『最後に笑えりゃ勝ちなのよ2nd ~5つ星評価のよろずサービス「まかせて屋」の「元殺し屋」の女主任の物語~』 

M‐赤井翼

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「紅幇《ほんぱん》」

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紅幇ほんぱん

 2019年の7月、蘭の20歳の誕生日にその当時の敵のロシアンマフィアにダグラス邸を襲われ、蘭にとっての第2の父「マーチン・ダグラス」と銃の師匠の「ギャリソン・戸田」を殺され、戸籍上の義兄「羽哲生《うー・てっせい》」が蘭の意識を奪い、ロシアンマフィアの追跡を避けるために出国記録の残る空路は避け、ダグラスが所有していた大型クルーザーでロサンゼルスを離れて海に出た。
 意識を取り戻したユーラン(※当時)は2番目の父とギャリソンの死を受け入れ哲生に従う事を約束した。

 ロサンゼルス沖、50海里カイリの位置で衛星電話を使用し、哲生は「国籍取得」を目的とする「ダグラス人材商会」と懇意にしている「チャイニーズマフィア」に連絡を取り、アメリカに来ている「不法入国者」で既に死亡しているユーランに近い年齢の女性を探してもらった。
 幸いにして「羽蘭《うー・らん》」という死亡者が存在することが分かった。20万ドルという大金を払い、ロサンゼルスのチャイニーズマフィアと関係をもつ上海の「中国共産党・人民解放軍」の上級幹部が所属する秘密結社「紅幇ほんぱん」を通じ、「羽蘭」の戸籍を元々二重国籍を所持する「羽哲生」と兄妹としての戸籍を作成してもらう事で話が着いた。

 蘭と哲生の身分証明書を上海で発行してもらい、それをハワイのダグラスの別荘に航空便で送ってもらう段取りをつけると哲生はクルーザーをハワイに向け15ノットで西航し始めた。
 ハワイまで約1週間。「北京語」と「広東語」しか勉強していなかった蘭は軍事衛星を使ったインターネットで「上海語」を学んだ。ハワイで身分証明書を受け取った書類の中に、上海での生活のバックアップをする「後見人」として同じ「羽」姓をもつ中国バブルの成り上がり・・・・・の共産党幹部がふたりの「叔父・・」と言う事となり、そのバーターで「政敵」や上海での「マフィア」、「秘密結社」としてのライバルである「青幇ちんばん」に対する「諜報活動」や「暗殺」を請け負う事で話がついた。

 「結局、中国に行っても「殺し屋」か…。まあ、今更「普通の女の子」に戻れって言っても無理よね。私の手は「血」にまみれてるんだもんね…。
 まあ、それは別にいいんだけど、ネットで調べたら、昔はともかく今は「紅幇」って「青幇」に併呑されて下部組織みたいになってるんじゃないの?それにアヘンや賭博や売春じゃなく、今は経済マフィアなんでしょ?そんなところで「殺し」の仕事なんかあるの?」
と最初、寂しそうな表情を浮かべたが、新天地での二人での生活に気持ちを切り替えて尋ねる蘭に哲生は励ましの意味を込めて詳しく説明した。
「まあ、上海には「ロシアンマフィア」はいないし、俺達が狙われることは無い。それだけでも「安心・・」して暮らせるってなもんさ。
 あと、ネットで何を調べたのか知らないが、チャイナマフィアは単純なものじゃない。「青幇」はどちらかと言えば「経済重視」と言えば聞こえはいいが本流は「中国国民党」で「中国共産党」とは敵対している。
 利益重視の姿勢は「国」や「党」の利益よりもタッグを組む「西側諸国企業」や「台湾」、「海外華僑」との結びつきが強いんだ。利益を国外に持ち出す「青幇」に対し、「青幇」と対のように言われる「紅幇」は内部が大きく2つに分かれ、俺達の「親代わり・・・・」は「中国共産党・人民解放軍」寄りのグループで「党」に忠誠を尽くすと言えば聞こえは良いが「党」、「軍」幹部と癒着した「国寄り」のマフィアなのさ。
 まあ、しっかりと金は握らせるんで、俺が頑張って、できるだけ蘭の事は守っていくさ。」

 ハワイを出港し、グアム経由で上海に向かう途中でアメリカ国籍を示すものはすべて廃棄したが、クルーザーに持ち込んだ蘭の銃のコレクションだけは捨てられなかった。
 ロサンゼルスを出港して28日、クルーザーは上海沖に到着した。「紅幇」の「叔父・・」が迎えに来てくれたので、入国手続きを経ることなく2人は上海の地に足をつけた。
 「付け届け」が効を発したのか、盛大なパーティーで迎えられた。ロスのチャイニーズマフィアからある程度の情報は流れているようで
「しっかりと仕事をしてもらえば、「チャイナセレブ」としての生活は保障する。アメリカにいた時同様に頑張ってくれ!」
とあからさまに言われた。

 幸い、チャイニーズマフィアは蘭が「殺し屋」であったことは知らなかった為、「実務殺し」は哲生、「諜報」は蘭と言う仕事分担で上海での「アングラビジネス」はスタートを切った。
 入国後、半年の間、蘭は「銃」に触れることなく「諜報」と「情報操作」だけで生活していたのだが、半年後の2020年に事件は起こった。
 重要な「案件殺し」の実行日に世界的なパンデミックを起こし始めていた「新型ウイルス」に哲生が罹患し発症したため、どうしても「生かしてはおけない政敵」を排除するために蘭は上海に入ってから初めて銃を手にした。 

 手際のよい蘭の狙撃により、作戦は成功裏に終わり「叔父・・」は大いに喜んだ。「女」の方が「暗殺者」に向いているというのは「上海」でも同じようで、見た目からは「殺し屋」の臭いを全く感じさせない蘭が現場に出ることが増えた。ロサンゼルスのロシアンマフィアと相対したVSK-94は上海での活動期に人民解放軍を通じて手に入れた。
 ロサンゼルスの時と違うのは、「安全圏」からの長距離射撃だけでなく、「毒殺」、「刺殺」等の接近戦が増えた事だった。「紅幇」の「暗殺者グループ」で各種「暗殺方法」を学んだ。その中には「中国古代」からの伝統的な「暗殺」も含まれていた。

 地上げの為に、地主を「暗殺」した事もあれば、不動産入札の競合先をこの世から「抹殺」し、事件そのものが存在しないようにするミッションもあった。
 それらのテクニックを蘭は器用に身につけていき、「紅幇」の中では欠くことのできない人材になっていた。蘭の頑張りに比例して哲生も出世し、短期間で「共産党員」となり、組織の中の立ち位置も上がり2年のうちに幹部党員となっていた。
 そんな「順調」だった2人の生活に暗雲が立ち込めたのは2022年1月末の「紅幇」の「春節パーティー」の食事会の最中だった。代表が春節の祝いの言葉の後、具体的な「攻撃目標」を口にした。

「今年は、国民党を支持する「青幇」と手を組む大手デベロッパー「エバーグランデグループ」の「恒大集団」との戦争だ!奴ら「同族経営」で利益を党に還元することなく、私腹を肥やし、世界のグローバルファミリー企業500社の「25位」に入ったと調子に乗ってたのを、この1月3日に香港証券取引所の取引廃止まで我が共産党は追い込んだ。もう一息だ!奴らの「利権」を我らの手に!乾杯!」
 幹部たちとグラスを何度も交し上海でも有名な高級広東料理の「満漢全席」を蘭と同じ丸テーブルで味わっていた哲生が突然、喀血した。

 救急車で運ばれる哲生は「心配するな。ちょっと飲み過ぎただけだ!」と同乗している蘭に軽口をたたいたが、運び込まれた旧日本人街にある清華大学、北京大学に次ぐ難関とされる国家重点大学に指定されている上海交通大学の付属第一人民病院で受けた診察は甘いものではなかった。
「ステージ4の進行性のすい臓がん」と併発した「肝臓がん」がリンパ節に転移していることが発覚し、緊急の手術が行われた。
 がん細胞は深部に侵潤しており、中国最高レベルの手術でも取り除けた患部は全体の50%に満たなかった。

 翌日、複数の党幹部が病院を訪れ、執刀医に病状と回復の可能性を確認した。「叔父・・」は病室で看病する蘭を呼び出し、
「哲生に万一のことがあれば、お前はどうするんだ?」
と問うと、不用意に蘭が答えた言葉が「叔父・・」の表情を曇らせた。
「もし、兄が亡くなるようなことがあれば、骨は兄が好きだったサンタモニカの海に撒いてあげたいと思います…。
 私にとっては「実の兄」以上の「兄」でしたので、その希望は叶えて上げたいと思います。」
 
 「叔父・・」は病室を出ると、スマホを取り出し上級幹部に電話を入れた。
「同志哲生は余命半年無いそうです。同志哲生が死んだ際、同志蘭は国外に逃亡する可能性があります。アメリカに戻ればCIAとのチャネルを持っていた蘭の存在は機密保持の観点から我々にとって「危険因子」になる可能性があります。さっそく、幹部会で処遇を検討したいのですが。」
 その電話内容が、病室に置き忘れた「叔父・・」の万年筆を届けに行こうとしていた蘭の耳に入っていようとは思っていないようで、電話を切るとそのまま病院を後にする姿を蘭は何も言えずに見送った。



「おまけ」






※ちょっとおふざけ(笑)


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