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「洋孝監禁」

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「洋孝監禁」

 「美人局」事件解決後、ひと月の間は「平和」な生活が続いた。多忙ながらも健やかに洋孝と一緒に「まかせて屋」業務をこなす毎日を蘭は過ごしていた。最近の2人の間のブームは「ユーチューブ」で流行った「60秒カウントチャレンジ」というゲームだった。
 各々の要望を言い合った後、交互に「目をつぶって60秒カウント」し、ストップウォッチで計測し、誤差の多かった方が相手の願い事を聞かないといけないという単純なルールのゲームだった。
 午前中の仕事の待ち時間は「ランチ」代を賭け、終業後は退社後の「軽く一杯」代を賭け楽しんだ。もっとも、鍛え抜かれた「絶対的時間感覚」を持つ蘭に素人の洋孝が勝てるはずもなく、もっぱら専任「奢り役」となった洋孝だったが蘭との「コミュニケーション」を取る時間は楽しく、喜んで「負け」のペナルティーを受け続けた。

 ある木曜日、午後は別行動の業務案件があり、洋孝は単独で店のワゴン車を走らせ住宅街から少し離れたさびれた倉庫街の現場に向かった。受託業務が予定時間より少し早く終わったため、今日の晩こそは蘭に一泡吹かせようと、人気ひとけの少ないコインパーキングで一人で「60秒カウントチャレンジ」に挑戦した。
ストップウオッチを片手に車の中でぎゅっと目を閉じ「60秒」カウントを何度も繰り返したがどうしても3秒はズレが出る。
「あー、難しいもんやな。蘭ちゃんはコンマ5秒の精度やのになぁ。今日の昼に負けた分、向日葵寿司で奢ったらなあかんねんな。まあ、先月は売上も好調やったからええか。」
独り言を呟きながら車内の時計で時間を確認し、「帰社連絡」のラインを蘭に送ろうとアプリを立ち上げた瞬間、若い女の悲鳴が耳に響いた。

「きゃーっ、誰か助けてーっ!」
声の発生源は洋孝のいるコインパーキングから約20メートル先で、明らかにライトグレーの「忍者カバー」でナンバーが加工されている黒いワゴンの改造車に3人の男に拉致されようとする女子高校生を発見した。
 ほんの数秒で女子高校生はワゴンに連れ込まれ、マフラーから爆音を立て黒いワゴン車は走り去った。(こりゃあかん!明らかに「犯罪」の臭いがする!この位置から撮ったドラレコでは「忍者カバー」がつけられた「ナンバープレート」は読まれへんやろ!ここは追跡して警察に連絡するしかない!)と判断した洋孝はワゴン車を尾行するために車を出した。

 洋孝の追跡劇は数百メートルで終わった。倉庫街の最初の角を曲がった先の「危険物貯蔵中!近づくな!」と書かれた注意喚起を示す真新しい黄色い看板が複数枚かけられた倉庫の前に先程、女子高校生を拉致した黒いワゴン車が止まっていた。駐車スペース、正面入り口だけでなく正面の道路にも向けられた通常では考えられない数の監視カメラが直観的に「何か・・」危ないものを感じさせた。
 倉庫の前面は開けたセンターラインの無い6メートル道路なので、信号でもない場所に停車していては道路に向いたカメラに映し出されて目立ってしまうと考え、洋孝は車を次の角を曲がったところの空き物件に停めなおした。

 (うーん、「女子高生が車で拉致られたであろう現場を偶然見た。」、「その車が倉庫に停まってる。」ってだけじゃ警察も動きようがあれへんよな…。とりあえず、さっきの女の子が中に捕らえられてるんかくらいは確認せんと通報しようが無いわな…。)と変に警察に気遣う洋孝の判断が失敗だったと気付くのは10分後のことだった。

 洋孝は「入居者募集中」と看板とのぼりが並ぶ空き物件であろう倉庫の前に軽バンを止めたままにして、スマホのカメラを起動させて「歩行者」を装い黒いワゴン車の止まる倉庫の前を横目で見ながら素通りした。
 耳を澄ませたが、倉庫の中からは何の物音も聞こえず一回目の偵察は何も得るものはなかった。倉庫を完全に通り過ぎたところにある「倉庫街の使用者が記入された地図看板」の前で立ち止まった。例の倉庫には「ガレージS」という名称が記入されていた。
 (ん?「ガレージ」ってついてるところからすると「車屋」か「修理工場」なんか?)と思い、スマホで「ガレージS」を検索した。

 「ガレージS」で出てきたものは「罵詈雑言」が並ぶブログやSNSのコメントだった。「車の修理に出したら「盗難された」って言われ、微々たる「詫び料」だけしか補償してもらえなかった。」とか「つけてもらったパーツが「盗難品」であることがSNSで判明!後処理でえらい目に遭った。」、「拡散希望!「注意!不良業者「ガレージS」。オーナーは半グレ間違いなし!」などと並んでいたコメントの中に、半年前の日付の投稿で「ガレージS倒産!俺の車帰ってこず(泣)」という記事が目についた。
 グーグルマップで調べたところ、店の登録自体がされていなかったこともわかった。いろいろと検索をかけた中、拾えた「ガレージS」の電話番号に電話したところ「おかけになった番号は現在使われておりません。」のメッセージが流れるだけだった。

 (つまりは、あの場所は「元ガレージS」であって、今の使用者は「修理屋」として使ってるわけではないわけや。「危険、近づくな」の看板は新しかったところを見ると、「ガレージS」がかけた物やなく、今の「使用者」が人を近づけないために付けたのか…?「オーナーは半グレ」との記載記事もあったよな。倒産した「あの場所」で半グレがなにがしらの「犯罪」を行っているっていう可能性もあるわけや…。この地図によると、「ガレージS」の裏の建屋は「空き物件」みたいやから、裏からまわって調べてみるか…。)
 洋孝は踵を返し、もう一度「ガレージS」の前を通り、角を曲がると裏の空き倉庫に向かった。倉庫と隣とのフェンスの狭い隙間を縫い進み、裏手に出た。蜘蛛の巣や放置されたゴミに気を取られ、「ガレージS」の裏口からこちらを向いたカメラに気付かず、フェンスに足をかけ上ると、外気取入れ用の窓から中をのぞいた。
 先程の女子高生がパイプ椅子で後ろ手に手錠で固定され、「さるぐつわ」をかけられている姿が見えた。洋孝は急いでスマホを取り出しシャッターを切った。夢中でカメラ操作をしていると、女子高生の周りに4、5人の男達が集まり、きょろきょろとし出した。その中の一人のいかつい男が窓に目を向けた瞬間に洋孝と目が合った。

 (ヤバイ、見つかった!逃げなあかん!)とフェンスを飛び降り、倉庫の壁とフェンスの間を駆け抜けようとしたが、ツナギの裾が伸びた雑草に隠された有刺鉄線に引っかかり、時間を要した。
 裾を無理やり引きちぎり表に出たところで3人のタトゥーの入ったサングラスの男達に囲まれた。一番、でかい男が前に出てきて洋孝の胸ぐらをつかみ上げ凄んだ。
「あんた、なにもんや?裏でうちの倉庫のぞいとったやろ…。警察関係者なんか?」

 洋孝はツナギをしっかりと握られ引き上げられたため、つま先立ちの状態になった。男の背後にもいかつい2人の男がいるのでこの場を単独で逃げ切ることは不可能だと思いとっさに言い訳をした。
「いや、ただの「何でも屋」です。クライアントさんに頼まれた「猫」の捕獲に来てました。「猫」を探してただけであって決してのぞいてたわけじゃありません。」
 洋孝の言い訳にいぶかし気な表情でいかつい男は顔を舐めるように見た。男を前に次の言い訳を考えている間に、運悪く蘭からのラインが入った着信音が鳴った。

 いかつい男は洋孝の胸のポケットからスマホを抜き取ると画面に表示されたメッセージに目をやった。
「うえーい!今月は売上100万越えいったよー!約束通り、廻らないお寿司連れてってねー!」
と無邪気な蘭からのメッセージを読んだ男は洋孝に向かって低い声で言った。
「へえ、兄ちゃんとこ、よお儲かってるんや。ちょっと恵んでくれへんか?「仕事でうっかり不法侵入して迷惑かけたから「詫び料で100万」…、いや「500万」必要やから持って来い。」って電話入れろや。ここではなんやからうちの倉庫に来てもらおうか…。」

「ガレージS」の倉庫内に連れ込まれた洋孝は倉庫内はほぼ空だった。古いソファーセットと冷蔵庫とテレビが置かれているくらいで奥に小さな事務所スペースとして使われていたであろうプレハブが見え、その中にさっき窓の外から見た「女子高校生」の顔が見えた。
洋孝は男に事務所に電話をかけさせられた。電話に出た蘭は(いつもやったらスマホにかけてくるのに、なんで今日に限って事務所に…?何かあるんか?)と思いながら電話に出て、先に業務報告を行った。その報告に対する返答から洋孝の様子がおかしいことに気付いた。
「ごめん、社長、キャッチ入ったし!お客さんからの電話やろうからちょっと待っててな。」
とビジネスホンの保留ボタンを押すと、スマホで洋孝の居場所をGPSアプリで確認し、こっそり洋孝のスマホに入れていた動作連携アプリを使い、遠隔操作でカメラを起動させ倉庫内の状況を探った。保留中の洋孝と男たちの会話から、洋孝が何某なにがしの事件に巻き込まれ、「やくざ」か「半グレ」により拉致されていることを把握した。
 
蘭は、ひととおりの状況を把握すると、保留を解除した。洋孝はたどたどしい話し方で「業務中に大きなミスをしてしまい「至急500万円」が必要と話せ」と書かれた半グレのメモに従って蘭に伝えた。蘭は、冷静に時間を稼ぐ方法を考えた。
「社長、ごめん。今日、法人口座のお金は定期預金に振り替えたからカードで下せる残高は10万円ほどしかあれへんねん。もう3時過ぎて銀行で定期の解約はできへんから、明日、下ろすわ。相手の人には申し訳ないけど明日の午前中に持っていくか振り込むって話をしといて。」
の返事に、男に耳打ちされた洋孝が蘭に
「じゃあ、それまで僕は現場に居るから、今日はもう帰ってくれてええからね。明日、朝一で頼むわな。」
と伝え電話は切れた。

 電話が切れた後、蘭は再び洋孝のスマホを遠隔操作で「音声モード」で洋孝と男たちの会話を盗み聞きし状況を把握し、副島に電話を入れた。
「おっちゃん、私、この街に居られへんようなことしてしまうかもしれへん…。だから、おっちゃんと森先生には先にお礼を言うておこうと思って…」
と今から金城事務所を尋ねる旨を伝えた。



「おまけ」

お兄ちゃんが拉致されて大変な状況ですが
「60秒ゲームで勝ってどや顔の蘭ちゃん」のイラストです(笑)。









雰囲気読まずにすみません。
あと、稀世ちゃん用のプロンプトで作成しちゃったんで「Gカップ」(笑)!
Σ(゚Д゚;≡;゚д゚)
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