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⑰「カルテ⑥ つちのこ捕獲を夢見た女。崖から転落死した浮遊霊「槌鋸要代《つちのこ・いるよ》」の場合③」

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⑰「カルテ⑥ つちのこ捕獲を夢見た女。崖から転落死した浮遊霊「槌鋸要代《つちのこ・いるよ》」の場合③」

 「要代さーん、起きてる?今から出かけるで!」
スマホを手に奥の部屋に飛び込んだ心亜に要代が心配そうな顔をして言った。
「心亜ちゃん、何その顔?めちゃくちゃ「クマ」がでてるやんか。もしかして徹夜したの?」
 心亜は部屋の鏡を見て自分の顔の酷さに一瞬驚いたが、それよりも気持ちが先に走り、スマホの画面を要代に突きつけた。そこには白衣を着た女性が二匹の「つちのこ」を抱く写真が映し出されていた。
「見てみて要代さん、この「つちのこ」に遭えるんよ!それも2匹やで!もちろん作り物やぬいぐるみとちゃうで!生きてるほんまもんやねん。ただ、今日の昼には「オーストラリア」に帰ってしまうから大急ぎで伊丹空港に行くで!」
と要代の腕を引き、茶色い数珠を手にはめどん兵衛を呼び寄せると長い数珠をポケットに入れて部屋を出た。

 勢いよく家をでたものの心亜の足はふらついていた。駅に向かって歩きながら居眠りをして電柱にぶつかり鼻血を出した。寝ぼけて転び、おでこと膝を擦りむいた。眠気覚ましに買ったコンビニのコーヒーは、頭と体の神経の連携がうまく取れず、白目をむいた心亜の口に入らず、すべてスカートの上に溢した。
「心亜ちゃん、あかんやろ。少し寝てからのお出かけでええやん。」
 要代が気を遣って、声をかけるが
「今日しかあかんねん。今日の昼には「つちのこの母」は日本におれへんようになってしまうから…。」
とコーヒーと一緒に買った「メンソレータム」を眉毛に塗り、「チューブからし」を口の中に絞り出した。

 動きが良くなったのは一瞬で、駅のホームに落ちかけ、満員電車の中でおじさんにしなだれかかり「お姉ちゃん、痴漢OK娘なんか?」と勘違いされ危うくさわられかかった。
電車を乗り換え、伊丹空港まで行くと小型犬用のケージを持った背の高い女性が個室喫茶で待っていた。消毒液のにおいのする女は心亜に言った。
「初めまして。優しい除霊師さん。「つちのこの母」ことシドニー大学心臓外科医の川蔦依紗かわつた・いしゃです。今朝伺った、「ペーちゃん」と「トンちゃん」に遭いたかったっていう浮遊霊さんは後ろにいるのね。何となく熱い視線を感じるわ。」

 心亜は「はい。そうです。」と言うと、要代の背中に「実体化」のお札を貼った。緑の髪に迷彩色の衣服の女が現れても、「つちのこの母」は眉一つ動かさなかった。
「あなたが「要代」さんね。私の父も「つちのこ」を追い求めて、成仏できなかった「浮遊霊」だったからあなたの気持ちはよくわかるわ。私の「ペーちゃん」と「トンちゃん」で良かったら抱っこしてあげてくれる?」
とケージから二匹の色違いの「つちのこ」を取り出し、要代の腕の上にのせた。ヒヤッとした鱗の感触と冷たさが要代の両腕に伝わった。

 要代は二匹の「つちのこ」に頬ずりすると満面の笑みを浮かべた。3分の実体化の時間をほぼ2匹の「つちのこ」を抱きしめ続けた。徐々に要代の姿が薄くなってきた。要代は、つちのこの母に「本当にありがとうございました。私の無理を聞いてくれてありがとうございました。」と2匹を返した。
 つちのこの母が何かを言おうとすると、小さく首を振った後に微笑んで頷いたことで「つちのこの母」には気持ちは伝わった。

 続いて要代は心亜を抱きしめた。どん兵衛が心亜のポケットから長い数珠を取り出し要代の肩にかけた。
「心亜ちゃん、こんな私の為に本当にありがとう。今日抱っこさせてもらった「トンちゃん」と「ペーちゃん」は「私にとっては本物の・・・・・・・・・「つちのこ」だったわ。
 でも「つちのこ」に遭えたことよりも心亜ちゃんに会えたことで私は「成仏」できるのよ。ごめんね、大変な思いをさせちゃって。帰りは事故に遭うとダメだから少し休んでから帰るのよ。これからも「やさしい」除霊師さんで居続けてね。じゃあ、お別れね…。」
と言葉を残し、要代は心亜とどん兵衛に笑顔を向けてゆっくりと昇天していった。

 依紗は、心亜をソファーに座らせて
「バタバタさせてごめんね。「ペーちゃん」と「トンちゃん」を今日連れて帰らなきゃいけなかったから…。」
と話しかけた瞬間、心亜は「やり遂げた感」いっぱいの笑顔でスース―と寝息を立てていた。
 どん兵衛が心亜の横に着くと依紗は自分のサマーセーターを心亜の上にかけた。
「あなたの御主人は若いけどしっかりした優しい子ですね。ただ、「ペーちゃん」と「トンちゃん」を本物の「つちのこ」と勘違いしてたんじゃないのかな?まあ、要代さんはそれをわかってて「満足」してくれたみたいだけどね。」
 つちのこの母はどん兵衛に話しかけた。どん兵衛は依紗に問いかけた。
「あんた、わしの本体が見えるんか?」
 
 依紗もかつて「つちのこハンター」だった過去が語られた。同じく「つちのこ」を追い続けていた父の遺志をついで山を散策中、崖下に滑落した際に「父」の浮遊霊が通りかかった車を止めてくれて助かったという。臨死体験中に「父の霊」と話した後、「見える」ようになったとのことだった。
 身の上話の後、「ペーちゃん」と「トンちゃん」というのは、オーストラリアでエミューに襲われた「キタアオジタトカゲ」と「ヒガシアオジタトカゲ」であることが語られた。エミューに四肢を食われた瀕死のアオジタトカゲは心臓外科医である依紗いしゃに拾われ、繊細な手術を受け、手足の無い「障害アオジタトカゲ」として暮らしているという事だった。

 「あぁ、アオジタトカゲっていうたら淡路島のイングランドの丘におる「つちのこ」そっくりな大型の「トカゲ」ってやつやな。手足が無いのはそういう理由やったんやな。まあ、2匹ともあんたに懐いてるみたいやからこの子らも幸せ者やな。
 要代はんが、それをわかってて「成仏」してくれたんやったら、心亜ちゃんが頑張った甲斐があったってなもんや。あんさんにも手間かけさせて悪かったな。ありがとさん。」
と礼を伝えると、
「困ったときはお互い様よ。ただ、一つ警告しておくわ。あなたの御主人、近日中に凄い「ヤマ」にぶつかるわよ。しっかりと守ってあげてね。じゃあ、そろそろ出発なんで失礼するわ。
 かわいこちゃんがコーヒーの染みだらけのブラウスじゃカッコつかないだろうから、そのサマーセーターは着て帰ってね。チャオ。」
と依紗は喫茶室を出て行った。





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