上 下
21 / 71
第3話 自由なきお嬢様

攫われた先にあるモノ

しおりを挟む
「お嬢様、ご無事ですか。この者は・・・・・・まさかお嬢様を誘拐しようと企てている者ですね」
「いえ・・・・・・神崎様は・・・・・・」
「お嬢様を誘拐しようとは、この様な不届き者を放って置く事は出来ませんな」

 直哉が弁明する間もなく黒服達は直哉を連れ去り、車に乗せるとショッピングモールを出てどこかへ行ってしまったのだ。

 その様子をたまたま見ていた紗英は、優子と亜子に事の次第を説明し直哉を助けに行こうとしていたのだった。


 直哉が気が付くと、そこは薄暗い部屋の一室で窓はあるものの、分厚いカーテンが外の空間を遮っていた。

 人助けをしたはずが、何故誘拐犯に間違えられたのか、直哉は自分の言動を振り返っていた。何が原因で勘違いされたのか・・・・・・いくら思い出しても全く思い当たる節がなかったのだ。

 すると、部屋が急に明るくなり扉から先程の黒服が入って来たのだ。黒服の男性は直哉に謝罪をすると、話をしたい人物がいると言って直哉を別の部屋に案内したのだ。

「神崎様・・・・・・こちらの不手際でこの様な事態になってしまい、誠に申し訳ございません。ほら、お父様もきちんと神崎様に謝罪をして下さい。」
「神崎君とか言ったね・・・・・・部下が大変失礼な事をしてしまい申し訳なかった。沙織を助けて頂いたのに、誘拐犯と間違えるなど・・・・・・本当に申し訳ない」
「いえ、誤解が解けて良かったです。それと、友達が心配しているので、連絡してもよろしいでしょうか?」

 直哉はスマホを出すと電話帳から、優子を探しその番号へ電話をした。コール音が数回鳴ると、心配そうな声で優子が電話に出たのだった。

『もしもし、優子?心配かけて悪い。僕は大丈夫だよ。何か誘拐犯と間違えられたみたいで・・・・・・あははは』
『もう、みんな心配したんだからねっ。全く、普段から胸とか見てるからそんな目に逢うのよ。これからは気をつけてね』
「だからですね、お詫びとして、神崎様とわたくしでディナーに行くと申しておりますの。北村グループの社長令嬢として、恥ずかしくない行動だと思いますわ」
『直哉・・・・・・?今の声・・・・・・女の人?ディナーって・・・・・・何かな』

 父親を説得するのに沙織が出した大きな声が、電話越しの優子に聞こえたのだ。突然聞こえてきた女性の声とディナーという言葉に、優子の心は怒りがふつふつと湧き上がっていく。

『えっと、声は北村さんって言って、ショッピングモールの公園で倒れた所を助けた女性だよ。でも、ディナーって何の話・・・・・・?』
『ふ~ん、とぼけるつもりなのね。そう、そうなのね。こっちがどれだけ心配したと思ってるのよっ』
『だから、本当になんの事だか分からないんだけど・・・・・・』

 優子を惑わす様に再び沙織の声が、電話越しの優子に伝わってしまう。電話に集中していた直哉には沙織の声が聞こえておらず、優子と話が噛み合っていなかったのだ。
しおりを挟む

処理中です...