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⑤「カルテ① タイガースの優勝を16年夢見たまま、2年前に亡くなった浮遊霊「虎吉一生《とらよし・かずお》」の場合②」
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⑤「カルテ① タイガースの優勝を16年夢見たまま、2年前に亡くなった浮遊霊「虎吉一生《とらよし・かずお》」の場合②」
ふとスマホの画面を見る虎吉の視線の動きが止まった。
「ん、胴上げされてんの矢野監督やなくて岡田監督やないか。あんた、俺をだまそうと思って2005年の画像でごまかそうとしてるんとちゃうやろな。きちんとした証拠を見せてくれんと成仏はできへんぞ。」
と心亜に対して虎吉が疑問の目を向け問い直すので仕方なく、スマホでアマゾンをググり「2023阪神優勝」と検索し、たくさんの優勝グッズを見せつけた。2023年のロゴの入った多数の優勝記念商品が画面いっぱいに並んでいた。
虎吉は幽体でスマホをタップできないので言われるがままに心亜は表示された商品を見せていった。
「おっ、「阪神タイガース公式年鑑2023」か…。これなら1年間の全試合が確認できるから間違いはあれへんわな。1400円か…。」
「週刊ベースボール」の10月26日増刊版もええなぁ…。これは870円やな。」
「おっ、「2023チャンピオンTシャツ」4860円か…。これ着て「六甲おろし」歌いながら岡田監督の「アレ」の胴上げ見られたらええやろうなあ…。」
「そして、胴上げシーンをリアルに味わうなら「阪神タイガースオフィシャルDVD」が一番やろな。DVDは公式価格で5500円やな。」
と次々と商品を流し読みしていく。
「よっしゃ、新米除霊師のお姉ちゃん、「成仏」してやってもええで!ただし、優勝DVDと年鑑と週刊ベースボール増刊で去年の優勝が間違いないことを確認してからや。そんで、チャンピオンTシャツ着て、DVDの優勝シーンで思いっきり「六甲おろし」を一緒に歌ってくれ!それで、虎吉一生、もう「この世」に悔いはない!
あんたのお母ちゃん、俺を除霊するのに院長から10万円もろてるんやからそれくらいは必要経費やろ!頼む!頼むは、ほんまに!あんた、いや「心亜ちゃん」、俺の16年間の夢を叶えてくれ!」
と本気で土下座をして頼み込む虎吉の勢いに押されて心亜は思わず
「は、はい!わかりました!」
と返事をしてしまった。
「アマゾンで頼めば、明日には届くやろうし、このお酒の臭いで私が倒れてしまいそうになるから1万3千円で解決できるんやったらなんとか今の手持ちのお小遣いで賄えるからここは止む無し!」
と阪神タイガース公式年鑑、週刊誌ベースボール増刊、2023年チャンピオンTシャツを購入し、最後のDVDの注文で心亜に泣きが入った。
5500円の定価販売はよもやの「売り切れ」。ならば、「フリマアプリ」か「中古」でと探したところ、プレミアムが付いており高いものでは3万5千円を超えるものもあった。
「3万5千円は絶対に無理!」といくつものフリマアプリを渡り歩き、ようやく見つけた最安値商品でも元値5500円のDVD購入に3倍近い1万5千を費やすはめとなり、トータル2万2千円強の出費は高校生の心亜の財布には重かった。
生活費に手をつけるわけにもいかず、今の心亜の小遣いではどう転がっても払える金額ではなかった。虎吉に「DVDは諦めてユーチューブやったらダメですか?」と尋ねようとしたが、楽しそうに「ひとり優勝体験イメージトレーニング」を繰り返し、万歳を繰り返した後、楽しそうに「六甲おろし」を歌っている様子を見るととても言い出せなかった。
仕方なく、「今すぐバイトアプリ」で見つけた、ポスティングの仕事に申し込んだ。時給1500円は「なかなかいいかも!」と思っていた心亜だったが、7月半ばの真夏の日差しと40度を超えるアスファルトの反射熱にフラフラになりながら、支払いに足りない金額を稼いで明日のアマゾンの代引き商品の到着に備えた。
夕方、汗だくで部屋に戻ってきて「虎吉さん、明日の午前着でお待ちの商品はみんな届くはずですから楽しみにしていてくださいね。」とだけ言い伝えると、その場であまりの疲れから眠り込んでしまった。
この半日、何度も聞かされた「六甲おろし」を自然に寝言で口ずさむ心亜に虎吉は、「どん兵衛はん、心亜ちゃんにタオルケットでも掛けてあげたって。」
と呟いた。
翌日、忌引き休暇で期末試験は全て「再試組」と受験することになった心亜は、午前中に予定通り届いたDVDや冊子を嬉しそうに見ている虎吉の満面の笑顔を遠目で見るのは楽しかった。
食事も忘れ、ひたすら2023年の阪神タイガースのシリーズの軌跡を追い続ける虎吉は「酒」の一言も発することは無かった。
DVDもラストに差し掛かり、京セラドームの阪神ファンによる「あとひとりコール」で涙ぐむ虎吉にもらい泣きしている心亜にどん兵衛が「3分だけ実体化できる「お札」があるんやけど使うか?」と1枚のお札を取り出した。
「最後は一緒に肩を組んで「六甲おろし」を歌ってあげたらどないや?」
と言われ、迷わず心亜は虎吉の背中にそっと「お札」を貼った。
最終回にバファローズに1点は返されたものの2023年のプロ野球最後のバッターを岩崎投手が打ち取ると、チャンピオンTシャツを着た虎吉と肩を組んで14インチのテレビモニターの前で一緒に「六甲おろし」を大きな声で歌うと長い数珠を虎吉の肩に巻いた。
虎吉はこれ以上は無いと思われる笑みを浮かべた。
「心亜ちゃん、おおきに。あんた、俺のわがままの為に大変なアルバイトまでしてくれたんやな…。きっと心亜ちゃんはええ除霊師になると思うで…。俺以外にも、たくさんの「悩める霊」が心亜ちゃんのホスピタリティー溢れる優しい除霊を待ってると思うからこれからも頑張ってな。空の上からタイガースと同じくらい心亜ちゃんの事を応援してるわな。「フレーフレッフレッフレッー心亜ちゃん!」ってな…。」
との言葉を残し、虎吉は天に昇って行った。
心亜は家の前に出て、天高く遠ざかる虎吉の姿を見送りながら茉莉花とどん兵衛に呟いた。
「除霊師の仕事って思ってたのとだいぶ違うけど、ちょっとええかも…。少し、お母さんの後を継いでみる気になったわ。どん兵衛、お母さん、どこまでできるかわからへんけど私頑張ってみるわな。」
ふとスマホの画面を見る虎吉の視線の動きが止まった。
「ん、胴上げされてんの矢野監督やなくて岡田監督やないか。あんた、俺をだまそうと思って2005年の画像でごまかそうとしてるんとちゃうやろな。きちんとした証拠を見せてくれんと成仏はできへんぞ。」
と心亜に対して虎吉が疑問の目を向け問い直すので仕方なく、スマホでアマゾンをググり「2023阪神優勝」と検索し、たくさんの優勝グッズを見せつけた。2023年のロゴの入った多数の優勝記念商品が画面いっぱいに並んでいた。
虎吉は幽体でスマホをタップできないので言われるがままに心亜は表示された商品を見せていった。
「おっ、「阪神タイガース公式年鑑2023」か…。これなら1年間の全試合が確認できるから間違いはあれへんわな。1400円か…。」
「週刊ベースボール」の10月26日増刊版もええなぁ…。これは870円やな。」
「おっ、「2023チャンピオンTシャツ」4860円か…。これ着て「六甲おろし」歌いながら岡田監督の「アレ」の胴上げ見られたらええやろうなあ…。」
「そして、胴上げシーンをリアルに味わうなら「阪神タイガースオフィシャルDVD」が一番やろな。DVDは公式価格で5500円やな。」
と次々と商品を流し読みしていく。
「よっしゃ、新米除霊師のお姉ちゃん、「成仏」してやってもええで!ただし、優勝DVDと年鑑と週刊ベースボール増刊で去年の優勝が間違いないことを確認してからや。そんで、チャンピオンTシャツ着て、DVDの優勝シーンで思いっきり「六甲おろし」を一緒に歌ってくれ!それで、虎吉一生、もう「この世」に悔いはない!
あんたのお母ちゃん、俺を除霊するのに院長から10万円もろてるんやからそれくらいは必要経費やろ!頼む!頼むは、ほんまに!あんた、いや「心亜ちゃん」、俺の16年間の夢を叶えてくれ!」
と本気で土下座をして頼み込む虎吉の勢いに押されて心亜は思わず
「は、はい!わかりました!」
と返事をしてしまった。
「アマゾンで頼めば、明日には届くやろうし、このお酒の臭いで私が倒れてしまいそうになるから1万3千円で解決できるんやったらなんとか今の手持ちのお小遣いで賄えるからここは止む無し!」
と阪神タイガース公式年鑑、週刊誌ベースボール増刊、2023年チャンピオンTシャツを購入し、最後のDVDの注文で心亜に泣きが入った。
5500円の定価販売はよもやの「売り切れ」。ならば、「フリマアプリ」か「中古」でと探したところ、プレミアムが付いており高いものでは3万5千円を超えるものもあった。
「3万5千円は絶対に無理!」といくつものフリマアプリを渡り歩き、ようやく見つけた最安値商品でも元値5500円のDVD購入に3倍近い1万5千を費やすはめとなり、トータル2万2千円強の出費は高校生の心亜の財布には重かった。
生活費に手をつけるわけにもいかず、今の心亜の小遣いではどう転がっても払える金額ではなかった。虎吉に「DVDは諦めてユーチューブやったらダメですか?」と尋ねようとしたが、楽しそうに「ひとり優勝体験イメージトレーニング」を繰り返し、万歳を繰り返した後、楽しそうに「六甲おろし」を歌っている様子を見るととても言い出せなかった。
仕方なく、「今すぐバイトアプリ」で見つけた、ポスティングの仕事に申し込んだ。時給1500円は「なかなかいいかも!」と思っていた心亜だったが、7月半ばの真夏の日差しと40度を超えるアスファルトの反射熱にフラフラになりながら、支払いに足りない金額を稼いで明日のアマゾンの代引き商品の到着に備えた。
夕方、汗だくで部屋に戻ってきて「虎吉さん、明日の午前着でお待ちの商品はみんな届くはずですから楽しみにしていてくださいね。」とだけ言い伝えると、その場であまりの疲れから眠り込んでしまった。
この半日、何度も聞かされた「六甲おろし」を自然に寝言で口ずさむ心亜に虎吉は、「どん兵衛はん、心亜ちゃんにタオルケットでも掛けてあげたって。」
と呟いた。
翌日、忌引き休暇で期末試験は全て「再試組」と受験することになった心亜は、午前中に予定通り届いたDVDや冊子を嬉しそうに見ている虎吉の満面の笑顔を遠目で見るのは楽しかった。
食事も忘れ、ひたすら2023年の阪神タイガースのシリーズの軌跡を追い続ける虎吉は「酒」の一言も発することは無かった。
DVDもラストに差し掛かり、京セラドームの阪神ファンによる「あとひとりコール」で涙ぐむ虎吉にもらい泣きしている心亜にどん兵衛が「3分だけ実体化できる「お札」があるんやけど使うか?」と1枚のお札を取り出した。
「最後は一緒に肩を組んで「六甲おろし」を歌ってあげたらどないや?」
と言われ、迷わず心亜は虎吉の背中にそっと「お札」を貼った。
最終回にバファローズに1点は返されたものの2023年のプロ野球最後のバッターを岩崎投手が打ち取ると、チャンピオンTシャツを着た虎吉と肩を組んで14インチのテレビモニターの前で一緒に「六甲おろし」を大きな声で歌うと長い数珠を虎吉の肩に巻いた。
虎吉はこれ以上は無いと思われる笑みを浮かべた。
「心亜ちゃん、おおきに。あんた、俺のわがままの為に大変なアルバイトまでしてくれたんやな…。きっと心亜ちゃんはええ除霊師になると思うで…。俺以外にも、たくさんの「悩める霊」が心亜ちゃんのホスピタリティー溢れる優しい除霊を待ってると思うからこれからも頑張ってな。空の上からタイガースと同じくらい心亜ちゃんの事を応援してるわな。「フレーフレッフレッフレッー心亜ちゃん!」ってな…。」
との言葉を残し、虎吉は天に昇って行った。
心亜は家の前に出て、天高く遠ざかる虎吉の姿を見送りながら茉莉花とどん兵衛に呟いた。
「除霊師の仕事って思ってたのとだいぶ違うけど、ちょっとええかも…。少し、お母さんの後を継いでみる気になったわ。どん兵衛、お母さん、どこまでできるかわからへんけど私頑張ってみるわな。」
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