ツンデレヒロインの逆襲

朽木昴

文字の大きさ
上 下
2 / 83
第1話 ツンデレ誕生

ツンデレ誕生 2ページ目

しおりを挟む
「お、おはよう、ございます。ま、間に合ったー」

 危なかったよ、全力疾走してギリギリだなんて、ついてないときは、本当に何をやってもついてないよ。

「遅いぞ、西園寺。新学期早々から慌ただしいなぁ。でもまぁ、その頑張りに免じて、ギリギリ遅刻にしておいてやろう」

「な、なんでギリギリ遅刻なんですかっ。ま、まだ一分前ですよねっ!」

「いや、先生の時計だと三十秒過ぎてるんだわ。潔く諦めることだなっ」

「くっ、こんなの横暴よ。こんな横暴が許されていいわけないわよ。で、でも、今日だけは大人しく従います。か、勘違いしないでね、今日は特別な日だからよ。それだけ、なんだから」

 ため息しかでませんね。

 ホント、最悪のスタートになってしまいました。

 でも、モノは考えようなんだから。
 人間ポジティブに生きないと……。

「特別な日……。そうだ、西園寺」

「な、なんですか、加地先生」

「貧乳ツンデレは時代遅れだぜー? だからあっさりフラれるんだよ。まっ、これからは勉学に励むんだなっ」

「な、なんでフラれたことを知ってるのですかっ!」

「俺今日早番でさー、校内を見回ってたら、たまたま目撃したんだよね。そんなことより、早く席につけよな、負け組の貧乳ツンデレラさんっ」

 これが教師の言うことですか。ありえません、ありえませんわよ。傷口に塩を塗る教師が、どこにいるというのよ。

 はいはい、ここにいましたね。そうですよね、加地先生はそういう人でしたもんね。

 何が『負け組貧乳ツンデラ』よ。

 もう、反論する気力もありません。今日はなんて最悪な日なの、新年度早々に絶望とか、世界は私を闇堕ちさせたいのかしら。

 このツンデレ属性だって……私がどれほど苦労して手に入れたと思ってるのよ。

 高校一年の大半を犠牲にしてまで手に入れたのに……。


 一年前──。

 入学式の日、私はあの人を見かけ、全身に電流が駆け巡ったのよ。でも、声をかけるなんて、私には絶対無理な話。だって、中学の三年間はずっと……陰キャだったから。

「はぁ、この性格を直したいんだけど。そんな勇気なんてないし。きっとこのまま、平坦な高校生活を送って、誰の記憶にも残らない青春時代が、黒歴史として刻まれるのね」

 陰キャという、天から授けられた私の属性。

 別にレアな属性ではなく、いわゆるハズレ属性というモノ。

 陰キャ属性なんてメリットがひとつもない。影が薄くなるし、中学の同級生にはもう忘れられているし。

 だって、卒業後すぐに同窓会があったのよ。

 陰キャ属性の私には声すらかからなかった。

 しかも誰も気づかず、たまたま街であったら──『あっ、そういえば西園寺さんも同じクラスだったね』ですよ。

 卒業アルバムだって、私はクラス写真しか写ってない。ありえないでしょ、先生ですら陰キャ属性に負けて、私の存在を忘れるだなんて。

「でも性格って、どうやったら変えられるのかな。もし、私が陽キャだったら──あの人に告白して、バラ色の高校生活をエンジョイするはず。そうよ、絶対にそうなるはずなんだからっ」

 新入生が溢れかえる廊下で、私はひとりで妄想の世界へ入り浸る。

 脳内で展開されるあの人との甘い恋人生活。

 自然と笑みがこぼれ、周囲から怪しい視線が突き刺さっていた。

「鷺ノ宮君、私、聞きたいことがあるんだけど……」

 ──あれ、この声はまさか……。

 私を妄想の世界から帰還させたのは、入学式の日に一目惚れしたあの人だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。 しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。

善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました~

みずがめ
青春
高校入学前、俺は車に撥ねられそうになっている女性を助けた。そこまではよかったけど、代わりに俺が交通事故に遭ってしまい入院するはめになった。 入学式当日。未だに入院中の俺は高校生活のスタートダッシュに失敗したと落ち込む。 そこへ現れたのは縁もゆかりもないと思っていた金髪ギャルであった。しかし彼女こそ俺が事故から助けた少女だったのだ。 「助けてくれた、お礼……したいし」 苦手な金髪ギャルだろうが、恥じらう乙女の前に健全な男子が逆らえるわけがなかった。 こうして始まった俺と金髪ギャルの関係は、なんやかんやあって(本編にて)ハッピーエンドへと向かっていくのであった。 表紙絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【完結】カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。 無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

深海の星空

柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」  ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。  少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。 やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。 世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

処理中です...