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第十三話 審判の始まり

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 ふふふ、準備は整いました。お母様、私の幸せのため、犠牲になったことを感謝しますわ。

 次は、ミシェル、アナタに鉄槌をくだすとき。
 でも、トーマスだけは行方不明と言っていましたね。逃げたのかしら……今はそんなことより、ミシェルの最後を楽しみますか。彼が絶望するところ、早くみたいわね。

「さて、そろそろ議会へと向かいますかね」

 屋敷をあとにし、私は議会のある街へと馬車を走らせた。結果は変わらないけれど、その過程でミシェルの心を完全に破壊する。もちろん、フィアンセのシェリーもね。

 この国は良くも悪くも、議会に決定権がある。今までは王族の傀儡であった議会。でも、今の議会は私の人形なのよ。だって、彼らにも弱みというものがあるのだから。

 そう、その弱みこそが彼らを操れる唯一の方法。
 ある者には人質を取って脅し、またある者には、多額のお金を渡したり、方法は様々だった。
 それに、セバスチャンが言うには、ミシェルを快く思わない人もいたとか。すべてが私の復讐を祝っている、そんな気がしますわ。

「ここが、議会ですか。初めて見ましたけど、立派な造りですわ」
「レイチェル様、お待ちしておりました」
「セバスチャン、中へ案内してもらえるかしら」
「御意」

 石で造られたトンネルを抜けると、大きな広間が見えた。天井などない、青空の下で裁きが行われる。セバスチャンが私に教えてくれた。

「ここに座っていればよろしいのかしら?」
「はい、議会はもうじき開幕いたします」
「ありがと、セバスチャン。もうさがってよいわよ」

 議員たちはすでに着席しているのね。ふふふ、あの傲慢なミシェルが地に落ちるときが来たのよ。何が『生理的に無理』だから婚約破棄よ。その代償を払ってもらいましょうか。

 あくまでも鉄仮面を貫く私。
 しばらくして、ミシェルがこの議会に姿を現す。だけど、余裕の笑みを見せていた。それもそうよね、議会は自分の思うままだと、思っているのだから。

「まったく、この国の第一王子である、僕を呼びつけるだなんて、議会も地に落ちたんじゃな~い?」

 これがミシェルの本性ね。傲慢の名を欲しいままにしてますわ。で、も、その態度がいつまで続くのかしら、ね。

 私にまったく気づく様子もなく、ミシェルは議会を罵倒し続けていた。そこで私は……彼を挑発し宣戦布告をする。

「あら、見掛け倒しの王子様。アナタって、器が小さいのね、それじゃ……周りから見捨てられるわよ?」
「キミは誰だ! って、いい女じゃない。そうだ、僕の愛人に……」
「ふふふ、鏡を見てから出直して来なさい。このレイチェルに、クズ王子様では釣り合いませんわよ?」
「レイチェル……どこかで聞いたような名前だな……」
「覚えているんですの? 議会に呼び出された原因、そして、クズ王子が婚約破棄したそのレイチェルですわ」

 あの顔、どうやら思い出したようね。まったく、ここに呼び出された理由も知らないだなんて、ホント、いいご身分ですこと。

「き、キミがあのレイチェルだって……。だって、レイチェルは、田舎臭くて、キミのようにスタイルがいいわけでも、ましてや、絶世の美女でもなかったぞ」
「ふふふふ、クズ王子はご存知ないのね。アナタが会ったレイチェルは影なのよ。今、アナタの目の前にいるのが、本物のレイチェルなのだから」
「えっ、そ、んな……。そうだ、婚約破棄を破棄するから、僕とやり直ししないか? キミだって、この国の妃になりたいだろ」

 この男はすでに国王気分なのですね。確か、国王は病気と聞きましたし。でも、クズ王子の運命はもう決まっているの。だって、あの男は……。

「残念ですが、クズ王子の話には乗れませんの。だって、影レイチェルは……婚約破棄の責任を取って、もうこの世界のどこにもいない。つまり、クズ王子にも同等の責任を負ってもらう。それが、アナタがここに呼ばれた理由よ?」
「僕が責任を負うって? バカバカしい、だいたい議会は僕のモノなんだ、責任なんて、僕が追うはずないだろ」

 ついに始まりましたわ。ミシェルの反応は当然ですね、だって……『今まで』はそうでしたもの。でも、時代は変化していくもの、それをその身で味わうといいわ。

 私は不敵な笑みを浮かべ、この開戦に応じようとしたのだ。
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