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第三話 ステキなご褒美は蜜の味

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 必死に私をイメチェンしてくれた。
 おかげで、転生した気分ですわ。だって、以前の私はどこにもいないんですから。

 長い黒髪は金髪にしてカールを巻いてくれた。
 田舎メガネは深紅のカラーコンタクトに変える。
 服は最新ファッションを取り入れ、コスメも流行りモノを使用。

 まさに絶世の美女へと私は変身したのだ。

「いいわ、最高よ、アナタたち。約束通り、報酬を支払いましょう。一生遊べるだけのお金を用意するわ。で、も、この屋敷から出ることを一生禁止しますけどねっ」

 見て、あの顔、絶望のどん底って感じ。いいわ、もっとその顔を私に見せてちょうだい。それでこそ、私の心が満たされるというモノよ。

 彼らの部屋……そうね、せめて部屋ぐらいは用意してあげるとしますか。

「そんな怖がらないでね。レイチェルはそんな意地悪じゃない、よ? 豪勢な部屋を用意して、あ、げ、る」
「あ、あの……報酬はいらないので、家に帰してほしいのですが……」
「あら、つれないこと言うのね。いいわよ、それならそれで。それくらい、寛大なレイチェルは許しちゃうんだからっ」

 次々に上がる歓喜の声。
 まるで、地獄から解放されたようね。さて、彼らの望みを叶えて差し上げますか。

「ただし、無言の帰宅でよろしければですけど、ね。ハッサム、彼らはこの世界から旅立ちたいそうなので、協力してあげてね?」
「はっ、レイチェル様の仰せのままに」

 私の指令で鞘から剣を抜くハッサム。
 そのまま刃を彼らに向け切りかかろうとする。

 恐怖がこの空間を支配し、彼らは蛇に睨まれた蛙ように動けない。私はただじっとその結末を見守ろうとした。

「お、お待ちください、レイチェル様。儂はレイチェル様のご褒美をお受けいたします。ですから、どうか、儂ひとりだけでもお助けください」
「ず、ずるいぞ。私もご褒美を受けますので!」

 さて、どうしましょうかね。全員を助ける……というのもナンセンスですわ。でも、ただ殺すというのも面白味にかけますわね。

 悩み抜くこと数分、私の頭に名案が浮かぶ。
 それは──。

「いいですわよ。一度は拒絶されましたけれど、寛大なレイチェルが許してあげましょう。でも、何も罰がないのは秩序を乱すの。だ、か、ら、レイチェル好みの異性を連れてきた人だけ、許しちゃおうかなっ」

 ざわめきが室内に巻き起こる。
 そうよね、彼らにしてみたら、絶望から這い上がれるチャンスなんですもの。

「任せてくださいっ。必ずやレイチェル様のお目にかかる男性を連れてまいります」
「えぇ、期待、してるわよ? あっ、ひとつだけ、条件があるわ。もし、私の好みでなかったり、逃亡なんなんてしたら……一族全員処刑するからねっ」

 あははは、見てよ、あの絶望に満ちた顔たち。最高よ、この地に君臨してるって、実感できるわ。進むも地獄、戻るも地獄とはまさにこのことね。

 静寂が部屋を支配する中、私はさらなる絶望を彼らに与える。しかも、期限という手網で彼らの行動を制限すれば、私のため必死になるに違いないもの。

「期限は……三日ね。もぅ、レイチェルの優しさに感謝してよねっ」
「レイチェル様、明日から三日でよろしいでしょうか?」
「あら、レイチェルは冗談が嫌いなのよ。今から三日に決まってるわ」

 すでに太陽は真上に来ている。
 つまり、私への貢物は、実質二日半で届ける必要があるの。彼らに考える暇など与えない、私が与えるのは……私への忠誠心なのだから。
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