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「金城司法書士事務所」
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「金城司法書士事務所」
仕事始めを事前に決めていた2023年1月4日の水曜日、すっかり生気を失い、瘦せこけた洋孝を連れて、ニコニコ商店街の端にある「向日葵寿司」のランチに蘭はやってきた。
府警からのコンタクトは25日以降無く、「まかせ店本部」とは精算関係の連絡を経理部とするくらいで、営業開発部の部長からは何の音沙汰もないまま、3が日は過ぎていった。
ただし、12月27日の新聞の大阪地方版に「素人建物清掃業者によりオゾン中毒患者5名発生」との見出しで「まかせ店本部」の名と所在地が事件内容と併せて掲載され、一部のネットニュースでも取り上げられ、非難のコメントが多数あげられていた事を蘭は確認しているが、その事は洋孝にはあえて伝えなかった。更に、今朝一番に事務所に届いた「まかせ店本部」と顧問弁護士の連名で来ている内容証明郵便は開けてもいない。
「社長、ここのお寿司、凄く美味しいらしいんですよ。それでいてランチはなんと1000円!大将はこの店の三代目で女将はニコニコプロレスのエース女子プロレスラーだったんですって。何度もニュースに出た有名夫婦のお店なんですよ!」
努めて明るく振舞う蘭と黙って寿司を見つめるだけの洋孝に優しい表情の女将が声をかけた。
「お正月早々、暗い顔してはるけどなんか悩みでもあるんですか?」
小さく首を横に振る洋孝の横で、藁をも縋る思いで蘭は女将に言った。
「はい、うち、「まかせ店門真西営業所」っていう「何でも屋」なんですけど、年末にトラブルに巻き込まれてしもて、社長が落ち込んでしもてるんです。
あっ、決してうちに「非」がある話や無いんですよ。「本部」とのやり取りに「誤解」があって、警察も絡んだややこしいことになってるんですけど、相談できる人も居なくて…。」
女将は2人の顔を覗き込み
「せやな。お客さんは「悪い事」しはる顔やないもんな。私にはわかるで。もし迷惑や無かったらうちのお客さんで何でも相談にのってくれる「よろず相談」の凄い人居るから紹介してあげようか?
って噂してたら来はったわ。これは何かのお導きやで。めっちゃ頼りになる近所の金城司法書士事務所ってところの先生とコンサルタントのおっちゃんやから繋いであげるわな。」
と引き戸を開けて「あけましておめでとうさん。今年もよろひこー!」とふざけた挨拶で入ってきた太った「はげかけ」の白髪頭の男と、その横で丁寧に頭を下げ挨拶するやせ型の30代半ばの男に女将が声をかけた。
「森先生、副島のおっちゃん、明けましておめでとうさん。いきなりやけど、ちょっと困った人が居るから後で相談のったってくれへん?」
女将が気を利かせ、蘭と洋孝をカウンター席から奥の個室席に移動させると森と副島も呼んだ。
初対面で名刺交換も無しに副島は洋孝の顔を見て、何かを感じ取ったのか
「まずは話を聞かせてもらおか?別に、話を聞くだけやったら「金」は取れへんけど「守秘義務」はしっかりと守るから安心して話してや。」
と声をかけてから、首からかけたネームタグから「よろず相談承ります!金城司法書士事務所 コンサルタント・補助者 副島大」の文字とビリケンさんのイラストの入った名刺を2人に差し出した。
「森健です。」
と言葉少な目で、森が出した名刺には「司法書士」の肩書が入っていた。
蘭が事件の概要と経過について簡潔にまとめて説明をした。副島は、寿司をつまみながら手帳にメモを取り、要所要所で蘭と洋孝に質問を投げかけた。森はタブレットを取り出して、副島の横で黙々と検索を続け、目的のページにたどり着くと副島にその画面を確認させることを繰り返した。
「ふーん、言うた言わんがネックとなると厄介やな。ところで向こうの弁護士は何て言うて来てはんの?」
と副島の問いに今朝、届いた「内容証明」を思い出した蘭が封書を取り出し、副島に渡した。不自然に副島の視線は蘭の掌に向けられたが、数秒後「じゃあ、開けさせてもらうで。」と封筒の中身を確認すると副島の眉間に縦じわが寄った。
「あかん、フランチャイズ本部のよくある手や。全部、FC加盟店におっ被せて、本部は逃げるトンズラ作戦や。新聞に事件が掲載されたことで契約書上の「本部の名誉を著しく傷つけた」っていう「信用喪失」要件に該当するから、あんさんの店の契約を「解除」するとさ。
うーん、ここまで聞いてた範囲でいくと「水掛け論」になるから一筋縄ではいけへんなあぁ。こっちは入金を確認して返金してへんところが思いっきり弱点やわな。他になんか「武器」はあれへんのかいな。」
副島の「武器」の一言で、蘭の頭の隅から「ある事」が思い出された。その「ある事」を副島と森に伝えると、森がどこかに電話をかけた。どうやら、弁護士事務所にかけているようだが、専門用語が多く内容までは蘭には理解できなかった。
森が副島に耳打ちをすると、森の電話を受け取り席を外して数分後に戻ってきた。
「よっしゃ、森君は今から万丈社長を連れて事務所のメール履歴をコピーしてきてな。そんで、羽藤さんはうちの事務所に来てくれはるかな?後は「原先生」に期待やな。」
とだけ言うと、副島は先に4人分の勘定を済ませると店を出た。
10分程歩いて、「金城司法書士事務所」と小さな表札がかかった、建築面積で10坪ほどの3階建ての木造の事務所兼住宅に着くと、森は軽自動車を車庫から出し、洋孝を助手席に乗せると「まかし店門真西営業所」に向かって走っていった。
1人残された蘭は事務所の応接室扱いであろう、DVDとコミック本、雑誌、専門書がぎっしりと詰まった本棚に3方向を囲まれた部屋のソファーに通された。テーブルの上に「GUN」というタイトルの雑誌と蘭の「処女銃」であった「ジグ・ザウエルP365」のモデルガンが無造作に置かれていた。
「副島先生、さっきのメール履歴で何とかなりそうですか?もう、うちの社長、精神的に参ってしまってて見てられないんです。」
と蘭が尋ねた瞬間、副島のスマホが鳴った。画面に「原先生」の文字が見えた。
「ちょっと、失礼さん。」
と蘭に一声かけると副島は応接室を出ていった。
なかなか戻ってこない副島を待つ間、(あぁ、P365か…。懐かしいなぁ。何度、危機を救ってくれたことやら…。今度は洋孝兄ちゃんの危機を救ってや…。)とモデルガンを手に、片目撃ちの射撃体勢を取った瞬間に戻ってきた副島が目を丸くして呟いた。
「羽藤さん、あんたえらい銃の扱いに慣れとんな?」
「おまけ」
※ネコちゃんは意味なしです(笑)。
( ̄▽ ̄;)
仕事始めを事前に決めていた2023年1月4日の水曜日、すっかり生気を失い、瘦せこけた洋孝を連れて、ニコニコ商店街の端にある「向日葵寿司」のランチに蘭はやってきた。
府警からのコンタクトは25日以降無く、「まかせ店本部」とは精算関係の連絡を経理部とするくらいで、営業開発部の部長からは何の音沙汰もないまま、3が日は過ぎていった。
ただし、12月27日の新聞の大阪地方版に「素人建物清掃業者によりオゾン中毒患者5名発生」との見出しで「まかせ店本部」の名と所在地が事件内容と併せて掲載され、一部のネットニュースでも取り上げられ、非難のコメントが多数あげられていた事を蘭は確認しているが、その事は洋孝にはあえて伝えなかった。更に、今朝一番に事務所に届いた「まかせ店本部」と顧問弁護士の連名で来ている内容証明郵便は開けてもいない。
「社長、ここのお寿司、凄く美味しいらしいんですよ。それでいてランチはなんと1000円!大将はこの店の三代目で女将はニコニコプロレスのエース女子プロレスラーだったんですって。何度もニュースに出た有名夫婦のお店なんですよ!」
努めて明るく振舞う蘭と黙って寿司を見つめるだけの洋孝に優しい表情の女将が声をかけた。
「お正月早々、暗い顔してはるけどなんか悩みでもあるんですか?」
小さく首を横に振る洋孝の横で、藁をも縋る思いで蘭は女将に言った。
「はい、うち、「まかせ店門真西営業所」っていう「何でも屋」なんですけど、年末にトラブルに巻き込まれてしもて、社長が落ち込んでしもてるんです。
あっ、決してうちに「非」がある話や無いんですよ。「本部」とのやり取りに「誤解」があって、警察も絡んだややこしいことになってるんですけど、相談できる人も居なくて…。」
女将は2人の顔を覗き込み
「せやな。お客さんは「悪い事」しはる顔やないもんな。私にはわかるで。もし迷惑や無かったらうちのお客さんで何でも相談にのってくれる「よろず相談」の凄い人居るから紹介してあげようか?
って噂してたら来はったわ。これは何かのお導きやで。めっちゃ頼りになる近所の金城司法書士事務所ってところの先生とコンサルタントのおっちゃんやから繋いであげるわな。」
と引き戸を開けて「あけましておめでとうさん。今年もよろひこー!」とふざけた挨拶で入ってきた太った「はげかけ」の白髪頭の男と、その横で丁寧に頭を下げ挨拶するやせ型の30代半ばの男に女将が声をかけた。
「森先生、副島のおっちゃん、明けましておめでとうさん。いきなりやけど、ちょっと困った人が居るから後で相談のったってくれへん?」
女将が気を利かせ、蘭と洋孝をカウンター席から奥の個室席に移動させると森と副島も呼んだ。
初対面で名刺交換も無しに副島は洋孝の顔を見て、何かを感じ取ったのか
「まずは話を聞かせてもらおか?別に、話を聞くだけやったら「金」は取れへんけど「守秘義務」はしっかりと守るから安心して話してや。」
と声をかけてから、首からかけたネームタグから「よろず相談承ります!金城司法書士事務所 コンサルタント・補助者 副島大」の文字とビリケンさんのイラストの入った名刺を2人に差し出した。
「森健です。」
と言葉少な目で、森が出した名刺には「司法書士」の肩書が入っていた。
蘭が事件の概要と経過について簡潔にまとめて説明をした。副島は、寿司をつまみながら手帳にメモを取り、要所要所で蘭と洋孝に質問を投げかけた。森はタブレットを取り出して、副島の横で黙々と検索を続け、目的のページにたどり着くと副島にその画面を確認させることを繰り返した。
「ふーん、言うた言わんがネックとなると厄介やな。ところで向こうの弁護士は何て言うて来てはんの?」
と副島の問いに今朝、届いた「内容証明」を思い出した蘭が封書を取り出し、副島に渡した。不自然に副島の視線は蘭の掌に向けられたが、数秒後「じゃあ、開けさせてもらうで。」と封筒の中身を確認すると副島の眉間に縦じわが寄った。
「あかん、フランチャイズ本部のよくある手や。全部、FC加盟店におっ被せて、本部は逃げるトンズラ作戦や。新聞に事件が掲載されたことで契約書上の「本部の名誉を著しく傷つけた」っていう「信用喪失」要件に該当するから、あんさんの店の契約を「解除」するとさ。
うーん、ここまで聞いてた範囲でいくと「水掛け論」になるから一筋縄ではいけへんなあぁ。こっちは入金を確認して返金してへんところが思いっきり弱点やわな。他になんか「武器」はあれへんのかいな。」
副島の「武器」の一言で、蘭の頭の隅から「ある事」が思い出された。その「ある事」を副島と森に伝えると、森がどこかに電話をかけた。どうやら、弁護士事務所にかけているようだが、専門用語が多く内容までは蘭には理解できなかった。
森が副島に耳打ちをすると、森の電話を受け取り席を外して数分後に戻ってきた。
「よっしゃ、森君は今から万丈社長を連れて事務所のメール履歴をコピーしてきてな。そんで、羽藤さんはうちの事務所に来てくれはるかな?後は「原先生」に期待やな。」
とだけ言うと、副島は先に4人分の勘定を済ませると店を出た。
10分程歩いて、「金城司法書士事務所」と小さな表札がかかった、建築面積で10坪ほどの3階建ての木造の事務所兼住宅に着くと、森は軽自動車を車庫から出し、洋孝を助手席に乗せると「まかし店門真西営業所」に向かって走っていった。
1人残された蘭は事務所の応接室扱いであろう、DVDとコミック本、雑誌、専門書がぎっしりと詰まった本棚に3方向を囲まれた部屋のソファーに通された。テーブルの上に「GUN」というタイトルの雑誌と蘭の「処女銃」であった「ジグ・ザウエルP365」のモデルガンが無造作に置かれていた。
「副島先生、さっきのメール履歴で何とかなりそうですか?もう、うちの社長、精神的に参ってしまってて見てられないんです。」
と蘭が尋ねた瞬間、副島のスマホが鳴った。画面に「原先生」の文字が見えた。
「ちょっと、失礼さん。」
と蘭に一声かけると副島は応接室を出ていった。
なかなか戻ってこない副島を待つ間、(あぁ、P365か…。懐かしいなぁ。何度、危機を救ってくれたことやら…。今度は洋孝兄ちゃんの危機を救ってや…。)とモデルガンを手に、片目撃ちの射撃体勢を取った瞬間に戻ってきた副島が目を丸くして呟いた。
「羽藤さん、あんたえらい銃の扱いに慣れとんな?」
「おまけ」
※ネコちゃんは意味なしです(笑)。
( ̄▽ ̄;)
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