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第十二話 結局、復讐は自らがくだす

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 私はひとり、部屋で報告を待っていた。
 静かに笑みを浮かべ、吉報が来るのをじっと……。

 最初の連絡は三日後。私の部屋へ電話をかけた、セバスチャンからであった。抑揚のないいつもの声で、私に状況を報告してきた。

「レイチェル様、お耳に入れたいことがございます」
「どうしたの、セバスチャン。それは、よい知らせなのかしら? それとも……」
「残念ながら、悪い報告にございます」
「そう、なのね。では、内容を教えてくれるかしら?」

 ミシェルにバレたのかしら。でも、たとえバレたとしても……手はありますからね。それとも、裏切りなのかしら、どっちにしても、セバスチャンの話を聞いてから、対応を考えましょうか。

 心の動揺などまったくない。むしろ、怖いくらい平静を保っている。まるで、この状況すら楽しむように……。

「はい、実は、ミシェルを直接殺害しようとする者が現れまして、それを聞きつけた警備のものが嗅ぎ回っておるのです」
「それで、その者たちは捕まったのかしら?」
「いえ、逃亡中とのことで、まだ捕まっておりません」
「なら、予定通り、始末しなさい。それと、嗅ぎまわってる者は、どこまで知ってるのかしら」
「どうやら、まだ単独行動のようです。ですが、上に報告されるのも時間の問題かと」

 この状況を好転させる方法を考え始める。単純に始末するだけなら、私のことが漏れる可能性はかなり低い。が、復讐の妨げになるのは間違いない。
 そこで、私はある方法を思いつく。
 その方法とは──。

「では、逃亡中の者をまず見つけて始末しなさい。それと、追っ手に情報を流し、同じ場所で始末するの。争った結果で、共倒れにみせるの」
「御意」
「あとは……ケリーを利用し、お母様の命令と偽って、お母様の処刑もお願いするわ。議会のコントロールは、セバスチャンに任せます」
「かしこまりました。それではさっそく……」
「いえ、もうひとつ、お願いがあるの。今、名案を思いついたのよ」
「名案、ですか」

 私の考えを整理するとこうですわ。
 お母様は、『婚約破棄』で狂って復讐に走ってしまった。
 お母様の名で暗殺しようとするも、警備と争って共倒れ。
 議会でお母様の処刑が決定、すぐに執行される。
 そして……ミシェルを議会に呼び出し尋問するの。そこで、婚約破棄についてすべてを語ってもらいます。もちろん、私もそこに出席し──。

「なるほど、それは名案ですな。しかし、今走り回ってる者たちは、いかがいたしましょう」
「口封じで屋敷の牢獄に閉じ込めておきなさい」
「はっ、ひとり残らず捕らえますゆえ、ご安心してください」
「期待、してるわよ」

 セバスチャンに任せれば安心ね。あんなに有能な執事は、他に見たことがありませんわ。忠義に厚く、そして、目的のためなら手段をえらばず、確実に任務をこなせるだなんて。
 あの人を雇ってくれたことは、お母様に感謝しませんとね。

 これを機に、私はミシェルへの復讐を開始する。
 下僕たちには悪いけど、名案が思いついてしまったのだから仕方がない。もちろん、許してくれるわよね。

 だって、もし、私がその地位についたとき、弱みになるのだから、早めに処分するのが妥当でしょ。そ、れ、に、使えなくなった道具は、きちんと処分しないと環境破壊に繋がりますし。

 あとは、セバスチャンの準備が整うのを待つだけ。ミシェル……もうすぐよ、もうすぐでアナタを地獄へ堕としてあげますからね。
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