『俺のマンガの原作者はかわいい浮遊霊小説家《ゴーストライター》』

M‐赤井翼

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「第1部「漫画ジェネシス」編」

「礼との出会い」

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「礼との出会い」

 12月27日午後1時、スーパー「崖淵屋」のロゴの入った幌付きの軽トラでアシスタント仲間と不動産屋に乗りつけ、マンションのカギを受け取ると「分亜里わけありマンション」へと向かった。「427号室」のドアを前にして
「死亡事故物件で部屋番号が「427死にな」ってか。できすぎ物件やなぁ。カラカラカラ。」
とアシ仲間が笑った。
「「ゲン」の悪いこと言わんとってくれや。」
とドアを開けると、管理会社があらかじめ入れておいてくれたエアコンで部屋は温まっており、ブレーカーもオンにしてくれていたので冷蔵庫も冷えていた。
 仲間が「引っ越し祝い」にと途中で買ったビールと頼んでくれた宅配ピザで乾杯をした時にあることに気づいた。
「おい、デスクはあるのに椅子があれへんがな。どないすんねん。」
の一言で、「せやな。椅子無しではあかんよな。」とホームセンターに向かった。
 日頃、アシスタントで訪れている大物作家が使っているパソコンチェアを見つけたが現物限り商品で売却済みの商品だった。店員に尋ねると今からの発注だと受け取りは年が明けることが分かった。
 仕方なく、そのホームセンターの本部倉庫から直送してもらうことにした。商品の到着は12月30日になるとのことだが、羅須斗には何ら問題も無い。

 12月30日、羅須斗は荷物を新居で受け取るとアシスタント仲間との忘年会に向かった。家での事情を話し、「絶対に来年中にデビューする!」と皆の前で声高々に宣言すると、「がんばれよ!」、「ネタはあるんか?」、「スケジュールは決まってるんか?」と親身になって仲間たちが相談にのってくれ、その勢いのまま朝まで「痛飲」することとなった。
 始発電車で帰宅するとそのまま部屋のベッドで寝込んでしまい、気がつくと夕方になっていた。(あー、思いっきり寝てしもたな。「夕飯は食べに来い」っておかんからメール来てたから、椅子の組み立ては明日やな。新年事始めで「椅子の組み立て」と「描き初め」やな。)と思い、3日ぶりの実家を訪れると予想外に父も長男も受け入れてくれ昨日に続いての「連夜の酒盛り」となった。
「じゃあ、来年1年の勝負やぞ。悔いのないように頑張れや!」
と兄と父母に見送られ、夜の11時に一人住まいのマンションに帰宅した。
 ベッドに潜り込むと何か「女の声」が聞こえたような気がしたが、そのまま眠りに落ちて行った。

 2024年元旦、朝6時に自然と目が覚めた。テレビをつけ朝の正月特番をかけると椅子の組み立てに入った。
 苦労に苦労を重ねて、キャスターひとつを残して椅子が組みあがった時、突然、リビングの天井の蛍光灯がちらつき始めた。
 点滅する蛍光灯を外そうと組みあがり一歩手前の椅子に立ちあがった際、「あかん、ほんまに危ないよ!」と三度みたび女の声が頭の中に響いた瞬間、肘置きに足を取られた羅須斗は頭からフローリングの床に落ちて行った。くしくもその場所は、不動産屋の店長に物件確認の際に「そこが死亡現場です。」と言われた場所そのものだった。
 
 「ん?俺、夢見てんのか?フローリングの床に頭から落ちたはずやのに痛みはあれへんなぁ。」
ふと目を開けると、床に自分自身が床に横たわっている。その卍型のポーズは契約前に店長の指示に合わせて手足を動かしたポーズそのものだった。俯瞰ふかん的視線で床から2メートルの高さで自分自身を見下ろしていることに気がつき「夢」と確信したが、かかっているテレビ番組の晴れ着姿の人気女性MCの姿を見て、過去を思い出しての「夢」でないことに即、気がついた。
「ゲロゲロ、これって「幽体離脱」ってやつか?下に倒れてるのが俺の「肉体」で今の俺は肉体から抜けた「魂」なんか?」
とパニクって平泳ぎの体勢で肉体に戻ろうと床に向けて両手をかくが少しずつ肉体との距離が開いていく。(えっ、俺死んでしもて、魂は「天」に向かってるんか?あかん、死んでる場合とちゃうねん!俺はこの1年で漫画家にならなあかんねん!)と更に力を入れて両手をかくが肉体に戻る様子はない。羅須斗の魂は叫んだ。
「死にたくないー!「誰でもいい」から助けてくれー!」

 その瞬間、天井側から背中を下に向けて押す力を感じた。(おっ、願いが通じたか!神様か羽の生えた天使が俺の魂を肉体に戻そうと押してくれてるんやろか!)と肩越しに振り返り後ろを見た瞬間に羅須斗の意識と身体は固まった
「ぎゃーっ!化け物―!たっ、助けてくれー!」
叫ぶ羅須斗の肉体から抜け出た魂を両手で押さえ、床に戻そうとする細身の女の上半身と長い黒髪の後頭部が視界に入った。
「失礼ね。私、「化け物」とちゃうで。せっかく助けてあげようとしてるのにそんなん言うんやったらこのまま「死後の世界」見せたろか!」
と女の声がすると背中側から100度振り返った女の横顔が見えた。
(こいつは、「この部屋で死んだ女の霊」に間違いない。店長が首が180度逆になってたって言ってたもんな!)死んだ女の霊に襲われていると勘違いした羅須斗の魂は、正気を失い暴れまくった。女の霊を弾き飛ばそうと体を反転させて、羅須斗は両手で女を撥ねつけようとした。そのはずみで、羅須斗の魂の両手が柔らかい女の胸を鷲掴みにした。
「きゃー、「H」!初対面でいきなり胸を触るってどういうことよー!」

 首がひっくり返った黒髪ロングの女の霊が力いっぱい羅須斗の魂の頬をひっぱたいた。その結果、運よく羅須斗の魂は元の肉体に落ち、元の身体に戻ることができた。途端に強い痛みが羅須斗の頭頂部と頸椎を襲った。
「痛っ!思いっきりぶつけてるし捻ってる!けど、痛みを感じるってことは肉体に戻れたってことやな!」
羅須斗の肉体が首を抑えながら、瞼を開くと眼前に首が180度前後している女の霊が天井から降りて来た。
「ぎゃーっ!祟らんといて下さい。きちんと供養しますんで成仏してください!どうか許してください。なんまんだぶ、なんまんだぶ。」
土下座をして謝る羅須斗の後頭部に手を添え女の霊は言葉をかけた。
「あなた、今も私の姿が見えてんの?何をそんなに怯えてるの?」
「だって、首が…。首が逆向き…。クワバラクワバラ。」
と呟く羅須斗に女の霊は、
「ごめんごめん、死んだ時のまま現れちゃったんやね。そりゃ驚かせてごめん。ほれ、これで大丈夫やろ?」
と両手で自分の首を前後に戻すと前髪をかき上げた。するとそこにはやや童顔の可愛らしい女の子の顔があった。
「私、浦方礼うらかた・れい。浦嶋太郎の「浦」に方角の「方」で「ウラカタ」、「レイ」は幽霊の「霊」じゃなくて礼儀の「礼」ね。享年27
歳で死んで1年ちょっとの浮遊霊よ。いろんな人がこの部屋に来たけど私の声に反応したのはあなたが初めてよ。今、あなたが私を見られて話しができるのは同じ場所、同じ状況にあったことでこの次元と私達霊のいる次元の壁が無くなったのね。あなたはこの部屋の新しい入居者の「崖淵羅須斗」さんね。よろしくね。」

 礼は羅須斗に挨拶をすると、羅須斗も少しほぐれて顔を上げた。
「必要以上に驚いてごめん。あと胸触ってしもて…。すごく柔らかかったわ。よく見るとえらい「かわいこちゃん」やな。「化け物」なんて言ってごめん。それと助けてくれてありがとう。椅子の組み立ての時から注意してたのは浦方さんやんなぁ。」
「うーん、胸の件は…。けど、「化け物」から「かわいこちゃん」になったんはちょっと嬉しいかな。悪霊や地縛霊とちゃうから呪ったり祟ったりせえへんから安心してな。」



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