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㉖「カルテ⑨ 妊娠中の妻を殺されて報復に行った先で事故死したやくざの地縛霊「浦見賀鋸留《うらみが・のこる》」の場合③」
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㉖「カルテ⑨ 妊娠中の妻を殺されて報復に行った先で事故死したやくざの地縛霊「浦見賀鋸留《うらみが・のこる》」の場合③」
「確か、イメージで浮かんだ病室は601号室!浦見賀のターゲットの病室は個室のはずよ。みんな急いで!」
心亜を先頭に7体の「霊」のうち健逐が倒れた茉莉花を背負い、則泰が弾け飛んだ茶色の数珠玉を集めた後、どん兵衛の「依り代」である狐のぬいぐるみを手に病院内を駆け抜けた。
幸い、浦見賀よりも早く「入室者 「人満弟志太」と書かれた個室の601号室に到着した。廊下の一番奥の病室になるこの部屋の前はひっそりとしている。末期の療養病床という事で廊下を移動する患者の姿は全くない。
「面会謝絶」の札がかけられていたが、浦見賀のターゲットであろう「人満」の安否を確認するためにこっそりと部屋に入った。
枕もとの札には43歳と書かれている「人満」は還暦越えの老人に見えた。多くの点滴や輸液の管に繋がれ、多数のモニター音と人工呼吸器の吸排気音だけが響く病室への突然の来訪者にも反応を示さなかったところを見ると、人満の病状は眼も耳もあまり機能していないことを想像させた。
心亜が人満の耳元で「あなた、浦見賀鋸留さんの奥さんとお腹の中の赤ちゃんを殺したの?」と尋ねると、何も言わずに、瞼を閉じ返事した。心亜は、ポケットから赤い数珠を取り出し、切れた茶色の数珠の代わりにはめ直した。
人満のベッドのわきの「死神」が見えるようになった。「死神」は何も聞いていないにもかかわらず、
「今晩が峠やな…。まあ、ヒットマンとしてようさんの命を殺めた奴やから、このまま死んでも撃ち殺されてもどっちみち「地獄」行きやけどな…。」
と呟いた。心亜は「死神」にむかって小さな声で呟いた。
「だからと言って、人がみすみす殺されるのを見逃されへんやろ。「死神」さんはおとなしくしとってな。」
健逐の背の上の茉莉花が息も絶え絶えに言った。
「心亜、悪いことは言えへん。この案件はもうお終いや。どん兵衛もおれへんようになった今のあんたがどうこうできる案件やあれへん。あいつは「根っこ」から腐ってる。まともに「成仏」させるなんて無理や。
あんたの「やさしさ」も「まごころ」も通じへん奴も居るんや。きっと、あいつの持ってた包みは「拳銃」や。あんたは「生身」の人間なんやから、「撃たれたら」死ぬんやぞ。除霊師の仕事は「警察」とは違うんや。説得は無駄や。もう、「浦見賀」にまともな「成仏」を期待するんはやめるんや!」
その瞬間、壁を抜け小さな包みを持った浦見賀が入ってきた。病室内を見渡し
「なんや、除霊師のお姉ちゃん、まだこんなところに居ったんや。邪魔すんなって言うたやろ。まあ、「死神」もおるみたいやから、この「腐れやくざ」の始末を邪魔するようやったら、お姉ちゃんも「逝って」もらうことになるで…。」
と言うと、御祓井家から奪った、「実体化」の「お札」を自らに貼った。
手に持っていた小さな包みを開けると「サイレンサー付きの拳銃」が出てきた。浦見賀は、ベッドに横たわる「人満弟志太」の頬をサイレンサーでピトピトとつついた。
「おい、人満…、ここであったが「100年目」。あと3分は死ぬんとちゃうぞ。お前を「あの世」に送るんは「病気」やなくこの「浦見賀鋸留」やからな!思いっきり苦しませて送ったるからな…。」
浦見賀はベッドの淵から2歩下がり、人満と1メートル半の距離を取ると銃口を人満の腹に向けた。
「ダメ!「報復」は何も生まないわ!お願いだからバカな事はやめて。きっとあなたの奥さんも赤ちゃんもそんなことは望んでないはずよ!」
と間に割って入ったが、浦見賀が聞く耳を持たず、引き金に賭けた人差し指に力を入れた。
「プシュッ!」というサイレンサーで消音された銃声が響くと同時に、焼けた薬莢が「チン」と床に落ち、鮮血が飛び散った。心亜と浦見賀の間に浦見賀の持つ残り7枚の「実体化」の「お札」を奪った則泰が飛び込んでいた。撃たれた反動で6枚の「お札」が宙を舞った。
「則泰君!」叫ぶ心亜に「心亜ちゃん、大丈夫ですか?」と胸から血を吹き出しながら、心配の眼を向ける。血まみれで浦見賀につかみかかろうとする則泰に無慈悲な銃弾が続けて3発撃ち込まれ、病室の床が真っ赤に染まった。心亜は床に倒れた則泰に泣きながら声をかけるが反応は無い。
「おいおい、無駄な弾撃たすなよな。」
と再び銃口を人満に向けると今度は、虎吉が盾となった。
3発の銃声で胸や腹から紫煙が上がると、白の縦縞のハッピと「実体化」の「お札」が真っ赤に染まっていく。「あかん、これじゃカープのハッピになってしまうわ…。タイガース万歳…。」と言い残し虎吉も動かなくなった。
「腐れ外道が!」と続いて茉莉花を床に下ろした健逐が殴りかかるも、いとも容易くかわされ、両腿に拳銃弾を撃ち込まれ、跪く体勢になった健逐の後頭部に2回引き金を引いた。
「あらら、弾倉一本使ってしもたやないかい。人満には10発は喰らわせてやりたいからもう邪魔すんなよ。」
と弾倉を入れ替えながら、浦見賀は床に倒れた3人の屍を足で蹴り除けると人満のベッドに近づいた。
心亜が人満の上に重なって叫んだ。
「この鬼!なんでそんなことができんのよ!則泰君も、虎吉のおっちゃんも、健逐さんもみんなええ人やったのに!この人でなし!絶対に私はあんたを許せへんで!」
そんな心亜を浦見賀は冷めた目で見降ろした。
「確か、イメージで浮かんだ病室は601号室!浦見賀のターゲットの病室は個室のはずよ。みんな急いで!」
心亜を先頭に7体の「霊」のうち健逐が倒れた茉莉花を背負い、則泰が弾け飛んだ茶色の数珠玉を集めた後、どん兵衛の「依り代」である狐のぬいぐるみを手に病院内を駆け抜けた。
幸い、浦見賀よりも早く「入室者 「人満弟志太」と書かれた個室の601号室に到着した。廊下の一番奥の病室になるこの部屋の前はひっそりとしている。末期の療養病床という事で廊下を移動する患者の姿は全くない。
「面会謝絶」の札がかけられていたが、浦見賀のターゲットであろう「人満」の安否を確認するためにこっそりと部屋に入った。
枕もとの札には43歳と書かれている「人満」は還暦越えの老人に見えた。多くの点滴や輸液の管に繋がれ、多数のモニター音と人工呼吸器の吸排気音だけが響く病室への突然の来訪者にも反応を示さなかったところを見ると、人満の病状は眼も耳もあまり機能していないことを想像させた。
心亜が人満の耳元で「あなた、浦見賀鋸留さんの奥さんとお腹の中の赤ちゃんを殺したの?」と尋ねると、何も言わずに、瞼を閉じ返事した。心亜は、ポケットから赤い数珠を取り出し、切れた茶色の数珠の代わりにはめ直した。
人満のベッドのわきの「死神」が見えるようになった。「死神」は何も聞いていないにもかかわらず、
「今晩が峠やな…。まあ、ヒットマンとしてようさんの命を殺めた奴やから、このまま死んでも撃ち殺されてもどっちみち「地獄」行きやけどな…。」
と呟いた。心亜は「死神」にむかって小さな声で呟いた。
「だからと言って、人がみすみす殺されるのを見逃されへんやろ。「死神」さんはおとなしくしとってな。」
健逐の背の上の茉莉花が息も絶え絶えに言った。
「心亜、悪いことは言えへん。この案件はもうお終いや。どん兵衛もおれへんようになった今のあんたがどうこうできる案件やあれへん。あいつは「根っこ」から腐ってる。まともに「成仏」させるなんて無理や。
あんたの「やさしさ」も「まごころ」も通じへん奴も居るんや。きっと、あいつの持ってた包みは「拳銃」や。あんたは「生身」の人間なんやから、「撃たれたら」死ぬんやぞ。除霊師の仕事は「警察」とは違うんや。説得は無駄や。もう、「浦見賀」にまともな「成仏」を期待するんはやめるんや!」
その瞬間、壁を抜け小さな包みを持った浦見賀が入ってきた。病室内を見渡し
「なんや、除霊師のお姉ちゃん、まだこんなところに居ったんや。邪魔すんなって言うたやろ。まあ、「死神」もおるみたいやから、この「腐れやくざ」の始末を邪魔するようやったら、お姉ちゃんも「逝って」もらうことになるで…。」
と言うと、御祓井家から奪った、「実体化」の「お札」を自らに貼った。
手に持っていた小さな包みを開けると「サイレンサー付きの拳銃」が出てきた。浦見賀は、ベッドに横たわる「人満弟志太」の頬をサイレンサーでピトピトとつついた。
「おい、人満…、ここであったが「100年目」。あと3分は死ぬんとちゃうぞ。お前を「あの世」に送るんは「病気」やなくこの「浦見賀鋸留」やからな!思いっきり苦しませて送ったるからな…。」
浦見賀はベッドの淵から2歩下がり、人満と1メートル半の距離を取ると銃口を人満の腹に向けた。
「ダメ!「報復」は何も生まないわ!お願いだからバカな事はやめて。きっとあなたの奥さんも赤ちゃんもそんなことは望んでないはずよ!」
と間に割って入ったが、浦見賀が聞く耳を持たず、引き金に賭けた人差し指に力を入れた。
「プシュッ!」というサイレンサーで消音された銃声が響くと同時に、焼けた薬莢が「チン」と床に落ち、鮮血が飛び散った。心亜と浦見賀の間に浦見賀の持つ残り7枚の「実体化」の「お札」を奪った則泰が飛び込んでいた。撃たれた反動で6枚の「お札」が宙を舞った。
「則泰君!」叫ぶ心亜に「心亜ちゃん、大丈夫ですか?」と胸から血を吹き出しながら、心配の眼を向ける。血まみれで浦見賀につかみかかろうとする則泰に無慈悲な銃弾が続けて3発撃ち込まれ、病室の床が真っ赤に染まった。心亜は床に倒れた則泰に泣きながら声をかけるが反応は無い。
「おいおい、無駄な弾撃たすなよな。」
と再び銃口を人満に向けると今度は、虎吉が盾となった。
3発の銃声で胸や腹から紫煙が上がると、白の縦縞のハッピと「実体化」の「お札」が真っ赤に染まっていく。「あかん、これじゃカープのハッピになってしまうわ…。タイガース万歳…。」と言い残し虎吉も動かなくなった。
「腐れ外道が!」と続いて茉莉花を床に下ろした健逐が殴りかかるも、いとも容易くかわされ、両腿に拳銃弾を撃ち込まれ、跪く体勢になった健逐の後頭部に2回引き金を引いた。
「あらら、弾倉一本使ってしもたやないかい。人満には10発は喰らわせてやりたいからもう邪魔すんなよ。」
と弾倉を入れ替えながら、浦見賀は床に倒れた3人の屍を足で蹴り除けると人満のベッドに近づいた。
心亜が人満の上に重なって叫んだ。
「この鬼!なんでそんなことができんのよ!則泰君も、虎吉のおっちゃんも、健逐さんもみんなええ人やったのに!この人でなし!絶対に私はあんたを許せへんで!」
そんな心亜を浦見賀は冷めた目で見降ろした。
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