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第四話 すべてのイケメンは私のモノ

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 今日が約束の日ね。さて、私への忠誠は誰が一番かしら。見つけられない人はいるのかしらね。もっとも、処刑だなだなんて……野蛮なことを私がするわけありませんけれど。

 私は屋敷で悪魔の笑みを浮かべながら、彼らの到着を静かに待ってた。仮に見つけられなかった場合は、私の下僕として一生をすごさせ、逃げれば一族まるごと下僕にするだけ。

 それに、あの場で『処刑』という言葉を出せば、必死になってくれる。裏切りを阻止するのに使ったのだから。

「アナタが一番のようね。それで、私への貢物は用意できたのかしら?」

 最初に来たのはファッションデザイナーの男。
 彼はゴマをすりながら私の前に立っている。安いのか軽いのか、頭をペコペコ下げる姿は、まるでししおどしのよう。
 そんな彼が連れてきた男とは……。

「もちろんにございます、レイチェル様。さぁ、失礼のない挨拶をするのだぞ」
「はっ、僕の名前はケリー、父はこの国で議長をしております。どうか、よろしくお願いします」
「議長の息子、ね。もちろん、長男ですわよね?」
「レイチェル様、その通りにございます」

 ルックスは、そうね、私好みではあるわ。それに、議長の息子というのも、ポイントが高いわね。点数をつけるなら……八十点ってところかしら。

 合格ラインを七十点と勝手に決め、それ未満なら下僕とする。もちろん、つける点数はすべて私の独断と偏見よ。

「いいわ、合格ね。セバスチャン、彼らに部屋を与えなさい」
「かしこまりました、レイチェル様」

 執事長のセバスチャンに連れられ、あの二人は私の前から去っていく。出だしからの好調っぷりに、私の心は嬉しさで満たされていた。

 そして、次にやって来たのは……。

「レイチェル様、お待たせいたしました。アナタ様にお似合いの方を連れてまいりましたので、ぜひ、お納めください」
「アナタのお名前はなんというのですか?」
「ワシの名は……」
「誰が、ちょび髭オヤジの名前なんて知りたいと思うのですか。そこの青年に決まってるわ」
「俺の名はゴンザレス、見ての通り、筋肉を愛する者なり」
「なるほど、なかなか、いい筋肉をしてるわね。ヨダレが……いいえ、なんでもありませんわ」

 顔は中の下ってところかしら。でも、あの筋肉は欲しいわね。鍛え上げられ肉体こそ、私が求めるモノのひとつなの。顔がイマイチ好みではありませんが、キープしておきますか。

「セバスチャン、この二人も部屋へ案内しなさい」
「御意」

 このあと、立て続けに五人ほど来ましたが、全員キープということで、私は彼らに部屋を与えた。残りはあとひとり、だったかしら。制限時間まで……残り五分。間に合うかしらね。

 ──バタン。
 あら、ギリギリ間に合ってしまいましたね。つまらな……ではなく、今度はどんな男を連れてきたのかしら。

「お、遅れて申し訳ありません、レイチェル様。馬車が途中で壊れてしまいまして……」
「そんないいわけなど、聞きたくないですわ。そ、れ、で、約束の男は連れてきたのでしょうねっ」
「はっ、レイチェル様に、お似合いの方をお連れいたしました」

 ふぅ~ん、後ろの男がそうなのね。見た目は、普通、ね。でも、嫌いなタイプではないわ。でも、イケメンというには……。

「私はトーマスと言います。この度はお招きありがとうござます。レイチェル様のため、身も心も捧げる覚悟がありますゆえ、どうかよろしくお願いいたします」


 礼儀は正しいし、身も心も捧げるなら、キープしておいて損はないわね。それにこの方、どこかで見覚えが……。

 私は意識を記憶へと飛ばし、彼から視線を逸らしていた。すると、手の甲に湿った感触が伝わり、すぐに視線をその方向へと向ける。
 そこで目にしたのは──。

「な、な、な、何をなさいますのっ。こ、これは……キスではありませんかっ」

 まさかの事態に、私は動揺を隠せなかった。キスなど生まれて初めてのこと。だって、ミシェル様は私へキスなどしてくれなかった。
 異性から受ける初めてのキスに、私の心音は大きくなっていった。
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