『最後に笑えりゃ勝ちなのよ2nd ~5つ星評価のよろずサービス「まかせて屋」の「元殺し屋」の女主任の物語~』 

M‐赤井翼

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「競技射撃」

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「競技射撃」

 9月3日、ロサンゼル市内にあるインターナショナルハイスクールの入学式の場に羽蘭の姿はあった。日本での中3の1学期が終わったところではあるが、アメリカでの高校1年への編入が認められた。
 インターナショナルをうたうだけの事はあり、ロザンゼルスに勤務するアメリカ国外の労働者家族の、いわゆるプレスクール幼稚園からハイスクール高校までの約500人が通う多国籍生徒の為の学校だった。

 心配していた「言葉」の問題は杞憂に終わった。日本人学生が全体の2割を占めるこの学校では、授業は日本語の同時通訳のレシーバーが貸与され、「北京語」、「ハングル」、「フランス語」、「ドイツ語」を母国語とする学生と同様に英語力が日常会話レベルであっても大丈夫だった。
 休み時間や放課後は女学生同士、アメリカに永く住む「バイリンガル」、「トリリンガル」の友人が早々にでき、友人通訳を通じての会話を楽しんだ。

 入学3日目には授業のオリエンテーションも終わり、クラブ・サークルの勧誘活動が始まった。裕福な家庭の子女が多いらしく、たくさんのクラブ・サークルが存在しており、各ホームページのQRコードが記された総合案内が配布された。
 その中で羽蘭の目に留まったのは「射撃部スポーツシューティングクラブ」だった。同じくロサンゼルス市内にある「アメリカ人」の「初等部」、「中等部」、「高等部」の系列母校と共通のクラブは、全メンバーで30名が所属しており、「学生射撃大会」でも入賞実績のある本格的なクラブで、本校提携の射撃場もあり雄拓が許す範囲の費用で活動ができるとのことで一発で入部を決めた。

 学校のクラブ活動は週3日。空いている2日はインターナショナルスクールからリトルトーキョーのガンショップまでバスで10分という事もあり、「ガンショップ」のジュニアチームとかけ持ちの「シューティングライフ」が始まった。
 学校でのクラブは「スポーツピストル」で始まる中、ガンショップのジュニアチームでは店長が常に先の「種目」にチャレンジさせてくれたので新入部員の中では別格の成績を上げることができた。
 入学2か月目の10月には「エアライフル」と「スモールボアライフル」にもチャレンジし始めた。立ち位置で照準する「立射」、胡坐あぐらや斜め座り体勢での「座射」、片膝を立てて構える「膝射」に加えて、本来男子のみの競技である地面に伏せて撃つ「伏射」もガンショップでは練習させてくれた。

 そのおかげもあり、ライフル射撃の腕もメキメキと上がり、父の田舎の北海道東部では日常の足として覚えたクロスカントリースキーの技術と持ち前の体力で、入学3月目の11月末には、カナダやアラスカへの遠征があり他の女学生から敬遠されがちだった「冬のシューティングゲーム」の「バイアスロン」の強化選手に指名された。
 日々、10キロの重りの入ったバックバッグを背負い、射撃場の周辺2キロを走っては休む間もなく射撃場に入り、15秒で呼吸を整えライフル射撃に入る練習を繰り返したことで年末の12月に初めて参加したアラスカでの「バイアスロン」の女子高生分野で全弾命中させ、いきなりの3位入賞を果たした。

 このトレーニングが羽蘭の基礎体力を作り上げ、大型の銃も取り扱えるようになった。大きなライフル銃や散弾銃を振り回せるようになったことで「クレー・トラップ射撃」もこなすことができるようになった。
 ガンショップの店長は羽蘭に新たな提案を持ちかけた。
「うちは「カスタムビルダー改造銃屋」でもあるんで、「バイアスロン」や「スモールボアライフル」、「クレー・トラップ」で15歳の初心者の羽蘭ちゃんが活躍してくれたら新規の客も増えてありがたいんやわ。
 実銃射撃の前の入門用に、「モデルガン」で撃ち合う「大人の戦争ごっこ」と言われる「サバイバルゲーム」のチームもあるんやけど、そっちの大会も参加してもらえないかな?もちろん、道具代と遠征代は店で持つから、一度参加してみないか?」
 
 店長の誘いにのった羽蘭は大人に混ざっての「サバゲー」の虜になった。「固定」位置からのシューティングと違って、移動しながら「移動する敵」を撃つ「コンバットシューティング」は新たなフロンティアであった。
 小柄で俊敏性のある羽蘭は、サバゲーの世界でもメキメキと才能を伸ばし、近接コンバットの「ハンドガン」クラスでデビューすると、「アサルトライフル」の電動ガンを使った「中距離戦」、射程70メートルの狙撃用モデルガンと徐々に使用銃の範囲を広げていき、男性ゲーマーを次々と「ヒット」していった。
 また、通常の「サバゲー」で使う「BB弾」を使用しない、次世代サバゲーの「赤外線銃」を使った200メートル狙撃でも羽蘭の才能は、他のチームのプレイヤーだけでなく、ガンショップの店長も驚かせ、うならせた。
「羽蘭ちゃんやったらグリーンカードさえ獲ったら「シールズ」でも「グリーンベレー」でも入れるよ!いやー、この店開いて30年になるけど羽蘭ちゃん程の銃の才能を持った子は初めてだな!いったい何で射撃を学んだんだい?」
「きっと、日本で読んだマンガですよ。凄いスナイパーがいっぱい出て来てましたから。ケラケラケラ。」
と羽蘭は笑った。

 学校のクラブ活動とガンショップの射撃競技のジュニアチーム、大人も混じっての「サバイバルゲーム」で無敵の強さを見せる羽蘭は、ハイスクールの2年に進級すると「部長」を任され、秋からの大会で拳銃を使った「スポーツピストル」、エアライフルの「スモールボアライフル」の「3姿勢」全て、そして「クレートラップ」の高校3冠を獲得するにとどまらず、12月に開催された「バイアスロン」でも高校チャンピオンとなった。
 
 翌年2月にカナダで開催された一般人扱いで出場した「バイアスロン大会」の女子の部でも優勝し、全米クレー射撃、全米ライフル射撃の300メートル先の固定目標を狙い撃つ「ビッグボアライフル」でも女子の部の優勝を独占した。
競技によっては同条件の男子選手より好成績を上げたものもあり、5月には「アメリカ国籍取得」の条件はあるものの、次の「冬季」、「夏期」オリンピックの射撃競技の強化指定選手に登録されることになった事は羽蘭を喜ばせた。

「ふーん、羽蘭の才能がそこにあったとはね…。これはアメリカに来なければ「発掘」されなかった才能だね。お父さんは精一杯応援させてもらうから、欲しい銃や装備があれば何でもお父さんに言いなさい。」
と大会優勝のお祝いで来たレストランでの食事の最中に雄拓は羽蘭に言った。
「うーん、ちょっとお金がかかるみたいなんだけど、グリーンカードをもってる在米日本人との「特別養子縁組」で「アメリカ国籍」が欲しいかな。年内にアメリカ国籍を取得したら2020年に東京で開かれるオリンピックに出られる可能性もあるねん。
 オリンピックに出られるチャンスなんか日本に帰ったらないもんね。いつでも戸籍を元に戻せる短期での「国籍」の売り買いがあるみたいなんだけど、それには「10万ドル」程かかるみたいなんで…。
 ごめん、お父さん、今のは忘れて…。冗談やからね。」
と視線を逸らし、謝る羽蘭の言葉に(こうして俺の為にアメリカまでついて来てくれた娘の「夢」の為なら、何とかしてやるのが「親」の務めだよな…。しかし、洋孝への仕送りを考えると、一時的な出費で「10万ドル」はきついな。「10万ドル」と言えば「1180万円(※2016年6月当時1ドル=118円で計算)」…。預金で何とかなる金額じゃないな…)と思いながら、雄拓はグラスの白ワインを一気にあおった。



「おまけ」


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