『偽りのチャンピオン~元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.3』

M‐赤井翼

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「サイキッカーSUIKA」

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「サイキッカーSUIKA」

 午後7時半、向日葵寿司の座敷席に稀世、直、まりあ、太田に加えて夏子と陽菜が座っていた。直はひとり手酌でビールを飲んでいる。
 「キキーッ」と店の前で車が止まる音がした。ドアの開閉する音が聞こえると勢いよく引き戸が開けられた。
「よお、サブちゃんご無沙汰!直師匠と稀世来てると思うんやけど。あと、今日の払いは私が持つからみんなに「特上握り」と「特上海鮮盛り」を出したってな。」
と大きなスーツケースを持った派手な高級ブランド物のスーツから稀世以上の「H」カップの大きな胸をはみ出させた女が現れた。
「お帰りなさい。WWEで大活躍みたいですね。直さんと稀世さんなら座敷席で待ってはりますよ。」
と三朗は女を店に迎え入れた。

 座敷席に女はむかい、直に深々とお辞儀をした。
「直師匠、ご無沙汰しています。師匠のおかげでアメリカでスーパーディーバのひとりとして頑張らせてもらっています。つまらないものですがおみやげも用意していますのでまた後程。」
 丁寧にあいさつする大女に圧倒された夏子と陽菜が稀世に尋ねた。
「このごっつくて派手な女の人誰ですか?モデルさんかなんかですか?」
「稀世姉さんより大きいおっぱいしてはりますけどお知り合いなんですか?」

 稀世は初対面の夏子と陽菜と太田に分かりやすく粋華の事を説明した。
「このは、元ニコニコプロレスに居った「粋華すいか」。今は「サイキッカーSUIKA」ってリングネームでWWEのバリバリのスーパーディーパやねん。もちろんミリオネラや。
 直さんに弟子入りして合気道の免許皆伝でアメリカリングで大活躍中。合気術で粋華より大きい選手をくるくる、ころころ投げ飛ばす所から、「合気道」の事をあんまり知れへんアメリカ人からは「超能力者」って意味で「サイキッカー」ってリングネームをつけられたんやて。
 おっぱいは私より1カップ大きい「H」カップって言うてたけど、アメリカに行ってまた大きくなったみたいやな。
 私とデビューが同時やったライバルであり、親友やねん。こんなところでわかってもらえたかな?」
 頷く夏子と陽菜に「よろしくな。」と握手をすると、粋華は稀世の隣の席に腰を下ろした。

 「じゃあ、始めさせてもらってええですか?」
と三朗が声をかけ、特上寿司の乗った寿司下駄を運び出した。7人前の寿司をテーブルに並べ、ビールと夏子と陽菜用の烏龍茶を出すと
「なんかようわからんけど、突然の粋華の帰国を祝ってまずは乾杯!」
との直の発声で食事会が始まった。
食べ始めてすぐに直がいきなり核心をついた質問を粋華に投げた。
「粋華、お前さっきの電話で「稀世ちゃんをスカウトしに来た」って言うてたけど、あれどういう意味や?
 来月、大阪である「CUWW」いう大会となんか関係してるんか?知っての通り、稀世ちゃんはニコニコプロレスを引退した身や。わかりやすく説明してくれや。」

 粋華は数カ月ぶりの「本場日本の寿司」と日本のビールを美味しそうに頬張りながら直に説明し始めた。
「私もその「CUWW」にWWEのチャンピオンとして参戦するんですよ。まあ、チャンピオンっていうても「ランジェリーマッチ」っていう、本家本元の「ストロングスタイル」のベルトとはちょっとちゃうんですけどね。
 知っての通りアメリカのプロレスって凄く「ショー的要素」が強いやないですか。私の場合、直師匠直伝の合気術でのし上がったもんやから、ガチでやっても負けへん自信はあるけど「興行上」、「東洋の神秘の超能力者」って言う方が売れるやろうってことで「色物」扱いをマネージャーが勧めてきたんですよ。
 まあ、黒髪に黒い瞳でこの胸なんで「ブラ&パンティーマッチ」改め「ランジェリーマッチ」っていう、ちょいエロのリングコスチュームでファイトするチャネルのチャンピオンになったって訳ですわ。
 そんで日本贔屓のスポンサーのひとりが「次は日本で興行したいから協力してくれ」って言いだして、私にお鉢が回ってきたんですよ。メジャー団体は普通に出場交渉して参加レスラーが決まってるんやけど、大阪にはメジャー団体があれへんじゃないですか。そこでプロモーターの頭に浮かんだんがWWEに参戦した時の稀世やったって訳ですわ。
 去年引退したってことも説明したんやけど、大阪で開催やのに大阪の選手がおれへんのも盛り上がれへんやろうから、何とか説得してきてくれって話で私に白羽の矢がたったって流れですねん。」

 粋華の説明で直とまりあには帰国理由はわかったが、稀世の出場に関しては稀世に決めてもらうしかない。引退から1年以上のブランクがひと月弱の準備期間で何処まで鍛え直されるのかと痛めたひざの状態がどうなのかをまりあは把握できていなかったし、メディアクリエイトの太田がリング復帰を許すかどうかもわからなかった。

 「稀世、どうや?私と一緒に参戦してみいへんか?アメリカに行って強者たちと闘ってきてる私が一度も勝たれへんかった稀世や!WWEでもええ勝負をしてたし、膝が万全やったら日本のトップレスラーと闘っても勝てる可能性は高いと私は思ってるで。」
と粋華は熱く稀世を誘うが、(そんなん言うても…、太田さんが許可するはずないわな…。)と思った稀世は太田の顔を伺った。
 稀世と目が合った太田は予想外の反応を示した。

 「粋華ちゃん、その「CUWW」の放映権ってどないなってるんかな?大会参加中の選手の肖像権とかアメリカは厳しいんやろ?4日間だけの大会やったら、稀世ちゃんが出たいって言うんやったら、わが社は稀世ちゃんの選手復帰までのドキュメンタリーを独占できるわけや。
 ましてや「優勝」でもすることがあったら、「元インディーズレスラー「安稀世」奇跡の復活までの軌跡」って地上波ゴールデンでの放映も可能やろ。ロケ無しの身内撮りの低予算で2時間枠番組で500万、いや800万の売り上げにはなるで。「シャワーシーン」やGカップのおっぱいの「ポロリ」があれば1000万も夢じゃない!
でや、稀世ちゃん、膝の方が大丈夫やったら出てみたらええんとちゃうか?
 資金難に苦しむ「こども食堂」の利用者の子供たちの笑顔を護り、運営費を稼ぐために、身体を張って勝負に挑む巨乳「元女子レスラー」って泣かせるやないの。いける!まじ、いけるで!
 稀世ちゃん、こども食堂、市民サロンとわが社の為にも是非とも優勝目指して頑張ってくれ!」
とあっさり参戦のOKは出た。(うーん、よもやの参戦OKやけど、「シャワーシーン」や「ポロリ」は堪忍して欲しいよなぁ…。)と稀世が黙りこくっているとまりあが動いた。

 「稀世、後はお前の膝とフィジカル面やけどどないなんや?うちとしては、無理は言われへんから参戦するかどうかは稀世に一任するで。映画「ロッキー」やないけど、これからひと月弱のトレーニングには私も付き合うで。稀世がロッキーで私がトレーナーのミッキーや。」
まりあが参戦に前向きになったので、断れる雰囲気ではなくなってきた。
「膝は、もう大丈夫やと思います。ただ、勝負勘についてはひと月弱で何処まで取り戻せるんかは何とも…。」
の一言ですべては決まった。直がカウンターの中の三朗に声をかけた。
「おい、三朗、喜べ!稀世ちゃんのリング復帰が決まったぞ!応援団、いや後援会を立ち上げるからお前に会長はやらせたろ!そんでもって今すぐ「ええ酒」持ってこい!今から稀世ちゃん後援会の立ち上げ式やるぞ!」
 
 三朗が準備した「純米大吟醸」の冷酒で皆で乾杯すると、現実的な話に戻った。直が粋華に主催者について尋ねた。
「ところで、粋華、この「CUWW」ってわざわざ日本にまで来て「優勝賞金3000万円」ってえらい景気のいい話やけど、この「セオドア・ルメイ・エンタープライズ」ってそんなに力のあるプロモーターなんか?」

 粋華の説明によると、CEOのセオドア・ルメイは大のプロレス好きでかつ日本好きで本業はスポーツに特化したアメリカのブックメーカーだという。
 「賞金ファイトマネー」は優勝3000万円、準優勝で1000万円、ベスト4で500万円、ベスト8で150万円、1回戦負けでも50万円の総額5000万円になるという。
「まあ、エディオンアリーナ大阪のキャパは8000席あるから4日間の興行と放映料を考えたら十分利益は出るやろな。」
とまりあが皮算用すると、粋華が付け加えた。
「当然、ルメイ社としたらブックメイキングでの売り上げも見込んでるやろうしな。これを機に「大阪カジノ」に向けて日本進出でも考えてるんやと思いますわ。まあ、地元の噂ではそのための「大阪開催」って話やからな。」

 「ちなみにきちんとした会社なんか?」
直が尋ねると粋華は少し困った顔をして答えた。
「うーん、エージェントは普通の人やったんですけどね。「シカゴ」、「イリノイ」や「メキシコ」のマフィアが絡んでるって噂もあるけど、きちんとアメリカ政府が認めてるブックメーカーやから変な事にはなれへんと思いますよ。セオドア・ルメイ自身は気のいいプロレスファンですしね。一度、話したことあるんやけど、日本語ペラペラですしね。」
 粋華がスマホをググって「セオドア・ルメイ」の紹介ページを皆に見せた。

 その瞬間、まりあの頭の中にかかっていた白い霧が晴れたように叫んだ。
「あっ、この間、うちの店に来た外人客がこいつやったんや!思いっきり「KIYOMANIA」やったもんな。稀世に参戦を熱望する理由が分かったわ!」



「おまけ」
今日は「ひいちゃん」さんが描いてくれた「粋華ちゃん」のイラストです。
「ブランド物のスーツ姿の黒髪ロングの大きな胸の笑顔の女の子」
ってな感じでポロンプトを入れて作画しようとするんですけど、「粋華ちゃん」に関しては、なぜか「下着姿」で出てきちゃう(泣)。
何度やってもダメでコインが無くなっちゃったので、「ひいちゃん」さんの描いた「粋華ちゃん」をお借りしました(笑)。

同じ「PixAi」なんですけど、何が違うんですかねぇ…。
まあ、私が描くより「ひいちゃん」さんが描いたイラストの方が人気が高いので良しとしましょう!
(´-∀-`;)









「ひいちゃん」さん、またよろしくお願いしますね!
(⋈◍>◡<◍)。✧♡
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