『俺のマンガの原作者はかわいい浮遊霊小説家《ゴーストライター》』

M‐赤井翼

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「第2部「ヤングレボリューション」編」

「後押し」

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「後押し」

 羅須斗が戻った部屋で打ち合わせが始まった。礼に目配せされ、幸が主導で打ち合わせを始めた。
「稀世ちゃんの「シーズン1」は予定通り、20話で締めましょう。編集部では、「引き伸ばし」の意見もありましたが、今のネームが完成され過ぎてますのでここは予定変更することなく、一度、話は締めくくって、新たなテーマで間を空けずに「シーズン2」に入るのが良いと思うんですけど、崖淵先生はどう考えられてますか?」
「それでええんとちゃう。礼ちゃんと居ったらなんぼでも話は湧いて出てくるし、稀世ちゃんや周りのキャラも固まってきてるから新機軸を打ち出すのもええんとちゃうかな。
 シーズン1は「コミックス化」を前提に考えてたからちょっと詰め込み過ぎた感もあったけど、これからは派手な「アクション」やちょっと凝った「謎解き」ストーリーがあってもええわな。脇役のニコニコプロレス後輩のなっちゃんや陽菜ちゃんにスポットをあてるストーリーも考えられるしな。編集部の意向に沿って、進めていくんでもかまへんで。」
 羅須斗は礼に視線を送ると、礼は静かに頷いた。

 「では、編集部としての希望を伝えさせてもらうとですね、今までレボリューションの「女性アクションもの」を引っ張ってくれていた作品が年内で完結すると聞いています。そこに「稀世ちゃん」をはめ込みたいと思うんですけどいかがでしょうか?
 せっかくのプロレスラーのキャラが、最初の診断を受けるきっかけになった試合シーンと最終話の復帰戦のシーンしかないのはもったいないです。そこで、「試合」もそうですが、稀世ちゃんのフィジカルを活かしたアクションシーンが出てくるストーリーを組んでいきたいと思います。私的には、女性でも子供でも知ってるという意味で実在レスラーの「タイガーマスク」モチーフに稀世ちゃんをキャラ付けしたいです。」
の幸の一言で3人の会議が始まった。
 幸はつい先ほど読んだ、礼の作った「余命半年~」の第3話で、稀世が佐山サトルの初代「タイガーマスク」のビデオに感化されて、パルクールのムーブを取り入れた「女タイガーマスク」スタイルのファイトを身につける話をかいつまんで提案した。

 足りない部分は礼が補足することで礼が生前に作ったプロットに沿ってストーリーは進んでいく。元々プロレス好きの羅須斗もノリノリでストーリー作りに参加した。(うーん、打ち合わせの流れ作りも礼お姉さまは旨い。崖淵先生も気持ちよく参加できてるし、意見を取り込んでいってる。)と幸は感心した。
 ニコニコ商店街にパルクールチームが来て、そこに特別参加した稀世が自然と「タイガーマスク」のファイトスタイルを身につけていく話がどんどんと出来上がっていく。その流れで「ユーチューブ」にアップされた稀世の試合を見たWWEのマネージャーが視察に来て、日本大会に特別参戦することになったり、大阪万博のプレイベントに招待されそこで起こった爆弾事件で身体一つでテロリストに挑む稀世と命を懸けてそれを献身的にサポートする三朗の活躍が素案としてまとめ上げられていった。

 約3時間ほどで、「シーズン2」の概要が組み上がった。その中で、いくつかスピンオフ的な発想も出てきたので並行してチャプターを書き進めていった。そんな時、幸のスマホが鳴った。ヤングレボリューションの編集長からの電話だった。
 幸は手短に「余命半年~」の「シーズン2」は「アクションもの」で進めると説明し、ストーリーの概略を説明した。編集長は了承した後、羅須斗の原稿進行のゆとりについて尋ねられた。ネームの書き直しがほとんどないため、余裕があるのはわかっていたがあえて聞いた。
「描き溜めも4話分はあるんで、全然余裕はありますけど何か?」
と尋ねる羅須斗に、幸のスマホを通じて編集長から「「別冊月刊レボリューション」で稀世ちゃんのサイドストーリーを読み切りで描いてくれないか?」との依頼が投げられた。羅須斗は、先ほどまで打ち合わせていたスピンオフの話を持ち出した。
 タイガーマスク技を身に着けた稀世に次々と謎のマスクマンを送り込んでくる新興プロレス団体との対決ものの話を説明すると「いいねえぇ、それ。薄井は今日はそっち泊まりでいいから、明日の夕方までに素案をまとめてきて欲しい。」と頼まれた。
 
 電話を幸に戻すと、5分程の話で編集長の電話は切られた。
「崖淵先生、すみません。稀世ちゃんの試合シーンが見たいって話がネットで盛り上がってるみたいで、別冊で試験的にあげてみたいようなんです。まあ、体のいい「別冊」への「テコ入れ」が本当のところなんですけどね。無理言いますが、ご協力いただけますか?なんなら、アシスタントはこちらで準備しますんで。」
と恐縮する幸に気を使って礼が羅須斗に「時間は余裕あるし、アクションは羅須斗君の得意分野やし描いてみようや。シーズン2への試金石になるかもしれへんやん。」と促した。
 羅須斗は申し出を快諾し、出前を頼んで引き続き「読み切り」の打ち合わせに入った。もしかすると、月刊も連載になることも踏まえて、読み切りでありながら、先に続くストーリーで考えを進めた。別冊は、読者層が少し上の年齢層になるという事で、往年の名レスラーが「ゾンビレスラー」としてこの世に蘇るという礼が過去に描いたストーリーをベースに、3人で話し合った。

 話は、タイガーマスク技を習得して連勝街道をまっしぐらに突き進む稀世に、試合後、怪しいサングラス姿のマネージャーが一人のマスクマンを連れてリングに上がってくる。止めに入った、ニコニコプロレスのレスラー達は簡単に打ちのめされる。逆上した稀世の攻撃もたやすく止められてしまう強さを持った謎のマスクマンの挑戦を稀世が受けるところからストーリーは始まる。
 以前、セミドキュメンタリーのプロレスマンガを担当した者から、元「タイガーマスク」やレジェンド「女子レスラー」の実名登場の許可が得られることがわかり、敵役は往年のレスラーの「クローンレスラー」とすることが決まった。

 稀世は、初代タイガーマスクの元で修行を行い、謎のマスクマンを相手に流血、負傷を負う大苦戦の末に退け、マスクを剥ぐとその正体は、かつて人気絶頂だったころの女子プロレスの人気ヒール「極悪連合」の若かりし日の「ブルドック仲田」だった。
 最終コマで次の刺客として、同じく「極悪連合」の「ダンプカー松田」を思わせるシルエットが描かれ終わるネームで締めくくった。
 幸が編集部にメールを送ると「即OK」が出され、2週間後の入稿、10月1週目の発売となった。その反響はオールドファンからのものだけでなく、女子プロレス界からかつての獣神サンダーライガーやアグネス仮面のように、レスラー「安稀世」を名のりたいというオファーが複数の団体、レスラーから編集部に寄せられた。別冊月刊レボリューションのホームページで「命名 安稀世カップ」が告知され、稀世のキャラに似せるようショートカットにした大阪のインディーズの若手ホープが選ばれた。
 悪乗りした編集長が「崖淵先生似顔絵は得意かな?稀世ちゃん率いる「正統女子プロ軍団VS悪のクローンレスラー軍団」ってことで、実在する若手レスラーで漫画に出たいってレスラーを募集してもいいかな?」と企画を持ち込み、リアル「安稀世」の他、4人の登場レスラーが決まった。
 
 「勝負」、「団結」、「友情」の定番テーマで別冊月刊レボリューションでの連載も「余命半年~」に重ねて「アルティメットバトル!オールジャパン女子プロ連合VSレジェンドクローン軍団」を執筆することになった。そこで登場するレスラーは、ニコニコプロレスメンバーとして「余命半年~」にも登場することとなり、新たなファンがついた。
 プロレスインディーズ団体からは、大会パンフレットのイラストや女子プロ4コマ漫画などの依頼もあり、羅須斗の「絵」がいろんな紙媒体やネットにアップされた。
 そんな中、女子プロレス好きで有名な「インフルエンサー」が「余命半年を宣告された嫁が…」と「アルティメットバトル!オールジャパン女子プロ連合VSレジェンドクローン軍団」を取り上げバズった。羅須斗は複数のマスメディアに取り上げられ、一躍、時の人となった。











おまけのおまけ!

「余命半年~」の初期の初期(笑)。
「余命100年の嫁」から改題したころの非営利の「非売品」で「P」の「larebon」さんのイラストを使わせていただいていたころの「表紙」(笑)。



いまだに「P」では「余命100年の嫁」のタイトルのまま公開されてます。
「大人の事情」ですので「悪しからず」(笑)。(。-人-。) ゴメンネ

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