『まごころ除霊師JK心亜ちゃんと大きな霊蔵庫』

M‐赤井翼

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⑲「カルテ⑦ 幼い一人娘を残して20年前に死んだシングルマザーの幼稚園近くのハーフの地縛霊「蒸芽ガイル《むすめ・がいる》」の場合②」

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⑲「カルテ⑦ 幼い一人娘を残して20年前に死んだシングルマザーの幼稚園近くのハーフの地縛霊「蒸芽ガイル《むすめ・がいる》」の場合②」

 行き詰まった心亜に茉莉花が助け船を出した。茉莉花はガイルにいくつか質問を繰り返した。聞き取りが終わると心亜に「ヒント」を投げかけた。
「とりあえず、今わかってるんは、20年前、ガイルさんはシングルマザーで旦那は「縁切り」状態。
 そして、失礼を承知で言わせてもらうと「豊かな家庭」ではなかった。ガイルさんはフィリピン国籍で子供さんは今24歳と言う事であれば、18歳の6年前から20歳の4年前までに国籍選択をしてるわけやろ。あと「キリン幼稚園」に通ってた。
 そんなSNS投稿を探してみたらどないや?」

 心亜は、茉莉花のアドバイスを受け、再度スマホをググった。それらしい「ツイート」が上がったが、決定的に絞りこむところまでは行かなかった。
「はぁ…、さすがに対象者が、東京や北海道や九州ってなると「博打当てもん」では会いに行かれへんよな…。」
心亜のため息交じりの言葉に「ガイル」も落ち込みを隠せなかった。
 (あぁ、どないしたらええんかな…。とりあえず、慰めてやらんとな。)と思いながら、ガイルに言った。
「明日は、門真警察にも行ってみるわ。何か、材料が拾えるかもしれへんからな。」

 次の日、朝早くに心亜単独で門真警察に向かい、昼前に息を切らせて戻ってきた。
「ガイルさん、「灯台下暗し」や。思いっきり近くに居ったで!」
ガイルは笑顔を向け、心亜の元に駆け寄った。心亜は、切れた息を深呼吸で落ち着かせると一気にガイルへ報告した。
「なんで昨日は気がつけへんかったんかわからんけど、娘さんの名前が門真警察で
雫陽だよう」であることが分かったんよ!なんで「娘さん」の名前に気が回らへんかったんやろか。今考えたら、単純な事やったんやわな。」

 4歳で交通孤児となった「蒸芽雫陽」は、福祉団体の保護の元、地元の「孤児や親からの隔離を必要とする子供たちを預かる「ハッピーハウス」という、グループホームに入所したことが分かった。
 その施設で11年を過ごし、15歳で中学を卒業してからは「ハッピーハウス」のスタッフとして働いている事を心亜はガイルに伝え、現在の「雫陽」のSNSにあがった写真をスマホで見せた。ガイルに似たやや色黒の顔は血の繋がりを確信させた。

 「そんでな、「雫陽」ちゃんやねんけど、19歳で結婚して今は「志逢瀬雫陽しあわせ・だよう」って名前になってるんよ。それからのスマホでビューやったみたい。そりゃなんぼ「蒸芽」で検索しても出てけえへんよな。そんでな…ガイルさんには、サプライズもあるから今からハッピーハウスに一緒に行こうか!」
 心亜はガイルの肘を引いて急かした。どん兵衛も慌てて出かける準備に入ったので、御祓井家は蜂の巣をつついたような騒がしさになった。

 「ハッピーハウス」は、幸い心亜の家から徒歩圏内だったので皆で早足で歩いた。途中、ガイルは、そわそわと「私の事、わかってもらえるかな…?なんせ、最後にあったのは20年前やもんね…。」と不安を口にした。心亜が
「ガイルさん、「三つ子の魂百まで」って言葉もあるやろ。4歳まで一緒やったんなら顔も覚えてると思うから安心しいや。」
と「どや顔」でガイルを慰めると、どん兵衛とガイルから否定的にツッコミを受けていた。
「心亜ちゃん、それ間違えた使い方やで!」

 「ハッピーハウス」に到着すると、所長が丁寧に応接室に迎え入れてくれた。
「私は「霊感」って全然ないんだけど、今、ここに「雫陽ちゃん」のお母さんの「霊」がいるのね。
 昔からキリン幼稚園の前で「幽霊」が出るって話は何度か聞いたことがあったんで、これで解決してくれるといいわね。」
 所長が心亜に麦茶を入れてくれ、テーブルに置いた。
「コンコンコン。志逢瀬です。娘も連れて来てます。お邪魔していいですか?」
ドアの表から、若い女性の声が響いた。
 心亜はガイルの背中に「実体化」のお札を貼った。

 ガイルとほぼ同じ顔の24歳の「雫陽」と20年前のガイルの娘「雫陽」と同じ顔の4歳の娘が入室してきた。娘は、実体化した「ガイル」の顔を見て
「あれっ?お母さんが2人になっちゃったよ!キャー、ラッキー!」
と声をあげながら、ガイルに飛びついてきた。
 ガイルは、20年前に「雫陽」を抱きしめたように「かわいい雫陽の娘」をぎゅっと抱きしめた。「娘」も満面の笑顔で「ガイル」に懐いている。
 「雫陽」は涙を頬に伝わらせ、
「お母さん、ほんまにお母さんなん…?ずっと会いたかったよ!もしかしてこの間、キリン幼稚園の前に居った?なんか、あそこで「お母さん」を感じたんやけど…。」
と聞き、ガイルは優しく頷き「小さな娘」を間に挟み3人で抱きあった。

 「雫陽」に「えらい迷惑かけたよな。辛い思いもたくさんしたやろ。そんなお母ちゃんでごめんな。お母ちゃんも「雫陽」に会いたかったで。」
 泣きながら、謝る「ガイル」に「雫陽」は耳元で囁いた。
「そんなこと全然あれへんよ。ハッピーハウスは凄く良くしてくれたし、お友達もたくさんできた。中学出てからは、「昔の私」みたいな交通孤児なんかの「子供」達の為に頑張ってるんやで。娘の「満壇まんたん」もここで元気に毎日過ごしてるからな。お母ちゃんの写真も部屋に飾ってるから顔もしっかりと知ってたやろ!
 今、こうして「幽霊の身」であっても会いに来てくれたことが嬉しいわ!」

ソファーの前で抱き合っている3人の中、「ガイル」の影が薄くなってきた。「心亜ちゃん、長い数珠かけたって。」のどん兵衛の声で、心亜はゆっくりと「ガイル」の肩に長い数珠をまわした。
「心亜ちゃん、ありがとうね。元気にやってる「娘」と「孫」を確認できたから、これで「成仏」できるわ。絶対にあきらめないあなたの「行動力」と「まごころ」に感謝するわね。どん兵衛さんもありがとう。家に帰ったらお母さんにもよろしく伝えてね。
 きっと「あの世」に行ったら、「地縛霊」達に、心亜ちゃん達を紹介しておくわね。じゃあ、ここで「さよなら」だね…。」

 応接室の壁を通り抜け、天へと上がっていく「ガイル」の姿を4人と1匹は見えなくなるまで優しく見送った。
 ふと所長が防犯カメラのモニターの前で呟いた。
「あっ、カメラに雫陽ちゃんのお母さん映り込んでるわ。「三茶ポ」の男の子の手以上にはっきり映ってるやん!せっかくやから、保存して「雫陽」ちゃんのスマホの方に飛ばしておくわな。いい家族写真やと思うで。ケラケラケラ。」
 そこには3人の家族が笑顔で抱き合う姿が写っていた






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