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越前・長野・羽咋編

⑱「再度のお告げ」

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「再度のお告げ」
 翌日朝、ホテルの朝食を取ると一同は236キロ先の長野県の「善光寺」に向かった。ホテルの出発時に確認した夏子のスマホは宮津で留まったままだった。先に善光寺に参ることにした。
 今日もバス内でMKと羽藤のユダヤ由縁のこれから訪問する寺院について解説が行われた。その中でMKが反応を示した「物部守屋」と「守屋山」に対して夏子が問うとユダヤの神の中に「モリヤ」という名の「神」がいるとのことだった。
 陽菜が車内でネット検索すると、善光寺での「日ユ同祖論」の根拠として、善光寺の本堂最奥の内々陣にある「守屋柱」は本堂を支える108本の柱のうち向拝こうはいの部分を除き、この柱だけが八角形に加工されているということが車内で伝えられた。その形式はその当時の日本の古代建築物にはなく、マニアの間では「都市伝説」的にユダヤと絡めて伝わっているとのことだった。
 
 早めの昼食を取り、善光寺に行くと「都市伝説マニア」の大阪出身の寺の僧侶が丁寧に説明をしてくれた。八角形の「守屋柱」は一般参拝者は入れない本堂にあるので見ることはできなかった。六たび、夏子はチャネリングを行ったが三度目の「お告げ」の反応は見られなかった。僧侶の話によると、「守屋」の名は、聖徳太子が活躍していた古墳時代の豪族の「物部守屋もののべもりや」に由来するという事だった。
 当時の長野県は「地元の多氏おおし」と長野の地名の元になった「渡来人系の長野氏」と大阪からの「物部守屋」を代表とする「物部氏」に統治されていたとのことだった。物部守屋も当時の大阪での治水工事や干拓工事に手腕を発揮した渡来人であるというのが今の常識になりつつあるという。
 善光寺の「守屋柱」の由来は、諸説あるが「一神教推進派」で「廃仏論者」の物部守屋が仏教を広めようとした聖徳太子の父である用明天皇を謀殺し、「崇仏派」の蘇我馬子をないがしろにしたことで、聖徳太子とその右腕の秦河勝はたのかわかつが蘇我馬子と手を組み守屋を暗殺した。
 守屋の祟りや怨念を恐れた聖徳太子は守屋の首を切り離し、一度は四天王寺で鬼門方向に角柱を立たせ、後にその柱が守屋由縁の濃い長野の善光寺に移転されたとのことで「守屋の首が埋まっている」、「守屋の怨念を封じている」と言う伝説がある一方、守屋氏は関係なく「屋根を守る柱」と言われていると説明があったが実際のところはわからないとのことだった。
 羽藤から蘇我氏は「仏具や寺の装飾商」の一族で、仏教が普及することで新たな寺が立ち、豪華な仏具や仏像が作られることで大きな利益を上げることをもくろみ、朝廷内で金と策略でのし上がり仏教の布教に努めた。そんな蘇我氏に対して物部氏は元々は大阪の八尾市付近の豪族で、戦力としての馬を確保するために長野の「多氏」や「長野氏」に多額の資金提供をしていた。物部守屋をユダヤ人と謳う人たちは守屋の言う「一神教」が「ヤハウェ」を指し、守屋の名は「モリヤ山」から来ていると主張していると付け加えた。
 長野と太いつながりを持つ物部氏はその関係の名残を感じさせる地名をいくつも残した。大阪の「河内長野」の地名や藤井寺の「小山善光寺」は「元善光寺」と呼ばれているし八尾市にも「元善光寺」はあるらしい。
 大阪の渡来人は、縄文時代までは遠浅の海であった大阪市を干拓と治水で人が住める街にした。昔は、今の大阪城のあたりだけが小高い丘になっていた。詳細の歴史文書は存在しないが、「貝塚」等の遺跡が2500年前あたりの物とわかってきたらしい。
 物部守屋と蘇我馬子の争いは、朝廷内の権力争いであると同時に、宗教観の争いであったという事だった。

 羽藤の説明を丁寧にメモを取るMKの横で聞いていた夏子は
「物部守屋の先祖が2500年前から大阪の街を作ったってことは、淡路島で見つかったっていう古代ユダヤ遺跡の時期と重なるやん。私が拾った指輪の鹿の紋章もユダヤのナフタリ族の紋章が物部氏に引き継がれた可能性もあるってことやなぁ?」
と意見するとMKも頷いた。
 夏子が言った「鹿の紋章」の話に僧侶が反応した。夏子のネックレスにぶら下げられた指輪の紋章を見せると越前忌部氏や長野氏に鹿の紋章を持つ者がいる。しかも物部氏のトーテムは「鹿」だという。
 大国主神の息子の建御名方タケミナカタ神を諏訪に駆逐した建御雷之男神を鹿島大社の祭神とし、物部氏も建御雷神を氏神とし、「鹿」が神の使いになったという神話絡みの説を語った。「時間があるなら、このまま諏訪大社に行ってみては?」と御頭祭おんとうさいが開かれる諏訪大社の訪問を推された。
 都市伝説マニアの僧侶の話は非常に興味深いものがありあっという間に3時間が過ぎていた。「モーゼの墓」については「やっぱり眉唾物でしょうね…。」と否定的だった。

 善光寺から諏訪大社へは約100キロ。バスで90分の移動だった。午後4時半到着。善光寺僧侶が教えてくれた諏訪湖南部の上社前宮に向かった。僧侶が言うには、日本の神社ではあまり見られない小さな石造りの社が五つあるらしい。陽菜が撮った神明神社の立石の社の写真を見せた時には、全然大きさは違うがテイストは近いと言っていた。
 入口の旧みそぎ池の前の溝上社を前にMKが夏子に何か感じるか確認したが、特別に反応はない。続く荒玉社も同じだった。「前宮本殿まで行ってみようか?ちょっと離れた所になるみたいなんですけどね。ひまわりは長時間のバスでの移動に飽きていたのか、先頭切って三朗の手を引き境内を先に進んでいき、稀世と直がそれに続いた。鳥居の横の階段を上がったところにある内御玉殿の前でひまわりが立ち止まった。見ているのは、内御玉殿ではなくその横にある十間廊だった。「ひまちゃんどないした?」と稀世が気にしてその建屋を見た。入り口の社務所や内御玉殿と比べると新しい感じのする建物は壁は無く、幕で覆われた柱の上に重厚な屋根がのっている。
 遅れて羽藤と陽菜と陽菜と舩阪がやってきた。スマホをググりながら、陽菜が
「稀世姉さん、これが「十間廊じっけんろう」っていう毎年4月15日の「御頭祭」の会場なんやて!江戸時代までは、七十五頭の鹿の頭を捧げてたって書いてあるわ。黒魔術みたいでちょっと怖いな。まあ、今はシカ肉とイノシシ肉と鹿の頭のはく製で祭りはやってるって紹介されてるわ。昭和32年に一回焼けたんやて。それやからこの建物だけ新しいんやな。」
と解説をした。

 陽菜の説明が終わったころ、夏子とMKとまりあが上がってきた。
「本殿はここから道路を歩いて少し先みたいやな。日も傾いてきたからちょっと急ごうか!」
とまりあがかしたところ、ふと夏子が立ち止まり、まりあが後ろから突っ込んだ。「おい、夏子、急ごうっていうてんのに何止まっとんねん!」まりあが夏子を小突くと
「ここ、何か感じる…。」
と言って、十間廊に向かって、目を閉じ胸の前のネックレスにぶら下げた指輪を右手でつかんだ。「夏子、なんかお告げか?」と直が声をあげると、MKが「直さん、静かに。なっちゃんに集中させてやって下さい。」と直をたしなめた。夏子は、頭が前後左右にスイングしだす。「神明神社の時と同じだ。MKさん、陽菜さん、カメラ回して!」と羽藤が指示を出した。
 約1分後、夏子が呟いた。「剣山、神明神社、淡路を通ってアークはここに来た…。背の高い、鹿の紋章の神官が迎えに来ている。神輿がこの建物の中に入る。神官たちは「幕屋」と呼んでいる。物部守屋、越前忌部、長野、秦に阿波忌部が引継ぎを申し出てる。モーゼの石板、アロンの杖、マナの壺が確認され引き継がれていく…。阿波忌部の神官が皆に言う。ニニギの子孫には渡してはならぬ…。これら宝物はヤハウェのもの。ニニギの子孫が来る前に蓬莱山へ…。モーゼに従いここから北にあるシナイ山へ急ぎ持って行き、この先のヤハウェの再降臨まで隠し通すのだ…。モーゼは生涯をもってこのアークを守り抜きそこを墓とせよ…。隠し場所は…」と呟いた瞬間、稀世が大きなくしゃみをした。
 境内に響き渡る大きなくしゃみで夏子のトランスは解けた。その後、三度チャレンジしたが再びトランスに陥ることは無かった。非難を受ける稀世を無視して、MKはスマホを持って十間廊の建屋に近づき、菊のご紋の入った天幕をめくり中を覗き込む。「まさに「幕屋」だ。アークの保管場所として、聞いてきたものと似ている。本当にここにアークは来たのか…。それにしても、今のなっちゃんのお告げにあった「モーゼ」がこの地に来て、アークを更に北へと運んだのか?そこを墓とせよという事は、もしかして本当にモーゼは日本でその生涯を全うしたのか…。」
とうなった。

 その後、前宮本殿を参り、車で移動し、上社本宮にも参拝した。「東宝殿」、「西宝殿」、「宝物殿」とそれらしい名前の建屋の前で夏子は再チャレンジしたが十間廊のような反応は無かったので、諏訪温泉に宿をとることにした。
 諏訪のホテル到着時、夏子のスマホのGPSは宮津市内で止まっていることが確認できた。馬肉の料理をメインとするホテルでの夕食を取りながら、夏子が「馬刺しの写真撮ってアップさせなきゃ」とカバンをあさろうとすると、「夏子、お前まだわからへんのか!」と怒られ夏子のスマホはまりあが預かることになった。SNSもあと三日間の旅行期間中は禁止命令が出され落ち込む夏子をMKが慰めた。
 食事が済み、皆が大浴場に行く中、夏子はMKと散歩に出かけた。
「今日のなっちゃんのお告げはすごく重要な意味があるんだよ。てっきりとんでもない「ほら話」だと思っていた、モーゼの墓が現実味を持ってきたよね。なっちゃんが語る言葉の中で、はっきりとモーゼに対し、生涯アークを守りそこに墓を持てと言った内容だったですもんね。この二千五百年の間、誰も解けなかった「謎」のゴールがそこに見えかかってるんだ。本当になっちゃんは僕にとっての女神さまだよ。最後まで一緒にいさせてくれないか?」
とやや興奮気味のMKが夏子をぎゅっと抱きしめた。(えっ、「最後まで」っていうのは「この旅」ってこと?それとも「一生」ってこと?私そこまで求められてんの。もう、自分の気持ちを抑えられへん…。はしたないけど私からキスと求めてもいいよね…。)
夏子はMKを見上げそっと目を閉じた。
 その瞬間、まりあから預かった携帯が鳴った。(ちっ、いい雰囲気やったのに何なんよ!)と思いながら電話に出るとまりあの慌てた声がスマホから響いた。
「大変なことが起こってる!すぐ戻ってこい!」

 夏子がMKとまりあの部屋を訪れるとすでに八人が集まっていた。まりあが見ていた夜のニュースで昨日、浦嶋神社の社務所が襲われて、全員が束縛されたのが今日になって発見されたという事だった。幸い、けが人や金品や施設の損害は無かったが、犯人により防犯カメラのデータだけが盗まれたらしい。羽藤が、
「これでバスの車種とナンバーは把握されたかもしれないですね?相手のスマホの使い方からすると、ハッキングもしてくることが予想されます。国土交通省のNシステムや高速道路のETCシステムのファイアーウォールは非常に脆弱なので、ちょっとした腕を持つものであればNシステムのデータやETCの利用状況を盗めば逃げ場はないですね。」
 「ぴろりーん」と陽菜のスマホが鳴った。まりあにスマホを取り上げられたので、アカウントはそのままで陽菜のスマホで着信コメントだけは読めるようにしていたのだった。夏子のSNSに「いろいろいけてうらやましいです。あすはどこにいくの?」という新規フォロアーからの平仮名だけのコメントが入った。羽藤が「これは、相当な手練れだな…」と呟くとみんな黙り込んだ。陽菜が夏子のスマホの位置情報を調べるといまだに宮津で止まってることが確認できた。
「とりあえず、Nシステムのハッキングはまだのようやな。まあ、徳島から宮津まで追いかけてくるって相当恨まれとんな!宮津からここまでは400キロは離れとる。空でも飛んでこん限り、6時間はかかるんやから、ちょっとゆっくりしようや。」
と直が皆を落ち着かせようとしていうが、羽藤の発言で浦嶋神社の職員を拘束した前には五人の警察官を射殺したことが思い出され誰も落ち着けない。
 明日一番で、レンタカーを借りて二台に分かれ、夏子は新たに借りるレンタカーに乗り別行動をとる提案も出たが「戦力分散させず全員揃っていた方がいいだろう」とのMKと羽藤の意見が結論になった。



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