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「血まみれの20歳の誕生会」

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「血まみれの20歳の誕生会」

 2019年7月、ユーランがダグラス家の娘となって3年。本来の「万丈羽蘭」としての20歳の誕生日を迎えた。
「ユーラン、今日でお前も20歳だな。日本では20歳の誕生日に「成人」を祝う(※当時)そうじゃないか?ユーランの成人を祝って、今日はみんなで食事会をしよう。哲生とギャリソン教官も呼んでお前の20歳を祝うから午後8時には帰っておいで。
 ごちそうを用意して待っているからな。もちろん、「ビッグなプレゼント」も用意しておくから期待してろよ!カラカラカラ。」
 朝からハイテンションなマーチンに声をかけられ(あぁ、私も20歳なんだ…。天国の本当のお父さん、すっかり「殺し屋」になっちゃったけど、私は元気にしてるよ。今のお父さんとお兄ちゃん代わりの哲生兄ちゃんやギャリソン教官のおかげで楽しく過ごしてるよ。)と心の中で呟きながら
「お父さんありがとう。楽しみにしてるわね。ところで「ビッグなプレゼント」ってなに?「キャリバー50・ブローニングM2重機関銃」がプレゼントっていうのは遠慮しとくね。ケラケラケラ。」
と笑いながら返事をするとマーチンも笑って応えた。
「カラカラカラ。「キャリバー50」ってか?ユーランのミニクーパーに装備するにしてはデカすぎるし、娘へのプレゼントでさすがにそれは無いわ。ここで話しちゃサプライズにならんからパーティーを楽しみにしておくんだよ。」

 その日は、哲生との業務でFBIを訪れていた。打ち合わせの最後にウーランにFBI捜査官が気になる一言を呟いた。
「最近、周りで不審な者を見たり、不審な事はありませんか?」
 その一言に、哲生が反応し捜査官に尋ね直した。
「なにかあるんですか?特段、気づいたことはありませんが…。」
 捜査官はしまったという顔をして「ならいいんだ。」と言葉を濁し、席を立ち部屋を出ていった。(ん?なんか感じ悪いわねぇ…。なにか「臭う」んやけど、追いかけて問い詰める訳にもいけへんしなぁ…。)と思いながら哲生と共にFBIを後にした。

 ロスのダウンタウンの日本食割烹でランチを食べながらユーランは今晩のパーティーについて思っている事をいたずらっ子の顔をして話した。
「哲生兄ちゃん、今朝ね、お父さんが「サプライズ」で「ビッグなプレゼント」があるって言ってたんだけど、何か知ってる?できたら、「サプライズ」返しでその内容を含めた「お礼の手紙」を贈ろうと思うのよ。
 日本人のお父さんって「娘」の手紙に弱いんだけど、うちのお父さんはどうなのかな?」
 哲生は少し考えこんでユーランの耳元で囁いた。
「そうだな。ボスにサプライズ返しの手紙は面白そうだな。号泣するボスを見てみたい気もするしな…。あくまで俺から聞いたっていうのは無しにして、ユーランが家庭内での「諜報・・」で知ったことにしてくれるなら教えてやるけどその条件でどうだ?」

 間髪を入れず頷くユーランにマーチンの「サプライズプレゼント」と言うのは「ユーラン・ダグラス」としての来年開かれる「東京オリンピック2020」の「女子50メートルライフル3姿勢」の出場枠を争う「全米ライフル射撃大会」の出場権と競技用ライフルを準備しているとのことだった。
「きゃーっ!なんて素敵なプレゼントなの!一度は諦めた「スポーツシューティング」での東京オリンピック出場にチャレンジできるなんて…。くすん。涙が出てきちゃった。
 でも、きっとそんな素敵なプレゼントを考えついたのはお父さんじゃなく、哲生兄ちゃんでしょ?私の勘が「間違いない」って言ってるわよ。」
 うれし涙で潤んだユーランの瞳から視線を外し、哲生は気まずそうに頭をかいた。

 午後7時50分、哲生と一緒に車で帰宅しようとしていたユーランが一つの事に気がついた。
「哲生兄ちゃん、うちの裏のサンディエゴナンバーのあの黒い車この間も止まってたよね。何か少し気になるんで、一度、あの車の横を素通りしてくれる?」
「俺は気づいてなかったけど、ユーランがそう言うなら見てみるか…。」
とスピードを落とし、黒い車の横を抜けた。
 ナンバーは前後別のものがついており、怪しさを感じさせたが車内は無人だった。ユーランは車を降り、ハンカチ越しで指紋を残さないようボンネットに手を添えた。(温かい。止めてからまだ間がない…。こんなところに路上駐車してどこに行ったのかしら…。)と疑問が湧いたが周辺に人の気配はなかった。

 「ユーラン、もう8時だ。行くぞ。ボスを待たせちゃ機嫌を損ねるぞ。」
と哲生に声をかけられ、「不安感」を持ちながらユーランは車に乗り込んだ。
 地下駐車場に車を入れ、邸内エレベーターでパーティー会場になっているダイニングルームに向かい、違和感を覚えた。
「哲生兄ちゃん、複数の人の気配がする。それに「血」の匂いも…。」
 ユーランはハンドバッグからジグ・ザウエルP365を取り出すとスライドを引き第1弾を装填した。

 リビングのドアをゆっくりと開き、室内に視線を送ると血まみれのマーチンが床に倒れているのが目に入った。
「お父さん!」
 ユーランが不用意にドアを引き開けると、屈強な体格の男が太い銃身のライフルをユーランに向けトリガーを絞った。
 プシュシュシュシュという小さな連続音が響くと同時に卓上のシャンパンボトルやワイングラスが砕け、弾け飛んだ。
 (今の銃って「VSK-94」?ロシア製の銃身バレル全体が消音器サイレンサーになってる消音狙撃銃ってことはロシアンマフィア?)と廊下の壁に身を引いたところに大きな花束を持ったギャリソンが現れた。拳銃を構え、戦闘態勢のユーランと哲生に言った。
「おいおい、誕生日パーティーで「戦争ごっこ」かい?硝煙の臭いはパーティーには無粋だぞ。」

 「教官、VSKを持ったロシアンマフィアです!お父さんがやられたみたいで血まみれで倒れてた!」
ユーランの一言でギャリソンは全てを悟り、花束を放り投げ、懐から愛銃のコルト・M1911ナショナルマッチを引き抜くとセーフティーを解除し、ドアを蹴破った。
 ドアに無数の穴が開いた。一連射で間が空いたと思うと「ウニャモロマガズィン(※ロシア語で「弾倉を交換する」の意)」と声が聞こえ、再度、20発の連射音が邸内に響くことが3度繰り返された

 「ユーラン、このコンビネーションはプロだ!おそらく、ロシアンマフィアが送り込んだ特殊部隊「スペナッズ」のOBか何かだ。近接戦闘ではユーランじゃかなわない。
 俺が「突撃アサルト」、哲生とユーランは「後衛バックアップだ。もし仮に俺がやられたら即逃げろ!」
と叫ぶと、一連射が終わった瞬間、ギャリソンは部屋に飛び込み、2連発ずつを2回繰り返した先に右太ももと右肩から血を流す2人の男がうずくまっていた。
 ギャリソンは更に男たちの左足と左肩も撃ち抜き、M1911のマガジンを入れ替え、VSKの給弾装置に拳銃弾を叩き込み、6秒の時間と10発の9ミリ弾だけで2人の敵を完全に無力化した。

 ギャリソンはロシア人の暴漢の顎に蹴りを入れ、うつ伏せにすると後ろ手にした両手の親指をタイラップで縛り上げ簡易の「指錠」とした。
「哲生、ユーラン、厳戒態勢を解かず入ってこい!」
 ギャリソンの声を廊下で確認すると、ユーランが泣きながら飛び込んできた。血まみれのマーチンを抱き寄せ
「お父さん大丈夫?お父さん死んじゃいやだよ。うわーん。」
と膝枕の上にマーチンの頭を乗せ声をかけた瞬間、マーチンが大量に喀血した。

「腹を深く3度刺された。俺はもう長くはもたん。げぼっ…。この間、サンタモニカビーチで遺体で見つかったFBI捜査官が、「PSSD」と「ユーラン」のことを「ゲロ」したらしい。
 こいつらを排除しても、ロシアンマフィアのユーランへの攻撃は止むことは無いだろう。ギャリソン、哲生…、ユーランを…、俺の大切な娘を護ってやってくれ。スイス銀行とケイマン諸島の口座の金を任せる。ロスを出て、ロシアンマフィアの手の届かないところにユーランを逃がしてやってくれ…。頼んだぞ。
ユーラン、お前を「マフィア」の仕事に巻き込んですまなかった。まあ、「Life full of ups and downs…」。「人生波乱万丈」ってやつだ。これからは普通の女の子として暮らしておくれ…。あぁ、ユーランのオリンピックでの晴れ姿を見たかったなぁ…。」
マーチンはユーランの膝の上で未来のオリンピックで表彰台中央に立つユーランを夢見るように目を見開いたまま涙を流し、そのまま息を引き取った。
「お父さーん!お父さーん!」
 ユーランが必死に声をかけるがマーチンの目が再び開くことは無かった。

 泣き叫ぶユーランの背後5メートルで、取り押さえたロシアンマフィアのひとりが動いた。背中側でタイラップで締められた親指を力づくで引きちぎった。右手の親指が付け根から千切れるのが見えた。その出血を受けた血まみれの左手で腰のホルスターから大型のコンバットナイフを引き抜き、ユーランに向けた。
 ユーランは今までの経験で両太ももを45口径9ミリ弾で撃ち抜かれた男が5メートルの距離を瞬時に移動できるわけがないと高をくくっており、ゆっくりとP365を男の眉間に照準を合わせようとした瞬間
「ユーラン、即撃て!スペナッズナイフだ!」
とギャリソンが叫ぶとユーランの動きが一瞬止まった。ギャリソンは瞬時に身体をひるがえしユーランを護ろうと覆い被さるのと同時にロシアンマフィアの左手からナイフの柄だけを残し、刃渡り15センチのナイフの刃部分が時速60キロで発射され、ギャリソンの背中越しに心臓を貫いた。

 「教官!」
白目をむいてユーランにのしかかるギャリソンの大きな体の下でパニックを起こしたユーランの横で哲生が護身用に持ち歩いているリボルバー銃「Kimber K6s」の6発の弾丸を2人のロシアンマフィアの頭部に全弾打ち込むと、窓の外からパトカーのサイレンが近づいてくるのが耳に入ってきた。
 「ユーラン、パニクってる場合じゃない!ここを出るぞ!」

叫んだ哲生はギャリソンの身体をユーランの上から引きはがし、仰向けに寝かせた。その横にマーチンの遺体を並べ、二人の瞼を手でそっと下げると、胸の前で両手を組ませ二人の屍に一礼し呟いた。
「ボス、教官、ユーランの事は必ず俺が護って見せます。今までお世話になりました。ありがとうございました…。」

 マーチンとギャリソンの遺体にしがみつき、泣きじゃくるユーランの首筋に3年前と同じように手刀を浴びせ意識を刈り取ると、室内に暖房用の灯油をまき、短く折ったキャンドルに火をつけ、簡易の自動発火装置を作るとユーランを肩に担ぎ、早足で部屋を出ていった。



「おまけ」




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