『最後に笑えりゃ勝ちなのよ２ｎｄ ～５つ星評価のよろずサービス「まかせて屋」の「元殺し屋」の女主任の物語～』

「PSSD社」

「PSSD社」

　「ユーラン・ダグラス」としての生活が始まり、最初にマーチンからあった指示は、ダグラスの経営する「民間軍事顧問会社」の「｜ＰＳＳＤ社(Ｐｒｉｖａｔｅ　Ｓｅｃｒｅｔ　Ｓｅｒｖｉｓｅ,　Ｄｏｕｇｌａｓ)」で実戦射撃の訓練を受けることだった。
「ユーラン、私の近くにいることでお前にも危険が及ぶことがある。しっかりとここで「実戦闘」を学ぶんだ。攻撃と防御は思考の表裏だ。攻め方を知れば守り方もわかるし、守りの知識を持てば、攻めの思考も膨らむってなもんだ。
　ここの鬼教官は厳しいが、その教えは必ずこの先お前の身を護るために役に立つはずだ。しっかりと鍛えてもらっておいで。」
と日系ハーフの教官「ギャリソン・戸田」と引き合わされた。

　ギャリソン戸田は、元ネイビーシールズの強者の３５歳。父方の日本人の血を濃く引き継ぎ、東洋人と変わらぬ見た目から海軍特殊戦グループ１に配属され、カリフォルニア州コロラド海軍水陸両用基地の極東作戦を主とするチーム５に所属していた時に羽哲生と知り合い、７年前にマーチンのスカウトで「ＰＳＳＤ社」に教官兼部隊長として引き抜かれた。
　主に北朝鮮問題に対応するチーム５にいたこともあり、北朝鮮に潜入し「生」の「金正日」を見たことがあることが自己紹介の中でされたが、ウーランには「金正日」が誰なのかがわからなかった。

　背は１７５センチと高くはないが、鍛え抜かれた肉体と優しい笑顔の中に光る「獣の目」が印象的だとウーランは思った。
「ＰＳＳＤ社は、表向きは「民間軍事顧問」会社として、民間要人の警護ＳＰ業務を行っているが、実際にはＣＩＡやＦＢＩが表立って動けない案件を秘密裏に請け負う事案もあり、その中には「暗殺」業務もある。いわゆる「殺しのライセンス」を持つこととなります。
　ここに来たからにはあなたは女性であることを忘れてください。ボスのお嬢さんといえ例外はありません。
　ネイビーシールズの訓練メニューを参考にしたプログラムでこれから３カ月学んでいただきます。よろしいですか？」
と一方的に言われ、
「えっ、殺しのライセンスって？わ、私にそんな事できるはずが…。」
戸惑ったウーランが弱気な発言を返すと、デコピンされ優しく言われた。
「ここでの教育中の返事は「イエッサー」か「はい、喜んで」だけです。まあ、２０１４年まではシールズは男性限定でしたが、現在は女性隊員もいます。大丈夫ですね。」
「い、イエッサー！」
ウーランが身構えて答えると、笑顔で建物内に招き入れた。
「はい、良い返事ですね。ではカリキュラムを説明しますので会議室に行きましょう。」　

　ウーランはコンバットスーツと編み上げ靴に着替えさせられると、本家ネイビーシールズについての説明から始まった。「ＳＥＡＬｓ」の「ＳＥ」は「ＳＥＡ海」、「Ａ」は「ＡＩＲ空」、「Ｌ」は「ＬＡＮＤ陸」の頭文字から構成され、陸海空とフィールドを問わず「偵察」、「監視」、「不正規戦・・・・」等の特殊戦闘能力が求められる。
　２０１１年５月には、シールズから独立した対テロ特殊部隊のＤＥＶＧＲＵがウサマ・ビン・ラディンの殺害に成功したことが事例として挙げられた。
　入隊資格は１７歳から２８歳で今では女性隊員もいることが付け加えられた。戦闘技術以外にも「ＡＳＶＡＲ」と呼ばれる「語学」、「科学」、「数学」、「暗号化」等、１０種の資質テストに合格することが必要であり、約６カ月の訓練課程を通過できるのは入隊志願者の２０％ほどであると説明があった。

　シールズの有名人として２０１４年の映画「アメリカン・スナイパー」のモデルであるイラク武装勢力と闘い公式で１６０人、非公式では２５５人の敵兵を排除した伝説のスナイパー「クリス・カイル」が紹介された。
「あっ、その映画見ました。私のお兄ちゃんも好きだったんですよ。不謹慎な話ですけど「イケメンだし射撃もクールでかっこよかった」ですよね。」
　ウーランが発言するとギャリソンは笑いながら返答した。
「ほー、「かっこよかった」ですか…。先日まで女子高校生だった女の子のセリフとは思えないですね。カラカラカラ。
あなたは射撃の高校生チャンピオンだったと伺っています。当然、カリキュラムの中には「射撃」も含まれています。しかし「スポーツシューティング」と大きく違う点があります。それは「生きたターゲット」を「的てき」とするところです。
　基本的に「ＰＳＳＤ」では、個人からの「暗殺」、「殺害」依頼を受ける事はありませんが、あなたの「正義」が仕事上の「正義」と一致しないこともあります。
また「ボス」の命令とあらば「非合法」なミッションも実行します。
まあ、ボスと哲生に躊躇なく銃弾を叩き込んだあなたには「向いた・・・仕事」となることを期待しましょうかねぇ。カラカラカラ。」

　そこから３カ月の特訓が始まった。ギャリソンがつきっきりで個人指導してくれるので、真綿に水が染み込むようにウーランは知識と技術を吸収していった。
　座学は以前読んだマンガの知識が少し役に立ち、実銃を使う射撃訓練は楽しく感じていた。拳銃、サブマシンガン、アサルトライフルと扱う銃は徐々に大きくなり、射程距離１０００メートルにもなる長距離狙撃用ライフル銃まで扱えるようになった。
基礎体力訓練は最初の２カ月は「泣き」が入ることもあったが、３ケ月目に入ると、コンバットブーツで１．５マイル（約２，４キロ）を１１分３０秒、平泳ぎで１５００フィート（約４５０メートル）を１２分３０秒のノルマもクリアできるようになり、２分以内の腹筋５０回、腕立て伏せ４２回の課題も達成した。

　１０月に入ると、銃器は爆発物の解体、組み立てを学び、いろんな武器に触れる機会ができた。それに加え潜入工作のためのロープ降下ラペリングやロッククライミングも器用にこなしていった。自動車、オートバイ、発動機付きボートの操縦も習い、セスナ機による高度３０００メートルからのパラシュート降下も問題なく身につけた。
　止血術、緊急縫合手術、生理食塩水と岩塩を使った緊急輸液方法や、手りゅう弾処理、火災処理、催眠術を使った記憶操作まで幅広い実戦研修が行われ、無事９０日の訓練を終えた。
「今まで、いろんな「生徒」を見てきましたが、あなたほど「器用」で「繊細」で「努力を怠らない」人はいませんでした。
　では、明日は「卒業検定」です。今日はゆっくり睡眠をとるように。」
と言われたのは１０月１０日のことだった。

　翌日、ギャリソンから命じられた訓練は「狙撃による暗殺」だった。ターゲットはダグラスと敵対する「メキシカンマフィア」の「薬物取扱者」だった。
　ＦＢＩが手を焼く、不法入国者であり、ロサンゼルスの一般人に覚せい剤を広めるいわゆる「売人排除」が目的であり、「ダグラスファミリー」にもメリットのある話だった。
「さて、ウーラン、これがターゲットの顔写真です。身長、体形をしっかりとイメージに叩き込んでおいてください。
　取引予定場所には、こちらが仕込んだ「購入者仲間」がいます。絶対に「的てき」と間違えないようにして下さい。
そしてこの地図が取引現場を中心として半径１キロの範囲の地図です。狙撃場所の選定はウーランに任せます。今から「普段着」に着替えて、午前中のうちに下見をしてきてください。使用銃もウーランが選定してください。
午後１時までにプランを作成し、私の部屋に報告に来るように。くれぐれも、現地で目立った行動は控えるようにするように。では、行ってきなさい。」
ギャリソンに見送られて、会議室を出たユーランは（ついに、「殺し」のデビューか…。よもやの「転身」にお兄ちゃんが聞いたらきっと卒倒しちゃうよね…。でも、ここまで私が生きてられるのは本当のお父さんと今のお父さんのおかげ…。なんとか、うまくこなして恩を返さなないと…）と着替えながらシミュレーションに入った。



「おまけ」