『焼飯の金将社長射殺事件の黒幕を追え!~元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.4』

M‐赤井翼

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「3つのさいきょう」

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「3つのさいきょう」

 稀世はパイプ椅子を片手に倉庫を抜けエレベーターホールに走り、三朗はカメラを右肩に載せ、ガンマイクを左手に稀世の後ろをついていった。
「チーン!」
と稀世と三朗を乗せたエレベーターが3階に到着した
 廊下の窓の外に見える大阪中央環状線と近畿自動車道の位置関係で南の方角はすぐにわかった。「董事長室」と金色のプレートが掛けられた部屋のドアノブを捻ったが、開かなかったので、上段の構えからのパイプ椅子の振り下ろしでドアノブを叩き壊し、分厚い高級木材で作られたドアを蹴り破った。
「行儀悪い訪問で申し訳ないけど、お邪魔させてもらうで!」
と稀世が部屋に飛び込むと、百々は驚きの表情を見せたが、4人の男たちは冷静だった。

 壁にかかった、美しく「青龍」が彫られた大型の「柳葉刀」を二人は手に取り、一人は刃渡り1メートルの赤い馬毛飾りのついた「龍泉宝刀」を鞘から抜いた。最後の一人は金細工の施された「陰陽太極剣」を構えた。
 無言で剣を構える4人の男を前に(こいつら、ほんまもんや。「殺気」が桁違いや…。きっと過去に何人も人を殺した経験を持ってるに違いない。サブちゃんを連れてきたんは失敗やったな…。)と稀世は思った。
「女、貴様何者だ。うちの若い衆を全員打ち倒してきたのか…。」
 百々がパソコンに映し出された社内の監視カメラの倉庫の映像に目をやり、4人の男の後ろで呟いた。

 代表格の男が稀世に鋭い目線を向けたまま百々に説明を入れた。
「思い出しました…。この女、ただの記者じゃなく、昨年開かれた団体枠を超えたプロレス大会で実質的に優勝した元女子プロレスラーの「安稀世」です。半端なく強いって噂は聞いてましたがこれほどとは…。
 しかし、400年を超える歴史の中で暗殺拳として使われてきた我ら中国武術の最高峰の陳家太極拳最強の百々四天王の前ではプロレスなど所詮「児戯に等しい」と後悔することになるでしょう。
 命を懸けた闘いを400年以上勝ち抜いてきた殺人技を「欧米的帝国主義者のショービジネス」の「八百長・・・格闘技」と比べるまでもありません。若い女を手にかけるのは気乗りしませんがですが、百々様の秘密に触れたものを生かしておくわけにはいきません。」

 男が話し終わる前にあるキーワードで稀世に「怒りの電流」が流れた。色白の童顔は真っ赤な修羅の表情となり、ショートカットの黒髪が怒気で逆立った。男はさらに稀世を挑発した。
「貴様たちは触れてはいけないものに触れてしまった。おとなしくしていれば見逃してやったものを…!
 お前らプロレスラーは「八百長」無しには何もできない「ペテン師」だろ!れっきとした「殺人技」であり我々の肉体を含め「殺人凶器」である陳家太極拳の刀剣を前にそんなパイプ椅子ひとつで何ができるって言うんだ!今からお前が死ぬ以外の結末は無いぞ!この「八百長」娘がっ!」

 その追加の言葉で稀世に「怒りの電流」のボルテージが一気に上がった。
「なにっ、「八百長」やと!それもご丁寧・・・に3回も言いやがって!プロレスを舐めんなよ!相手がどんなもんを持っていようが挑まれたらプロレスラーは逃げたらあかんねや。
それに、世界最強の凶器はそんなちゃちな飾りのついた刀やあれへん!今から私が、ほんまの「最強」で「最凶」で「最恐」の「凶器」っていうのが何なのかを教えたるわ!」
前面に立つ3人の男たちはパイプ椅子を手にした稀世の言葉に噴き出し、大笑いした。

 「ぎゃははは!強がるのもいい加減にしろ。俺らが分かって3回「八百長」っていたのに対し、お前は3度「さいきょう」って言ってたぞ。ギャハハハ!本当は陳家太極拳に剣術を加えた俺たちにビビってるんだろ!「八百長」というショー的要素のないこの闘いでお前に何ができるって言うんだ!この場で消してやるわ!即殺!」
 3人の男が絶妙の連携で稀世に切りかかった瞬間、電光三閃、百々とリーダー格の男の視野にパイプ椅子を持つ稀世の残像だけを残し、「ガコッ!」、「バキッ!」、「ドゴッ!」っという音と共に稀世の持つパイプ椅子に跳ね上げられた中国刀が壁や天井に3本突き刺さった。
 百々が瞬きするかしないかの刹那に稀世は3人の男たちに向けて踏み込んだ。
「プロレスを汚すやつは許さへーん!でりゃぁぁぁぁ!」

 「どかっ!」、「ばきっ!」、「ぼきっ!」、「ごきゅっ!」12度の鈍い音が刹那の間に董事長室の中に響くと3人の屈強な男は「まんじ」、「出」の字、そして「ヲ」の字の手足が折れ曲がり床に沈み、陸に上がったタコのようにうごめくだけだった。
 稀世の鬼神のような動きに驚いた、百々は大理石でできた高級な董事長席の引き出しを開けると、金将社長射殺事件で使われたといわれるイタリア製25口径の小型拳銃を取り出すと稀世に向け、有無を言わさぬタイミングで引き金を絞った。

 「パン」、「パン」、「パン」、「パン」と4度の乾いた銃声が室内に響いた。稀世は一瞬目を閉じ、身構えたが身体に痛みがないことを確認し
「なんや、全部「スカ」やないかい!」
と稀世が叫んだ。その稀世の前で三朗が苦悶の表情を浮かべ腹を押さえて膝から崩れ落ちた。拳銃を確認し、瞬時にカメラとガンマイクを放り投げて、三朗は身を挺して稀世の前面に割って飛び込み稀世を庇ったのだった。
 三朗のジャンバーの腹部から紫煙が立ち上っているのを見た稀世が「サブちゃん!大丈夫?」と叫び視線を男から外したごく僅かな瞬間に、男の持つ「陰陽太極剣」が稀世の頭上に振り下ろされた。
 (しまった!視線を外した隙を突かれた!あかん、これは避けられへん!サブちゃんとここで死ぬんか…。)と稀世は刹那に死を覚悟した。その瞬間、顔をしかめたままの三朗が昼に向日葵寿司で見せてくれた「鰹節」を両手で持ち、斜め横から稀世の頭上で太極剣を止め、叫んだ。
「稀世さん、あきらめちゃだめだ!」

 たかが木の棒と侮った男の二度目の斬撃を再び受け止めた三朗の腹に男は前蹴りを入れ、三朗は部屋の後部に吹っ飛んだ。その瞬間に稀世の頭のネジが吹っ飛んだ。
「貴様―!私の・・サブちゃんに何するんや!」
 再び稀世の持つパイプ椅子が宙空を美しく舞った。
 コンマ数秒の間に4度の骨が砕ける鈍い音が部屋に響き、男の四肢は全てよからぬ方向を向き、最後に繰り出した「踵落とし」が脳天に決まると男は白目を剥いて床に崩れ落ちた。
 窓の外からパトカーのサイレンと急ブレーキの音と複数の赤い回転灯の光が差し込んできていた。
「くそっ!」
百々は下品に唾を吐くと、弾倉の8発を撃ち尽くしたベレッタM950の引き金を引いたが弾が出ることはなかった。



「おまけ」



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