『俺のマンガの原作者はかわいい浮遊霊小説家《ゴーストライター》』

M‐赤井翼

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「第2部「ヤングレボリューション」編」

「クリスマスイブイブ」

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「クリスマスイブイブ」

 12月23日、大阪は暖冬傾向の気圧配置が続き、「ホワイトクリスマス」は全く期待できないクリスマスイブイブを迎えた。
 先週、幸が打ち合わせに来た際、羅須斗が近くのコンビニに飲み物を買い物に出た間に幸は
「礼お姉さま、私、覚悟を決めました。来週、23日に「余命半年を宣告された嫁が…」のサンプル本をお持ちした時に、崖淵先生、いや、羅須斗さんに告白します。「担当」としてではなく「ひとりの女」として「愛してます」と伝えるつもりです。成功を祈っていてくださいね。」
と礼に宣言していた。話がそこまでいった時に羅須斗が戻ってきたのでそれ以上その話題が進むことは無かった。

 礼は、12月の頭に羅須斗が電話で23日の午後7時から大阪市内の高級ホテルのディナーと部屋を予約していたのを偶然、耳にしていた。その旨を幸に伝える機会は無かった。礼は羅須斗が電話予約をするのを聞いて以降、誰と行くのか羅須斗の行動を注視していたのだが今日の時点になっても相手は確認できていない。
 (薄井さんは今のところ「自分から誘う」って言ってたってことは羅須斗君から「誘われてない」ってことよね。いったい誰と行くのかな…?)礼は気になっていたが「誰と行くの?」と聞く勇気はなかった。

 昼の1時に幸がサンプル本を届けに来る予定なのでそれまでに羅須斗の予定を確認しようと、羅須斗の動きを注視していたがそれらしい連絡や言動は無かった。
 「ピンポーン」、1時ちょうどに、11冊の印刷したての「余命半年を宣告された嫁が…」の第1巻を持って幸がやってきた。10冊を羅須斗に手渡し
「コミック発刊おめでとうございます。これで崖淵先生も「印税作家」ですね。これからもガンガン書いて「大物作家」になってください。つきましては、最初のサイン本を私にプレゼントしてもらえませんか?」
とマジックペンと1冊の「余命半年~」の現本を羅須斗に差し出した。羅須斗は、「ちょっと待ってな。」ともらった10冊のうち1冊を寝室に持っていき、しばらくしてから戻ってきて、幸の本にサインを入れ、手渡した。
「きゃー、ありがとうございます!私の宝物にしちゃいますよー!ところで、崖淵先生、今晩、予定入ってるんですか?私、この後、担当してる関西の先生、2件にクリスマスプレゼント持っていくんですけど、夜、お時間あるようでしたら担当としても先生のファンとしても個人的にお祝いさせてもらいたいんですけど…。」
 真っ赤になって、羅須斗を誘った幸に申し訳なさそうに「ごめん、今日は予定入ってんねん。お祝いはまた後日にしてもろてええかな。」と断りを入れた。(あー、やっぱり薄井さんとじゃなかったんや…。もしかしてご家族さんとの食事なんかな?うーん、それやったら「部屋」を取る必要はあれへんよな…。いったい誰と?)礼は一人で首を捻った。

 「あー、残念です…。じゃあ、お祝いはまた後日にさせてくださいね…。」
と幸の「告白」の決心は肩透かしを食らってしまった。その後、27日の大型書店でのサイン会の段取りと、1月7日の出版社の新年会について幸は話し終わり、「先生、27日のサイン会の後のご予定は?」と尋ねると「27日は空いてるで。難波か新世界で忘年会でもしよか?個室の店やったら礼ちゃんも行けるしな。」との返事に礼は「私は表のお店は遠慮しとくは。どこで「見える人」に会うかわからへんから…。」と幸に気を利かせた。
「せやったらしゃあないな。薄井さんにはこの8カ月めちゃくちゃお世話になったから、お礼もせなあかんしな、じゃあ、礼ちゃんはお留守番でごめんやで。」
羅須斗が礼に両手を合わし、小さく頭を下げると、「じゃあ、お店は私が決めておきますから。先生と二人でご飯できるの楽しみにしてますね。」と言い、幸は次の訪問先に向かった。

 幸が羅須斗のマンションを出た後、幸がソファーにセカンドバッグを忘れていたことに気が付いた。電話をすると「迷惑かけてすみません。今から2件、他の先生のところをまわった後、6時ごろに取りに寄らせてもらいます。」と幸は答えた。
 電話を切った後、羅須斗は礼に言った。
「礼ちゃん、今晩、一緒に出かけへんか?この1年のお礼って訳やないねんけど、ホテルのレストランと部屋取ってるねん。沖縄旅行以降、一緒に出かけることってあれへんかったやろ。俺からちょっとしたサプライズもあるから付き合ってくれへんか?
 「ノー」の返事は不可やで。さすがに24日のイブは予約はとられへんかったから、1日早いクリスマスや。俺から礼ちゃんへの「プレゼント」も用意してるねん。「高い」フレンチの「個室」レストランも「高い」ホテルも予約済やから、当日キャンセルは100%払わなあかんことになるから絶対来てや。カラカラカラ。」
 (えっ、私の為のレストランとホテルやったん?そんなん言うても私食べられへんし、どうしようもないやん…。)と思ったが「私でええの?」しか言えなかった。羅須斗は満面の笑みで頷き、梅田の外資系高級ホテルの名前とその最上階にある有名な高級レストラン名を礼に伝えた。

 「じゃあ、俺、今から親父とおかんと兄貴に「サンプル本」持っていってくるわ。その後は、梅田で寄るとこあるし、「お清め」もせなあかんから先に出るわな。薄井さんが6時にきたら、玄関まで出ていってオートロックを開けたって。部屋のロックは開けておくから、薄井さんがバッグ受け取ったら合鍵で締めてポストに入れてもらうよう言うといてな。薄井さん帰ったら、7時に「空飛んで」ホテルのレストランに来てな。地上35階のスカイレストラン南側の窓際の個室やからええ雰囲気やと思うで。礼ちゃんも香りと「目」で楽しめるよう「創作フレンチ」の最高級のコースを頼んでるからな。思い切って、ボルドーのビンテージワインも頼んでるから楽しみにしとってや。」
と笑顔で一方的に話されたので、礼は何も言えなかった。

 羅須斗は、寝室に入り小さなカバンを持って出てくると、サンプル本を3冊放り込むと、残った6冊をパソコンデスクに置き、
「そしたら、俺は出かけるわ。薄井さんの件だけ頼むわな。じゃあ、7時にホテルのスカイレストランでな。他の人に見つからんように空飛んでくるんやで。7時には俺が先に部屋に入ってるから窓の外から覗いてくれたらわかるやろ。じゃあ、俺からの「プレゼント」を楽しみにしとってな!」
 戸惑う礼を部屋に残し、羅須斗は午後4時に出かけていった。

 (あぁ、私どうしたらええねやろか…。羅須斗君の言ってたレストランって、一人3万円は下らへんってテレビで取り上げられてた高級レストランやろう。きっと2人前頼んでるよな…。部屋だってクリスマス料金やったら8万から10万するかもしれへんもんな…。羅須斗君がどんなに優しくしてくれても、私はしがない「浮遊霊」…。あくまで私は羅須斗君の漫画原作の「浮遊霊作家ゴーストライター」でしかないんよね…。ここは、羅須斗君のことを考えたら、やっぱり本物の「人間」と付き合うべきよね…。うん、絶対そう…。そうに決まってる。となれば、羅須斗君のことを考えて私がとるべき行動は一つよね…。)ひとり悩んで礼は一つの結論を出した。
 時計を見ると時刻は午後5時50分になっていた。(もうすぐ薄井さんが来る…。頭を整理しておかなきゃ。)礼は、ソファーに座ると幸に何を話すかを頭の中でまとめに入った。

 「ピンポーン」5時55分にインターホンのモニターに巨大な胸が映し出された。礼は、ドアをすり抜けオートロックのマンション玄関に向かった。幸は礼の耳打ちする番号を入力し、玄関ホールを抜けエレベーターに乗り427号室に向かった。
 羅須斗のいない部屋に入りセカンドバッグを大きなトートバッグに入れ、帰ろうとすると真剣な顔の礼が引き留めた。
「薄井さん、今から羅居斗君のことで大事な話があるんやけど聞いてくれる?」
「えっ、何?礼お姉さま…、お顔が怖いんですけど、かしこまって何の話ですか?」





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