『俺のマンガの原作者はかわいい浮遊霊小説家《ゴーストライター》』

M‐赤井翼

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「第2部「ヤングレボリューション」編」

「人気投票」

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「人気投票」

 あっという間に6月を迎え、羅須斗のヤングレボリューションでのデビューとなる「余命半年を宣告された嫁が…」の読み切り掲載号の発売日を迎えた。通常の週刊連載の2週分になる48ページの読み切りは、稀世と三朗の結婚後、商店街で起こった事件を稀世と三朗たちが解決し、当事者が改心し商店街の仲間に加わる話だった。
 両親が別居し、母親は家を出て飲んだくれの父にろくにご飯を食べさせてもらえない8歳の兄と5歳の妹の「万引き兄妹」を稀世が捕まえたことをきっかけにした、ニコニコ商店街での「こども食堂」開設は「助け合い食堂」テイストを交え、旧作のファンからも評価が高かった。
 また、ブラック新聞販売店社員でもらい事故で配達用バイクを破損したヤングケアラーの少年配達員が店主に命じられてニコニコ商店街の酒屋のバイクを盗もうとしたのを稀世たちが止め、その事情を知った商店街のみんながブラック新聞販売店を辞めさせる話もウケた。その後、商店街の仲間として受け入れる「下町物語」に加えて、ブラック販売店の「成敗」シーンでの元女子レスラーの稀世のアクションシーンにそこに交えた「お色気トラブル」など読み切りならではの「幕の内弁当」感も礼の組んだストーリーと羅須斗の優れた作画により、48ページを一気に読ませる馬力があった。

 雑誌で行われる「人気投票」はリアルタイムで結果が反映するネットによる人気投票に加えて懸賞はがきによる投票の結果を待つのに2週間かかる。新人の「羅須斗礼」には「ファンの組織票」など存在しないためおとなしく結果を待つしかなかった。
 独りドキドキし、毎日のように編集部の中間集計を気にする幸に対して、羅須斗と礼はいたって冷静だった。
「崖淵先生、なんでそんなに冷静でいられるんですか?連載になるかどうかの「決戦」なんですよ!」
と興奮気味に煽る幸に羅須斗は冷静に答えた。
「今の時点での俺の「ベスト」を描けたから…。これがあかんかったら、本編もあかんってことやろ。薄井さんも精一杯やってくれて、センターでカラー表紙までつけさせてくれたやん。これで文句言うたら「罰」があたるってなもんやで。まあ、編集長からは、「一桁順位」やったら7月から。そうでなくても9月の改正期にはやるって言うてくれてるから今は描き溜めるだけやろ。」

 「もしかして、崖淵先生の守護霊さんが未来を見てきて結果を知ってたりするんですか?だって、9月連載開始やと、年内のコミックス発売はぎりぎりになってしまうんですよ!」
「あほ言いなや。そんなことあるかいな。でも、ヤングレボリューションと薄井さんにはチャンスをもらったわけやから、どんな状況であっても原稿を落とすことの無いように俺は頑張るだけやろ。」
 温度差のある電話が繰り返される。パソコンデスクで連載用の原稿のペン入れを続ける羅須斗の横で礼はニコニコとほほ笑んでいる。「まあ、結果が出たら電話ちょうだいな。」と羅須斗が電話を切ると
「薄井さんが「奥さん」になったら羅須斗君も大変やな。あの馬力は普通やないでなぁ。でも、熱心で気遣いもできるし、可愛いし巨乳でええ担当さんやと思うわ。羅須斗君はどない思ってんの?ケラケラケラ。」
 悪戯っ子の顔をしてからかう礼に
「薄井さんはええ担当やと思うよ。ただ、今は、しっかりと読者の期待に応えられる作品を作るだけやろ。残された時間は半年しかあれへんねんからな。まさに余命半年の「稀世ちゃん」と同んなじや。礼ちゃん、しっかりとフォロー頼むで!」
と真面目に返事をした。礼は「がんばってや!羅須斗先生!」と笑顔で声をかけた。

 掲載号発売から15日目。ついに人気投票の結果の発表日を迎えた。幸からは朝の9時には発表になると聞いている。8日目の速報では「8位」の位置につけていたのだが、6位から12位は接戦であり、はがきの投票によっては順位が大きく変わる可能性があると聞いている。
 昼12時、電話が無いことでダメだったと思っていたが、羅須斗のスマホのバッテリーが切れていたことに気がついた礼が羅須斗に指摘して充電ケーブルを差し込んだその瞬間、着信音が鳴った。スマホ画面には「薄井さん」と出ている。
「もしもし、崖淵先生ですか?何で電話出ないんですか「6位」ですよ!「6位」!「余命半年~」の連載決定ですよ!今からそっちに行きますので!」
と言われた5秒後にインターホンが鳴った。
 室内モニターの画面いっぱいに「大きな胸」だけが映っている。「先生、開けてください!」の言葉の迫力に押されて、羅須斗は解錠のボタンを押してしまった。(しもた、礼ちゃん居てるんやった。)と後悔する前に、部屋の前の呼び鈴を押すことなく「失礼します!入りますよ!」の声と同時に両肩にクーラーバッグを掛けた幸が飛び込んできた。

 「崖淵先生!礼お姉さま!7月からの連載決定です!おめでとうございます!「崖淵先生ばんざーい!」、「礼お姉さまばんざーい!」、「余命半年ばんざーい!」、「稀世ちゃん&サブちゃんばんざーい!」」
と羅須斗と礼の前で幸が狂喜乱舞している。
「へ?「礼お姉さま」ってなに?なんで薄井さんが礼ちゃんのこと知ってんの?」
羅須斗が目を点にして固まっていると、幸はクーラーバッグからスパークリングワインと3つのグラスを取り出すと一つを羅須斗に渡し、次のグラスを礼に渡し手を離した。
 「パリン!」とグラスが床に落ちて割れた。そこで、幸は「夢の世界」から「現実の世界」に引き戻された。

 「あっ…!」動きを止め、礼の顔を覗き込む幸に「あーあ、やっちゃった…。」と礼が呟いた。
「えっ、薄井さんと礼ちゃん、知り合ってたの?「まじかる」?いったいいつから…?」
 何も言えなくなった幸に代わって、礼が羅須斗をとりなした。その間、幸は気まずそうに割れたグラスのかけらを拾っていった。
 破片を拾い終わると、上目遣いに羅須斗の顔を覗き込みながら幸は尋ねた。
「すみません。私、「連載開始決定」が嬉しすぎて我を忘れてしまってました…。先生…、怒ってます…?」
「うーん、理由は後で詳しく聞くわ。すべてはスマホの電池切れに気付いてなかった俺のせいやもんな。わざわざ、それを知らせに来てくれたんやったら怒るわけにもいかへんやろ。まずは、薄井さんの持って来てくれたワインで乾杯しようや!」

 羅須斗は編集長が持たせてくれたというクーラーバッグでしっかりと冷やされた高級スパークリングワインの栓を「ポン」と抜くと、礼と幸をソファーに座らせ、いつぞのように幸の短いスカートの太ももにバスタオルをかけると二人の前のグラスにワインを注いだ。自分は割れたクラスの代わりのビールグラスに注ぐと
「まずは、「余命半年を宣告された嫁が…」の連載決定にカンパーイ!」
と声を上げると礼と幸も乾杯の発声と共に礼は大きな拍手を送り、幸は美味しそうに一気に飲み干した。
 歓喜の乾杯は、幸が持ってきた2本のボトルのうち1本を速攻で空にした。一本が空いた時点で、幸が思い出したように編集長からの「オードブルセット」のパッケージをテーブルに広げた。
 ローストビーフ、生ハムメロン、鴨のパストラル、ハーブソーセージ、4種の本場チーズセットをアテに二本目のスパークリングワインも30分持たずに空になった。

 少し、落ち着きを取り戻した自宅スタジオで礼と幸のこの2か月の交流について語られた。幸が大阪に来た際には、羅須斗との打ち合わせの前後で2人で逢い、打ち合わせをしていたことが2人の口から語られた。
 羅須斗の気持ちには「怒り」や「疎外感」の感情は全くなく、自分の知らないところで支え続けてくれた二人の女性への「感謝」の気持ちしかないと本心から伝えた。










余談ですが「余命半年を宣告された嫁が…」シリーズの表紙を描いて下さったのは、アルファポリスだけでなく文彩堂出版でご活躍されている「野生ハンター」の作者の「駒良瀬洋」大先生です!
Σ(゚∀゚ノ)ノキャー
描いていただいた表紙が「コレ」!ヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪



5冊まとめて、描いていただきました!
感謝感激雨あられですね!
ヤフーアカウントが止められて、メールできなくなってしまったのが残念です!
もし、駒良瀬先生、読んでいただいてましたら「新アドレス」にご連絡くださーい!
(。-人-。) 
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