプでエアマットを膨らましシーツをかけると、二人がかりで花音をソファーからエアマットに移し、タオルケットをかけた。
「あぁ、陽菜ちゃんありがとう。緊張と興奮で喉がカラカラやったことに、今、気がついたわ。関係ない陽菜ちゃんとなっちゃんを巻き込んでしもてすまんなぁ…。」
申し訳なさそうに、大樹が頭を下げる。陽菜もボトルのキャップを開けて、一口飲むと大樹に囁いた。
「気にせんでええよ。私らはいつもこんなんやねん。この間、「魂の解放」の会館の前で大樹さんと出会って、もう他人やないやん。特に、なっちゃんは「正義感」の塊やからな。私らは少なくとも「魂の解放」教団より、大樹さんのいう事を信じてるで。そんでもって、なっちゃんは私の大親友やから、なっちゃんが信じ、なっちゃんが護りたいものに手を貸すのは当然や。
まあ、後で私の仲間も紹介するから、きっと花音ちゃんと大樹さんにとって何かしらの解決策を提示できるんとちゃうかな?」
「ガチャッ」と階下で音がして、一瞬、陽菜と大樹は身構えたが「私―、夏子や。」の声に「ほっ」っとため息をついた。
「大樹、これからどないする?一応、この後私の仲間「やろうぜ会」と集まる予定してて、その中に警察官の弘道もおるからもう一回相談してみるか?まだまだ「ヒラッポ」の巡査やけどええ奴やからな。あと、マスコミ関係っていうか、番組制作会社のもんや、盗撮盗聴にハッキングはお手の物の二人のスーパーエンジニアも揃ってるからな!あと、まあ、看護師もおるから花音ちゃんの様子も見てもろたらええわ。門真の戦艦大和に乗ったつもりでおってくれたらええで!カラカラカラ。」
夏子は大樹に緊張をほぐすように大げさに笑いながらこれから会うべき仲間を紹介した。大樹は夏子に軽く頭を下げて呟いた。
「なっちゃん、ありがとう。申し訳ないけど、僕一人じゃ花音をどないすることもできへんかった…。なっちゃん達を頼りにさせてもらうわな。」
部屋のデジタル時計が午後6時のベルを鳴らした。「おーい、磯野―、野球しようぜー!おーい、磯野―、野球しようぜー!」と日曜夕方の国民的アニメの登場人物のお決まりのセリフが陽菜のスマホの呼び出し音として鳴った。陽菜がスマホを取り出すと画面には「中島彩雲」と出ている。陽菜がスマホをタップすると賑やかな音楽と共に彩雲の声がスマホから響いた。
「陽菜か?彩雲やけど。約束の5時半から30分経ってるのに何してんねん?もうみんな揃って待ってんでー。ちなみに夏子も一緒か?もう、待たれへんからお好みは焼きに入ってもろてるで。今どこにおんねん?」
「あー、ごめん。ちょっと連絡できへん状況やってん。実は…」
と午後5時半に約束していた「お好み焼きがんちゃん」の「やろうぜ会」の飲み会に遅れた理由を伝えた。「ほーい、弘道君、良太郎君、智君、お好み焼けたでー!なっちゃんと陽菜ちゃんの分はどないするんや?」と電話の向こうで店主の岩本徹三の声がする。「あー、ちょっと待ってください。」と弘道の声が入ったと思うと、電話は地元交番勤務の警察官の同級生篠原弘道に代わられた。
「陽菜ちゃん、この間の「例の教団」の絡みか?飲み物はまだやからお好みは「お持ち帰り」にしてもろて、なっちゃんの店に行こか?」
10分後、リサイクルショップニコニコのインターホンが鳴った。インターホンのモニターにはコンビニ袋を持った四人の男と一人の女が映っている。
「陽菜ちゃん、なっちゃん、お好み焼き八枚とビール持ってきたで!」
上坊良太郎がモニター越しに声をかけた。
「あー、鍵は開いてるから勝手に入って上がってきてんか。」
夏子が声をかけると五人は二階のリビングに上がってきた。
真っ先に隣の和室で寝ている花音の服に関西ローカルの地元テレビ番組制作会社に勤めている穴吹智が気がついた。
「なっちゃん、陽菜ちゃん、隣の部屋で寝てる女の子って潰れた倉庫街に最近できたカルト新興宗教の「魂の解放」の信者服とちゃうんか?もしかして、なんか事件に巻き込まれてるんか?えらいスクープの臭いがするんやけど…。」
とポケットからHDムービーカメラを取り出した智に夏子が叫んだ。
「あほっ、智、寝てる女の子を無断で撮影すんなや。そんなんやから、お前は彼女できへんねん!」
大樹が申し訳なさそうに、やろうぜ会のメンバーに頭を下げて挨拶をした。
「皆さん、せっかくの飲み会を邪魔してしまってすみません。篠原君と上坊君以外の方は初めまして。そこで寝ている「花音」の兄の日南田大樹と申します。先ほど、いわれたように妹はカルト新興宗教の「魂の解放」の二世信者です。今日は、なっちゃんと陽菜ちゃんに協力を得て、教団本部から妹を奪還してきたところです。皆さんにご迷惑をかけるつもりはなかったんですけど、他に頼れるところも無いんでご迷惑おかけしています。」
年齢が一番若い18歳の高校三年生の相須満がタブレットを取り出し「魂の解放」について検索をかけた。
「ふーん、ウィキによると二代目教祖天宮城伊織、35歳の女性を教祖とする設立四十年の新興カルト宗教団体ですね。本部は国外にあり、多くの信者による「寄付」や「お布施」での「家庭崩壊」や親から強制入信させられた「二世信者」の問題で、全国で訴訟も多いし海外からの違法薬物の流入窓口になってるんじゃないかって疑惑も社会問題化してる教団ですね。」
満が読み上げると看護師の彩雲が鼻を鳴らした。
「クンクン」と花音に近づくと、「お兄さん、ちょっと失礼するね。」と断りを入れて、花音の首筋に顔をうずめた。ある種の確信を得た表情で、信者服の袖をめくり、肘の内側を確認した。更に、手足の指の股をチェックした後に、「失礼するね」と左手で花音の口を左右から挟み、口を開けると舌を右手でつまみ持ち上げると、舌の裏をチェックした。
「お兄さん、怒らないで聞いたってや。あんたの妹さん、「覚せい剤」か「何かしらの薬物」やってるか、打たれてる可能性があるわ。この、「かつおだし」風の汗の臭いは女性「シャブ中」独特の臭いやな。」
と大樹に告げた。ショックを隠せない大樹に夏子がシビアな表情で伝えた。
「大樹、彩雲は薬物患者を扱う精神科病棟の看護師やからええ加減なことは言えへんよ。この間、大樹から聞いてた花音ちゃんの様子や言動なんかからしても、彩雲の話は聞いておいて損はあれへんで。
仮に、教団で薬物投与されてるとするならば一刻も早い対処が必要やし、薬物が絡んでるなら弘道の出番もあり得る訳やろ?」
智が興味深げにメモを取り始め、弘道に質問を投げかけた。
「おい、弘道、この子が覚せい剤や薬物を使ってたら処罰されるんか?それとも保護対象になるんか?」
弘道は少し考えこんで「自信はないけど…、」と前振りをして
「薬物は基本的に所持は即逮捕案件やな。使用は、薬物の種類によって対処が違ってたような気がする…。まあ、彼女が自分の意志で使用したわけやなく、誰ぞに「打たれた」って話やったら、保護の対象にもなりえるんやったと違ったかな?」
と答えると彩雲が「教団に打たれたんやったら、放ってはおかれへんな。何の薬物にしても、「薬」は人を壊してしまうからな。」と花音の髪をなでた際に、ふと手が止まった。「彩雲、どないしたん?」と陽菜が声をかけると「この子のシュシュがおかしい。なんか堅いもんが入ってる。」と花音の長い髪を束ねていたシュシュを外し指でつまんで呟いた。
「これ、絶対なんか入ってるで…。」
良太郎は和室のエアマットの横に移動し座り直すと彩雲からシュシュを受け取り、ウエストバックからヴィクトリノックスの十徳ナイフを取り出すとシュシュを切り裂いた。「コロン」と黒く四角いプラスチックの塊が床に転がり落ちた。
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良太郎はプラスの精密ドライバーで2か所のねじを外すとケースを割り、ボタン電池を取り出した。
「おっ、一気に「事件」の臭いが強まったな!」とワクワクする智の横で弘道は「あーぁ、なっちゃん、また厄介なモン拾ってきたな…。」とため息をついた。
「まあ、弘道、そう言いなや。「義を見て為さざるは勇無きなり」がやろうぜ会のモットーやろ。それとも警察官の弘道は大樹と花音ちゃんを見殺しにするような冷たい奴やったんか?」
と切り出した夏子が弘道に過去の経緯を説明した。約十分程、説明をしたのち「ピンポーン」とインターホンが鳴った。寝ている花音を除く八人に緊張感が走る。智が「俺が出るわ」と受信ボタンを押すと、モニタ―に「宅配便」の配達員が小ぶりな段ボールを持って立っていた。「チルド便のお届けです。受取りお願いします。」との声を聞き、全員が安堵した。
智が荷物を受け取り、戻ってきて夏子に渡すと「当選おめでとうございます」と書かれた白い段ボール箱に貼られた手書きの送り状の品名を見て喜んだ。
「がおっ!「A賞、チルド高級松坂牛焼肉3キロセット」やて!懸賞かなんか当たったんやろか?持って来てくれたお好みと合わせて、今からみんなで焼肉パーティーしょうか?陽菜ちゃん、ホットプレート出して!満君と弘道は皿と箸の用意、良太郎と智はグラスとビールの準備や。」
バタバタとリビングにホットプレートや皿とグラスが並べられ、彩雲と智は夏子が段ボール箱のガムテープをはがすのを覗き込んだ。突然、箱の中から白い煙が噴き出した。
「あかん、これ麻酔ガスの臭いやで。すぐに窓開けて換気や。」
彩雲が叫び、すぐに倒れると同時に、夏子、智が倒れた。段ボール箱が床にひっくり返り、一段と煙の噴出が強まる。
「なっちゃん、大丈夫か?」、「夏子先輩!」と夏子を抱き起こそうとした弘道と満が折り重なる。続いて大樹が倒れた。
隣の部屋で花音のおでこの汗を拭いていた陽菜に、シュシュに仕込まれていたGPSを片手にスマホで調べ物をしていた良太郎が
「陽菜ちゃん、ガスを吸わんようにエアマットの栓から中の空気だけ吸うようにして!」
と叫ぶと、お好み焼きが入っていたコンビニ袋に空気を溜めると口に当て、換気扇のスイッチを入れ、リビングキッチンの窓を開けると階下から複数の靴音が響きガスマスクを着けた三人の宅配便の制服を着た女と布ツナギを着込んだ二人の女らしき者が土足のまま乱入してきた。
「何やお前ら!」とつかみかかった良太郎の首筋に先頭の女が黒い物体を押し当てた。「バリバリバリ」という音と同時に先端が青白く発光すると良太郎はその場に倒れた。
「良太郎に何すんねん!許せへんぞ!」
と陽菜がハイキックで二人を蹴り倒すも、狭い室内で体勢を崩し倒れ込んだところガスマスクの女が陽菜の首筋にスタンガンを押し当てるとスイッチを入れられた。
「あかん…、目の前が暗くなっていく…。」
薄れゆく意識の中で3人のガスマスクの女が和室に入り、花音を抱きかかえ部屋を出ていくのを見送ることなく記憶が途絶えた。
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