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第16話 密会というのは背徳感で満たされますわ

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 夜の外出はいつもと違って感じる。
 城に着いたセーナはこっそり侵入し、約束の地である裏庭へと足を運ぶ。

 静まり返った城内でレオが来るのをひたすら待ち続ける。
 何をすればいいのか手紙には書いていなかったが、セーナにはどうすればいいのか分かっていた。

「やぁ、レーナ。どうしたんだよ、こんな場所に呼び出したりして。話なら俺様の部屋でもよかったはずだが?」

 レオの声を聞いた途端、ホッとしてしまうセーナ。
 だがそれはダメだと自分に言い聞かせ、偽りのレーナを演じようとする。

 復讐の邪魔になるような感情は捨てなければ。
 目の前にいるのは憎き者──そう言い聞かせる事で、凍らせた心が溶けるのを防いだ。

「密会という言葉がステキだとは思いませんか? わたくしはこういう背徳感が好きなんですわ」
「そうか、そうだったんだな。だが奇遇だな、俺様もそういうのが好きなんだぜ」

 相変わらず話を合わせるレオ。
 それがセーナだろうと、瞳にはレーナとして映っている。

 どうして自分ではないのだろう──ふと頭に浮かんでしまった禁句の言葉。どれだけ閉じ込めても、まるで意志を持っているかのように這い出てくる。

 止めなければならない。
 このままでは最悪のケースとなるのは間違いない。
 もう一人の自分を強引に押し込め、セーナは演技を続けようとしていた。

「そうでしたの。レオ国王とは以心伝心ですわね」
「今はレオでいいぜ。なにせ二人っきりなんだからな」

 胸に突き刺さるレオの言葉。
 自分へ向けられていないのは分かっている。
 寂しさを覚えるもすぐに振り払い、レーナという女性へと戻っていく。

 感情を押し殺し復讐の事だけを考えた。
 もはやセーナにはその選択肢しかなかったのだから……。

「そう、ではレオと呼ばせて貰うわ」
「いいぜ、それで大切な話って手紙には書いてあったが、何か悩みでもあるのか?」
「それはですね……」

 考えていなかった。だが、セーナは焦る素振そぶりすら見せず、キレのある頭ですぐに答えを出した。

「婚約発表しても景色が変わらず退屈なんですの」
「なるほどな。新しい刺激が欲しいということか」
「要約するとそうですわ。……そうですわ、レオが国王になったのですから、新しい法律とか作って欲しいの。そうすればこの退屈な気持ちもマシになるはずよ」

 無茶振りなのは確かであり、レオがこの要望を叶えてくれる保証はない。
 それでもセーナは、復讐の布石となるよう潤んだ瞳でお願いする。

 これなら断られる確率は減るはず。
 苦しさにあらがいながら、セーナはレオからの返事を静かに待っていた。

「そうか、新しい法律か。それでいいなら何か考えてみるとするか」
「決断力の早さはさすがですわ、レオ。では、そろそろお城へ戻りましょうか。別々に戻った方が密会の余韻に浸れますの」
「そうだな、俺様も同じ事を考えていたところだ」

 暗闇の中で反対方向へ歩いていくふたり。
 ひとまず役目を終えたセーナは、ホッとすると同時に心が寂しくなっている事に気づいてしまった。
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