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第10話 婚約破棄は準備が終わってから

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 惚れた方が負け──恋愛などそんなもの。
 待ち受ける運命は操り人形になるだけ。
 たとえそれが婚約だろうと結果は同じになる。

 戦況は完全にレーナへと傾き、復讐達成というゴールが近づいてくる。
 だが慌ててはならない。隙を見せずじっくり追い詰めていく必要がある。
 あの日に傷つけられた心は決して治らないのだから。

「お姉様、復讐は順調でしょうか?」
「もちろんよ、セーナのおかげですわ。あの男──レオ王子にはもっと苦しんで貰わないといけませんわ」

 憎悪が溢れ出しドス黒いオーラを放つレーナ。
 禍々しい顔はセーナの顔と似つかないほど。
 今のふたりを誰かが見たら双子だと気づかないであろう。

 美しさに変わりはないが、見た目は天使と悪魔くらいの差がある。
 セーナが天使で悪魔はレーナ。絶世の美女という言葉は失われないものの、属性は真逆となってしまった。

 元に戻さねば──レーナは憎悪を心の奥へと押し込んだ。

「苦しませるという事は、婚約破棄はまだ先なのですね?」
「そうよ、レオ王子から全てを奪ってから絶望に突き落とすの。それこそ地位や名誉もね?」

 簡単には達成できない事ぐらい知っている。
 普通の復讐では心に空いた穴は埋められない。
 根こそぎ奪い去り、物理的にも精神的にも破滅させる。そのためにはセーナの協力は不可欠であった。

「お姉様、わたくしに出来る事があったら仰ってくださいね。なんでも協力いたしますので」
「心強いわ、セーナ。でも、今度の晩餐会はわたくしが行きますので、今は・・まだ大丈夫ですわ」
「晩餐会ですか、それも復讐に利用するのですね」

 少し羨ましいと思うセーナ。
 なぜそう思ったのか自分でも分からない。
 心に黒いモヤがくすぶり、いくら払い除けてもまとわりついてくる。

 否定したい──頭ではそう思っていても心が動こうとしない。
 これではレーナの復讐を邪魔してしまう。

 それだけは絶対にダメ。自分の役目を間違えてはならない。
 溢れだしそうになる気持ちを抑え、セーナは偽りの自分を演じようと心に固く誓いを立てた。

「もちろんよ。こんなチャンス滅多にないもの」

 妖しげな雰囲気をかもし出し、レーナは口元に不敵な笑みを浮かべる。本当なら憎い相手との晩餐会など、生理的に受け付けないはず。
 しかし……復讐という大義の前には些細な問題。
 嫌気よりも復讐心の方が遥かにまさり、今から終着駅が楽しみで仕方がない。

 憎悪は衰える事なく燃え上がる。
 レーナの頭にあるのはレオが絶望する顔。
 その瞬間を味わうためなら、どんな苦境が待ち受けていようとも乗り越えようとしていた。

「わたくしはお姉様の成功を心から祈っておりますわ」

 そう言わずにはいられなかった。
 内側にある罪悪感を払拭するには声に出す必要がある。
 レオという存在がレーナの復讐対象であると同時に、どことなく惹かれているのも否定できない。

 複雑な心境の中、セーナは尊敬するレーナの復讐に協力するのであった。
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