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「ウルトラマン契約」

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「ウルトラマン契約」

 森と洋孝が戻ってきて、事態は2時間で決着した。まず1つ目は、森が電話した「金城司法書士事務所」と提携関係にある「原法律事務所」の弁護士の原が大阪府警に連絡を取り、オゾン中毒に罹患した5人の被害者は昨年中に全員回復し、無事に退院し「まかし店住吉営業所」が見舞金を持参し、示談をした事で「被害届」は提出されることはなく解決したことが分かったことだった。
 
 そして2つ目は、昨年十月に洋孝が「まかし店本部」の営業開発部長に対する送信文書と開封確認のメールソフトの受送信ボックスの履歴で、「気密性が薄い木造建築物では、オゾンガスが隣室に漏れ出す可能性がある旨の注意喚起文書が残されていたことを原が確認し、洋孝の代理人として、「まかし店本部」の顧問弁護士と直接話ができた事だった。
 「まかし店本部」の言い分を一方的に聞かされていた顧問弁護士は、原から聞いた経緯と、メール履歴の証拠を突きつけられ「勝ち目」が無いことを瞬時に悟り、本部へ「損害賠償はできない」旨を伝えた。

 3つ目は、偶然ではあったのだが相手側弁護士が原の出身大学の後輩であったことだった。弁護士の世界では、同校出身者による年次による「上下関係」が根強く残っている為、「まさか俺と喧嘩するようなことはあれへんよな。こっちから「逆に」訴えることはさせんといてくれよ。」の一言が決定打になったと原から連絡があったと森が蘭に説明した。
 
 訴訟や刑事罰のリスクから解放された洋孝の表情に笑みが戻り、蘭も安堵の涙を流した。そんな二人を見て安心した副島が言った。
「後は、万丈社長と羽藤さんの気持ちとして、今の本部と一緒にやっていく気が残ってるかどうかやな。
 もちろん、固定客はともかく本部のホームページやフリーダイヤルから来る新規客は来えへんようになってしまうけど、原先生の話やと事故があった際、FC会員を護ろうともせえへん本部みたいやないの。むこうの弁護士もオフレコで「毎回無茶苦茶言わされて困ってる。」って言うてるくらいやからな。
 幸い、「解除」やなくて「円満解約」なら「保証金」は戻ってくるから、新たな「何でも屋チェーン」に入るか、自分らでやっていくかも考えてみたらええんとちゃうかな。
 まあ、おいちゃんらのネットワークもあるから「不動産関係」や「商業関係」の清掃やリフォーム業務はまわしてあげることもできるし、羽藤さんから聞かしてもらった実績やったらおいちゃんらのグループでいろんな事情で「困ってる」顧客を紹介をしてあげられるからいっぺん二人で考えや。」

 その一言で、洋孝と蘭は顔を見合わせて言葉を交わすことなく頷いた。経営の実態上、新規の売り上げは3割弱でリピート客は本部を通さず直接契約を望んでいた。今までは、本部との契約で顧客との「直接取引」の「抜き行為」は禁止されていたため、本部に収める「フランチャイジー」分を上乗せした請求を起こさざるを得なかったのだが、それが「直取引」できるようになれば「新規顧客」が無くても収入は維持できる。
「すみませんが、FCを抜けて今の顧客を独立後、取引を「直」で行うことはできるんでしょうか?契約書の解釈とか苦手なんで見てくれませんか?」
と洋孝は「まかせ店FC契約書」を森に手渡した。

 森と副島が契約書を2度読み直すと、「問題なし」の判断だったのでFC契約は解約の方針でいくことに決まった。話は副島のリードで淡々と進んでいった。
 まずは「FC」等に加盟することなく、独立してやってみることになり、屋号は「まかせて屋」と決まった。業者からの受注に向けて「法人化」と秋に向けての「インボイス登録」が森から提案された。
「まあ、うちのグループで弁護士、税理士、社労士なんでも揃ってるし、ぼったくったりやいい加減な業者はいませんからそこは安心して下さいね。」
 森が具体的なプランを提示し、消費税や所得税等の租税関連も含め総合的に判断し、資本金100万円で新規法人を立ち上げることにした。
 
 洋孝は蘭の役員入りを熱心に望んだが、蘭はそれの申し出は固辞した。その気持ちの背景を汲んだ副島が助け船を出したついでに要望を申し出た
「役員はいつでも追加登記できるから今こだわらんでもいいでしょう。とりあえず、今の体制で看板だけの架け替えやから、今まで通り頑張ってくれたらええやないですか。
 まあ、ここまで具体的に決まったんで、一つうちからお願いがあるんやけど聞いてもらわれへんやろか?」

 「ん?副島のおっちゃん、改めて何なんですか?ここまで助けてもらったんやから、おっちゃんや森先生のお願いやったら私らに出来ることやったら何でもさせてもらますよ。」
蘭が先んじて返事をすると、その横で洋孝も速攻で頷き同意を示した。
「さよか、そりゃ助かるわ。金城司法書士事務所とそのグループは、「最後の駆け込み寺」って一部では言われてて、時として他が絶対受けへんような「無茶」な案件があるんや。
 その中には書面や申請や交渉で済まへん案件もあるねん。そんなおいちゃんらが困ってしもてどうしようもない時に「まかせて屋」さんにはうちのクライアントさんを助けてくれる「代打請負業務委託契約」と言うか「ウルトラマン契約」を結んで欲しいねん。時間的な拘束はしないし、法的な束縛もせえへん。ほんまに困ったときだけ力を貸してくれたらええよ。うちにはちょこちょこ・・・・・・そんな話が来るねん!」

大人の契約ごとに似つかわしくない「ウルトラマン契約」という副島の言葉に、
「その「代打屋」とか「ウルトラマン契約」っていうのは何ですか?」
と洋孝が質問をしたが、それを蘭が制した。
「社長、四の五の言わんでいいですやんか。森先生も副島さんも私らを絶対に「騙したりする人」やないねんから。「代打屋」でも「ウルトラマン」でも要は、おっちゃんらがピンチの時に、今回私らが助けてもらったみたいに助けに行くっていうだけのことやん。
 副島のおっちゃん、森先生、「まかせて屋」は喜んでその申し出を受けさせていただきます。」

「さよか、それは助かるわ。じゃあ、参考までにこのマンガ貸しておくから一度読んでみてくれるか?
このマンガの主人公は、8時間中1時間しか仕事をせえへん「パァピン」って呼ばれるダメ地方公務員やねんけど、勤務時間以外は最強の「代打屋・・・」として知恵と工夫と勇気でどんな依頼でもこなすスーパーマンやねん。おいちゃんが大好きな昭和のマンガやねんけど読んでもらったら「代打屋」って意味が分かると思うわ。」
と副島は本棚に25冊並ぶシリーズから飛び飛びで5冊を抜き出すと蘭に渡した。

 その瞬間、洋孝のお腹が「ぐぐーっ」っと大きく鳴り、皆の会話が止まったのを見計らって腕時計を見た森が
「万丈社長、なんやかんやでもう5時ですから、ちょっと早いですけど飲みにでも行きませんか?「株式会社まかせて屋」さんの立ち上げのお祝いと今日の「出会い」に感謝して「桃園の誓い」やないですけど盃を交わしましょう。」
の一言で4人は立ち上がった。

 場所を安居酒屋に移し、4人で乾杯をした。
「では、森先生、副島さん、これからよろしくお願いします。精一杯頑張りますので応援よろしくお願いします!」
「先生、おっちゃん、本当に今日はありがとうございました。10日ぶりに社長の笑顔が戻ってきてよかったです。」
「まあ、うちは堅苦しい事務所じゃないですから、万丈社長も羽藤さんも気軽に相談事があれば来てくださいね。お気遣いは無用ですから。」
「一応、一件落着ってことで今日はめでたしめでたしやな。後は「ウルトラマン」に登場してもらうことがそうそう無いように祈っとくわな。」
と各自、挨拶をして盃を交わしてる間、よもやの「ウルトラマン緊急出動」の案件がすぐに来るとは誰も思ってはいなかった。



「おまけ」




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