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第7話 約束の少女

我慢していた想い

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「直哉君、私とずっと一緒にいてね。もう、遠くから見てるだけなんて我慢出来ないの。だからお願い・・・・・・」
「亜子さん・・・・・・」

 このままでは亜子の心は壊れてしまい、二度と以前の亜子には戻らないだろう。直哉はこの方法しかないと思い、亜子を自らの手で抱き締めたのだ。

「──────!?」

 直哉の温もりが亜子の全身に伝わっていく。先程までの表情が嘘のように穏やかな亜子が徐々に戻ってきたのだ。

「直哉・・・・・・君?」
「亜子さん、落ち着いて僕の話を聞いてよ。大丈夫、もう、離れたりなんかしないから」
「うん・・・・・・」

 直哉の胸が心地よく亜子を正常な状態へと戻していく。亜子が顔を埋めると直哉の懐かしく、そして安心する匂いであり次第に心が満たされていったのだ。

「亜子さん、どう?落ち着いた・・・・・・かな」
「直哉君・・・・・・私・・・・・・」
「もう大丈夫だから、二度と忘れたりなんかしないから。だからさ・・・・・・」

 失った時間を取り戻すかの様に、亜子はなすがままに直哉にしばらく抱き締められていた。もう、恥ずかしいという感情は亜子にはなかった。この温もりが恋しく、そして愛おしかったのだ。

「ありがとう・・・・・・落ち着いたよ。ごめんね、直哉君。迷惑掛けちゃったね・・・・・・」
「うん・・・・・・」
「それに優子や沙織さん、葵さんに紗英ちゃんにも・・・・・・酷い事しちゃった」

「みんな優しいからきっと許してくれるよ。葵さんは・・・・・・うん、一言ぐらい嫌味とか言いそうだけどね」
「あははは、葵さんなら絶対言うよね。私の直哉を奪う事は許さない~とか」
「でも、きっと許してくれるよ。だから、一緒に謝ろ?」

静かに頷いた亜子は、赤く染めた顔で直哉にお願いをしたのだ。

「ねぇ、直哉君・・・・・・その前にもう一度・・・・・・キスして・・・・・・いいかな?」
「えっ?」
「ダメかな?ふふふ、やっぱり直哉君の返事は聞かないね」

 困惑している直哉に、亜子は恥じらう様子もなく唇を重ねる。先程より長い時間二人の唇が重なりあっていた。

そして、亜子の大きな鼓動が胸を通して直哉に伝わっていく。直哉はそんな亜子の肩に手を回すと、二人だけの空間が生成されていた。

 十年という月日が亜子の頭の中で再生されていく。ようやく叶った願いに亜子は、あの日の悲しかった思い出を脳裏に再生していた。

 そう、十年前のあの日からずっと亜子の気持ちは変わらなかったのだ。
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