『最後に笑えりゃ勝ちなのよ２ｎｄ ～５つ星評価のよろずサービス「まかせて屋」の「元殺し屋」の女主任の物語～』

「落とし穴」

「落とし穴」

　蘭に無残に会話を切られた洋孝は再びパソコン画面に視線を戻した。「ピコーン」とメールの着信音が鳴ったので洋孝はメールソフトを開き、新着メールをチェックした。ＤＭメールが並ぶ受信ボックスの一番上に「まかせ店本部」のアイコンが「新着」マークと共に点滅していた。

「おっ、何やコレ？本部の営業開発部長からメールが来てるわ。なになに、「特殊清掃」のマニュアル作成依頼やて？
あぁ、この夏の間にうちが処理した蘭ちゃんの「特殊清掃」が不動産管理会社からえらい評価されてるみたいで、「まかせ店」全体のスキルとして、標準化したいってことみたいやな。
まぁ、蘭ちゃんのやり方やったら、真夏の腐乱死体でも３日で「臭いナッシング」やもんな。稼ぎもええ案件やし、本部は上前跳ねるにしても美味しいわな。
マニュアルの著作権譲渡の条件で１００万円で作ってくれへんかやて。ここで１００万入ったら、蘭ちゃんに「ボーナス」出してやれるから、マニュアル作って本部に買い取ってもらうか？」
美味しい話が来たと喜ぶ洋孝に蘭はシビアに言った。
「社長、「特殊清掃」は各現場ごとで事情が違うから「安請け合い」せん方がええよ。私も、木造住宅やったらよう請けへんもん。」

　蘭からその理由を丁寧に説明を受けた洋孝は丁寧に断りのメール文書を作成し読み返した。
「営業開発部長様。この度は「特殊清掃」のマニュアル作成のお引き合いいただきましたが、各現場毎に処理ノウハウが違いますのでマニュアル化は難しいと思います。すみませんが今回のご依頼はお断りさせていただきます。」
と返信を送ると、すぐに営業開発部長から電話がかかってきた。
　ＦＣ本部独特の上から口調で一方的にマニュアル作成を求められたが洋孝は丁寧に断った。

　営業開発部長は引くことなく、妥協案を提示してきた。
「マニュアル化するには時間もかかるやろうから、この電話でいいから「門真西店」のやり方を教えて欲しい。
自分たちだけ美味しい思いをしないで、同じ会社の仲間と代理店仲間の利益を考えて欲しいんや。」
としつこく粘られたので、本部の部長を怒らすのは得策ではないと洋孝は判断し、渋々電話で対応した。
　電話の最後に洋孝は営業開発部長に対し念を押した。
「くれぐれも、案件ごとに処理方法はあるってことと、「木造住宅・・・・」ではここ数カ月、うちがやってきた３日間で完全脱臭まで行うっていうのは「無理・・」っていうことはしっかりと覚えておいてくださいね。」

　その月末、蘭がオンラインで事業用口座の預金額をチェックすると、「まかせ店」本部へのフランチャイジーを支払った後の予定していた月末残高にずれがあった。蘭が入出金履歴を再チェックしていると「まかせ店」の本部から２０万円の入金があったことがわかったのでその画面をプリントアウトして洋孝に手渡し、その旨を伝えた。
　洋孝は本部経理にと言わせると、営業開発部から「門真西店」からのコンサルフィー名目での支払伝票が回ってきたので振り込んだという回答だった。開発部長に洋孝が電話を入れると
「あの後な、大手管理会社から「特殊清掃」のノウハウを売ってくれっていう話が湧いて出たんや。もちろん、あいつら自分らではやれへんから仕事はうちにまわってくるわな。
まあ、家主営業向けのツールとして欲しいんやろな。まあ、全国でトップクラスの管理会社で「サービス付き高齢者住宅」もたくさん管理してるところやからうちの売り上げにも貢献してくれるやろ。
　万丈君から聞いた話でまとまった話やから、ちょっと振り込ませてもろたんや。１００万とはいけへんかったけど、休みとって温泉でゆっくりして旨いもんでも食べて来てくれや。カラカラカラ。あっ、悪い、他に電話が入ったみたいやわ。じゃあな。」
と一方的に話すと電話は切れた。事情を聴いた蘭が心配そうに
「どんな文章作ったんかわからんから確認しといたほうがええよ。オゾンは使い方誤ると怖いからな…。」
と言うので、時間をあけて再度、本部に電話をかけたが既に営業開発部長は外出しており、折り返しの電話を頼んだが電話は無かった。
仕方がないのでメールで「すみませんが「特殊清掃」に関して営業開発部長の方で作成された文書を至急確認させて欲しいのでご連絡ください。」と送信した。

　その後、顧客からの引き合い案件もありバタバタと外出することとなり、洋孝は「特殊清掃方法」に関する開発部長が作成したとされる文書を確認することをすっかり忘れてしまっていた。
その事が年末に２人を巻き込む大きな事件の「落とし穴」になることを知る由もなかった。


「おまけ」
本編に関係ないけど「一部の読者さんに忖度して」しばらく「カムフラージュスナイパー」シリ(￣▽￣;)きょうは「くまぴっぴ」！

※こんなカムフラージュは「無い！」(￣▽￣;)