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第十一話 復讐心は愛にも勝る

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 さてと、復讐はどうしましょうかね。正面からいっても武が悪いですし。何か名案は……。
 しかたありません、ここは下僕どもに意見を聞くとしますか。

「セバスチャン、彼らを全員呼んでちょうだい。あっ、ご、ゴンザレス以外をね?」
「御意、すぐに呼んでまいります」

 ゴンザレスには、しばらく顔を合わせられませんわね。だって、つい先ほど醜態を晒してしまったんですもの。あんな私の黒歴史……何があっても、流出だけは避けませんとね。

 屋敷にある私の部屋。
 そこが、ミシェルへの復讐計画を立てる場所よ。あの腐れ外道に泥水をすすらせ、地べたにひれ伏させてみせるの。そのためなら私は……なんでも犠牲にしてみせるから。

 ──コンコン。
「入ってもよろしくってよ」
「はっ、では失礼します。レイチェル様、彼らをお連れいたしました」
「そっ、ご苦労セバスチャン。さがってよいわよ」
「御意……」

 トーマスもいるのね、まっ、当たり前のことですけれど。って、なんで彼のことが気になってるのよ、ばかっ。これじゃまるで……ううん、ダメよ、そんなことはないから。
 どうせ男なんて……ミシェルと同じ、そうよ、だから、彼も利用するだけ利用してあげる。そうすれば、私を惑わす者などいなくなるのだから……。

「よく集まってくれたわね。レイチェルは感激よ? まっ、この程度でお礼などしませんけれど」
「レイチェル様、どのような理由で、僕たちをお呼びになったのでしょうか? もちろん、レイチェル様のお呼び出しとあらば、すぐに駆けつけます」
「ケリー……だったわね。確かにアナタの言う通り、理由ぐらい教えないとね」
「寛大なレイチェル様に感謝いたします」

 『ミシェルへの復讐』と、本当のことを話すべきでしょうか。少し悩んでしまいますね。かといって、そこを濁してもろくな案が出てきそうにないわね。
 それなら──。

「理由は簡単よ。心して聞くがよい、このレイチェルを辱めたにっくきミシェルに、今こそ裁きを与える。それが理由よ、異論などありますか?」
「い、いえ、異論などありません」
「ふふふ、素直な子は好きよ。そうですわ、いいことを思いつきましたの。も、し、ミシェルに鉄槌をくだせたのなら、このレイチェル、身も心も捧げてもよくってよ?」

 まっ、本当にそんなことするつもりはありませんけど。でも、効果的面みたいですわ。所詮は男、この美貌に手を出したいと、目の色が変わりましたわね。
 ケダモノに触れさせるほど、私の体は安くないのにね。

「あら、ご不満かしら? それこそ、一日中、朝から夜まで、好きなようにしていいのですよ? レイチェルの体では、アナタたちを満足できないかしら?」
「と、とんでもございません。我らは必ずやその使命を果たしてみせます」
「ええ、期待、してるわ」

 投げキッスまでして、もう、恥ずかしいわよ。でも、これは復讐のため、これぐらい耐えないといけませんわ。それに、彼らには『最後』ぐらい、夢をみさせてあげないとね?

 意気揚々と部屋を出ていく彼らを、私は冷たい視線で見送った。所詮、男は私の道具、使い終わったら処分するだけ。もう惑わされない、たとえ、トーマスであろうとも、私の心は動かせないのよ。

 なんで、彼の名が出てきたのかしら。べ、別にいいわ、どうせ彼も例外ではないのだから。

「セバスチャン、中にお入りなさい。アナタに重要な任務を与えます」
「どのような任務でしょか?」
「難しい任務ではないわ。もし、レイチェルの企みが漏れたり、復讐が成功したのなら……。彼らを処分しなさい。お供にハッサムとゴンザレスを連れていくといいわ」
「御意、方法はいかがいたしますか?」
「任せるわ、お好きなように、ね」
「それと、報告を定期的にお願いするわ」
「お任せください、レイチェル様」

 ふふふ、これでいいわ。たとえ失敗しても、私に害が及ばないもの。あとは報告を聞きながら……裏で操ればいいのよ。裏でね。
 そういえば、お母様にもまだ使い道があったわね。シャルロット家は私が当主ですけど、それはナーシャ内での話。だ、か、ら、万が一の保険として、使わせてもらいますわ。

 私はこの広い部屋で、悪魔の笑い声を響かせる。
 だって、復讐に愛など……一番不要なものなのだから。
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