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京都府宮津・伊根編

⑮「行先変更」

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「京都府宮津・伊根編」

「行先変更」
 事件のきっかけが見えないまま、バスは瀬戸大橋に入り北に向けて進んでいる。
「なっちゃんの変質的なファンとか、なっちゃんが「ふった」やつがストーカーになってたり、恨みを晴らすためにあの外人を雇ったとかはあれへんの?」
と稀世が割って入った。
「稀世ちゃんとまりあちゃん目当てじゃなくて、ニコニコプロレスに興味持ってる外人で夏子目当てで来てるやつはまずおれへんやろ。あと、夏子が男をふるって話もないよな?カラカラカラ」
と直が茶化した。まりあも直の意見に頷きつつ苦笑いした。
「ひどーい、直さん!そんなことないよ!外人ファンが居れへんのは認めるけど、それは別として、私かてふられるばっかりじゃなくて、私から断ることかてあるんやで!」
ときれ気味に言うと
「ほんまか、いつお前が男をふったんや?何年何月何日何時何分や?それ言ってみい!」
とこどもの口げんかのように直が突っ込む。悔しそうな顔の夏子を無視して、直は話の方向転回を図り直と舩阪と羽藤の間で意見が交わされた。
「舩阪君、羽藤、今日「神明神社」で夏子を襲ったやつは、白人やったけど何人なにじんや?変わった体術使ってたよな?」
「確かに、初めて見たかたでしたね…。軍隊仕込みの動きでしたけど普通の軍隊式の格闘技はいわゆる「マーシャルアーツ」系なんですけど、アメリカ海兵隊の「MCMAP」とも違うし陸軍格闘術とも違う印象やったですねぇ…。あえて言うなら、ロシア軍特殊部隊のスペナッズの使う「システマ」に近いかな?
 稀世姉さんの攻撃の受け流し方や後の返し方がそれっぽいですよね。60キロ近い稀世姉さんを片腕で放り投げるところなんかは、独特の気功法に近いので直さんの方がよくわかるんじゃないでしょうか?」
 
 舩阪の回答を聞き、直が腕を組んで考え込むと、その前の席に座っていた稀世が突然激高した。
「舩阪君!何言うてくれてんの!言うてええこととあかんことがあるで!」
その勢いと大きな声でひまわりが驚いて飛び起きた。「稀世さんどうしたんですか?落ち着いて下さいよ!」と三朗がなだめる。舩坂はなぜ稀世が起こっているのかわからないが、ハンドルを握っているので謝りようがない。
「舩阪君、「60キロ近い」やなくて「50キロ台後半」やろ!サブちゃんもおるねんからデリカシーの無い言い方せんといてや!」
と大きな声を出す稀世にまりあが、呆れた顔をして言った。
「稀世、ところで今、何キロやねん?」
「…59.8キロ…。」
「じゃあ、今は食べて飲んだ後やから60キロ以上はあるやろ!もうどうでもええことやないか!話が止まるから黙っといてくれるか!」
と言われ、稀世は黙り込んだ。「僕は、どっちでもええですよ。稀世さんが何キロでも好きですから。」と慰められた。

 直が仕切り直して、「じゃあ、あいつらロシア人なんか?」と舩阪に問うと、
「いえ、それは無いですね。使っていた銃がバラクSP-21っていう西側の国の銃ですから。センサティックっていうポリマーと合成樹脂のフレームを採用した自動拳銃で2002年から販売されてるんですけど、東側の国や、ましてや日本では流通してる銃じゃないですからね。」
の一言で犯人像の追及は白紙に戻った。

 夏子を襲った犯人追及はいったん終了し、今後の行程についてどうするのかという話し合いになった。陽菜がみんなに言った。
「今から越前まで行くと着くのは途中で二回の小休止を入れるとして午前三時。越前はホテルも少ないからこのまま車中泊やん?そこで提案やねんけど、行先を京都の宮津に変えへん?ソロモン王の秘宝について調べてたら、天橋立の横の元伊勢この神社って裏神紋がダビデの星の神社があるんやて。しかも奥の院の真名井神社はユダヤの三種の神器の「マナの壺」に関わる伝説もあるんやて。
 私がさっき見たホームページでは、ソロモン王に託されたアークをモーゼが日本海側まで運んでシナイ山に隠したってことやねんけど、このページではモーゼが目指した「シナイ山」イコール東洋の極楽浄土でいわゆる天国みたいなところで「蓬莱山」っ山があるって書かれてるねんな。籠神社からちょっと北に上がった伊根ってところに「浦嶋神社」っていうのがあって、その裏山が蓬莱山て言われてるねんて。」
 稀世たちの視線が陽菜に集まった。
「じゃあ、その籠神社や浦嶋神社に行ったら、なっちゃんのお告げが復活して、ソロモン王の宝の位置が追跡できるっちゅうことやな?」
と稀世が先走る。
 陽菜が「まあまあ、稀世姉さん落ち着いて!」とワンクッション入れて
「まあ、100%じゃないですけど、なっちゃんの言葉で淡路を通って琵琶湖を北上するイメージやったら、宮津もあり得ますやん。元伊勢神社って言ったら、伊勢神宮の元ですよ、そこの裏神紋がダビデの星で、近くにオカルト界で日本のシナイ山かもと言われる蓬莱山があるんやったら可能性は大でしょ!」
と回答すると皆がうなずいた。
「本音のところは、神明神社に上って汗もかいてるし、シャワーも無しで車中泊はちょっと嫌かなって。宮津やったら、午前1時までチェックインできるホテルもあって、空き室もあるんですよ。この時間から予約が入ることもないやろうから、宮津までは越前より120キロ近いんで休憩を一回にして行ったら午前1時までには着くでしょ?」
と陽菜が提案した。
「あー、お前足臭いから、車中泊やとそれがばれて舩阪君に嫌われるって思ってるんやろ!ケラケラケラ。」
と直が陽菜をおちょくると、舩阪が陽菜をかばうように運転席から意見を述べた。
「僕以外は皆さんビール飲んではるやないですか。325キロやったらひとりで運転できますから、そうしませんか?」
という。まりあが「陽菜、夏子の取られたスマホの場所はどないなってんねん?」と尋ねると、陽菜のスマホで夏子のスマホのGPSを確認して「この2時間動いてません。こっちの場所は把握できてないんとちゃいますか?」と返した。
 それまで黙って聞いていたMKが満を持して発言した。
「夏子さんのクローンスマホの電波遮断が利いてるようですね。追跡がないなら、皆さんもお疲れでしょうから、陽菜ちゃんの提案に沿いましょう。個人的に、今の話に僕も興味がありますので。明日は、朝から僕が運転しますので、舩阪さん、すみませんが今晩はお願いします。」
舩阪が頷いた。

 念のため、まりあが高松のホテルに電話をして確認を入れたところ、白人の二人組がフロントにやって来て、夏子の事を尋ねていたことが分かった。応接に通し、警察を待っている間に二人は姿を消していたという事だったが、その風貌は、昼に遭遇した二人に酷似していた。
「やっぱり、夏子がターゲットになってるようやなぁ。やつらホテルに聞き込みに来よったらしいわ。」
とまりあが夏子に言うと、不安な表情の夏子にMKが
「なっちゃん、宮津についた時点で奴らに居場所がばれてなければ、大丈夫ですよ。寝不足はお肌の大敵ですから、ゆっくり休んでください。ただし、スマホは絶対に使っちゃだめですよ。」と優しく声をかけてくれた。「ありがとうね。MKがそう言ってくれるんやったら安心やわ。」といい、MKの肩に頭を預けた。
 しばらくすると夏子は、気疲れもありMKの横で眠りに落ちた。MKは前席の背もたれのポケットに入っているブランケットを夏子に掛けた。マイクロバスは、途中10分の小休止を入れただけで、宮津天橋立インターを降り、午前0時半にはホテルに到着した。敵のGPS信号は高松市内のパーキングから移動はしていないことが確認された。
 舩阪とツインに泊まる予定だった羽藤が一人で330キロ運転した舩阪に気を使うていを取り、MKと同室でもいいかとMKに声をかけた。MKは了承した。
 全員は各部屋に解散し長かった一日を終えた。「稀世さん、今回もまたえらいことになるのかと心配しましたけど、大事にならずによかったですね。」と三朗が寝ているひまわりを抱っこしながら稀世に囁いた。「せやな、サブちゃん。てっきり、いつもの大騒ぎにつながると思っててんけど気が抜けたな。その分余裕あるから部屋に入ったら「ムフフ」やな。」と笑顔で答えると「えーほんまですかー!」と三朗は喜んだ。
 
 翌朝、8時半、ホテルの朝食会場で無事に全員が顔を合わせた。夏子は、白いワンピースに着替えている。「おっ、夏子えらい気合の入った格好してるやないか?今日は、MK君落として、一緒の部屋に泊まろうってか?カラカラカラ。」とからかうが、夏子は無視してMKの隣の席に座った。
 笑顔で挨拶を交わし、MKと楽しそうに話している。ネックレスにぶら下げた二つの指輪を外すとMKに手渡した。食卓の上の紙ナプキンを指輪の裏に充てると、フロントで借りた鉛筆でMKは何枚も角度を変えて指輪の裏の文字をこすり写した。
 稀世がひまわりを抱っこして興味深げに顔を突っ込んだ。「MK君、えらい熱心に調べてるけど、この指輪って価値があるものなん?」と尋ねると
「いや、宝石貴金属としては価値はそんなにないと思います。一般的なユダヤ人でしたら普通にしているレベルの物ですね。ただ、刻まれている文字が気になって…。子供じみてるって思われるかもしれませんが、僕もソロモン王の秘宝が日本に眠ってるっていう話は可能性ゼロじゃないと思ってますんで…って大使館員がそんなこと言ってちゃ信頼されないですよね。」
と笑った。夏子が拾った指輪を中心に他のメンバーも集まって、指輪に刻まれた紋章や文字を目を凝らして見るが、鹿と船とダビデの星の図柄以外の文字はやはりミミズがはっているようにしか見えない。
 一番最後に食堂に来た羽藤を一人離れて食事をとっている直が手招きした。「直師範、おはようございます。昨晩はゆっくりと眠れましたか?」と目の下に深いクマが出ている羽藤があいさつした。「一志、お前は昨日の二人組に目鼻がついてるんとちゃうんか?わしが思うに、あいつらは…」と言いかけると、羽藤は口の前で人差し指を立てると誰もいない、一番奥の角の席に直のお盆を持ち移動した。

 出発前、改めて陽菜が奪われた夏子のスマホの位置を探った。今も高松からは移動はしていない。ホテルを出発するとMKの運転で籠神社にむかった。陽菜がよくある都市伝説の「カゴメの歌」の解釈を車中で発表した。
「昨日、一昨日のなっちゃんのお告げと昨日の羽藤さんの剣山のアーク伝説を調べたら、ユダヤのダビデの星は「籠目紋かごめもん」とも呼ばれてて、童唄の「カゴメの歌」と合わせるとアークの隠し場所を民間伝承させるための歌やったんとちゃうかってことに達したんよ。
 「かごめかごめ」の歌い出しは、まさにダビデの星の「籠目紋」であって、「籠の中の鳥はいついつ出やる」は「籠目紋」つまり、ユダヤ系の「阿波忌部」のトーテムが「鳥」なんよねぇ…。つまり、阿波忌部がいつ掘り出しに出てくるのかってことやと私は解釈するんよ。「夜明けの晩」っていうのはずばり「皆既日食」の事やと思う。昔は科学が発展してない人達にとっては「皆既日食」は「神の仕業」と考えると思うんよね。
 ユダヤ教は占星術にすごく長けてたんで、皆既日食がいつ、どこで起こるんかを把握してたんやと思う。そこで「鶴と亀が滑った」って歌詞やねんけど、地方によっては「べた」と歌われてるところもあるんよ。統べたは「統一」の「統」っていう字な。
つまり日食が起こった際に、剣山山頂にある「鶴岩」と「亀岩」の影が重なって統一された部分に宝が埋まっているんとちゃうかと私は想像すんねんな。
 「後ろの正面だあれ」は諸説ありまくりやねんけど「後ろ」を「御覧じろ」と書き換える、「正面だあれ」が「正面であれ」ならさっき言った「鶴岩」と「亀岩」の壁が示す正面をそのまま示す岩の下となると考えてん。みんなどう思う?」

 陽菜の歌の解釈はそれなりに面白かったが、現実として剣山にはアークも財宝も無いので今更「歌の中身」が「剣山の宝の隠し場所」だとわかっても仕方が無いと言う結論で落ち着いたが、MKはその分析と解釈に感心していた。
「陽菜ちゃんの解釈凄いですよ。シナイ山が他にも存在するとするならば、何かのヒントになるかもしれませんね。期待「大」ですよ!」
と褒めちぎった。
「なんでもユダヤとくっつけるとそれらしく聞こえてくるな。そこで歌われてる「籠目紋」が「六芒星」で「鶴と亀」が剣山の「鶴岩」と「亀岩」やとして最初にソロモンの秘宝とアークが剣山に隠されて、その後なっちゃんのお告げ通り、神明神社を経由して本州を北上したんやったら、伊根にお宝が埋もれてる可能性もあるみたいやしな。お宝が見つかったら、こども食堂も市民サロンもほくほくや!ええもん出せるように、なっちゃんの凄いお告げを期待してんで!」
と稀世が夏子の肩をバンバンと叩いた。

 ホテルを出てすぐに籠神社に着いたが、まずは横に見える天橋立に上った。展望台前の「股のぞきの台」で皆、前かがみになって、股の間から顔を出しては「わー、ほんまに天に上る龍に見えるわー」とか「うーん、龍には見えないよねー」と思い思いに声を出し、写真を撮っている。
 夏子は、ふと周りを見渡し、MKがいないことを確認すると、(やっぱりフォロアー一万人を抱えるアイドルブロガー夏子様がこの景色をみんなに送らへん手はないよなー!ささっと1分で撮ってしまえばばれることはあれへんやろ!)とバッグの中の鉛繊維の袋の紐をほどき、クローンスマホを取り出すと、股のぞきの風景と天橋立をバックにした自撮りを済ますと、速攻で「日本三景なう!」と表題だけつけてSNSにアップし、スマホを急いで袋に入れてバッグに戻した。



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