『焼飯の金将社長射殺事件の黒幕を追え!~元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.4』

M‐赤井翼

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「ここだけのビデオ」

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「ここだけのビデオ」

 豪勢な具材の「蟹スキ」と「ふぐチリ」が始まった。稀世が最後の鍋を配膳し、空いた皿を洗い場に戻した際、帳場の後ろの180センチ水槽の生簀はほぼ空になっており、残っているのは生簀の一番右の鎮座する60センチ越えの「ラスボス・・・・」だけになっていた。
「サブちゃん、いよいよ「こいつ」で「締め」なんやね。サブちゃんの作る煮つけ大好きやから楽しみにしてるね。
 私らばっかり美味しいもの食べて、おいしいお酒飲ませてもらってごめんね。きっとこの後はBARまりあで2次会ってことになるから、サブちゃんも一緒にはっちゃけような!約束やで!」
 稀世は生簀から巨大な魚をたも網で取り出す三朗に声をかけた。

「はい、楽しみにしてますよ。でも、その前に稀世さんの「ウルトラレポート」の発表でしょ。みなさん、事件の真相を知りたくてワクワクしてお待ちですから、お手伝いはもう結構ですから、主役は席に戻ってくださいね。」
三朗は、魚のエラに出刃包丁を差し込みながら稀世に微笑んだ。
 奥の席から太田が「稀世ちゃん、ぼちぼちスクープ発表と行こうや!いや、その前に「秘密のビデオ」やな!」と声をかけてきた。

 稀世が席に戻ると、メディアクリエイトのメンバーから大きな拍手が沸いた。熱燗ですっかり顔を赤くした太田が
「稀世ちゃんも戻ってきたことやし、先に絶対放送できへん、1週間前の事件当日の百々商事ビルでの「大格闘戦」のビデオで盛り上がろうか。1階の格闘戦は、テーブルに置いたカメラを広角ズームで撮ったものと各自が身に着けたペン型のウェアラブルカメラや耳掛け式の視線カメラをデジタル処理してる。
これはさすがに「売る・・」わけにいけへんから、ここに居るみんなだけへの特別上映や。俺も含めた5人のビル突入から、戦闘開始…、そして府警の坂井を筆頭に突入してきた警官隊による連行までのシーンやで。無敵の稀世ちゃんと直さんの陰で俺とここの大将も凛ちゃんも頑張ってるんでしっかりと見たってや。」
と壁掛けテレビのサイドのスロットにSDカードを差し込み、リモコンでメディア再生メニューを選んだ。

 百々ビルのインターホンを稀世が押すシーンから始まったビデオは、倉庫に通されて百々美麗と4人の男性幹部との短い面談まではさらっと流し、突然、「柳葉刀」を持った男たちが十数名入ってくるところから映画「キルビル」の格闘シーンのBGMが流された。
「おっ、太田はんにしては、気が利く演出やないか!これは盛り上がるなぁ!」
と直はひれ酒の入った湯呑を握りしめ前のめりになった。森と副島の視線も画面にくぎ付けになる。

 直の胸ポケットにつけたペン型のカメラの映像が映し出された。刃渡り50センチを超える「柳葉刀」を左手を使い、僅か数センチでかわすと相手の懐に入り込み両腕を左右、前後に振るだけで大男が宙を舞い、次々と「背中から」コンクリートの床に叩きつけられていく。
 森が「凄い…、凄すぎますね。よくかわせますね。」と直にひれ酒の「ぎ酒」を入れ足すと
「相手が使ってるんが「青龍刀」やから躱せるんや。あんなにでかく・・・て、重い刀は本来、接近戦では向けへんからな。細身のナイフや日本刀ぽんとうの短剣やと苦労したかもしれへんな。」
と解説をすると、
「あー、直さん、また間違えてますよ!あれは「青龍刀」じゃなく「柳葉刀」ですよ!」
と凛に訂正された。

 続いて稀世の戦闘シーンに画面が切り替わった。ワイド画面にパイプ椅子を手に男たちに突っ込んでいくシーンも圧巻だった。稀世がパイプ椅子と一振りする都度、「柳葉刀」は男たちの手から叩き落されるか、無残に折られるかのどちらかだった。
 剣を手放した男にパイプ椅子が撃ち込まれることはなく、多種多様なプロレス技で相手をなぎ倒し、ぶちのめし、吹っ飛ばすと無慈悲に敵の膝またはくるぶしかかとで踏みつぶしていった。
「マイクには男たちの叫び声しか入ってへんけど、現場に居ったら「ぼきっ!」、「ごりっ!」って音が聞こえるんや。そりゃ恐ろしいなんてもんやない…。
 みんな、絶対に酔っぱらっても稀世ちゃんのおっぱい触ったりセクハラしたらあかんぞ…。ほんま、敵からしたら「ガクブル」もの「恐怖の大王」ってなもんや。倒れたら最後、コンクリートの床と稀世ちゃんの全体重60キロがかかった踵がピンポイントで踏み下ろされるんやからな。くわばらくわばら。」
 太田が画面を指さし、解説を加えると隣の席の稀世が太田のネクタイを右手一本でつかむと立ち上がり、太田の体が椅子から離れ、足先が宙に浮いた。

 「ぎゃおっ、稀世ちゃん、や、やめてくれ!な、なにか悪いこと言うたか?「恐怖の大王」が気に入らんかったか?それやったら、「恐怖の女王様」でも「恐怖のプリティーガール」で訂正するから「ぼきっ!」、「ばきっ!」は堪忍してくれ!」
と太田が半泣きの表情になると
「太田さん、言うてええ・・こととあかん・・・ことがあるでしょ!今、私、思い切り「怒りの電流」が流れてるんやけど…。」
 
 凄む稀世に太田は真っ青になった。そこに煮つけの皿が並んだ大きな盆を持ってきた三朗が助け舟を出した。
「太田さん、「ツボ」はそこじゃないですよ!稀世さんの体重は「60キロ」でなく「59.8キロ」ですから。そこはしっかりと訂正してあげてください。」
 太田は「しまった!」という顔をして、稀世に謝った。
「ごめん!稀世ちゃんは「59.8キロ」やったわ。「60キロ」もあるはずないわな。「訂正」!「訂正」させてもらいます!」
 稀世は太田を椅子に下ろすと冷たく言った。
「太田さん、セクハラは「触る」だけやなく、「言葉」にもあるって覚えててくださいよ!サブちゃんの前で今度体重に「下駄」履かせたら、本当に「地獄」見せることになるんで気を付けてくださいね!」

 直は思い切り笑いながら、稀世に言った。
「相変わらずのこだわりやな。59.8キロを60キロって言うただけで上司を殺しかけるんか?プロレスを「八百長」って言われてキレるんは「良し」として、体重でいちいちキレとったらあかんぞ。今日は、よう食べてるから200グラム以上増えてるやろ。なんやったら、体重計持ってきて公開測定でもするか?カラカラカラ。」
 直の一言に「だって、サブちゃんの前で「デブ・・」って言われたみたいなもんでしょ…。」と乙女の表情に戻った稀世に、三朗がやさしく囁いた。
「稀世さん、体重数値は気にしないで今日はしっかりと食べてくださいね!今日の締めの魚は、「トドの煮つけ」です。この間、「ボラ」は食べてもらってますので、今日は「とどのつまり」の語源である、出世魚の最終形態のトドをしっかりと味わってください。内海の大阪湾でなく、外海の長崎ものですから全く臭みもなく美味しいはずですよ!」

 稀世と太田のひと悶着の間に、壁掛けテレビの格闘シーンは終わり、映像は府警の警官隊が突入してきて、次々と連行していくシーンになっていた。
 その中で、「敵側」で凜をさらおうとした際に、別の敵によって背中を切られた男が救急隊のストレッチャーに乗せられ、凛がそれに同行するシーンになっていた。
 そのシーンを直は2度、巻き戻し再生をして凜に尋ねた。
「凛ちゃん、なんでこの男についていったんや?そこから5日間連絡とられへんかったんやろ?いったい何があったんや?」
 凜は申し訳なさそうに、直に頭を下げた。
「皆さんに何も言わずあの場を離れたことと、その後、連絡が取れなかったことを先にお詫びさせてもらいます。ご心配をおかけして本当にすみませんでした…。
 もっと早くに稀世姉さんや太田さん、直さんには連絡すべきだったんですけど、あの後、ずっと天王寺の大阪警察病院にいたもんですから…。」
 初めて凜からあの事件の後の事を聞く直は首をひねった。
「警察病院に居ったってなんでや?凛ちゃんもなんかケガしとったんか?」
直の問いに凜は首を横に振り、小さな声で呟いた。
「あの人、直さんが最初に横浜に連れて行ってくれた時に対応してくれた、百々商事の男性スタッフさんだったんですけど、実は…。」
 凜が何かを話そうとしたとき、壁掛けテレビのビデオ映像が終了した。







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