上 下
133 / 135
第二章 高校三年生編

第129.5話 藤川虎徹は思い出を重ねる

しおりを挟む
 毎年、誕生日が来るのは憂鬱だった。
 小さい頃はあまり意識はしていなかったが、中学生になってからは特にだ。

 それは何故か。
 ……若葉が誰かと付き合うかもしれないと思っていたからだ。

 俺は若葉に幸せになってほしいと思っていた。叶うなら自分が幸せにしたいと思っていた。
 ただ、高校生のうちは無理だとも諦めていた。俺の気持ちでは、遊びたい盛りの高校生には重すぎると思っていたから。

 しかし今年はむしろ待ち遠しかった。
 結婚……はまだ早いが、結婚できる年齢になるのだから。
 俺は若葉とたった一日違いで歳を重ねた。



 サプライズではなかったが、楽しい誕生日パーティーが行われた。
 流石に颯太と本宮の二人だけとなれば難しいだろう。今まではサプライズの主導は若葉がしていて、さらに俺と若葉の二人に対してというのは難易度が高い。
 それもあってか俺と若葉の誕生日パーティーは合同だった。普通なら個別がいいと思うところかもしれないが、俺としては嬉しかった。彼女と一緒に祝われているのだから。

「虎徹ー」

 誕生日パーティーが終わってからあとは風呂に入って寝ようかというところで、母さんが声をかけてくる。

「何?」

「もう十八歳だしどうかと思ったけど、私とお父さんからのプレゼント」

 そう言って渡されたものはゲームソフトだ。持っていないもので欲しいものをピンポイントに持ってくるあたり、流石は父さんと母さんだ。……まあ、受験生に渡すものではないが。

「あとこれ、若葉に渡しといて」

「了解」

 若葉用に渡されたプレゼントはちゃんと包装されていたためわからない。
 しかし母さんは「イヤリングだからー」と心を読んだように言った。

「指輪とかネックレスはあんたがプレゼントしな」

「……指輪は早くね?」

「別に薬指じゃなくてもピンキーリングとかあるし。付き合ってるなら薬指でもいいと思うけど?」

「……まあ、おいおい考える」

 母親にアドバイスのようなものをもらうのはやや気恥ずかしい。
 ただ、恋人らしさを求める若葉としてはそういうものを望んでいるかもしれないため、アリなのかもしれない。心の片隅に置いておこう。

 明日も休日で、若葉と二人で出かける予定だ。
 このプレゼントはまた明日にでも渡そう。

 俺は「ありがとう」とお礼を言い、自分の部屋にプレゼントを置いてから風呂に入っていった。



 風呂から上がると携帯に不在着信が入っている。
 そして添えられたメッセージには、若葉から『明日のこと話したいー』と書かれていた。

 俺は折り返し電話をかける。

『あっ、虎徹ー』

「どうした?」

『明日、せっかくだから待ち合わせしたいなって。出かける時っていつもどっちかの家じゃん? デートっぽいことしたいからさ!』

「……ああ、そういうこと」

 なんとなく言いたいことはわかる。
 付き合う前に出かける時は、いつも先に準備ができた方がお互いの家に上がってくつろいで待っている。
 ちゃんとした待ち合わせというのはあまりした記憶がない。

 夏祭りに二人で歩いたのはあるが、ちゃんとしたデートというのは付き合ってから初めてだ。
 こういう時くらいは特別感があってもいいかもしれない。

「それなら十時に駅前とかでいいか?」

『いいよー』

「そういえばうちの親からプレゼント預かったから、また渡す」

『やった! うちも虎徹へのプレゼントあるみたいだから、帰りに寄ってってよ』

「了解」

 長い付き合いということもあって、お互いの両親は考えが似ているのだ。
 毎年もらえるため、密かに楽しみだった。

 そして今さらながら、若葉の声に少し違和感を覚える。
 電話越しに聞こえる声は反響しており、いつもと違う。

 そんなことを考えていると、水音が聞こえた。

「おい若葉。……今何してるんだ?」

『お風呂だけど? ……あ、変な想像した?』

「切るぞ」

『ちょっ……、待ってよー!』

 俺だって男なのだ。
 幼馴染で小さな頃は一緒に入ったことがあるとはいえ、年頃になった今にしかも彼女のお風呂シーンを想像するのは理性に悪い。

「むしろ切らせてくれ。色々やばいから」

『えー。そういうの私にぶつけ――』

 俺は若葉が話している途中に通話を切った。
 これ以上は色々と崩壊してしまう。

 それから何度か電話がかかってくるが、俺は全て無視をした。
 送られてくるメッセージには返しているが、電話に出れば何が起こるかわからない。

 ある程度のやりとりをした後、俺は明日のデートを楽しみにしながら、いつもより早くベッドに入った。



 翌日以降、俺と若葉の胸元には対となる宝石が煌めいていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。

紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。 アルファポリスのインセンティブの仕組み。 ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。 どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。 実際に新人賞に応募していくまでの過程。 春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...