ツンデレヒロインの逆襲

朽木昴

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第1話 ツンデレ誕生

ツンデレ誕生 7ページ目

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「トレーニングジムじゃないよね? ツンデレが実は、ツンデレーニングの略で、まさか海外で話題沸騰中とか言わないよね……」

 若干の不安が心に湧くも、気のせいだと振り払う。

 緊張で心音が大きくなる中、私は女性からの言葉を待った。

「ふむ、やはりワシの目に狂いはなかった。聖なる装束は着る者を選ぶのじゃ。ほれ、光り輝いておるではないか」

 光り輝く……? これって、普通のジャージなんですけれど。

 私の目には光ってなんて、って、まさか……。そういうことね、ツンデレを極めし者にしかその光が見えない、というわけね。つまり、このジャージ、もとい聖なる装束が光り輝いて見えたとき、私がツンデレを極めたことになるのね。

「そ、それで……今さらなんですが、先生をなんとお呼びしたらよいでしょうか?」

「ワシか? そうじゃの、『ツンデレマスターおなつ』だと長いから、『TDM』と略してかまわぬぞ。もしくは、『マスターおなつ』と呼んでもよいぞ」

 TDMって何よ、訳し方に悪意しか感じられないじゃないの。それなら、まだ『マスターおなつ』の方がマシよね。選択の余地なんてありませんから……。

「わかりました。では、『マスターおなつ』と呼びますねっ」

「うむ。それでソナタは、金坂学園の生徒なんじゃな?」

「えっ、そうですけど、問題があるんですか?」

「その逆じゃよ。あの学園は生徒主義での、生徒会長は特権で校則を変えられるのだよ」

「そう、なんですか。入学したばかりだから、知らなかったです。それにしても、マスターおなつはお詳しいんですね」

「昔の話じゃよ、昔の……。それにの、ワシは停学や退学には反対なのじゃ。っと、話がそれ始めたの。では、早速ツンデレ修行を始めるとしようかの」

 うちの学園の卒業生なのかな。

 きっと、色々とあったんだろね。

 学園生活は、楽しいことだけじゃないから。

 でも安心して、私、必ずツンデレを極めて、マスターの分まで学園生活をエンジョイするからね。


 夢敗れた(と思われる)マスターおなつの意思を継ぎ、私はツンデレマスターへの道へ進んだ。推しともしばしのお別れを済ませ、私の瞳からはひとしずくの涙がこぼれ落ちる。この苦しい先にある、明るい未来をこの手に掴むため、日々過酷な修行に身を投じた。

 大雨が降ろうと、台風が直撃しようと、私はツンデレ道場へ通い続けた。

 厳しい指導が数ヶ月続き、私はついにツンデレマスターの称号を獲得できたのだ。


「よくぞ、この厳しい修行を耐え抜いたの。これでソナタも立派なツンデレマスターじゃ」

「あ、ありがとうございます。これも、マスターおなつのおかげです」

「これで世界はソナタの思いのままぞ。おっと、忘れるとこじゃった。これが、免許皆伝の証じゃ」

 これって──紙粘土で作られたバッジじゃないの。

 何この安物感ハンパない物体。

 はっ、これも修行の一環ね。

 そうよ、きっとマスターおなつは、私を試しているに違いないよ。

「こんなステキなモノをいただき、感謝で胸がいっぱいです!」

「うむ、では、その力を思う存分試してくるがよい。それと、二つ名を授けようぞ」

「二つ名、ですか」

「そうじゃぞ、ツンデレを極めし者に与えられる、聖なる名前。ソナタの二つ名は──クイーン・オブ・ツンデレじゃ」

「クイーン・オブ・ツンデレ……。ステキですわ。こんなステキな名をくださり、本当にありがとうございます」

 十ヶ月続いた特訓で、私はついにツンデレ属性を手に入れた。これで鷺ノ宮君のハートはいただきね。でも、手に入れたのはツンデレ属性だけではない。

 挫けぬ心、ポジティブ精神、そしてツッコミ力。これらも、サブスキルとして私が獲得したモノ。もう怖いモノなど何もない。鷺ノ宮君への告白は、明日すぐにでもしようと、心に決めていた。
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