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第3話 王子様はわたくしにベタ惚れなの

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 あのレオ王子と婚約した──。
 この美貌に屈しない者などこの世には存在しない。
 全てはまだ始まりにすぎないのだ。

 舞踏会から一夜明け、レーナの性格は大きく変貌する。
 美しさこそ絶対の力と信じ、レオの気持ちがどこまで本気なのか、試さずにはいられなくなった。

「レオ王子の事ですから、いっときの感情という可能性もありますわね。ここは少し、どれだけの愛があるのか試すとしますか」

 当然ながら会う約束などしていない。
 突然訪ねても、会ってくれるほど愛されているのだろうか?
 根拠はないものの、レーナは自信に溢れかえっている。

 この世界で一番の美女は自分。
 あの頃とは違う。偽りでなく本物・・の美を手にいれたのだから。

「洋服は……そうね、派手すぎない方がいいかしら」

 舞踏会や晩餐会でならドレス一択だが、平凡な日にドレスなど中身がない者が着るもの。
 自然な美しさこそが全てを魅了する──かといって地味な洋服は論外。
 公爵家として恥じぬ服を選び、レーナはお城へ馬車で向かった。


 夜とは違う雰囲気に包まれている居城。
 入口には屈強な門兵が厳しい目を光らせている。
 普通の神経ならその威圧感に気圧されるも、レーナは全く動じる事なく門兵に話しかけた。

「ちょっとそこのいかつい方、レオ王子とお会いしたいので通していただけるかしら?」
「どこの馬とも分からぬ者を通すわけには行かぬ。さっさと消え失せるがよい」
「あら、そんな強気な態度でよろしくて? わたくしはレオ王子の婚約者よ? 通さないと言うのなら……それで構いませんけど、お咎めを受けるのは間違いなくってよ」

 気高く気品溢れるオーラを放つレーナ。
 体格差など気にしないのはさすが。
 強く美しい女性──誰もがその魅力に抗えず、瞬く間にその場の空気を支配した。

「し、仕方がない……。特例として認めよう」
「ありがと」

 優雅に門兵の横を通り城内へ入っていく。
 一度も振り返らない姿は強者の証。
 美という絶対なる武器をたずさえるも、レオの愛が本物なのか、心の中は期待と不安が半々であった。

 城の中は広くレオひとりを見つけるのは至難の業。
 それならばと、レオに自分のところまで来させればよい。
 レーナはメイドを捕まえレオに伝言を頼んだ。

 結果はどちらになるだろうか。レオが来るのか、それとも自分が行くのか……。
 それによって愛され度が分かる。
 レーナは緊張しながらメイドが戻って来るのを待っていた。

「少し待たせたか? 俺様に会いに来てくれるとは嬉しい限りだ」
「そんなに待ちませんでしたわ。でも──突然押しかけてご迷惑でしたかしら」
「愛しのレーナが来たのなら、たとえ地の果てからだろうと駆けつけるさ」

 心にもない事を口走るレーナ。
 偽りの自分──勝者の笑みを隠し可憐な女性になりきる。
 これで確信した、レオは美という魔物に取り憑かれたということに。

 どこまで操り人形に出来るか現時点では不明。
 しかしこの行動を見る限り、完全な傀儡に出来る可能性は非常に高いと思っていた。
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