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大阪編
㉓「三日後」
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「大阪編」
「三日後」
三日後の昼、一週間の工事の終わった向日葵寿司に九人と尾崎が集まっている。エアコンは新しくなり、壁の新築に合わせ内装も一新されている。
「尾崎さん、すみませんね。なんだか得させてもらっちゃって。今日はしっかりと食べて行ってくださいね。」
と稀世と三朗が尾崎をもてなす。今晩、ニコニコ商店街のメンバーを招いての向日葵寿司の新装開店祝いが行われる予定になっている。
「夏子、あれから3日たつけど、その後MK君と連絡はついたんか?」
直が夏子に尋ねた。
「ううん…。イスラエル大使館に問い合わせたんやけど、「モーゼ・コーケンなんていうスタッフはおれへん。」って言われてん。MKの電話は「使われておりません」のコールやし…。いったいどこに行ってしもたんかな。今では、神様の使いの幻やったんやろかって思うようになってる…。」
と答えた。
事件の翌日に差出人不明で送られてきた夏子の二台のスマホからは、伊弉諾神社以降、高松までの間にMKと一緒に写った写真はすべて消えていたとのことだった。不思議な話であるが一緒に旅行に行ったメンバーのスマホからも同様にMKの姿は消えていた。かろうじて陽菜がカメラ代わりに使っていたオフラインスマホと眼鏡型のWEBカメラの動画を落としたSDカードの中でその姿は確認できたので幻ではないことは確かだった。
三朗が上握りを握り、稀世が寿司下駄を席に運んだ。七人に対し、四本の瓶ビールと九つのグラスを運ぶのをひまわりも手伝った。配膳が終わると、ひまわりを抱っこした三朗と稀世も席に着いた。
「じゃあ、「向日葵寿司の新装開店」とイケメンMK君とは幻の恋愛で終わった「あほの夏子誘拐事件の無事解決」に乾杯―!」
直が発声し、皆でグラスを掲げた。
「直さん、新装開店はともかく「あほの夏子誘拐事件」って何なんよ!それに「幻の恋愛」ってひどいやん…」
と席から立ちあがって、夏子が直に文句を言った。いつもならムキになって怒るところだが、今日の夏子は、力なく黙って座り込むと、うつむいた。寿司下駄の前に、「ポツン、ポツン」と水滴が落ちる。
「なっちゃん、泣いてるんか?」と稀世が声をかけると、「う…、うっ…、うわーん。」と夏子はダムの堰が切れたように泣き出した。陽菜が慰めるがいっこうに収まる様子はなく、皆の食事の手が止まった。
「わーん、MKどこに行ってしもたん?好きになりかかってた…、いや好きになってしもてたのに…。何も言わんとおれへんようになるなんてどういうことなん…。一緒にイスラエルに行って両親に会わせたいって言ってくれてたのに…、うわーん!」
泣きじゃくって止まらない。直は、大声で泣き続ける夏子を無視して
「ところで一志、この間の石板と銅鏡に書かれてたヘブライ語は読めたんか?現物はイスラエルの奴に渡してしもたんやろ?ちなみに、一志と普通に話しとったけど知り合いかなんかやったんか?」と話を羽藤にふった。
羽藤は、伊勢神宮で最後に話した男について説明をした。男はアブラハム・サイモンといい、現在はイスラエル国防軍の参謀総長直属のコマンド部隊の指揮官をしている。羽藤が公安警察時代に国外に逃亡した日本赤軍を追いかけて中東に行っていたときの現地警察で情報捜査のやり方などで交流を持ち、今でも連絡を取り合う仲だという。夏子が神明神社でカバンを奪われた時点で、羽藤は二人組が話していた言葉がヘブライ語であったと確信していた。男が稀世と交わした体術がロシア体術のサンボやシステマではなくイスラエルの近接格闘術のクラヴ・マガであることから、MKの意見も聞き、何某らのイスラエルの組織が絡んでいることを推測していた。夏子が追跡を受けるようになり確信に変わったという。
MKは羽藤には「大使館員」であると伝えていたが、羽藤はその後イスラエル大使館に「モーゼ・コーケン」なる人物は存在しないことを確認していたが黙っていたとのことだった。淡路島のホテルで夏子がシャーマニズム的な行動に出た際のMKの食いつき方に引っかかるものがあった中、翌朝の風呂場のゴミ箱にイスラエル諜報特務庁モサドの「ネヴィオト」の使用する盗聴器付きGPSが捨てられているのを見つけた。通信機能を遮断した上で回収し、指紋をとったところ夏子の指紋が出てきたことから、それはMKが夏子の衣服に忍ばせたものであると想像をしていた。
その根拠として、羽藤自身が朝風呂に入ろうと思い、大浴場階に降りた時、男女の暖簾を入れ替えるMKの姿を見たという。そこに二日酔いでフラフラした夏子が入り、その後MKが暖簾を差し替え、数分後に脱衣場に入っていったのを羽藤は見ていた。脱衣場の隙間からMKが夏子の衣服が入った籠を探っているのを見た。その後、MKが浴場に入っていくところまでを見送ったと説明した。
「えー、なっちゃん、淡路島のホテルでMKと一緒にお風呂入ってたん?そこで、なんかあったの?泣いてんと聞かせてよ!」
と稀世が「エロいもの」を期待する顔で夏子に問いかけた。
夏子も羽藤の話を聞きながら、(私のキュロットのポケットに入ってたあの黒いマッチ箱みたいなものって盗聴器やったん?あのキュロットに履き替えたんは、六階の特別室に行ってからやったし、そのまま寝てしもたから私がVRやって変なトランス状態に入って寝てしもた後でMKが私に仕込んだっていう事?)と頭の中を整理した。
「ねえねえ、なっちゃん、そういえば、あの朝、真っ赤な顔して大浴場の前でへたり込んでたもんな。いったい何があったんよ?」
と稀世がさらに攻め込んできた。直とまりあも興味深そうに夏子の顔を覗き込む。
「うーん、私が女湯やと思い込んで湯船に入ってたら、急にMKが入ってきて、「こっちは夜と入れ替わって「男湯」になってるんですよ。」って言われて、タオルで前を隠して出ようとしたときに、MKに抱き留められて「綺麗だ」、「今日も一緒にいさせてください」的な事を言われて、大スポの星占いにあった「恋の始まり」かと思ってしもてて…。」
と顔を赤らめた。
「はいはい、質問―!MK君が裸のなっちゃんを見て「今日も一緒にいさせてください」って浴室で言われたんやな?お風呂でおっぱいやお尻は触られたんか?ちなみに脱衣場に戻ったらなっちゃんの履いてたショーツやブラはあったんか?盗まれたり匂い嗅がれたりしてへんかったか?」
と稀世がノリノリで夏子に聞いた。
「もー、稀世姉さん変なこと聞かんといて下さいよ。お風呂で変なとこさわられたりしてないし、きちんとショーツもブラもありましたよ。そりゃ、抱き留められた時に胸元は見られたけど、MKを変態や下着泥棒みたいに言わんといてくれますか!」
と少し怒った口調で言うと
「名探偵稀世様の推理では、羽藤さんが見たMK君の「暖簾入れ替え」や「なっちゃんの脱衣籠漁り」っていう不可思議な行動を鑑みると、MK君の目的は、なっちゃんの身体やなくて、なっちゃんがネックレスに通してた二つの指輪やったんとちゃうか?
なっちゃんお風呂入る間もネックレスつけてたんやろ?なっちゃんの貧相な胸やなくて、胸元にかけられたネックレスの指輪を見てたんとちゃうんか?」
とどや顔で言う稀世に夏子は少し腹を立てたが、思い起こすと確かにMKの視線は夏子の83のBの胸ではなく胸元の指輪に向いていたような気もしてきた。
「そういえば、朝食会場でも先に座ってた夏子の横にMK君が来て、熱心に指輪見てたもんな。稀世ちゃんが言うように、夏子の「ぺちゃぱい」になんか興味ないわな。指輪が首にかかってんのを見て、とっさに引き止めんのについた嘘が「綺麗や」で、本音は「今日も一緒に指輪の傍にいたい」やろな。わしは、稀世ちゃんの推理に一票や!カラカラカラ。」
と直がビールを飲みながら茶化した。まりあも横で頷いている。夏子は口をとんがらせてふて腐れている。
そこで羽藤が「まあまあ」と割って入る。指輪を拾った時に、MK君が、指輪の裏にヘブライ語が書いてあって、一つは「ガル・ゴデッシュ」、もう一つは読めないと言ったってことでしたよね。そこはちょっと怪しいですよね。「ガル・ゴデッシュ」というのは「聖なる波または立石」という意味なんで、淡路島に渡った帆船を紋章とするゼブルン族を意味するとも取れますし、淡路島で発見された古代ユダヤ式の石の祠を意味しているのかもしれません。
もう一つのヘブライ語は「神に導かれるものへ。二つが揃いし時、神は再度降臨する」と書いてありました。諜報員のMK君が読めないはずはありません。きっと、本人は読めていたのにそれを隠していた可能性はあると私は思ってます。指輪に書かれた神の再降臨が何を意味するのかは分かりませんが、旧約聖書の中にも神の言葉を代弁したり予言を行うシャーマンや巫女はたくさん出てきます。きっと、その晩の夏子さんのお告げを聞き、彼なりに何か思うところがあったのだと思います。私自身、個人的にすごく興味を持ちましたから…。「ソロモン王の秘宝」にしても「失われたアーク」にしてもそこには壮大な浪漫がありますからね。」
羽藤の言葉に、三朗、舩阪、尾崎が大きく頷く。
「ふーん、男のロマンってそういうもんやねんな。羽藤さん、ヘブライ語読めたんやったら、銅鏡の裏に書かれてた69文字は読めたん?少年探偵のマンガ読みながら、何種類かの「シーザー暗号」の手法で羽藤さんが描いてくれたヘブライ語のアルファベット表で対応させて例の6行69文字を書き写してんけどどないやったん?」
と稀世が尋ねたところ、
「稀世さんが解析した中で一つの文字の羅列がきちんと文章になりました。ソロモン王の秘宝の隠し場所だと推測される文章でした。」
と羽藤が言うと皆から「おーっ!」と声が上がった。
その時、夏子のスマホが鳴った。見知らぬ番号だったが、何か得体のしれない虫の知らせを感じ電話に出た。MKからの電話だった。今、門真市駅に来ているという。リサイクルショップニコニコに行ったが閉まっていたので電話をしてきたという。夏子はみんなにMKが来たことを伝え、羽藤の話の中断を申し出た。「5分で戻るから!待っててや。」と言い残し、ダッシュで向日葵寿司を出て行った。
「ほんまにMK君なんかいな?また、危ない目に遭うんとちゃうやろな?私も一緒に行ってくるわ。」
と稀世が後を追った。一瞬、不安な空気が店内に流れたが、心配をよそに5分後にMKを連れて夏子と稀世が戻ってきた。
元気そうなMKはみんなに迎え入れられ、質問攻めにあった。三朗はカウンターに入りイカと穴子抜きでMKの寿司を握ってやった。MKは伊勢神宮でアブラハム・サイモンの部下に確保され、大使館に連行された。MKはニコニコの面々に事の顛末を報告すると同時に、淡路のホテルでの夏子と陽菜の部屋荒らしは、指輪を盗もうとした自分の仕業だったと白状し、夏子と陽菜に詫びた。大使館員を装って日本に潜入している諜報員の立場を越えて、個人的な興味目的を含めた行動を本国の外務省に咎められ、明日、イスラエルに送還されることになったので、最後に別れの挨拶に来たという事だった。一人一人に別れを告げ、最後に夏子に対して、「改めて、なっちゃんにはお願いしたいんだけど、もしよかったら僕と一緒にイスラエルに行きませんか?」と声をかけた。夏子が言葉に詰まっていると、
「あほの夏子の返事は後にして、一志の解明したソロモン王の秘宝の隠し場所の発表に行こうや!まだ、誰にも言うてへんねやったら、わしらでこっそり掘り返しに行かなあかんからな!MK君に餞別代りに聞かせたったらええやろ。」
と直が口を挟み、向日葵寿司の店内は、夏子の恋路から一気に宝のありかに引き戻された。
「三日後」
三日後の昼、一週間の工事の終わった向日葵寿司に九人と尾崎が集まっている。エアコンは新しくなり、壁の新築に合わせ内装も一新されている。
「尾崎さん、すみませんね。なんだか得させてもらっちゃって。今日はしっかりと食べて行ってくださいね。」
と稀世と三朗が尾崎をもてなす。今晩、ニコニコ商店街のメンバーを招いての向日葵寿司の新装開店祝いが行われる予定になっている。
「夏子、あれから3日たつけど、その後MK君と連絡はついたんか?」
直が夏子に尋ねた。
「ううん…。イスラエル大使館に問い合わせたんやけど、「モーゼ・コーケンなんていうスタッフはおれへん。」って言われてん。MKの電話は「使われておりません」のコールやし…。いったいどこに行ってしもたんかな。今では、神様の使いの幻やったんやろかって思うようになってる…。」
と答えた。
事件の翌日に差出人不明で送られてきた夏子の二台のスマホからは、伊弉諾神社以降、高松までの間にMKと一緒に写った写真はすべて消えていたとのことだった。不思議な話であるが一緒に旅行に行ったメンバーのスマホからも同様にMKの姿は消えていた。かろうじて陽菜がカメラ代わりに使っていたオフラインスマホと眼鏡型のWEBカメラの動画を落としたSDカードの中でその姿は確認できたので幻ではないことは確かだった。
三朗が上握りを握り、稀世が寿司下駄を席に運んだ。七人に対し、四本の瓶ビールと九つのグラスを運ぶのをひまわりも手伝った。配膳が終わると、ひまわりを抱っこした三朗と稀世も席に着いた。
「じゃあ、「向日葵寿司の新装開店」とイケメンMK君とは幻の恋愛で終わった「あほの夏子誘拐事件の無事解決」に乾杯―!」
直が発声し、皆でグラスを掲げた。
「直さん、新装開店はともかく「あほの夏子誘拐事件」って何なんよ!それに「幻の恋愛」ってひどいやん…」
と席から立ちあがって、夏子が直に文句を言った。いつもならムキになって怒るところだが、今日の夏子は、力なく黙って座り込むと、うつむいた。寿司下駄の前に、「ポツン、ポツン」と水滴が落ちる。
「なっちゃん、泣いてるんか?」と稀世が声をかけると、「う…、うっ…、うわーん。」と夏子はダムの堰が切れたように泣き出した。陽菜が慰めるがいっこうに収まる様子はなく、皆の食事の手が止まった。
「わーん、MKどこに行ってしもたん?好きになりかかってた…、いや好きになってしもてたのに…。何も言わんとおれへんようになるなんてどういうことなん…。一緒にイスラエルに行って両親に会わせたいって言ってくれてたのに…、うわーん!」
泣きじゃくって止まらない。直は、大声で泣き続ける夏子を無視して
「ところで一志、この間の石板と銅鏡に書かれてたヘブライ語は読めたんか?現物はイスラエルの奴に渡してしもたんやろ?ちなみに、一志と普通に話しとったけど知り合いかなんかやったんか?」と話を羽藤にふった。
羽藤は、伊勢神宮で最後に話した男について説明をした。男はアブラハム・サイモンといい、現在はイスラエル国防軍の参謀総長直属のコマンド部隊の指揮官をしている。羽藤が公安警察時代に国外に逃亡した日本赤軍を追いかけて中東に行っていたときの現地警察で情報捜査のやり方などで交流を持ち、今でも連絡を取り合う仲だという。夏子が神明神社でカバンを奪われた時点で、羽藤は二人組が話していた言葉がヘブライ語であったと確信していた。男が稀世と交わした体術がロシア体術のサンボやシステマではなくイスラエルの近接格闘術のクラヴ・マガであることから、MKの意見も聞き、何某らのイスラエルの組織が絡んでいることを推測していた。夏子が追跡を受けるようになり確信に変わったという。
MKは羽藤には「大使館員」であると伝えていたが、羽藤はその後イスラエル大使館に「モーゼ・コーケン」なる人物は存在しないことを確認していたが黙っていたとのことだった。淡路島のホテルで夏子がシャーマニズム的な行動に出た際のMKの食いつき方に引っかかるものがあった中、翌朝の風呂場のゴミ箱にイスラエル諜報特務庁モサドの「ネヴィオト」の使用する盗聴器付きGPSが捨てられているのを見つけた。通信機能を遮断した上で回収し、指紋をとったところ夏子の指紋が出てきたことから、それはMKが夏子の衣服に忍ばせたものであると想像をしていた。
その根拠として、羽藤自身が朝風呂に入ろうと思い、大浴場階に降りた時、男女の暖簾を入れ替えるMKの姿を見たという。そこに二日酔いでフラフラした夏子が入り、その後MKが暖簾を差し替え、数分後に脱衣場に入っていったのを羽藤は見ていた。脱衣場の隙間からMKが夏子の衣服が入った籠を探っているのを見た。その後、MKが浴場に入っていくところまでを見送ったと説明した。
「えー、なっちゃん、淡路島のホテルでMKと一緒にお風呂入ってたん?そこで、なんかあったの?泣いてんと聞かせてよ!」
と稀世が「エロいもの」を期待する顔で夏子に問いかけた。
夏子も羽藤の話を聞きながら、(私のキュロットのポケットに入ってたあの黒いマッチ箱みたいなものって盗聴器やったん?あのキュロットに履き替えたんは、六階の特別室に行ってからやったし、そのまま寝てしもたから私がVRやって変なトランス状態に入って寝てしもた後でMKが私に仕込んだっていう事?)と頭の中を整理した。
「ねえねえ、なっちゃん、そういえば、あの朝、真っ赤な顔して大浴場の前でへたり込んでたもんな。いったい何があったんよ?」
と稀世がさらに攻め込んできた。直とまりあも興味深そうに夏子の顔を覗き込む。
「うーん、私が女湯やと思い込んで湯船に入ってたら、急にMKが入ってきて、「こっちは夜と入れ替わって「男湯」になってるんですよ。」って言われて、タオルで前を隠して出ようとしたときに、MKに抱き留められて「綺麗だ」、「今日も一緒にいさせてください」的な事を言われて、大スポの星占いにあった「恋の始まり」かと思ってしもてて…。」
と顔を赤らめた。
「はいはい、質問―!MK君が裸のなっちゃんを見て「今日も一緒にいさせてください」って浴室で言われたんやな?お風呂でおっぱいやお尻は触られたんか?ちなみに脱衣場に戻ったらなっちゃんの履いてたショーツやブラはあったんか?盗まれたり匂い嗅がれたりしてへんかったか?」
と稀世がノリノリで夏子に聞いた。
「もー、稀世姉さん変なこと聞かんといて下さいよ。お風呂で変なとこさわられたりしてないし、きちんとショーツもブラもありましたよ。そりゃ、抱き留められた時に胸元は見られたけど、MKを変態や下着泥棒みたいに言わんといてくれますか!」
と少し怒った口調で言うと
「名探偵稀世様の推理では、羽藤さんが見たMK君の「暖簾入れ替え」や「なっちゃんの脱衣籠漁り」っていう不可思議な行動を鑑みると、MK君の目的は、なっちゃんの身体やなくて、なっちゃんがネックレスに通してた二つの指輪やったんとちゃうか?
なっちゃんお風呂入る間もネックレスつけてたんやろ?なっちゃんの貧相な胸やなくて、胸元にかけられたネックレスの指輪を見てたんとちゃうんか?」
とどや顔で言う稀世に夏子は少し腹を立てたが、思い起こすと確かにMKの視線は夏子の83のBの胸ではなく胸元の指輪に向いていたような気もしてきた。
「そういえば、朝食会場でも先に座ってた夏子の横にMK君が来て、熱心に指輪見てたもんな。稀世ちゃんが言うように、夏子の「ぺちゃぱい」になんか興味ないわな。指輪が首にかかってんのを見て、とっさに引き止めんのについた嘘が「綺麗や」で、本音は「今日も一緒に指輪の傍にいたい」やろな。わしは、稀世ちゃんの推理に一票や!カラカラカラ。」
と直がビールを飲みながら茶化した。まりあも横で頷いている。夏子は口をとんがらせてふて腐れている。
そこで羽藤が「まあまあ」と割って入る。指輪を拾った時に、MK君が、指輪の裏にヘブライ語が書いてあって、一つは「ガル・ゴデッシュ」、もう一つは読めないと言ったってことでしたよね。そこはちょっと怪しいですよね。「ガル・ゴデッシュ」というのは「聖なる波または立石」という意味なんで、淡路島に渡った帆船を紋章とするゼブルン族を意味するとも取れますし、淡路島で発見された古代ユダヤ式の石の祠を意味しているのかもしれません。
もう一つのヘブライ語は「神に導かれるものへ。二つが揃いし時、神は再度降臨する」と書いてありました。諜報員のMK君が読めないはずはありません。きっと、本人は読めていたのにそれを隠していた可能性はあると私は思ってます。指輪に書かれた神の再降臨が何を意味するのかは分かりませんが、旧約聖書の中にも神の言葉を代弁したり予言を行うシャーマンや巫女はたくさん出てきます。きっと、その晩の夏子さんのお告げを聞き、彼なりに何か思うところがあったのだと思います。私自身、個人的にすごく興味を持ちましたから…。「ソロモン王の秘宝」にしても「失われたアーク」にしてもそこには壮大な浪漫がありますからね。」
羽藤の言葉に、三朗、舩阪、尾崎が大きく頷く。
「ふーん、男のロマンってそういうもんやねんな。羽藤さん、ヘブライ語読めたんやったら、銅鏡の裏に書かれてた69文字は読めたん?少年探偵のマンガ読みながら、何種類かの「シーザー暗号」の手法で羽藤さんが描いてくれたヘブライ語のアルファベット表で対応させて例の6行69文字を書き写してんけどどないやったん?」
と稀世が尋ねたところ、
「稀世さんが解析した中で一つの文字の羅列がきちんと文章になりました。ソロモン王の秘宝の隠し場所だと推測される文章でした。」
と羽藤が言うと皆から「おーっ!」と声が上がった。
その時、夏子のスマホが鳴った。見知らぬ番号だったが、何か得体のしれない虫の知らせを感じ電話に出た。MKからの電話だった。今、門真市駅に来ているという。リサイクルショップニコニコに行ったが閉まっていたので電話をしてきたという。夏子はみんなにMKが来たことを伝え、羽藤の話の中断を申し出た。「5分で戻るから!待っててや。」と言い残し、ダッシュで向日葵寿司を出て行った。
「ほんまにMK君なんかいな?また、危ない目に遭うんとちゃうやろな?私も一緒に行ってくるわ。」
と稀世が後を追った。一瞬、不安な空気が店内に流れたが、心配をよそに5分後にMKを連れて夏子と稀世が戻ってきた。
元気そうなMKはみんなに迎え入れられ、質問攻めにあった。三朗はカウンターに入りイカと穴子抜きでMKの寿司を握ってやった。MKは伊勢神宮でアブラハム・サイモンの部下に確保され、大使館に連行された。MKはニコニコの面々に事の顛末を報告すると同時に、淡路のホテルでの夏子と陽菜の部屋荒らしは、指輪を盗もうとした自分の仕業だったと白状し、夏子と陽菜に詫びた。大使館員を装って日本に潜入している諜報員の立場を越えて、個人的な興味目的を含めた行動を本国の外務省に咎められ、明日、イスラエルに送還されることになったので、最後に別れの挨拶に来たという事だった。一人一人に別れを告げ、最後に夏子に対して、「改めて、なっちゃんにはお願いしたいんだけど、もしよかったら僕と一緒にイスラエルに行きませんか?」と声をかけた。夏子が言葉に詰まっていると、
「あほの夏子の返事は後にして、一志の解明したソロモン王の秘宝の隠し場所の発表に行こうや!まだ、誰にも言うてへんねやったら、わしらでこっそり掘り返しに行かなあかんからな!MK君に餞別代りに聞かせたったらええやろ。」
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