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エピローグ

㉕「エピローグ・夏子の結婚」

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「エピローグ・夏子の結婚」
 午後5時、向日葵寿司の新装開店祝いが始まった。ニコニコ商店街の面々が新しくなった向日葵寿司にお祝いを持って駆けつけた。酒屋の武藤と杉田がお祝いの酒を届けてくれ、花屋の檜夫婦がお祝いの胡蝶蘭を飾ってくれた。写真館の笹井夫婦が新しくなった向日葵寿司の入り口の前でみんなで記念写真を撮ってくれた。
 三朗と同級生でニコニコ商店街の青年部のお好み焼きがんちゃんの岩本徹三とさとみ夫婦と西沢米穀の西沢広義とかずみも祝いに駆け付けた。こども食堂の利用者の武雄と凛も手伝いにやってきた。
 
 いつものメンバーが集まり、向日葵寿司の新装開店祝いが始まった。こども食堂や高齢者市民サロンの利用者も訪れ、綺麗になった向日葵寿司で楽しい時を過ごした。工事期間の一週間にあったことを何も知らないニコニコ商店街の面々は三朗と稀世に「店、新しくなったから、これから五十年は頑張らなあかんで。」、「ひまちゃんが跡取り見つけてくるまで引退できへんね。」と声をかけていく。
 その中、給仕に追われる三朗と稀世を除く今回の事件の当事者は、一番奥の席に陣取っていた。直の膝の上で眠るひまわりと、泣きはらした目の夏子以外の七人は、真剣な顔をして話し合っている。
「一志、MK君…。今日、あの後、三回あった短いひまちゃんのお告げをまとめるとどないなるんや?仁徳天皇陵に埋められた「マナの壺」は堀り出しにはいかれへんのはわかったけど、他にもお宝が存在するってことやろ?」
と直が尋ねると羽藤が小さな声で解説に入った。まりあと陽菜と尾崎が興味深げに顔を寄せた。
「ひまちゃんが語ったお告げは、モーゼについていた巫女で、すべてを天から把握している唯一神ヤハウェから聞いていたそうです。少なくとも、日本には「太陽」をトーテムとする「ルベン族」、「鹿」とトーテムとする「ナフタリ族」、「帆船」をトーテムとする「ゼブルン族」、「天幕」をトーテムとする「ガド族」の四支族が、時期とコースは別に渡来してきているとのことです。特に「ルベン族」の秦氏、賀茂氏は実質的に大和朝廷の時代から政府の中核に表に裏に勢力を伸ばし、現在にまで至るという話でした。
 聖徳太子の右腕であった秦河勝はルベン族の渡来人の子孫だったようです。「太陽」をトーテムとする河勝は仏教伝来を認める中で、現在の「日本神話」の中にユダヤの伝説を盛り込むために古代ユダヤのアークと三種の神器を回収したようですね。「モーゼの石板」は「八咫鏡」に、「アロンの杖」は「草薙剣」に置き換えました。まあ、「アロンの壺」が「勾玉」に置き換えられた理由までは語られませんでしたが…。
 「神武天皇以来の日本の天皇制を否定しかねない話ではありますが、河勝の残した「創作の歴史」が後の「日本書紀」や「古事記」に反映されているとお告げの中では語られてました。それが事実であるとするならば、日本神道とユダヤ教の宗教的や伝説・行事・祭事方法や言語に共通点があることも納得できます。
 まあ、三歳児のひまわりちゃんが、嘘をつくことは無いでしょうから、おそらく「オラクル」…、つまりは「神のお告げ」なのでしょう…。」
 
 羽藤が一息つくと、MKが直とまりあと陽菜と尾崎に話を続けた。
「ひまちゃんの言葉の中には、日本国内に四支族の「アーク」が届き、未だに発見されていないものもあるとのことですね。今回の八咫鏡は七番目の物だったのでしょう。九州の鹿児島、宮崎、大分、そして瀬戸内の島や岡山の吉備に島根の出雲、京都・福井の敦賀湾から丹後半島周辺、モーゼの墓を含む石川の日本海側の山…。さらに長野に加えて東北にもユダヤの民が紀元前7世紀から平安時代が始まる紀元8世紀ごろまで村単位での渡来が行われていたとのことです。
 具体的な地名は上がりませんでしたが、ひまちゃんが語った景色の情景や、山や星の位置関係から探せば国内で、いくつかの埋蔵箇所がわかると思います。
 秦氏、賀茂氏、物部氏、越前忌部氏、長野氏、多氏、阿波忌部氏やのちの奥州藤原氏の中にも多くの渡来人がいる。石器時代に鉄器を使っていたところや弥生時代に養蚕が行われていたところは、おそらくそうなのでしょう。
 また、日本から外に目を向ければ、消えた都市として有名な「アンコールワット」や「マルタ島」などの「巨石神殿文化」やスペインの「アンテケラ」や韓国の「コチャン、ファスン、カンファ」の「ドルメン遺跡」に関わる数多くの史跡にも消えた支族たちのかかわりがあったようですね。これは、世界中の誰も知らない凄い情報ですね。」

 何もしゃべらないでビールを飲み続ける夏子と寝ているひまわりを除く七人は、バカ騒ぎが続く向日葵寿司の一番奥の席で真剣に「アーク」と「秘宝」のありかと「日本とユダヤの歴史」について議論し続けている。「あるんやったら探しに行きたいわな。」という直とまりあに陽菜と舩阪ものっかり、尾崎がそこに油を注ぐ。
 明日、イスラエルに帰国せざるを得ないMKは羽藤と陽菜に本国での連絡先を伝え、「今後、もし捜査を開始するなら、随時、状況を教えてくださいね。」と日本国内のアークと秘宝探しを託した。
 
 午後9時、宴もたけなわになり酒屋の武藤による「中締め」の挨拶に入った時、ふと直の膝の上のひまわりの髪が逆立ち目を開けて呟いた。
「なっちゃんは、イスラエルの新しいメシアと結婚するよ。きれいなドレスに冠を被った幸せそうに笑うなっちゃんの姿が見えたよ。凄い人数の人たちが集まってなっちゃんを祝福してる景色が見えたよ。世界は平和になるよ!」
 その言葉に反応したぐでぐでに酔った夏子がひまわりに尋ねた。
「えっ、ひまちゃん、それほんま?いつ?私、結婚できんの?」
 少し間が空いて、ひまわりが口を開いた。
「イスラエル建国690年のお祭りの時みたい。なっちゃん良かったね。おめでとう…。」
とだけ言うと再びひまわりは直の膝の上で寝息を立て始めた。
「MK君、イスラエルの建国690年祭っていつの話や?」と夏子が問うと、スマホで電卓アプリを立ち上げて計算した。
「イスラエル建国が1948年ですから西暦2638年ですね。今から615年先です。そうか、メシアの再降臨は2638年なんだ。これは日本の新たな巫女がした予言だって、国にきちんと報告しなきゃ!」
とどこかに電話を始めた。「615年先…?」夏子は状況が把握できず呆然と立ち尽くした。そこに給仕を中断して稀世と三朗が奥のテーブルにきた。悪戯っぽい顔をした稀世が夏子の肩を叩き大きな声を上げた。
「なっちゃん良かったやん!今のひまちゃんの言葉聞いたで!再降臨したメシアと結婚するんやて!「神様の嫁」やな!こりゃ、「不死身の嫁」の私もかなわへんわ!まあ、何回、生まれ変わらなあかんのかは知らんけどな!まあ、なっちゃんの結婚が決まってよかったやない!最後になっちゃんの結婚決定を祝して乾杯しょうか!」
と励ますと、言葉の端だけを聞いたみんなから
「なっちゃん、結婚おめでとー!」
と酔った商店街メンバーに祝福され、参加者全員による「なっちゃんコール」が店にこだました。MKも皆と一緒になって楽しそうに「なっちゃんコール」を繰り返している。何も言い返せず立ち尽くす夏子を見て、陽菜は「なっちゃんがんばれ!」と小さくガッツポーズをしてエールを送った。         

おしまい

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