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「ノウハウ」
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「ノウハウ」
4月11日午前0時30分。洋孝との初仕事を終えた蘭はビニールの防護服を脱ぎ、汗をぬぐった。
「羽藤さん、本当に今日はありがとうございました。僕一人では何もできなかったと思います。今日のお礼もしたいのでせっかくですのでいただいた「健康ランド」行って、遅い夕食になりますけど冷たいビールでもいかがですか?
あっ、これは「変な意味」は無いですよ。本当に「お礼」の意味ですから。」
と言葉の途中で真っ赤になった洋孝の言葉に(こうして洋孝兄ちゃんと再会したのも何かの縁やろうし、このまま「バイバイ」はあれへんよな!)と蘭は申し出を快諾した。
2人が行った「健康ランド」はホテルチェーンの経営で、男女別の仮眠室があることもわかった。
「じゃあ、1時間後にこの飲食コーナーで待ち合わせと言う事でお願いしますね。」
と受付で受け取った館内で使えるナンバーのついたリストバンドを蘭に手渡すと、男女別の更衣室へと別れた。
蘭は、最初にシャンプーを3度繰り返すと、サウナと水風呂を3度行き来した。(あぁ、この「腐臭」だけは、鼻に残るよな。まあ、鼻の中をオゾン消臭するわけにはいけへんししゃあないな。きっと洋孝兄ちゃんもこの鼻に残った臭いに悩まされてることやろな。)と思うとくすっと笑った。
大浴場にゆっくりとつかり、浴場内の時計が入浴開始から40分経っていることを確認すると(洋孝兄ちゃんは「烏の行水」やったから、あんまり待たせちゃ悪いしもう上がるか…。)と蘭は湯船から上がった。
予想通り、洋孝は先に飲食コーナーで紙コップひとつを前に置き待っていた。
「あれっ、先に飲んでくれてたらよかったのに。」
蘭が館内着で声をかけると
「いやいや、今日の主役を待たずに飲めませんよ。羽藤さんも「生ビール」でいいですか?」
と優しく対応してくれた。
蘭が「鼻の奥」の臭い残りがあるなら「ニンニクが効いたもの」がいいよとアドバイスをしたので、2杯の生ビールと併せて「餃子」と「から揚げガーリック風味」をお盆にのせて洋孝は席に戻ってきた。
蘭は9年8カ月ぶりの兄との会話を「羽藤蘭」として楽しんだ。就職氷河期の中、父「雄拓」と同じ会社から内定をもらっていたものの、2016年の夏に雄拓のスポーツ賭博の借金が発覚し、事故死した後、洋孝の「内定」は取り消された。他の就職内定はすべて断った後であり、雄拓の死亡で自宅のローンが滞り銀行主導で家を売却したわずかな現金を元手に「まかせ店」のフランチャイズ契約に至った経緯が伝えられると(あぁ、私が「アメリカ国籍」欲しいって言ったことが、洋孝兄ちゃんの人生まで狂わせちゃったんや…。ごめんね。)と蘭は思った。
洋孝は、現在、彼女は居らず今も独身であり、今日ケガをした従業員1名を雇い入れての事業であることが分かった。
洋孝が4杯目のビールを赤い顔をして飲み始めた時、
「羽藤さん、元看護助士やってたって話やったけど、今の仕事は何してはるんですか?」
の言葉に(これは天啓や!)蘭は即時に反応した。
「あの、私、今日、ここに引っ越してきたばかりで仕事を探してるんです、良かったら、万丈さんのところで雇ってもらえませんか?」
予想してなかった蘭の返事に洋孝は喜んだ。
「ほんまですか?いやぁ、それは願ったり叶ったりですよ!めちゃくちゃウエルカムです。いやぁ、羽藤さんとは初めて会った気がしないと思ってたんですよ。
こんなこと言われても困るでしょうけど、アメリカで行方不明になった妹が戻ってきたような気分です。従業員もしばらく仕事には復帰できないやろうから是非とも羽藤さん、うちの会社に来てください!」
と蘭の手を取り、「あっ、ごめんなさい。」と一瞬で手を引き、頭を下げた。
9年8カ月ぶりの兄の手は、関空でかわした握手で感じた柔らかい感触でなくごつごつとしたマメのある手は、この数年の苦労を蘭に感じさせた。
翌日から、蘭は洋孝から親しみを込めて「蘭ちゃん」と呼ばれるようになり、「まかせ店門真西営業所」勤務が始まった。洋孝は「主任待遇」で蘭を迎えた。蘭の過去の経験が「まかせ店」を頼る顧客のニーズにマッチし、店の口コミ評価の「星」の数はどんどんと増えていった。
順調に評価は上がり、リピート客も増えていった。リピート客は、依頼業務が終わった後、いろんな話をするようになった。
ある日、キッチンコンロの清掃に行った先のクライアントの老夫婦から中学校時代にいじめに遭った孫が引きこもりになり、高校も入学式に行ったきりで「いじめのPTSD」で学校に全く通えていないことを相談された。
「まあ、メンタルクリニックでどうしようもないことを「まかせ店」さんに言っても仕方ないわよね。」
とあきらめ顔のクライアントに蘭は優しく言った。
「ダメもとで、私に一度お孫さんと話をさせてもらえませんか?」
次回、孫が来る日に、簡単な業務を発注してもらった。仕事を済ませた後、蘭は孫と2人で話す機会を作ってもらった。
15分後、孫は元気な顔でクライアントの老夫婦と洋孝の前で宣言した。
「おじいちゃん、おばあちゃん、私、明日から学校行くわ。今まで、心配かけてごめんね。このお姉ちゃんと話したら、今までうじうじしてたのがなんでなんかわかんないくらい気持ちがすっきりしちゃった!」
驚く老夫婦と洋孝に孫が帰った後に「ネタバレ」をした。もちろん「殺し屋」時代に「PSSD社で身につけたテクニックであることは内緒である。
「私が海外NGOで看護助士やってた時に覚えた、内戦で心を病んだ子供に「催眠術」的な感じで、トラウマやPTSDを取り除いたりするテクニックを使ってみただけです。
もちろん100%完璧の技じゃないんで、もし「いじめのPTSD」が再発して「引きこもり」に戻ったらその時はまた声をかけてください。」
との説明で皆、納得してくれ、クライアントが口コミに書き込んだ結果、「まかせ店門真西営業所」のみの新たな「業務」として「カウンセリング」が加わった。
また、蘭のPSSDで身につけたテクニックは「各種ライフハック」にも応用され、顧客を喜ばせた。
コンロが壊れてその日のメニューの豚汁の準備ができず困った食堂からの依頼は、使用しているコンロが古すぎて修理ができない結論だったのだが、炭で炙った「焼き石」で煮炊きして急場を凌いだ。
畑を荒らす狸には特殊なトラップをかけて追い払い、鳩の糞害に悩まされるマンションでは、鷹の泣き声に近い音が出る「鳥笛」で鳩たちを排除するのに成功した。どちらも「過去の経験」はでっちあげて説明をしている。
蘭が「まかせ店門真西店」に勤め出して半年たった10月のある日、久しぶりに「訪問案件」が無く、2人で事務作業をしていると、この3ケ月の請負業務リストを閲覧しながら洋孝が蘭に呟いた。
「ほんまに蘭ちゃんは何でもできるんやな。普通の23歳の女の子じゃあり得へん経験を積んできてるんやな。凄すぎてありがたいわなぁ。うちにとっても、顧客にとっても時として「女神様」ってなもんやな…。」
と感心しきりの洋孝に蘭は軽くあしらうのが常だった。
「そんなに褒めても何も出えへんよ。私はしがないただの女子従業員やからね。無理難題言わんといて下さいね!」
「おまけ」
4月11日午前0時30分。洋孝との初仕事を終えた蘭はビニールの防護服を脱ぎ、汗をぬぐった。
「羽藤さん、本当に今日はありがとうございました。僕一人では何もできなかったと思います。今日のお礼もしたいのでせっかくですのでいただいた「健康ランド」行って、遅い夕食になりますけど冷たいビールでもいかがですか?
あっ、これは「変な意味」は無いですよ。本当に「お礼」の意味ですから。」
と言葉の途中で真っ赤になった洋孝の言葉に(こうして洋孝兄ちゃんと再会したのも何かの縁やろうし、このまま「バイバイ」はあれへんよな!)と蘭は申し出を快諾した。
2人が行った「健康ランド」はホテルチェーンの経営で、男女別の仮眠室があることもわかった。
「じゃあ、1時間後にこの飲食コーナーで待ち合わせと言う事でお願いしますね。」
と受付で受け取った館内で使えるナンバーのついたリストバンドを蘭に手渡すと、男女別の更衣室へと別れた。
蘭は、最初にシャンプーを3度繰り返すと、サウナと水風呂を3度行き来した。(あぁ、この「腐臭」だけは、鼻に残るよな。まあ、鼻の中をオゾン消臭するわけにはいけへんししゃあないな。きっと洋孝兄ちゃんもこの鼻に残った臭いに悩まされてることやろな。)と思うとくすっと笑った。
大浴場にゆっくりとつかり、浴場内の時計が入浴開始から40分経っていることを確認すると(洋孝兄ちゃんは「烏の行水」やったから、あんまり待たせちゃ悪いしもう上がるか…。)と蘭は湯船から上がった。
予想通り、洋孝は先に飲食コーナーで紙コップひとつを前に置き待っていた。
「あれっ、先に飲んでくれてたらよかったのに。」
蘭が館内着で声をかけると
「いやいや、今日の主役を待たずに飲めませんよ。羽藤さんも「生ビール」でいいですか?」
と優しく対応してくれた。
蘭が「鼻の奥」の臭い残りがあるなら「ニンニクが効いたもの」がいいよとアドバイスをしたので、2杯の生ビールと併せて「餃子」と「から揚げガーリック風味」をお盆にのせて洋孝は席に戻ってきた。
蘭は9年8カ月ぶりの兄との会話を「羽藤蘭」として楽しんだ。就職氷河期の中、父「雄拓」と同じ会社から内定をもらっていたものの、2016年の夏に雄拓のスポーツ賭博の借金が発覚し、事故死した後、洋孝の「内定」は取り消された。他の就職内定はすべて断った後であり、雄拓の死亡で自宅のローンが滞り銀行主導で家を売却したわずかな現金を元手に「まかせ店」のフランチャイズ契約に至った経緯が伝えられると(あぁ、私が「アメリカ国籍」欲しいって言ったことが、洋孝兄ちゃんの人生まで狂わせちゃったんや…。ごめんね。)と蘭は思った。
洋孝は、現在、彼女は居らず今も独身であり、今日ケガをした従業員1名を雇い入れての事業であることが分かった。
洋孝が4杯目のビールを赤い顔をして飲み始めた時、
「羽藤さん、元看護助士やってたって話やったけど、今の仕事は何してはるんですか?」
の言葉に(これは天啓や!)蘭は即時に反応した。
「あの、私、今日、ここに引っ越してきたばかりで仕事を探してるんです、良かったら、万丈さんのところで雇ってもらえませんか?」
予想してなかった蘭の返事に洋孝は喜んだ。
「ほんまですか?いやぁ、それは願ったり叶ったりですよ!めちゃくちゃウエルカムです。いやぁ、羽藤さんとは初めて会った気がしないと思ってたんですよ。
こんなこと言われても困るでしょうけど、アメリカで行方不明になった妹が戻ってきたような気分です。従業員もしばらく仕事には復帰できないやろうから是非とも羽藤さん、うちの会社に来てください!」
と蘭の手を取り、「あっ、ごめんなさい。」と一瞬で手を引き、頭を下げた。
9年8カ月ぶりの兄の手は、関空でかわした握手で感じた柔らかい感触でなくごつごつとしたマメのある手は、この数年の苦労を蘭に感じさせた。
翌日から、蘭は洋孝から親しみを込めて「蘭ちゃん」と呼ばれるようになり、「まかせ店門真西営業所」勤務が始まった。洋孝は「主任待遇」で蘭を迎えた。蘭の過去の経験が「まかせ店」を頼る顧客のニーズにマッチし、店の口コミ評価の「星」の数はどんどんと増えていった。
順調に評価は上がり、リピート客も増えていった。リピート客は、依頼業務が終わった後、いろんな話をするようになった。
ある日、キッチンコンロの清掃に行った先のクライアントの老夫婦から中学校時代にいじめに遭った孫が引きこもりになり、高校も入学式に行ったきりで「いじめのPTSD」で学校に全く通えていないことを相談された。
「まあ、メンタルクリニックでどうしようもないことを「まかせ店」さんに言っても仕方ないわよね。」
とあきらめ顔のクライアントに蘭は優しく言った。
「ダメもとで、私に一度お孫さんと話をさせてもらえませんか?」
次回、孫が来る日に、簡単な業務を発注してもらった。仕事を済ませた後、蘭は孫と2人で話す機会を作ってもらった。
15分後、孫は元気な顔でクライアントの老夫婦と洋孝の前で宣言した。
「おじいちゃん、おばあちゃん、私、明日から学校行くわ。今まで、心配かけてごめんね。このお姉ちゃんと話したら、今までうじうじしてたのがなんでなんかわかんないくらい気持ちがすっきりしちゃった!」
驚く老夫婦と洋孝に孫が帰った後に「ネタバレ」をした。もちろん「殺し屋」時代に「PSSD社で身につけたテクニックであることは内緒である。
「私が海外NGOで看護助士やってた時に覚えた、内戦で心を病んだ子供に「催眠術」的な感じで、トラウマやPTSDを取り除いたりするテクニックを使ってみただけです。
もちろん100%完璧の技じゃないんで、もし「いじめのPTSD」が再発して「引きこもり」に戻ったらその時はまた声をかけてください。」
との説明で皆、納得してくれ、クライアントが口コミに書き込んだ結果、「まかせ店門真西営業所」のみの新たな「業務」として「カウンセリング」が加わった。
また、蘭のPSSDで身につけたテクニックは「各種ライフハック」にも応用され、顧客を喜ばせた。
コンロが壊れてその日のメニューの豚汁の準備ができず困った食堂からの依頼は、使用しているコンロが古すぎて修理ができない結論だったのだが、炭で炙った「焼き石」で煮炊きして急場を凌いだ。
畑を荒らす狸には特殊なトラップをかけて追い払い、鳩の糞害に悩まされるマンションでは、鷹の泣き声に近い音が出る「鳥笛」で鳩たちを排除するのに成功した。どちらも「過去の経験」はでっちあげて説明をしている。
蘭が「まかせ店門真西店」に勤め出して半年たった10月のある日、久しぶりに「訪問案件」が無く、2人で事務作業をしていると、この3ケ月の請負業務リストを閲覧しながら洋孝が蘭に呟いた。
「ほんまに蘭ちゃんは何でもできるんやな。普通の23歳の女の子じゃあり得へん経験を積んできてるんやな。凄すぎてありがたいわなぁ。うちにとっても、顧客にとっても時として「女神様」ってなもんやな…。」
と感心しきりの洋孝に蘭は軽くあしらうのが常だった。
「そんなに褒めても何も出えへんよ。私はしがないただの女子従業員やからね。無理難題言わんといて下さいね!」
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