『俺のマンガの原作者はかわいい浮遊霊小説家《ゴーストライター》』

M‐赤井翼

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「第2部「ヤングレボリューション」編」

「ヤングレボリューション編集部」

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「ヤングレボリューション編集部」

 その日の晩、羅須斗は礼と二人で部屋でゆっくりと祝杯を挙げた。
「なんかとんとん拍子で話が進んで怖いな。明日、新幹線が事故起こして死んでしもたりしてな。カラカラカラ。」
羅須斗がふざけて笑うと
「縁起でもないこと言わんとってえな。せっかくつかんだチャンスやん。羅須斗君、これを逃さんように頑張らなあかんで!」
礼が発破をかけた。
 安物の芋焼酎のお湯割りでほろ酔いの羅須斗はネームを作りながらご機嫌で礼とのおしゃべりを続けている。礼も芋焼酎の香りを楽しみ、酔いが回った気がした。
「羅須斗君、それにしても担当の薄井さんって凄いダイナマイトボディやったよな。ボン、キュ、ボーンって感じでいてめっちゃ可愛いロリ顔…。生足だして、おまけに性格も良さそうやん。羅須斗君もこれで「リア充」の仲間入りやな。薄井さんも羅須斗君のことまんざらでもなさそうやしな…。」
礼が言葉に詰まると、「せやな。生身の女の子と1時間以上話したん初めてやから少し緊張したわ。」と鉛筆を走らせながら羅須斗は何の気なしに呟いた。礼は少し寂しそうな顔をした。

 「ところで羅須斗君、薄井さんになんか感じへんかった?」
「えっ?あの恰好は参ったけど、本人の意思やないってことやったし、真面目そうでええんとちゃう?」
礼の投げかけに的外れな回答を返した羅須斗に礼は真剣に言った。
「薄井さん、私のことが見えてるんとちゃうんかな…?何度も目が合ったし、移動しても視線が追いかけてくるんよ…。」
 羅須斗はノートのネームから顔を上げてパソコンチェアを半回転させソファーの上の礼に向き直った。
「そんなことあるかいな。礼ちゃんのこと見えとったら「きゃー、おばけー!」ってなるやろ。そんな素振りあれへんかったし、今まで礼ちゃんに気付いた人なんか居れへんやん。礼ちゃんの気にし過ぎとちゃうか?」

 翌日の朝、ヤングレボリューションの山口編集長から電話があった。昨晩、一気にプロットとセリフ入りのチャプターを読んだという。一度、「余命半年」の中の一つのエピソードを読み切りで6月中に掲載し、アンケートの結果によっては7月末から連載を考えているという。「わかりました。読み切り用のネームも用意していきます。」と約束し、夕方6時に編集部を訪れる約束となった。その後、食事に行くこととなり、編集部でホテルの手配をしてくれることになった。
「礼ちゃん、今日は泊まりになったわ。明日は予定ないから一緒に行って浅草と中華街でも行こか?」
羅須斗が声をかけたが「今回はやめとくわ。羅須斗君に変な「浮遊霊」がついてることがばれたら、せっかくの仕事もおじゃんになりかねへんからな。」と礼は遠慮した。「そりゃ、礼ちゃんの気にしすぎやと思うけどなぁ…。」と羅須斗は残念がったが、礼の意思は固く、それ以上誘うのは諦めた。

 午後3時新大阪発の「のぞみ」で幸と待ち合わせた羅須斗は、品川までの約2時間半打ち合わせに没頭した。礼と沖縄から帰った後に構想を練った、ヒロインの診断が誤診であったことがわかり、レスラーに復帰したのちの続編案について幸に話した。
 幸も乗り気でいろんな意見を出してくれた。学生時代には年間200冊ほどの漫画や小説等を読んできたという幸の知識と作品に対するどん欲なまでの理想を目指す姿勢は好ましかった。

 予定より30分早く、出版社に着いたので幸が羅須斗を案内して回った。入り口には、映像化された過去の作品のパネルが数十枚並べられており、廊下の壁にも数百枚はあろうと思われる原画やポスターが壁にかかっている。
 週間誌部門と月刊誌部門しかなかった漫画ジェネシス編集部と違い、「少年」、「ヤング」、「ビジネス」、「別冊」の4媒体がそれぞれ週刊と月刊に別れるレボリューション編集部の人数の多さに驚いた。どの編集部も活気にあふれ、全員が忙しく動き回っていた。
 5時55分、週刊ヤングレボリューション編集部の編集長室に案内された羅須斗は編集長の熱いハグで迎えられた。
「ウエルカム、崖淵先生、ヤングレボリューションへ!お待ちしてましたよー。」

 副編集長も呼ばれ、丁寧にあいさつを受けた。羅須斗が用意したネームは大阪を立つ前にメールしていたこともあり、既に読んでくれていたようで何点かの要望を伝えられただけで制作に入ってほしいとのことだった。
「ヒロインのデッサンに困ったら、こいつに「リンコス」着させるなり、「裸」にひん剥くなり好きにしてもらったらいいですからね。」
と冗談とも本気ともとれる言葉を幸の前で吐く編集長の態度に戸惑っていると
「あれ?もしかして、崖淵先生って「女」より「男」?それやったら「薄井」から若い「イケメン」に担当替えしますけど?」
と真顔で言われ、「薄井さんのままでお願いします。」と慌ててフォローした。

 小一時間の打ち合わせで今後の予定組みが終わると「崖淵先生は何が食べたいですか?」と聞かれ、何も考えず「ラーメン」と答えると、「超」がつくような「高級中華料理店」に連れて行かれた。
「なんでも食べてくださいね。崖淵先生は我が誌の「金の卵」ですからねぇ。「フカヒレ」でも「ツバメの巣」でも「虎の金玉」でも食べて「精」つけてくださいよ。余った「精」はこいつに処理させたらいいですから。」
とことあるごとに幸を引き合いに出すのに少々嫌気がさし
「薄井さんはしっかりとした担当者です。昨日、今日の打ち合わせでよくわかりました。私は、薄井さんに担当者として以外の事をお願いすることはありません。あまり彼女を辱める発言は少なくとも私の前では控えてもらえると助かります。」
の発言で、それ以降、幸を「性的」な対象とするトークは出無くなり少し安心した。

 「崖淵先生、この後、銀座でも繰り出しますか?」と編集長に誘われたが、「ありがたいですけど、ご遠慮します。今日はごちそうになりました。」と丁寧に断った。編集長に言われた幸が羅須斗をタクシーでホテルまで送る車内で、
「薄井さん、俺の前では自然にしてくれてたらええからな。まあ、「青年誌」っていう男性が強い職場っていうのは想像してたけど、あまりにひどい「セクハラ」やな。くじけんと頑張ってな。」
と励ますと、
「ありがとうございます。そんなにやさしい言葉をかけられたのは入社以来初めてです。少し、腕お借りしていいですか?」
と呟くと、しくしくと泣き出した。(あぁ、今までほんまに辛い思いをしてきたんやろな…。)と同情した。

 「お客さん、着きましたけどどうされます?」大きなシティーホテル前の乗降口でタクシーは止まった。まだ幸は泣き続けているので、放っておくわけにもいかずとりあえず一緒に降り、チェックイン手続きの前に喫茶室に入った。
「薄井さんはコーヒーにする?それとも紅茶?いや、ここはハーブティーの方が落ち着いてええか…?」
とハーブティーを二つオーダーした。

 すぐにハーブティーはサーブされ、少し落ち着きを取り戻した幸に、礼から言われて気になっていたことを尋ねてみると、羅須斗の予想しない返事が返ってきた。
「突拍子もないことを聞くけど、薄井さんって「霊感」ある?」
「はい…。そんなに強い方じゃないですけど、「見える」ことがあります…。」





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