『まごころ除霊師JK心亜ちゃんと大きな霊蔵庫』

M‐赤井翼

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⑩「カルテ③ パティシエを目指していた仲良しの女の子と病死した女の子「大好菓子《おおずき・かこ》」の場合②」

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⑩「カルテ③ パティシエを目指していた仲良しの女の子と病死した女の子「大好菓子《おおずき・かこ》」の場合②」

 医師からは「亜鉛欠乏症の人は重症化するリスクが高い」旨の説明があり、隔離病棟に入院させられた。辛い高熱と咳が続き、死線を彷徨う毎日が続いた。
「酸素マスク」の下で「甘いものが食べたい」と言い続け、1週間後に亡くなりその後その病室に「居着いた地縛した」のだと菓子の口から語られた。
「そんな味覚障害を持った私に「美味しいお菓子」はもう作れないの。私の「夢」はもうこれで終わりなの。だから放っておいて!」

 その日の話はそれ以上何も進まなかった。菓子は自ら「絶つ波阿タッパー」に入ると「霊蔵庫」に再び戻った。
「心亜ちゃん、この子は後回しにするか?」
 どん兵衛が気を利かせて心亜に声をかけるが、心亜はふと思いついたことがあり「私ちょっと出かけて来るわ!」と言い残し、スマホを片手に家を出て行った。

 翌日の朝、再び菓子を「霊蔵庫」から呼び出した心亜は、半ば強引に家の外に連れ出した。バスを乗り継ぎ、隣の町に来た。
 午前9時半、降りたバス停の前に1件のケーキ店があった。店の看板には「パティスリーKAKO」と書かれている。
「えっ、どういうこと?」
と戸惑う菓子の手を引き、心亜は「準備中」の札のかかった店の中に入った。
 店の入り口正面には可愛らしいケーキがいくつも並んでいる。カウンターの後ろにコックスーツを着て腕を組んでいる女の子と寄り添う菓子かこの写真が飾られている。
「おはようございまーす。昨日、寄らせてもらった御祓井心亜です。今日は、菓子さんの「霊」を連れてこさせてもらいました。」
と声をかけると、カウンター奥の厨房からパティシエ帽に白いコックスーツの女の子が出てきた。

 「おはよう。見えないけど、菓子ちゃんも一緒にいるの?」
パティシエの女の子が心亜に尋ねると、心亜はすぐに答えた。
「はい、私の横にいますよ。」
 どん兵衛に促されて心亜は「実体化」のお札を菓子の背中に貼った。パティシエの前で姿を現した菓子は涙が溢れた。そんな菓子にパティシエは優しく話しかけた。

「菓子、久しぶり。元気にしてた?って「幽霊」に「元気」って聞くのもおかしいか。菓子が亡くなったのは「コロコロ」の真っ最中だったからお葬式にも出席もできなくてごめんね…。
 見てみてこのケーキたち。みんな菓子のデザインのケーキだよ。菓子のお母さんに許可をもらって店の名前も「KAKO」って勝手につけさせてもらっちゃったわよ。あなたの描いたデザインノートも私が預かってる。
二人で店を持つのが私達の夢だったんだからね。調理師専門学校卒業前に参加したケーキコンテストで菓子の描いてくれたデザインのケーキでチャレンジして「奨励賞」を獲って、もらった賞金で卒業後、この店の敷金払って、後は全額融資の借金だらけの店だけど、何とか「黒字」でやってるわよ。
 菓子のデザインしたケーキやドーナツやデコレーションプリンは、地元「JK」や「奥様達」に大人気なんだからね!
 最初は「ひとり」で大丈夫かなって思ってたんだけど、菓子と一緒に写った写真とデザインノートを味方に「ふたり・・・」で頑張ってるんだからね!」

 パティシエはその後、昨日、心亜が大阪の菓子専門の調理師学校に出向き、菓子と同級生で「菓子」の名を店の名前にしたものがいることを知り、店を訪れてきたことを説明した。「菓子ちゃん、いい除霊師さんと知り合えてよかったね。」と言うと旧友と菓子は抱き合って泣いた。
「ごめんね。勝手に不貞腐れて、勝手に死んじゃって…。」
と謝る菓子に優しい言葉をかけた。
「なにも謝ること無いよ。今日、こうして「私達・・の店」に来てくれて、話せただけで十分やで。なんなら、この店に「地縛」してくれてもいいんだからね。色鉛筆が持てるようならこれから新作のデザインでもしてもらおか?お菓子は「味」と「デザイン」の両方を供えた「芸術品」でないとな。ケラケラケラ。」

 菓子は、心亜に丁寧に礼を伝えた。
「心亜ちゃんありがとう。こんなサプライズが待ってるなんて思えへんかったわ。味覚が無くてもケーキは作れるって教えられたわ。でも、今は、心亜ちゃんの「おふだ」のおかげで話せてるけど、この先はどうしようも無いんやろ?」
 実体化のリミットの3分が近づき、徐々に菓子の姿が薄くなってきている。
 
 すると、それまで黙っていたどん兵衛が、パティシエに言った。
「お姉ちゃん、ステンレスのボウルあるやろ。底が平らで無いやつがあったら一つ持って来てくれへんか?そんで、ちょっと照明を落としてもろてええかな?」
 すっかり姿を消した菓子にボウルの凹面を向けて心亜に持たせた。そこにはうっすらと菓子の姿が映し出されている。
「菓子ちゃん、なんかしゃべってみ。」
とどん兵衛に促されて、菓子が話すと小さな声だがボウルの中から菓子の声が響いた。

 「これは、昔、ヨーロッパで流行った「降霊術」の一つやねん。スリガラスを静電気で帯電させて小麦粉みたいな粉末を振りかけて姿を現す方法なんかもあるんやけど、まあ、ボウルを使うやり方の方が声も聴けてええやろ。
 ふたりは「ソウルメイト」的な強い絆があるからこそできる手法やねんで。菓子ちゃんは天国からここに通って「ケーキ作り」を手伝ったったらええんとちゃうか?「幽霊」は給料いらんから「店」的にも助かるやろ。カラカラカラ。」
 どん兵衛が笑うと菓子と旧友も「これからも一緒に頑張ろな!給料は払われへんけど。」、「うん、しがない「霊」やけど、これからもよろしくね。」と声を掛け合った。

 「じゃあ、私はこれで帰るわな。菓子ちゃん、一応確認しておくけど「成仏」してくれたってことでええねやんな?」
心亜が尋ねると、
「うん、もちろん!またこっちに来る機会があったらここでケーキ買ったってな!心亜ちゃんのまごころ除霊で「地縛」が解けて、居場所が見つかってほんまに良かったわ。ありがとうな。」
と満面の笑みで心亜を見送った。

 帰り道、どん兵衛が心亜に尋ねた。
「それにしても、今回はようここまで一人でたどり着いたな。何か確信的なものがあったんか?」
 心亜は照れくさそうに
「うん、少し前に24歳の若い女の子のパティシエがやってる人気店があるっていうテレビを見たことを思い出したんよ。確か、店の名前が「KAKO」やったかなってな。まあ、結果オーライの偶然の産物やけどな。ケラケラケラ。」
と答えると、手に持った「おみやげ」のショートケーキを食べる自分の姿を想像して微笑んだ。





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