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「まかせ店 門真西営業所」

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「まかせてん門真西営業所」

 救急車を見送ると、蘭は洋孝の会社の軽バンに荷物を積み込むのを手伝った。積み込みが終わると洋孝は助手席に蘭を乗せると車を現場に向けて走らせた。車の中で互いの自己紹介を交わし終わると「まかせてん」について簡単な説明がなされた。
「まかせ店」というのは、全国フランチャイズ展開している地元密着のいわゆる・・・・「何でも屋」で、日頃は「水回りの修理」、「キッチン・浴室・エアコン清掃」や「庭の植木の伐採」や「大きなゴミ出し」等の「個人客」相手のサービスが中心であるのだが、中には「大手賃貸不動産業」や「不動産管理業」と本部との提携業務で店子が夜逃げした際の残置物処分や引っ越し繁忙期の壁紙や床材の張替え等のリフォーム手伝いや、ルームクリーニングがあるという。

 今回の案件は、「不動産事業者」からの案件で、孤独死物件のルームクリーニングとのことだった。2月末の家賃振込後、3月末の入金が無いため家主が電話、郵便で家賃の支払督促をかけたものの返事がなかったため、4月10日になって家主が「滞納案件物件」に訪れたところ、大量に溜まった郵送物と「異臭」に気付き、合鍵で「安否確認」を行ったところ、室内に「腐乱死体」を発見したという。
警察、消防の現場検証が終わり、遺体は撤去されたものの「腐敗臭」で周辺の部屋の住人から多くのクレームが起こり、不動産管理会社に「早急な処理」を求める連絡が入り、「まかせ店」本部に「特殊清掃」の依頼が入り担当営業店である「門真西営業所」に仕事をふられたという流れだった。

洋孝にとっては初めての「特殊清掃」になる為、本部から「孤独死物件の特殊清掃マニュアル」が送ってこられ、そこに記載された部材購入の際の事故だった。事故物件に到着すると、待っていた大家から鍵を受け取った。
「住人から「異臭」に対するクレームが出てるから、「大急ぎ」でやったってや。あと、まだ事故を知らん住民も居るから極力目立たんようにやってくれな。」
と言われた為、通常の作業着で事故のあった部屋の前まで荷物を運ぶと、階段の踊り場でフード付きのビニール製の保護服に着替え、工業用の簡易ガスマスクのついたフェイスマスクを面着した。

 洋孝が部屋の鍵を開け、一歩入った瞬間、大量の蠅が部屋中を飛びまくり、足元にゴキブリが這うのが視界に入り、初めて嗅ぐ「人間の腐敗臭」に声を上げた。
「がおっ!なんじゃこりゃ!とにかくまずは「換気」や!」
と窓を開けようとした洋孝を蘭が止めた。
「窓開けたらあかん!まずは「害虫」、「害獣」駆除が先や。蛆や蠅、そしてゴキブリなんかの害虫を舐めたらあかん。この様子やとネズミみたいな害獣も発生してる可能性もある。窓を開けたら害虫や害獣を他の部屋や外に逃がしてしまう。
 大腸菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌や「O―157」や腸炎菌を広めてしまうことになるかもしれへん。まずは、「害虫」、「害獣」の駆除と殺菌が先や。」
と言うと「燻蒸」タイプの「害虫駆除剤」と「害獣駆除剤」を持ち込んだ段ボール箱の中から取り出していった。(あれ?これだけの部材で「特殊清掃」を済ませってか?ちょっと無理があるよな。ちょっと、道具と部材の追加が必要やな。)と蘭は思ったが口に出さず、オロオロするだけの洋孝の前で作業を続けた。
 手際よく通常量の5倍の「駆除剤」の準備を済ますと窓やドアに養生テープで目張りを済ませると、押し入れやキッチン、浴室のドアというドアと扉を全て空けて回った。
「洋孝にいちゃ、いや、万丈さん、今から2時間「燻蒸」や。部屋を出るで。」
と約30分の作業を済ませ、部屋の外に出てドアの目張りを済ませると、階段の踊り場に出て面体を外した。

 「万丈さん、しっかりと水分取ってな。このビニールの保護服と面体で知らんうちに汗かいてるからな。脱水状態にならんように作業の合間には必ず給水や。」
と蘭はミネラルウォーターのペットボトルを洋孝に渡すが、洋孝は面体を外すこともせず、青ざめた顔で震えてるだけだった。
 再度、蘭は声掛けを行い、ようやく面体を外した洋孝が真っ青な顔をして階段に腰を下ろし、蘭に問いかけた。
「羽藤さん、なんでそんなに落ち着いてられんの?さっきの応急処置の時も凄かったけど何の仕事してる人?」

 (ん、「元暗殺者」とは言われへんから、適当にごまかすしかないわな。噓つきの「悪い妹」でごめんな…。)と思いながら、
「私、NGOで内戦状態の国で看護助士してたことがあるねん。せやから、「血」や「腐臭」には慣れてるんやわ。まあ、聞かされて気持ちのいい話やないから、私の話はここまでな。ところで、「特殊清掃」のマニュアル見せてもらえる?さっき、購入品を一通り見させてもらったけど、あの装備、部材だけやとちょっと厳しいで。」
と洋孝に話すと、マニュアルを受け取った。
 速読法で一気に読み終わると追加で必要な部材と必要なことを洋孝に伝え、「まかせ店」本部に連絡させた。

 電話の途中で要領を得ない洋孝に代わり途中から蘭が電話に出たので話はとんとん拍子に進んだ。続いて、クライアントの大元の家主に電話を入れると「予算」の枠を確認した。
「今、害虫駆除に入りました。3時間程で、室内の汚染物の撤去に入ります。部屋の状況から推測するにあたり、死後2週間以上経っているものとすると、畳は異臭や病原菌が染み込んでいると思いますので全部廃棄しますね。畳をめくった後、床材の確認に入ります。建築時の図面があれば欲しいんですけど、準備してもらえませんか?
あと、亡くなられた方に、遺品を残すべき人はいるんですか?貴重品は置いておきますけど、衣服や布団、家財にいたるまで全て廃棄になると思いますがよろしいですか?荷物を残してると「脱臭」できませんので。あと…、」
 臆することなくてきぱきと交渉を進める蘭を見つめながら、洋孝は何もできなかった。

 一通りの連絡を済ますと、入居契約書と図面を持った大家が管理会社の担当と一緒にやってきた。入居時に提出された書面と住民票から「」に身内はいないことが分かった。図面からは畳の下はウレタン材でその下は防水シートが貼られたコンクリートであることが分かった。作業工程を家主と管理会社に伝え、ある「機材」の手配を要求した。
「早期に脱臭したいなら絶対に準備してください。汚染物撤去を的確にしたとしても「自然脱臭」だと完全に臭いを飛ばすのには3年はかかりますよ。」
とやや大げさに伝えると。家主が管理会社をつつき、機材手配をしてくれることになった。
 
 そこで3時間経った。図面上、臨宅に迷惑をかけることのない換気扇であることが分かったので強制排気をかけた。洋孝には不足部材の買い出しを頼み、家主と管理会社にも室内を確認させた。床に大量の蠅とゴキブリの死体が転がる中、遺体が発見された和室中央の布団を除け、畳を剥いだ。畳の下のウレタン剤まで体液が浸潤していたが、その下の防水シートはしっかりとしており、それを確認させると二人に対して蘭は笑顔を見せた。
「コンクリートをはつる・・・必要はなかったですね。原状回復予算が100万浮きましたやん。ケラケラケラ。
畳とウレタンと防水シートまで全廃棄でキッチンの木床も天井材と壁紙も同じく「臭いの元」は全廃棄でいきます。ユニットバス以外は完全スケルトン化してしまいますね。
じゃあ、産廃業者に不燃物移送用の「トラック」と畳を含めた可燃ごみ用の「パッカー車」の手配頼みますね。さて、ここからはゴミ出しの「肉体労働」ですから家主さんと管理会社さんは帰ってもろていいですよ。」

 そこに大量の大きなビニール袋を抱えて洋孝が帰ってきた。
「羽藤さん、ほうきとちりとりと2メートル×1メートルの布団圧縮袋と300リットルと150リットルのゴミ袋買ってきました。あと、門真南店さんももうすぐ応援に来てくれます。」
「あいよ。じゃあ、まずはこの大量の蠅と「G」を掃き掃除して、布団と畳からじゃんじゃん袋詰めしていこうか。畳の下のウレタンはカッターナイフでカットして詰めてな。あぁ、あとふすまも外して布団袋な!衣服、家財は応援が来てからでいいからね。産廃業者さんの為にもしっかりと袋詰めしてや。」
面体の下に笑顔を浮かべる蘭に呼応して洋孝は箒で床の「害虫」達を掃き始めた。

 2人の応援が来たこともあり、作業は順調に進んだ。産廃業者が来て大型のビニール袋に詰められた家財と布団袋に詰められた布団、畳、ウレタン材を運び出し始めるとあっという間に部屋は空になった。4人は、エアコンを取り外し、キッチンとトイレの床材を剥がし、天井の板材を外していった。
 壁紙を剥がし終わり、最後のゴミ袋を産廃業者が持ち出し、「腐敗臭」が薄らいだスケルトン状態になった部屋に管理会社が台車に2台の機械を積んでやってきた。
「門真西店さん、言われてた消毒液の噴霧器と防滴電動ファンとオゾン燻蒸機をお持ちしました。」

 「あいよ。ありがとさん。今から、部屋に染み付いた臭いの元の「アンモニア」、「メンタチオール」、「ガダベリン」、「脂肪酸」、「酪酸」を消毒液を噴霧して部屋全体を消毒していくで。
3時間後には、タイマーでオゾン燻蒸機で一気に防臭作業に入るで。オゾン燻蒸機は消毒液の噴霧がかからんようにビニールで排出筒以外はしっかりカバーしてや。
 これで24時間、余裕を見たら48時間回せば「臭い」とはおさらばや。明後日、窓の目張りを取れば一件落着やで。」
と蘭は管理会社の担当者に話し、家主に状況を報告させた。

「いやぁ、私は過去の経験でてっきり1週間以上かかると思っていたのが、10数時間でここまでやってもらえるとは…。これは、わずかな気持ちですけど、お仕事終わられましたら「お風呂」でも入って帰ってください。」
と門真市内の「健康ランド」の優待券を蘭に手渡すと、深々とお辞儀をして管理会社の担当者は帰っていった。



「おまけ」




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