『最後に笑えりゃ勝ちなのよ2nd ~5つ星評価のよろずサービス「まかせて屋」の「元殺し屋」の女主任の物語~』 

M‐赤井翼

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「向日葵寿司」

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「向日葵寿司」

 洋孝救出の11時間後の午前11時半。蘭と洋孝の姿はニコニコ商店街の向日葵寿司のランチタイムの店内にあった。昨晩、偶然、洋孝が拉致されていた倉庫の前を通りかかったという副島がいた。洋孝の脱出後、「ややこしいことはごめんやで!おいちゃんの軽ワゴンほんまは4人乗りやから、警察が来る前に女の子4人を家に送ってくるからな。万丈社長には後で森君に迎えに行かせるから門真署での事情聴取が終わったら電話ちょうだいな。」と言い残し、副島が去っていった。その後、すぐに到着した複数のパトカーの中の一台に乗せられ、午前4時までの門真署の事情聴取後、迎えに行った森もランチに誘われている。
 向日葵寿司に来る前の「まかせて屋」事務所での「60秒チャレンジ」で蘭が洋孝に圧勝し「これからは、社長の事、仕事外では親しみを込めて「お兄ちゃん」って呼ばせてもらうわな!」との約束が交わされており、会話の端々で蘭は洋孝のことを「お兄ちゃん」と呼ぶようになっている。

 寿司下駄が4人の前に並べられ、赤だしのアサリの味噌汁が並べられると、大将は刺身包丁を布巾で拭き取りながら、今朝から地元で盛り上がっているある「捕り物」について話しかけてきた。
「それにしても、夜半の桑才の倉庫は「大捕り物」やったみたいですね。桑才を根城にする門真の「半愚連」連中の売春組織がたった一人の「ヒーロー」によって壊滅して、4人の拉致されてた高校生の女の子が自力で脱出したって話やないですか。
それにしても、何者が助けに来たのかはわからへんって、小説や劇の中では門真の「ヒーロー」ってよくある話なんですけど、いったい誰やったんでしょうかね?」

大将の問いかけに洋孝が真顔で答えた。
「実は、僕、その現場にいたんですよ。僕も拉致されていた一人だったんです。その「ヒーロー」が誰かわかりませんが単身で助けに来てくれて、それで僕は九死に一生を得たんです…。
夕方前に女子高生が拉致される現場に居合わせて、証拠をつかんだら警察に通報しようと思って追跡したんですよ。そうしたら、逆に僕が捕まっちゃって…。
そして夜中の12時半くらいだったですかねぇ?突然、拉致されてた倉庫が停電したと思ったら、ガラスが割れる音と共に何かが瞬いて、よくわかんないうちに8人の半グレが全滅してたんです。警察が言うには「銃のようなもの」で半グレやその車や監視カメラのデータベースは撃ち抜かれとったみたいなんですけど、銃弾は1発も見つからず、「木くず」だけが散乱してたんですって。「もしかして、門真の狸かもしれへんな。」って刑事さんも冗談で言うてました。でもその「狸」のおかげで僕と4人の女子高生は助かったって話なんですよ…。」
と洋孝は11時間前の事件を思い出しながらカウンターの中で寿司を握る大将に話した。

 興味津々に洋孝にいろいろと状況について質問をする大将に一つ一つ丁寧に答えていたが
「ちなみにお客さんは、その「お助けマン」に心あたりはあれへんのですか?」
の質問に対し答えた。
「事情聴取してくれた刑事さんの話では、逮捕された複数の半グレが、「お助けマン」が「うにゃもろまがずいーん」って言うてたって証言してるそうです。何のことか全くわかりませんがね…。」
「は?何ですかそれ?魔法の呪文かなんかですか?」
大将は目をぱちくりさせて質問を繰り返したがそこで洋孝の口は止まった。

 そこに洗い場から出てきた女将が洋孝に「あがり」のおかわりを持ってきて自信満々に言った。
「それ、ロシア語で「銃の弾倉を交換する」っていう意味とちゃうかな?「お助けマン」は銃を持ってたんやろ?私の好きな女子高校生スナイパーのマンガの中でそのセリフで出てきたから間違いないと思うで。」
そこでメインのマグロをほおばり終わった蘭が「はいはーい」と手を上げ自信満々に言った。
「その助けに行った「ヒーロー」っていうのが何を隠そう私やねんで!スパシーバ!ボルシチ!ペリメニ!マトリョーシュカ!ハラショー!って実は私、ロシア語もバリバリやしな!」
 あまりの勢いにあっけにとられた洋孝はむせて口に含んだ「緑茶あがり」を吹き出した。

「うーん、絶対にそれは無いわ。蘭ちゃんのロシア語はともかく、めっちゃ香りのきつい男性用の香水コロンつけてた人やったから真っ暗な中とはいえ蘭ちゃんで無いのは確実やわ。オリエンタルノート系のアンバー、バニラ、スパイス系のパワフルで個性的なあの香りからすると30代から40代の男性やろうけど、少なくとも偶然倉庫の前にいてはった副島さんも、後で迎えに来てくれはった森先生も香水なんかつけへんからなぁ。女子高生の証言も「お助けマン」の香りに関しては同じやったみたいやしね。あれは、絶対に「お・と・こ」!」
と洋孝は蘭の主張を200パーセント否定した。

「ちょっと食事の途中で失礼します。」と洋孝が吹き出したお茶が垂れたシャツを拭くためにトイレに立つと、蘭は副島と森にサムアップし、ウインクして見せた。
現場に散らかっていたという「木くず」は金属製の銃弾の弾頭代わりに「スモークチップ」をさらに砕き、お粥を煮詰めた澱粉糊でんぷんのりで固めた「ウッドチップ弾」の残骸だった。超至近距離で発射すれば金属弾に近い貫通力を持つが発射と同時に弾頭は破裂分散するので少し距離を取ると「打撃」時の「衝激力」はあるが貫通力はなく軍隊や警察の特殊部隊が接近戦の実戦シミュレーションで使う訓練弾であった事は蘭と副島と森だけが知っている。また、装填火薬も量を減らした蘭特製の銃弾だったことも洋孝は知る由もない。
また、洋孝が「お助けマン」は「男」だと主張するその香りの元は森が顧問先クライアントの「ラウンジ」のチイママから「森先生はかっこいいねんからおしゃれしたらモテモテになれるで。よかったらこれ使って見てや!うちの店に来る機会あったらつけて来てな!」ともらった高級ブランドの香水だったことも、蘭と森と副島の3人の秘密である。

トイレから戻ってきた洋孝がカウンター席に着くと、腕を組み目を閉じて一つ思い出したように呟いた。
「ただ、あの救出劇の直前に蘭ちゃんから「60秒チャレンジ今からするで!」って電話があったんは間違いないと思うんやけどなぁ?蘭ちゃんの声を電話とはいえ聞き間違えることはあれへんやろうしなぁ…。まあ、受信ボタンも押さんといきなり通話が始まること自体「オカルト現象」ぽくて信じられへん話やけどな…。」
「何言うてんの、お兄ちゃんのスマホにそんな着信履歴はあれへんかったし、私のスマホの発信履歴も確認したやろ?それはもう12時過ぎのことで「寝ぼけてた」んとちゃうの。それとも刑事さんが言う門真の「狸」に化かされとったんとちゃう?ケラケラケラ。」
と笑いながら蘭は「中トロ」と「いくら」の追加を大将に頼んだ。

もちろん、遠隔操作で蘭が履歴消去した事も、蘭と森、副島だけの内緒の話であるし、きつめの香水も昨日、事件後に蘭は24時間営業の健康ランドに行き、オキシドールを染み込ませたタオルでの清拭せいしき後、4度の入浴とサウナで完全に香りを落としているので洋孝が知る由は無い。
(お兄ちゃん、私ら3人で騙してごめんな…。でも、ほんまのことを知ったらもう一緒には居られへんようになってしまうからな。今しばらくは「お兄ちゃん」と一緒にいたいから「かんべん」してな…。)と思いながら、蘭は「ウニ」と「アワビ」を追加注文した。



「おまけ」





長らくのお付き合いありがとうございました!
明日で最終回でーす!
よろひこー!
(⋈◍>◡<◍)。✧♡
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