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「比呂の最後」

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「比呂の最後」

 船体後部の居住空間に入った比呂は食い込んだ回天の先端を渾身の力で押した。徐々に浸水は進み、足首程だった水位があっという間に膝の高さまで上がってきた。海水が入ってくることで浮力が発生したのか、比呂が押すと徐々に回天の先端は後部へと動いていった。
「相棒、だいぶ動き出してる。フルパワーで「後進」かけて!あっ、今、10センチ下がった。後、70センチで抜ける!おっ、20センチ下がった。もうちょっとや!回天、相棒、ぱにゃにゃんだー!」
と叫びながら力をふりしぼり回天の先端を押し出す間に水位は腰の高さまで上がってきていた。

ゆっくりと回天が自力で後ろに抜けていくと同時に、回天が刺さっていた破坑から大量の海水が流入してきた。
「比呂、その船もう沈むぞ!もう大丈夫や!早く上がってこい!」
イヤホンマイクに一番の声が響いた。
「ロジャー!今から脱出するから20秒待っててな、相棒!」
 
ずぶ濡れになって甲板に上がり、回天に乗り移ろうとした比呂の背後から四角い75式手りゅう弾を両手に持った日本語を話すリーダー格のマフィアが現れた。
「このまま国に帰ってもこの作戦失敗で俺は「死刑」だ。お前らを道連れに死んでやるニダ!」
 手りゅう弾のピンを咥え、ふたつの手りゅう弾の信管を抜いた。
「ちっ!後は任すぞ相棒!みんなに「よろしく」って言うといてくれな!私の仲間をこれ以上傷つけることは「リーダー」である私が許せへんぞー!「デカブレイク」(注49)の必殺技、「電撃拳エレクトロフィストー」!」
とスタンガンパンチでマフィアが後ろ向きに倒れると同時に、2発の手りゅう弾が船上で大爆発し、敵船は一気に海中に姿を消した。16時51分の事だった。

 船内に他の爆発物があったのか、海中で敵船は再度爆発を起こした。回天の船体は大きく揺れたが月子と照紗輝は比呂から預かった電磁石シューズのおかげで船体から落ちることは無かった。吹き上げられた海水をハッチの無い操舵室の一番も頭から被った。一番は頭の上に軽い重量を感じた。右手をかざすと、それはボロボロに千切れた紺色の招き猫のブルマだった。
 停止している回天の周りで浮かんでいたマフィアたちが回天に向けて泳いで近寄ってくるのがWEBカメラを通じてタブレットに映し出された。(比呂はどないなってしもたんや!)と一番は思い、船上の月子に
「比呂の姿は見えへんのか?」
と声をかけるが月子の「泣き声」が聞こえるだけだった。

 その場に留まり比呂を捜索すべきか考えたその時、「相棒、大事な仲間の事は頼んだで…。」と頭の中に比呂の声が響いた気がした。
 一番は心を鬼にして全速後進をかけた。船上から
「お兄ちゃん、比呂ちゃんどうすんの?見捨てて逃げんの?」
と月子の泣き声が船内に響いた。一番も泣きながら月子に叫んだ。
「俺の唯一の「相棒」からお前らの命を託されたんや。大切な「相棒」の比呂の「死」を無駄にすんな!」
 全速後進でマフィアとの距離を取ると、舵を南の瀬崎浜に向けコントローラーでバッテリーを並列仕様に変更するとゆっくりと前進をかけた。

 17時ちょうどに回天のバッテリーが尽きた。敵船からの脱出で電力を消費しすぎたため、惰性で進みながら瀬崎浜に予備バッテリーで何とか稼働する舵を切った。
 石積みの突堤を避けながら元は地元サーファーでにぎわったが波消しブロックが設置された今は釣り人くらいしか来なくなった砂浜に満身創痍の回天は乗り上げた。
 座礁した回天から月子と照紗輝が降り、砂浜に立ち操縦席から一番が出てくるのを待ったが、一番は出てこなかった。

 5分後にワゴン車の母須野、太と泣きじゃくる美津恵が降りて来た。その3分後にバイクの大樹が到着した。
 ようやく回天から出て来た一番の目は真っ赤に腫れていた。
 母須野は一番から報告を受けると、「比呂を探しに行こう」という女子2名の意見を却下し、この場でのキャンプ設営を指示した。
 ワゴンの中で月子と美津恵は大声をあげて泣き続けた。太も声を殺してすすり泣いていた。

 17時30分、太が改造した無線機で母須野は海上保安庁の交信を傍受していた。「第三火薬廠」で確保されたマフィアたちの証言から、海上保安庁の報告を分析すると博奕岬ばくちみさき周辺で保護されたマフィアの人数を計算すると、ケガ人はいるものの、マフィア全員が保護・逮捕されたであろうことが分かった。


(注49)「デカブレイク」
「特捜戦隊デカレンジャー」に途中参加の「追加キャラ」。
宇宙警察からのエリート刑事役で、銃器は使わないが「めちゃつよ」。
「10年後」を描いた「10YEARS AFTER」では地球署の署長代行に出世した。



「おまけ」
赤井です。
もう10月ですね。( ̄▽ ̄;)
今年もあと3カ月…。
忙しいまま、年末を迎えそうな予感しかしません。

昨日は、「NEW稀世ちゃん③」の第1稿書き上げで、書き直しが来ないがびくびくしています(笑)。
あと昨日、「サバゲー部」の最終回までの修正稿が帰ってきたのでアップする予定です。
ほんと、皆さんに支えられて生きてるんだと思います。
(。-人-。) 合掌

さて、今日のおまけはもちろん「比呂ちゃん」です。
「比呂ちゃん」回でしたので、40年前の映画「デカレンジャー THE MOVIE フルブラストアクション」の制作裏ネタDVD「デカレンジャー 潜入捜査 フルブラストアクション」をBGVに書いてます。
うーん、みんな「若い」(笑)!
(もちろんかっこいい!)
今日はこの後は「前作コラボ」の「デカレンジャーVSアバレンジャー」、そして「後作コラボ」の「マジレンジャーVSデカレンジャー」のハシゴかな(笑)。

イラストでは、デカレンジャー地球署ユニフォームは再現できなかったので「ポリス」っぽい感じで!
「比呂ちゃん」フォーエバー!(@^^)/~~~





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スタンガンや電動モデルガンを再現するのが難しかったです。

まあ、こんなところで!
では残り4話!
またねー!
(⋈◍>◡<◍)。✧♡





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