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「模索編」

「#Mihcoとやりパ1万円」

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「#Mihcoとやりパ1万円」
 9月15日午前0時、陽菜の胸の中で夏子は泣き疲れたのか寝息を立て始めた。結局、悠斗からのラインについて、夏子からは何も聞けなかった。途中何度か、稀世が「なっちゃん、悠斗君と何があったん?今、緊急事態やねん。泣いてる場合やあれへんねんけど。」と話しかけたが、陽菜が「そっとしておいてあげてください。」と一時間以上に渡り胸を貸し続けたのだった。
 眠りに落ちた夏子を稀世が抱き上げ夏子を寝室に運び眠らせた。陽菜は小さな声で「なっちゃん、大変やったなぁ…。今日はゆっくり休んでな。こんな状況やけど、明日は力を貸してな…。おやすみ。」と囁くと、稀世と一緒にリビングに戻った。

 「陽菜ちゃん、なっちゃんと悠斗君のライン見たやろ?悠斗君が「メリーさん」事件に関わってたって言うことなんか?「責任を取る」って悠斗君が「メリーさん」のシステムを作ってたってことか?」
と稀世が矢継ぎ早に陽菜に言葉を投げかける。陽菜は「勝手知ったる他人の家」で夏子の冷蔵庫からビールを二缶取り出すと、一缶を稀世に差し出した。ビールを一口飲むと
「詳しいことはわからへんけど、「mabudachi」と「kare」の話が出だしてから悠斗君の様子がおかしかったような気がするんですよ。悠斗君SEシステムエンジニアって聞いてたからもしかしたらそれに絡んでたんかもしれませんね。
 ただこのラインからでは、事件にどうかかわってたのかは何もわかりませんよね。わかるのは、悠斗君がなっちゃんを尊敬し、「崇拝してます」っていうぐらい「好き」やったってことだけですね…。」
と呟いた。
「うーん、なっちゃんもついに「春が来た!」って思ってたんやけど…。まあ、それは残念なことやけど、明日はなっちゃんに出動でばってもらわんとあかんけど大丈夫かな?」
 稀世が心配そうに尋ねると、陽菜はビールを一気に空け稀世に返事をした。 
「なっちゃんなら大丈夫ですよ。今までどんな修羅場や困難も持ち前の正義感と元気さで乗り越えてきてますから。朝になったらきっといつもの元気ななっちゃんに戻ってますよ。それにしても悠斗君の方が心配です。悪いことするタイプじゃないと思ってたんですけど。
 夜中になっちゃんが目が覚めて一人やとかわいそうなんで、今日は私はここに泊まります。稀世姉さんは帰ってもらって結構ですよ。」

 9月14日午前8時50分、陽菜は夏子のマンションで朝食の準備をしていた。昨晩はソファーで仮眠を取り、夏子が起きてくるのを待ったが、寝室のドアが開くことはなかった。(もう9時やなぁ…。昨晩は0時にはなっちゃんは寝たはずやし、9時間も起きてけえへんってありえるんかいな?)と思った瞬間、愛美、優依、葵の顔が頭に浮かんだ。一気に不安感が陽菜の頭を支配した。背筋に冷たいものが走り「自殺」の文字が頭に浮かんだ。
「なっちゃん!死んだらあかん!」
と寝室に飛び込んだ瞬間「きゃーっ!」と悲鳴が上がった。

 ベッドの上で下半身丸出しで胡坐あぐらをかき、股の前に鏡を置きハサミを片手にVラインの「毛」を処理している夏子が驚いた表情で固まっていた。
「ひ、ひ、陽菜ちゃん!なんで私の家に居んの?」
と呟きハサミを落とした。
 陽菜は慌てて後ろを向き
「な、なっちゃん、おはよう。昨晩、なっちゃんの様子が心配やったからリビングで泊まらせてもらっててん。ところで、なっちゃん、朝からなんでそんなとこの手入れしてるんよ!目のやり場に困るから、とりあえずショーツ履いてよ!
 朝一から悪いけど、なっちゃんの力が必要やねん!朝ご飯作ってるから、食べたら「鍵のウルトラマン」の道具を持って私と一緒に出掛けてほしいねん。リビングで待ってるで。」
と言うと、夏子は「もう、乙女の身だしなみくらいはゆっくりさせてほしいわ。」と一言いうとショーツとキュロットを身につけリビングに出向いた。

 リビングテーブルの上の焼いてバターを塗ったトーストと入れたての紅茶の香りが夏子を迎えた。リビングのテレビの時刻表示は8時55分を示している。
「わー、陽菜ちゃんが用意してくれたんや。いただきまーす!」
 夏子は席に着くと、両手を合わせて紅茶に砂糖を入れた。陽菜は気を使いながら尋ねた。
「悠斗君、連絡あった?なっちゃんのスマホはベッドの枕元に置いておいたんやけど。」
「ううん、朝からも連絡入れてるんやけど、電話は圏外。ラインも既読付かんし返事なしや。一昨日、やらかしてしもたから嫌われてしもたんかな?悠斗は優しいところあるから、きっと私に気使ってああいうラインを残したんやと思うわ…。
 悠斗の事、好きになってたんやけど嫌われたんやったらしゃあないわ。先月の「MK」に続いての失恋や。昨日、陽菜ちゃんの胸で思いっきり泣かせてもろたから、もう気持ちを切り替えるようにしようと思う。
 ところで「鍵のウルトラマン」って何?陽菜ちゃん、家の鍵でも失くしたんか?」

 陽菜が真央と「Mihco」の話をしようとする前に、テレビの朝のワイドショーからの声に耳が引き付けられた。「続いての話題は、女子高生に大人気の「mabudachi」と「kare」が昨日よりシステム障害が出ている模様です。運営のソフトハウス「ナンバーワン」は早急に復旧できるようシステムの確認に動いていますが復旧の目途は今のところ立っていないとの発表です。」と人気タレントのMCが原稿を読み上げていた。朝の通学時間帯の東京の主要駅でのインタビューに女子高生が応える映像が流されている。「もう、凄く困ってます。「mabudachi」にいろいろと相談してるところだったんで…。「メリーさん」からラインが来ちゃってその対応を聞いてたのに繋がらなくなっちゃって…。」と困り顔の女子高生が映し出されている。
「へーえ、東京でも「メリーさん」に「mabudachi」か。ほんまかつての「口裂け女」と一緒で全国区やねんなぁ。」
と夏子が言うと、陽菜が尋ねた。
「悠斗君、何かこの件に絡んでたん?」

 夏子は、悠斗は「mabudachi」を運営している株式会社ナンバーワンのSEシステムエンジニアだったが、10日目にクビになったと聞いている旨を陽菜に説明した。「mabudachi」への関わりについてはこれといって聞いてはおらず、わからないと答えた。約五分で「mabudachi」に関するニュースは終わり午前9時の時報が告げられた。それと同時に陽菜のスマホが鳴った。(えっ、「Mihco」のツイッター?)画面をタップして画面を注視した陽菜の表情が固まった。(な、何これ…?)
「どないしたん、陽菜ちゃん?なんか悪い話か?」
「なっちゃん、これ見て!」
とスマホの画面を夏子に向けた。
 画面には「Mihco」のツイッターの画面で「Mihco公式」の文字の横に「1分前」、そして下段に「拡散希望!「Mihco」とやりパ1万円!」とあった。その下の本文には
「しばらくお仕事お休みしてたのでお小遣いが足りません。
「Mihco」と遊んでください!
本番ありで1回1万円!
詳しくはこちら!」
のメッセージの下にwebアドレスがあり、その下に青い文字で「#Mihcoとやりパ1万円!」、「#Mihcoと本番」、「#本日午後9時スタート」の他にもいくつものいかがわしい言葉が「#マーク」の後に並び開始三分にしてどんどんと「いいね」のカウンターが上がっていっている。

 「なんじゃこれー!陽菜ちゃんの好きな「Mihco」って「ヤリマン」の「あばずれ」やったんか?なんか幻滅やな…。」
と夏子が大きな声をあげると陽菜は急いで真央に預けた見守り携帯に電話をかけた。朝の挨拶も無しに、「真央ちゃん、昨日預けたスマホで「Mihco」のツイッター見て!」と言うと、三十秒後、携帯電話の向こうから真央と美波の声が響いた。
「きゃー、なにこれ!私こんなもんあげてへんで!」
「でも、美波ちゃん、「Mihco公式」になってるで!」
 二人の声が交互に交錯する。
「真央ちゃん、真央ちゃん!それ、「Mihco」が送ったツイートとちゃうねんな?」
陽菜が確認すると、電話はMihcoに代わり、昨晩の出来事が語られた。美羽にスマホを持ち去られたことと、「処女」であるかの確認と、意味ありげに「女の快楽」、「ラストプレゼント」等々の言葉を残されたことを伝えた。
 それを陽菜の隣で聞いていた夏子が烈火のごとく怒り叫んだ。
「女を玩具扱いするやつは私が許さへん!美羽いう奴も、やりに来よる男共も全員「成敗」かけたら―!」

 午後1時半、向日葵寿司のランチタイムが終わった時間に夏子と陽菜は向日葵寿司に着いた。既に直とまりあは席についている。稀世と三朗もエプロンを外して席についた。まもなく元アメリカの軍事顧問会社「CAT」の顧問を務めた直の合気術の弟子である羽藤一志と舩阪浩三も到着した。ひまわりは直の膝の上におとなしく座っている。
 陽菜から昨日からの事の次第が話された。午後1時半の時点で「Mihco」の「#Mihcoとやりパ1万円」の「いいね」は10万を超え、ツイートには「絶対に参加しまーす」とか「Mihcoとやりたーい!予約したー!」、「限定50人は少ないー!当たった奴が羨ましー!実況頼む!」というツイートをまともに受けたリツイートや「ツリじゃねえの?」、「まじかる?どうせうそでしょ?」、「Mihcoは17歳だから淫行で即逮捕!」と否定的なコメントまで多種多様に賑わっている。
「もう、世の中の男は「糞」ばっかりやのう!めちゃくちゃ「けったくそ悪い」が夏子、陽菜、お前らこのWEBアドレスの方は確認したんか?」
と直が確認すると、
「うん、なっちゃんと見たで。立派な予約サイトができてたわ。アドレスも本来の「Mihco」に似せたもんで、ドメインが「.ne.jp」が「.info」に姑息に変えられた偽ページやったけど、写真や動画は丸々リンクしてたから手はかかってたな。」
「そんで、「限定50名」ってなってて、アマゾンのギフトコードを入れて予約するんやけど、残り枠数が「3名」から減らへんから取り込み詐欺で泣きを見るやつもおるんとちゃうかな?申し込みを済ませたもんに発行されたパスワードを入力すると、「Mihco」が拉致されてる現場の住所とマップが送られるっていうシステムやな。
 ちなみにユニットバスの排水管からリードワイヤーで首輪に繋がれてる動画もあったけど、その画像は8月28日のもんらしいわ。」
 陽菜と夏子が一通りの説明をすると「あぁ、28日言うのは美波ちゃんが拉致監禁された日やな。」と直がつぶやいた。

 稀世が話が一区切りついた時点で「実際にあほな男たちが何人くらい来るんやろか?迎え撃つのは今回は8人やろ?」と言うと直が
「まあ、今回は夜9時からの作戦やから、ひまちゃんは「準備」だけの参加で徹三のとこのさとみはんに預かってもらうことにするわな。今回の現場バトルフィールドはウイークリーマンションやから、狭い廊下に狭い部屋や。五十人来ようと百人来ようと実際に戦闘で対峙するのは一人か二人や。
 まあ、入口の時点で半分は戦闘不能になるように一志が作戦を立ててくれるやろ。まあ、リツイートしてるやつで参加を表明してるやつらに「半愚連」の奴らも含まれてるから、自信が無かったら三朗と夏子と陽菜は留守番でもええねんぞ?」
と自信満々に述べた。
 三朗はコンマ1秒で「稀世さんが行くなら僕もいきますよ!戦闘では大した役には立たないでしょうけど、捕縛やバックアップで頑張ります。」と答えると「サブちゃん頼りにしてるで!」と稀世が三朗をハグした。
「夏子と陽菜はどないする?「半愚連」相手に下手したらお前らが犯されてしまうかもしれへんぞ?陽菜はともかく夏子はそれもありってか?カラカラカラ」
 直が茶化して言うと陽菜と夏子は自信満々に言い返した。
「私は真央ちゃんの事もあるしその友達で今回の事件の最大の被害者の「Mihco」の為にも戦うで!舩君もついててくれるから勇気百倍や!なんやったら、直さんが休んでくれてもいいんですよ!」
「大丈夫!「女の敵」は「私の敵」や!今回は悠斗を失った「鬱憤うっぷん」も含めて返したるつもりやし、陽菜ちゃんとがんちゃんところで秘密兵器も準備するから大丈夫や!準備はひまちゃんも手伝ってな?」
 ひまわりも「私も頑張って、なっちゃんと陽菜ちゃんのお手伝いするね!なっちゃん、陽菜ちゃんぱにゃにゃんだー!」と声をあげた。

 その後、羽藤から作戦の概要が説明された。直が呼び出した金城司法書士事務所の森と副島が競売情報で出ているウイークリーマンション建物の公開図面を持ち込んでくれたのでスムーズに打ち合わせた進んだ。まりあと三朗もメモを取りながら建物の構造を頭に叩き込んだ。
 
 「成敗」に向けた重装備品を舩阪と陽菜がリサイクルショップニコニコに取りに戻り、夏子はひまわりを連れて「お好み焼きがんちゃん」にむかった。
 三時間後、準備を終えてまりあを除く全員が集合した。各自、段取りを最終確認しあった。夏子はスマホを確認したが悠斗からの連絡はなく、ラインも未読のままだった。(もう忘れよう…。グッバイ、悠斗…)夏子はスマホをポケットにしまうと「よっしゃーっ、あほな男をしばき倒したんぞー!」と気合を入れた。稀世が、「ええ気合や!やりすぎて殺してしまわんように気をつけや!」と肩を叩いた。そこにまりあがニコニコプロレスのハイエースを乗りつけた。直が全員と順に目を合わせグータッチを済ますと「時の声」をあげた。
「じゃあ、そろそろ「アホども」のお仕置きにむかおうか!」



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