『俺のマンガの原作者はかわいい浮遊霊小説家《ゴーストライター》』

M‐赤井翼

文字の大きさ
上 下
10 / 59
「第1部「漫画ジェネシス」編」

「身の上話」

しおりを挟む
「身の上話」

 テレビは8時の時報を告げた。羅須斗は、高校時代まで好きだったオカルト月刊誌の記事を思い出して礼に質問を投げかけた。
「幽体離脱や臨死体験をきっかけに「霊」が見えるようになったり、「霊」と交信できるようになるってこういうことなんかな?こうして、肉体に戻っても「浦方さん」と話ができるってことはそういう事やろ?」
「せやね、「霊感が強い」って言われる人でもなんか「ぼーっ」と見えるとか、なんかちょっと聞こえるって感じやもんね。私の後、この部屋に住んだ人は「事故物件」ってわかって入居する人やから、コンタクトとれるかなって思って交信しようとしてきたんやけど、どれも不完全でなんとなく・・・・・気味悪がられて出ていかれてしもたし…。崖淵さんもあかんかなって思ってたんやけど、この転落事故による幽体離脱体験で私とコンタクトできるようになったんやと思うわ。
 けど…、こんな首がひっくり返っちゃう浮遊霊がいるとわかったら、この部屋「気持ち悪く」なっちゃった?」
と礼は返事した。

 「ううん、大丈夫。浦方さんは俺の命の恩人やもんな。だから、「怖い」とかはあれへんよ。呪ったり祟ったりせえへんのは今回の事でよくわかったし…。こんな俺でも良かったら話し相手になってくれたらうれしいかな。俺、彼女居ったこと無いし…。
 あぁ、まずは自己紹介やね。俺は「目指せ漫画家」の崖っぷち29歳の「崖淵羅須斗がけふち・らすと。12月31日生まれやから、生まれた次の日に正月で酔っぱらってた親父に「大晦日」もとい「一年のラストの日」ってことで「羅須斗」って付けられてん。「キラキラネーム」通り越して「ギャグ」やろ。カラカラカラ。でも、俺は気に入ってるから「羅須斗」って呼んでな。」
「ふーん、そんな意味があったんや。私はさっき言ったように「浦方礼うらかた・れい」私も「羅須斗」君って呼ばせてもらうから、羅須斗君も「浦方さん」じゃなく「礼」って読んでくれたらええよ。「浮遊霊」やからちょうどええやろ。ケラケラケラ。」

 明るく笑う礼の姿を見て、羅須斗も緊張が解けた。
「じゃあ、俺は「礼」ちゃんって呼ばせてもらうわな。それにしても礼ちゃん見てたら今まで思ってた「幽霊」の基礎概念が飛んでしまうよな。俺、実家を出てこの一年で「プロの漫画家」にならなあかんから、そのうち礼ちゃんをネタに漫画家描かせてもらうかもしれへんからその時はよろしくな。」
「ふーん、モデル料は高いで!ケラケラケラ。」
「明日堂のお線香でも供えたったらええか?カラカラカラ。」
二人して声をあげて笑った。

 それから二人の生い立ちや、最近の話の「身の上話」を互いに語り、理解に努めた。
羅須斗の興味は礼への死後の世界に対する質問に集中した。「死んだ瞬間、それを受け入れられたん?」その質問に対して、礼は「月刊マ―」とか「TONACAの角田総帥」とか好きやったんで意外とスムーズに受け入れられたで。」と返した。
 礼は羅須斗に「漫画家を志した理由」や「今までの経歴」を尋ねた。「まあ、学生時代は「同人誌」止まり。卒業後は、4年ほどは年に2、3本は持ち込んだり投稿したりしてたけどここ3年はネームまでしか描いてへんねん。でも、今年中に結果出さなあかんから今年はアシの仕事の無い週3日は描きまくるで!」と元気に答えていた。
 
 どちらかと言うと、礼が率先して羅須斗の事を聞きたがった。羅須斗は質問に丁寧に答えた。あっという間に、時間は経ち昼を迎えた。
「ところで礼ちゃんはモノ食べられるんか?一応、実家のおかんが雑煮の材料持たしてくれてるんやけど2人前作ったらええんか?それともお供えしたらええんか?」
の質問に
「この世のものを口にすることはできへんけど、「香り」は感じることができるから、羅須斗君が食べるときに横に居らせてもらえたらええよ。」
と笑顔で返した。
 昼は雑煮を食べ終わるまで会話は止まらず、その後も羅須斗は片付けをしながら二人で話を続けた。

 「さて、今から、持ち込み原稿の「描き初め」や。礼ちゃんは、小説とか脚本の作家やったんやろ?ちなみに漫画とか読んでたんか?」
「うん、上がお兄ちゃんやったから少年マンガから少女漫画まで何でも好きやで。もちろん大人になってからはどんなジャンルも読むようになってジャンルとかにこだわりはあれへんな。4コマギャグからホラーまで何でも読むよ。ところで羅須斗君はどんな漫画描いてんの?」
「今は青年誌「漫画ジェネシス」の大御所先生のアシスタントやってるから、そこに持ち込みを考えてるんやけどな。まあ、礼ちゃんに見せて面白いもんかどうかはわからんけどな。まあ、成人誌やからちょっと「H」なシーンもあるし見せるのはちょっと恥ずかしいな。」
 羅須斗が照れながら、デスクの中からラフスケッチのネームノートを出してページを繰って見せた。羅須斗の背後からノートを覗き込む礼の表情が少し曇ったが羅須斗はそれに気づくことは無かった。
 
 午後1時、羅須斗はパソコンの電源を入れた。デジタル作画用のタブレットとペンを出し、礼に簡単に説明をしている。
 ソフトが立ち上がると、ひっくり返ったままになっていた、キャスターが一つとれた椅子に手をかけた。
「羅須斗君、キャスターの取付穴に小さいナットが入り込んでるで。それが邪魔して入れへんかってん。それを伝えようとしてたんやけどうまくいかへんで死にかけの目に遭わせてしもてごめんやったな。」
礼がキャスターのハマる穴を指さし注意した。
「そうやったんか、全然気がつけへんかったわ。でも、その結果、礼ちゃんとこうして話せるようになったんやから「災い転じて福となす」ってなもんや。」
と言いながら、スマホのライトで取付穴を照らし、爪楊枝で小さなナットを取り出しキャスターをしっかりとはめ込んだ。
 5つのキャスターが並行して床面に設置し、動きが良くなった。羅須斗は椅子を前後左右に動かし、「こりゃええわ。さっきまでの「がたがた感」がウソみたいや。」と笑顔で机の上のタブレットにデジタル作画用のペンをあてると礼にむかって言った。
「今年最初の作画は後の主役の礼ちゃんの表紙絵にしよか?かわいく描いたるから、こっち向いて笑ってくれるか?」

 作画を始め2種類の下書きのラフスケッチは約15分で出来上がった。輪郭線や中央線に沿って、ペン入れを進めていく。どちらかと言うと「華奢きゃしゃ」な体つきの礼を写実的に描いていきバストアップのイラストとソファーに腰掛けたイラストを描き上げると、トーン貼り付け処理を進めていく。
 クリスタとよばれる「CLIP STUSIO PAINT」の作画ソフトに取り込むと仕上げ処理に入り、2時間かけて2枚の「礼」のイラストが出来上がった。プリンターのスイッチを入れると今、礼が着ている白いブラウスにデニム姿のイラストが印刷されて出てきた。
「どないや?かわいく描けてるやろ?」
と自信満々に羅須斗が礼にイラストを見せると礼は黙って頷いた。
 その様子に喜んだ羅須斗は「ちょっとアレンジするからもうちょっと待ってな!」と今かき上げた元データをベースに衣装を入れ替えたイラストを数枚作製して見せた。
「うん、可愛く描いてくれてありがとう。じゃあ、仕事の邪魔になったらあかんからまた来るわな。お仕事頑張ってな。」
と言い残すと、礼は壁から「すーっ」と外へ消えていった。
 外に出ると礼は独り言のように呟いた。
「あかん、今の羅須斗君では「ヒット」どころか「デビュー」も無いわ…。ここは私が…。」





しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

極悪チャイルドマーケット殲滅戦!四人四様の催眠術のかかり方!

M‐赤井翼
恋愛
「余命半年を宣告された嫁が…」シリーズの第4話です。 ニコニコプロレスとニコニコ商店街のメンバーが、今回は「児童人身売買組織C-MART」事件に巻き込まれます。 今回の影の主役は、なっちゃんです。 女王様になっちゃいますよー! 2週間の短期集中連載です。お時間のある方はゆるーくお付き合いください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ALS・筋萎縮性側索硬化症でもプロレスラーになれますか?新人レスラー安江の五倫五常

M‐赤井翼
恋愛
ALS側索硬化症という難病を患った安江・コーヘンというウクライナ2世の女の子が、ニコニコプロレスの憧れの女子レスラー「安稀世(やす・きよ)」に弟子入りを申し出るところから物語は始まります。 安江は、ニコニコ商店街の幼稚園児で筋ジストロフィーを患う「結衣(ゆい)」やかつて「余命半年」と宣告された「稀世」、日本赤軍に夫を殺された商店街会長の「直(なお)」、旦那がファイト中に「お玉様」を破裂させ、オカマになっても気丈に娘を育てつつ女子レスラーを続ける「まりあ」等、ニコニコ商店街の仲間に支えられながら、前向きに生きていく。 しかし、徐々に進む「病魔」の影に怯えつつの、プロレスラーとしての生活に悩む安江。 かなりヘビーな問題ですが、できるだけ明るくストーリーに織り込み、難病に悩む方の気持ち、それを支える周りの人の気持ちが少しでも伝われば幸いです。 「余命半年を宣告された嫁が…」の最終話を加筆修正しての掲載になります。 ゆるーくお読みいただければ幸いです。

『ながらスマホで56歳のおっさん霊を憑依させざるを得なくなった23歳の女劇団員「音玄万沙《ねくろ・まんさ》」の物語』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。 突然ですが、いきなり書き下ろしの新連載です。 7月13日に「赤井先生、「JK心亜ちゃん」の興行が好評だったんで、既に発注してる「OL心亜ちゃん」の前にもう一本「霊もの」書いてほしいねんけど!別の脚本家の「本」がボツ喰らっちゃったみたいで監督さんから急に8月興行ネタを頼まれてしもたんよ。今回も製本配布するんで公開スタートは19日、稿了は8月9日で200ページね!連載はお盆前後で完結でよろひこー!」ってな感じで、突如、制作スタート! 毎度のことながらゴーストライターに「拒否権」はナッシング(笑)。 今作は、納品先の新エースの「OL心亜ちゃん」役の女の子に合わせての設定で23歳の新人脚本家の「音玄万沙《ねくろ・まんさ》」ちゃん! 変な名前でしょ?「ネクロマンサー」っていうのは「死者や霊をを用いた術(ネクロマンシー)を使う人」で「屍術師」なんて言われ方もしますね。 赤井の大好きな名作アニメ「ゾンビランドサガ」1stシーズンの主題歌「徒花ネクロマンシー」の「ネクロマンシー」ですね。 まあ、万沙ちゃんはゾンビを蘇らせて「佐賀を救う」わけでもないし、降霊術を使って「世直し」するようなキャラじゃない(笑)。 そんな仰々しい物じゃなく、普通の23歳の女の子です。 自らのながらスマホの自転車事故で死ぬ予定だったんだけど、ひょんなことで巻き込まれた無関係の56歳のおっちゃんが代わりに死んじゃいます。その場で万沙ちゃんは「死神」から「現世」での「懲役務」として、死んだおっちゃんと1年半の「肉体一時使用貸借契約」することになっちゃうんですねー! 元「よろずコンサルタント」の「副島大《そえじま・ひろし》」の霊を憑依させての生活が始まります。 まあ、クライアントさんの納品先が「社会派」の監督さんなんで、「ながらスマホ」、「ホストにはまる女子高生」、「ブラック企業の新卒」、「連帯保証人債務」、「賃貸住宅物件の原状回復」、「いろんな金融業者」等々、社会問題について書けるとこまで書いてみたいと思いますので「ゆるーく」お付き合いください。 今回も書き上げ前の連載になりますので「目次」無しでスタートです(笑)。 では、7月19日からよろひこー!(⋈◍>◡<◍)。✧💓

「やさしい狂犬~元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.1~」

M‐赤井翼
現代文学
稀世ちゃんファン、お待たせしました。「なつ&陽菜4 THE FINAL」終わって、少し時間をいただきましたが、ようやく「稀世ちゃん」の新作連載開始です。 脇役でなく「主役」の「稀世ちゃん」が帰ってきました。 ただ、「諸事情」ありまして、「アラサー」で「お母さん」になってた稀世ちゃんが、「22歳」に戻っての復活です(笑)。 大人の事情は「予告のようなもの」を読んでやってください(笑)。 クライアントさんの意向で今作は「ミステリー」です。 皆様のお口に合うかわかりませんが一生懸命書きましたので、ちょっとページをめくっていただけると嬉しいです。 「最後で笑えば勝ちなのよ」や「私の神様は〇〇〇〇さん」のような、「普通の小説(笑)」です。 ケガで女子レスラーを引退して「記者」になった「稀世ちゃん」を応援してあげてください。 今作も「メール」は受け付けていますので 「よーろーひーこー」(⋈◍>◡<◍)。✧♡

『稀世&三朗サンタ’sからのクリスマスプレゼント!~ラブラブトラブル2泊3日X’mas旅行編~』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。 今年も1年応援ありがとうございました。 R6年は「11本」の長編小説をアルファさんで公開させていただきましたが、どれも「クライアント」さんが満足していただける「良い結果」を残すことができました。 そこで今回は「読者さんへのお礼」として「稀世ちゃん&サブちゃんのアナザーストーリー②」をちょろっとだけ書かせていただこうかと思っていたところ、ありがたい話で「スポンサー」がつきました(笑)。 そこで、時期的に「ギリギリ」ですが、「稀世ちゃん&サブちゃんのクリスマスストーリー」を書かせていただきます! 書き終わりの頃には「クリスマス」遠の昔に終わり、年を越えてるかもしれませんが 『書きます(^^ゞ』! 「新人記者「安稀世」シリーズVOL.3.9」と言うところです。 「ぐだぐだ」で予告していた来年執筆の「NEW稀世ちゃん④」への「プロローグ」として「ゆるーく」お読みいただけると嬉しいです。 では、「甘く」、「緩く」そしてときどき「ハード」な「稀世ちゃん&サブちゃんのクリスマスの3日間」をお送りさせていただきますねー! よーろーひーこー! (⋈◍>◡<◍)。✧♡ 追伸 この文章を書いている時点で、「校正済み原稿「ゼロ」!」の状態です。 定期更新でなく、「出たとこばったり(笑)」になるかもしれませんがそこは許してちょんまげです! (。-人-。) ゴメンネ

『脆弱能力巫女の古代女王「卑弥呼たん」門真市ニコニコ商店街に転生す!』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。 今回は、いつもの「ニコニコ商店街」と「こども食堂」を舞台に「邪馬台国」から「女王 卑弥呼たん」がなつ&陽菜の「こっくりさん」で召喚! 令和の世では「卑弥呼たんの特殊の能力」の「予言」も「天気予知」も「雨乞い能力」もスマホや水道の前には「過去の遺物」(´・ω・`)ショボーン。 こども食堂で「自信」を持って提供した「卑弥呼たん」にとっての最高のご馳走「塩むすび」も子供達からは「不評」…( ノД`)シクシク…。 でも、「女王 卑弥呼たん」はくじけない! 「元女王」としてのプライドをもって現代っ子に果敢にチャレンジ! いつぞや、みんなの人気者に! そんな「卑弥呼たん」になじんだ、こども食堂の人気者「陽葵ちゃん」に迫る魔の手…。 「陽葵ちゃん」が危機に陥った時、「古代女王 卑弥呼たん」に「怒りの電流」が流れる! 歴史マニア「赤井翼」の思う、「邪馬台国」と「卑弥呼」を思う存分に書かせてもらった「魏志倭人伝」、「古事記」、「日本書記」に「ごめんなさい!」の一作! 「歴史歪曲」と言わずに、「諸説あり」の「ひとつ」と思って「ゆるーく」読んでやってください! もちろん最後は「ハッピーエンド」はお約束! では、全11チャプターの「短期集中連載」ですのでよーろーひーこー! (⋈◍>◡<◍)。✧♡

おれ、ユーキ

あつあげ
現代文学
『さよならマユミちゃん』のその後を描くスピンオフ作品。叔母のマユミちゃんが残してくれた家でシェアハウスを始めた佑樹、だがやってきたのは未知の感染症だった。先の見えない世界で彼が見つけたものとは――?80年代生まれのひりひり現在進行形物語!

処理中です...