ツンデレヒロインの逆襲

朽木昴

文字の大きさ
上 下
7 / 83
第1話 ツンデレ誕生

ツンデレ誕生 7ページ目

しおりを挟む
「トレーニングジムじゃないよね? ツンデレが実は、ツンデレーニングの略で、まさか海外で話題沸騰中とか言わないよね……」

 若干の不安が心に湧くも、気のせいだと振り払う。

 緊張で心音が大きくなる中、私は女性からの言葉を待った。

「ふむ、やはりワシの目に狂いはなかった。聖なる装束は着る者を選ぶのじゃ。ほれ、光り輝いておるではないか」

 光り輝く……? これって、普通のジャージなんですけれど。

 私の目には光ってなんて、って、まさか……。そういうことね、ツンデレを極めし者にしかその光が見えない、というわけね。つまり、このジャージ、もとい聖なる装束が光り輝いて見えたとき、私がツンデレを極めたことになるのね。

「そ、それで……今さらなんですが、先生をなんとお呼びしたらよいでしょうか?」

「ワシか? そうじゃの、『ツンデレマスターおなつ』だと長いから、『TDM』と略してかまわぬぞ。もしくは、『マスターおなつ』と呼んでもよいぞ」

 TDMって何よ、訳し方に悪意しか感じられないじゃないの。それなら、まだ『マスターおなつ』の方がマシよね。選択の余地なんてありませんから……。

「わかりました。では、『マスターおなつ』と呼びますねっ」

「うむ。それでソナタは、金坂学園の生徒なんじゃな?」

「えっ、そうですけど、問題があるんですか?」

「その逆じゃよ。あの学園は生徒主義での、生徒会長は特権で校則を変えられるのだよ」

「そう、なんですか。入学したばかりだから、知らなかったです。それにしても、マスターおなつはお詳しいんですね」

「昔の話じゃよ、昔の……。それにの、ワシは停学や退学には反対なのじゃ。っと、話がそれ始めたの。では、早速ツンデレ修行を始めるとしようかの」

 うちの学園の卒業生なのかな。

 きっと、色々とあったんだろね。

 学園生活は、楽しいことだけじゃないから。

 でも安心して、私、必ずツンデレを極めて、マスターの分まで学園生活をエンジョイするからね。


 夢敗れた(と思われる)マスターおなつの意思を継ぎ、私はツンデレマスターへの道へ進んだ。推しともしばしのお別れを済ませ、私の瞳からはひとしずくの涙がこぼれ落ちる。この苦しい先にある、明るい未来をこの手に掴むため、日々過酷な修行に身を投じた。

 大雨が降ろうと、台風が直撃しようと、私はツンデレ道場へ通い続けた。

 厳しい指導が数ヶ月続き、私はついにツンデレマスターの称号を獲得できたのだ。


「よくぞ、この厳しい修行を耐え抜いたの。これでソナタも立派なツンデレマスターじゃ」

「あ、ありがとうございます。これも、マスターおなつのおかげです」

「これで世界はソナタの思いのままぞ。おっと、忘れるとこじゃった。これが、免許皆伝の証じゃ」

 これって──紙粘土で作られたバッジじゃないの。

 何この安物感ハンパない物体。

 はっ、これも修行の一環ね。

 そうよ、きっとマスターおなつは、私を試しているに違いないよ。

「こんなステキなモノをいただき、感謝で胸がいっぱいです!」

「うむ、では、その力を思う存分試してくるがよい。それと、二つ名を授けようぞ」

「二つ名、ですか」

「そうじゃぞ、ツンデレを極めし者に与えられる、聖なる名前。ソナタの二つ名は──クイーン・オブ・ツンデレじゃ」

「クイーン・オブ・ツンデレ……。ステキですわ。こんなステキな名をくださり、本当にありがとうございます」

 十ヶ月続いた特訓で、私はついにツンデレ属性を手に入れた。これで鷺ノ宮君のハートはいただきね。でも、手に入れたのはツンデレ属性だけではない。

 挫けぬ心、ポジティブ精神、そしてツッコミ力。これらも、サブスキルとして私が獲得したモノ。もう怖いモノなど何もない。鷺ノ宮君への告白は、明日すぐにでもしようと、心に決めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

家路

tsu
青春
主人公が青春時代に偶然出会った三人の女の子との思い出話。

僕とやっちゃん

山中聡士
青春
高校2年生の浅野タケシは、クラスで浮いた存在。彼がひそかに思いを寄せるのは、クラスの誰もが憧れるキョウちゃんこと、坂本京香だ。 ある日、タケシは同じくクラスで浮いた存在の内田靖子、通称やっちゃんに「キョウちゃんのこと、好きなんでしょ?」と声をかけられる。 読書好きのタケシとやっちゃんは、たちまち意気投合。 やっちゃんとの出会いをきっかけに、タケシの日常は変わり始める。 これは、ちょっと変わった高校生たちの、ちょっと変わった青春物語。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

処理中です...