ツンデレヒロインの逆襲

朽木昴

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第1話 ツンデレ誕生

ツンデレ誕生 6ページ目

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「あ、あの、やっぱり……」

「そうじゃ、言い忘れていた。ツンデレを極めれば、推しもソナタに夢中になるぞ。推しがいればじゃがな」

「────!?」

 推しまでもが私だけのモノに……。

 そんな夢のような話、本当なら安いくらいよね。

 でも、本当にそんなことあるのかしら。

「迷っているのなら、これを見るとよい。実際にツンデレをマスターした人の体験談じゃ」

 女性から雑誌を受け取ると、私は体験談のページを開いた。

 そこには書かれていた内容とは──。

『ツンデレをマスターしたら仕事が増えて、ドラマや映画の撮影で毎日が嬉しい悲鳴です。ホント、ツンデレ道場に通ってよかったです。 女優 Mさん』

「えっ……。この写真、このイニシャル、まさかあの有名な……」

「どうじゃ、ツンデレの力を信じる気になったかの?」

「はいっ、私──ツンデレを極めます。お金はその、十回払いにしたいんですけれど……」

「それで構わないぞ。契約……成立じゃな。書類の記入とハンコを押せば今日のところは終わりじゃよ。ハンコがなければ、サインでもいいぞ」

 こうして私はツンデレ道場に通うようになった。

 お金は次回持ってくればいいと言われ、パンフレットだけ貰うと、私はこの怪しい空間から下界に戻っていった。


 翌日、私はなけなしのお小遣いを持って、あのツンデレ道場へ足を運んだ。パンフレットによれば、期間は早くて一ヶ月、遅い人でも一年以内にはツンデレをマスターできるとのこと。

 今日は初日、どんなトレーニングが待っているのか。私の心は、澄み切った青空のように晴れ渡っていた。

「お邪魔しまーす。あのー、昨日の方ー、いませんかー」

 暗闇をスマホのライトで照らしながら進む。これは、昨日学習したばかり。スマホを手に持っておけば、暗くなってもすぐライトをつけられる。

 さすがに二日連続で同じ過ちをするとか、ドジっ娘属性は私にはないのよ。

 だいたい、ドジっ娘なんて私にあったら──ただの痛い子じゃないの。

「返事がないなー。いったいどこに……」

 昨日の女性が見当たらず、スマホライトで周囲を探し始める。すると……。

「待っていたぞ」

「きゃーーーーーーーっ」

 照らした先に顔だけが浮かび、私は反射的に悲鳴をあげてしまう。そのまま尻もちをつき、しばらく立つことすらできなかった。

 鼓動は激しいリズムを奏で始め、吊り橋効果で私は恋に──落ちるはずなどない。

 完全に頭がパニックとなる中、部屋の灯りが突然ついたのだ。

「まったく、これしきのことで驚くとは情けない。近頃の若い者は、肝が据わってると聞いておるのに」

「肝が据わる以前の問題ですよ! 暗闇で顔だけ見えたら、誰だってこうなりますからっ!」

「さて、それではさっそく、ツンデレ修行に取りかかるとしよう。ワシのことは、ツンデレマスターと呼ぶがよい。それと、修行中はこの聖なる装束を着るのじゃ」

 聖なる装束って……ただのジャージじゃないですか。

 しかも、胸の名札は縫いつけられて、手書きでツンデレとか……。

 でも、ツンデレをマスターするためにも、ここはガマンよ。きっと、見た目からは想像できない高級品かもしれないし。

「あ、あの、着替えはどこですればいいんですか?」

「安心していいぞ、ちゃーんと、更衣室があるからの。ほれ、あそこがその更衣室じゃよ」

 女性が指さした方向には、手作り感満載の更衣室が見える。いや、更衣室というよりは、カーテンで遮られた空間、と言った方が近い。

 普通なら不信感が募りそうだが、私の心はツンデレの魅力に取り憑かれ、これも修行の一環だと思っていた。

 茶色のジャージに着替え終わり、ゆっくりと女性のもとへ戻り始める。明るくなった部屋を見渡すと、私の瞳には数多くの怪しげな健康器具が映っていた。
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