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「銃タコ」

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「銃タコ」

 不意を突かれた蘭は、言い訳を考える前に「本音」を口にしてしまった。
「なんでわかるんですか?」
その一言で、もう言い訳はできなくなってしまっていた。(しまった!ここは「そんなことないですよ。」か「えっ、本当ですか?」やったよな。何かあかん。この人の前では「嘘」は言われへん…。)と思い、正直に話す気になっていた。

 「せやな、羽藤さん、右手の人差し指の腹にごっつい「タコ」あるやろ。内容証明郵便を受け取ったときに気が付いたんや。ギターやベースを弾いてできる指先のマメとは明らかに違うし、指の腹に横一文字に出来る「タコ」となると原因は限られてくる。
 そんで今の銃の構えを見て確信に変わった。素人が銃を持つと映画やアニメのいい加減な描写のせいで手首をこねる人が多い中、羽藤さんは銃先の「照星」からエンド部の「照門」と目線が完全に一直線や。
 人差し指の腹の「タコ」は、何度も引き金を絞り続けた者にできる「銃タコ」やってな。銃を撃ったことのないものは、大概トリガーに「第一関節」をかけるからな。
 それに羽藤さんの手相が「破天荒」と「波乱万丈」の相を示してたから、訳ありの人生を送ってきてるんとちゃうかって思っただけなんや。まあ、素人推理やから低打率やけどな。カラカラカラ。」
と明るく笑う副島に「ジグ・ザウエルP365」は15歳で渡米した際に、「処女銃」として父親に買ってもらった話をし、過去に「何度も」危険から身を守ってくれたことを告げた。

 「へぇ、「何度も」ってか?そりゃようさんの修羅場をくぐってきたんやろな。波乱万丈の手相の運命線の破断数からすると、過去3度の大きな修羅場があったんやろ。まあ、この先は大きな「波」はない感じやから「安心」してもろたらええけどな。
 まあ、今、「波乱万丈」なんは「万丈社長」の方やけどな…。まっこともって不謹慎な話ですんません。」
と謝る副島に、蘭は控えめに言った。
「もし、副島先生さえよかったら、私の話を聞いてくれませんか?私、万丈社長に「嘘」ついてるんです。日本に戻ってきてから「嘘」の上に「嘘」を塗り固める生活で、私も辛いんです。副島先生にやったら何でも話せる気がして…。ってこんな話面倒ですよね。忘れてください。」
 
 副島は優しい目をして、蘭に語り掛けた。
「いや、話を聞くだけやったらかまへんで。但し、それにはひとつ条件がある。」
「何ですか?条件っていうのは?副島先生…。」
 蘭は副島の言葉を身構えて待った。
「それや。「副島先生・・」っていうのは「無し」にしてんか。おいちゃんは森先生と違って資格を持ってるわけやない、もぐりのコンサルタントやから「先生・・」とちゃうねん。普通に「副島のおっちゃん」って呼んでくれるんやったらなんぼでも話を聞いたんで。カラカラカラ。」
 無邪気に笑う副島に蘭は心を開いて言った。
「じゃあ、副島のおっちゃん、私の話を聞いて下さい…。実は、私…」

 蘭は、実は自分は門真生まれで、本当の名前は「万丈羽蘭ばんじょう・はらん」で万丈洋孝の実の弟であることと、2016年に実の父が自分の「スポーツ国籍」取得のために「闇スポーツ賭博」に手を出し、亡くなったことを話した。
「あぁ、そういえばそんな話あったなぁ。当時、まだ門真にあった大手家電メーカーの海外赴任の技術者がカリフォルニア州の高級住宅地で強盗殺人に遭って、その娘が行方不明になったって、ニュースで見たわ。それが、羽藤さんやったってか?」
 驚く副島に更なる驚きの表情を見せさせることになる「ユーラン・ダグラス」として「スナイパー」として生きた第2の人生について正直に語った。
 ロシアンマフィアに狙われ第2の父「マーチン・ダグラス」と「民間軍事顧問会社PSSD」の恩師である「ギャリソン戸田」の犠牲の上に、第3の人生となる義理兄の「羽哲生うー・てっせい」と上海で過ごした「中国共産党」、「人民解放軍」、「赤幇」の「殺し屋」として過ごした「羽蘭うー・らん」としての上海時代の生活も話した。
 最終的に義兄の哲生の罹病で上海にもいられなくなり、「羽藤蘭はとう・らん」として4度目の人生を本来の兄である洋孝の会社の従業員として過ごしていることが語られた。

 「私、180人以上の人を「あやめてる」んです。その人生の「ごう」のあおりを兄が受けてるんでしたら、兄にとっては私はこの街にいない方がいいんじゃないかって思うと胸が苦しくて…。」
と涙を流しながらの蘭の告白に、副島は
「もう一回、ゆっくりと手相を見せてくれるか?おいちゃんはプロの占い師やないから絶対に当たるってなもんやあれへんねんけど、知り合いに「代々木の母」、「桜木町の母」と並ぶ「三大女占い師」のひとりって言われてる「三代目京橋の母」から、「占い」を学んでるからな。さっき見た感じでは「破天荒」の人生は続くけど、「波乱万丈」な相は終わりを告げてたと思うんや。それを聞いて羽藤さんが「安心」できるんやったら見せてんか。」
と語ると、蘭は素直に右手を委ねた。

 「ほーっ、これはほんまに大変珍しい手相やな。指紋相も「破天荒」やんかいな。おいちゃんのところのお客さんでは「2人目」の凄い人生の相をしてるわ。その一人も女の人やねんけど、7度の人生の荒波を乗り越えて、今は「日本一福利厚生の良いラウンジのママ」やってるんやけど、羽藤さんの手相も「負けず劣らず」の手相やな…・
 まあ、運命線の「途切れ」は3ヵ所…。4つ目の「戸籍」っていう話やったら、これからは「安定」の「期(※「気」ともいう)」に入るところやな。これから「安寧」と「幸福」がやってくるんとちゃうんかな。「仁」の相も出てるから、皆に喜ばれる「今」の仕事は羽藤さんにとっては「天職」やと思うで。」
 副島が優しく説明すると蘭は泣きながら副島に問い直した。
「180名以上の命を奪った私に「幸福」になる権利なんかあるんでしょうか?私が「殺めた」人の中には家族や恋人や大切な人もいたでしょうに…。」

 「それは気にすることあれへん。「それ・・」は「仕事・・」であり「私怨」ではないねやろ?それも「海外・・」でのことや。それに今の「羽藤蘭」の仕業ではないわけや。まあ、それでも気にするようならこのマンガを貸してあげるから読んでみいや。この主人公も羽藤さんと同じように、「元暗殺者」で、今は「新宿」でスイーパーをやってる「庶民の味方」っていうヒロインの話や。
 門真の街にもこんなヒロインがおってくれたら、市民も安心やろ。カラカラカラ。」
と笑いながら多数のコミックが並ぶ本棚から30冊を超える多くのシリーズが並ぶ中の最初の5冊を抜き出すと蘭の前に置いた。
 蘭は置かれた本に目をやると、副島に言った。
「この本、洋孝兄ちゃんも好きだったんで、私も中学生の時に読みました。大好きな主人公の本です。」
と答えた蘭は泣きながら笑っていた。
 
 その時、副島のスマホが鳴った。ラインメッセージを確認すると副島は蘭に言った。
「もう、森君と万丈社長が戻ってくるわ。羽藤さんが目を腫らしとったら、おいちゃんが「セクハラ」で泣かせたと思われたら困るから、涙を拭いて、かわいい「スマイル」で迎えたってや・カラカラカラ。」
 ハンカチを渡す副島に「はい。」と答え蘭は涙を拭き取り、自然な笑顔を浮かべて見せた。



「おまけ」




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