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第二章 高校三年生編
第127話 本宮花音は動き始める
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「みんなともっと仲良くなりたかった。……それで迷惑かけたのはごめんなさい」
花音は謝った。
落ち度があるとすれば、距離の測り方を見誤ったことくらいだ。
俺たちは何も言わず、花音の言葉を黙って聞いていた。
まさかこんな言葉が出るとは思わなかったのか、黒川たちは絶句している。
真っ直ぐと見てくる花音に視線を向けているが、その目には何が写っているのかはわからない。
しかし、花音が写っていないのは確かだ。
ここにいるのは誰にでも好かれる『かのんちゃん』ではなく、黒川たちの知らない『本宮花音』だ。
「ここまでこじれて、今さら仲直りしたいとは思わない。私も嫌な気持ちなのは変わらないから、元に戻りたいとは思わないよ。だから私のことは嫌いなままでもいい」
嫌われるということを怖がっていた花音がそんなことを言うのだ。その言葉で花音の意思の強さを感じる。
そして花音は続けた。
「正直、黒川くんたちのことは私も嫌い。だって話も聞いてくれないから。長尾さんの方が付き合いは長くても、私だってみんなと友達だと思ってたんだよ? 少しくらい、信用してほしかった」
その言葉で長尾は顔を顰めた。
花音は糾弾したかったわけではないだろうが、結果的にそうなってしまっているのだ。
嘘を指摘されて長尾は何かを言いかけたが、言葉は出なかった。何も言い返せず、声にならなかった何かは消えてなくなる。
花音の言葉で黒川たちは黙り込んでいた。花音が悪いと決めつけていたが、自分たちにも不味いところがあったことにようやく気がついたのだろう。
「別に私のことは好きに言ってくれていい。嫌いなら嫌いで悪く言ってくれてもいい。それか、私のことなんか忘れてくれてもいいよ。でも、私は忘れない。嫌な思い出があっても、楽しかった思い出もあるから。……私は今幸せで、みんなと出会わなかったらこんな日もなかったと思うから」
……もし花音が黒川たちと出会わなかったら、なんなら今も仲良くしていたら、俺たちと会うことはなかったかもしれない。その可能性が高いのだ。
元々、そのまま高等部に進学するつもりだった花音は、どちらを取っても進学していただろう。
黒川たちと仲違いをしたことによって、今通う桐ヶ崎高校に進学したのだから。
「もう私には構わないで。私はこの人たちと一緒にいる本宮花音で、あなたたちと一緒にいた本宮花音はもういないの」
あまりにも都合のいい言い方ではあるが、花音の言いたいことはわかる。
花音も黒川たちも、中学時代のことを引きずっている。
その思い出は花音にとって重い枷となり、黒川たちは花音という標的を作って甘い蜜を吸っていた。
同じ過去でも、まったく意味が違っている。
「……正直、俺たちは部外者だ。花音と君らに何があっても、本来なら俺たちには関係ない。でも、巻き込んできたのはそっちだから言いたいことは言う」
花音だけと話すわけでもなく、俺たちがいる中で話しかけているのだ。
それくらいのことはさせてもらいたい。そのつもりで今まで話していた。
しかしこれで最後だ。
「大切な人にこれ以上ちょっかいをかけるのは許さないから」
黒川たちは声も出せずにただ黙っていた。
「颯太くん、若葉ちゃん、藤川くん。……行こ」
花音は俺たちに視線を向ける。
俺たちは頷くと花音の隣を歩き、黒川たちを一瞥して横を通り過ぎていった。
花音なりの決別。
途中から沈黙したままの黒川たちから返答なかったが、それが花音の解答だった。
段々と祭りの会場から遠ざかる。
しかし、人通りが少ないところまで来ると小さな公園を見つけ、花音はベンチに腰を下ろした。
「……まったく」
俺は花音の隣に腰を下ろすと、若葉も反対側に座った。
そして虎徹は花音の前に立つ。
周りには誰もいない。
それでも、花音の今の崩壊した表情は。見せられないし、誰にも見られたくないだろう。
……俺たちも、誰にも見せたくなかった。
俺たちだけの花音の泣き顔だ。
「落ち着いた?」
「……ありがとう」
花音は鼻をすすりながらも、声色は落ち込んだものではない。
そもそも、落ち込んだから涙を流したわけでもないのだから。
「やっと……、やっとだよ」
絞り出すように、花音はつぶやく。
「やっと言えた。これで、私はもう、大丈夫」
囚われていた過去の呪縛とでもいうのだろうか。
今まで一歩踏み切れなかったところがあったが、花音は黒川たちと正面から話すことでようやく心のモヤが晴れたのだ。
喜びと悲しみ。決着、そして決別。
一歩踏み出すことができたことで、様々な感情が合わさった。
花音の涙は、その感情を吐き出したものだった。
「三人とも、ありがとう。もう私は大丈夫だから」
いつもより晴れやかな表情で花音は言った。
「じゃあ、戻るか」
そう言ったのは虎徹だ。
自分から祭りの会場から離れた手前、言い出しにくい花音の代わりに虎徹は後押しした。
「うんっ!」
「よし、じゃあ改めて楽しもー!」
率先して前を歩く若葉に花音は着いていく。
そして俺と虎徹は苦笑いをしながらそんな二人の後ろを追う。
夏が終わる。
残暑は続くが、俺たちの夏はこれで終わりだ。
この夏、花音の高校生活がようやく動き始めた。
花音は謝った。
落ち度があるとすれば、距離の測り方を見誤ったことくらいだ。
俺たちは何も言わず、花音の言葉を黙って聞いていた。
まさかこんな言葉が出るとは思わなかったのか、黒川たちは絶句している。
真っ直ぐと見てくる花音に視線を向けているが、その目には何が写っているのかはわからない。
しかし、花音が写っていないのは確かだ。
ここにいるのは誰にでも好かれる『かのんちゃん』ではなく、黒川たちの知らない『本宮花音』だ。
「ここまでこじれて、今さら仲直りしたいとは思わない。私も嫌な気持ちなのは変わらないから、元に戻りたいとは思わないよ。だから私のことは嫌いなままでもいい」
嫌われるということを怖がっていた花音がそんなことを言うのだ。その言葉で花音の意思の強さを感じる。
そして花音は続けた。
「正直、黒川くんたちのことは私も嫌い。だって話も聞いてくれないから。長尾さんの方が付き合いは長くても、私だってみんなと友達だと思ってたんだよ? 少しくらい、信用してほしかった」
その言葉で長尾は顔を顰めた。
花音は糾弾したかったわけではないだろうが、結果的にそうなってしまっているのだ。
嘘を指摘されて長尾は何かを言いかけたが、言葉は出なかった。何も言い返せず、声にならなかった何かは消えてなくなる。
花音の言葉で黒川たちは黙り込んでいた。花音が悪いと決めつけていたが、自分たちにも不味いところがあったことにようやく気がついたのだろう。
「別に私のことは好きに言ってくれていい。嫌いなら嫌いで悪く言ってくれてもいい。それか、私のことなんか忘れてくれてもいいよ。でも、私は忘れない。嫌な思い出があっても、楽しかった思い出もあるから。……私は今幸せで、みんなと出会わなかったらこんな日もなかったと思うから」
……もし花音が黒川たちと出会わなかったら、なんなら今も仲良くしていたら、俺たちと会うことはなかったかもしれない。その可能性が高いのだ。
元々、そのまま高等部に進学するつもりだった花音は、どちらを取っても進学していただろう。
黒川たちと仲違いをしたことによって、今通う桐ヶ崎高校に進学したのだから。
「もう私には構わないで。私はこの人たちと一緒にいる本宮花音で、あなたたちと一緒にいた本宮花音はもういないの」
あまりにも都合のいい言い方ではあるが、花音の言いたいことはわかる。
花音も黒川たちも、中学時代のことを引きずっている。
その思い出は花音にとって重い枷となり、黒川たちは花音という標的を作って甘い蜜を吸っていた。
同じ過去でも、まったく意味が違っている。
「……正直、俺たちは部外者だ。花音と君らに何があっても、本来なら俺たちには関係ない。でも、巻き込んできたのはそっちだから言いたいことは言う」
花音だけと話すわけでもなく、俺たちがいる中で話しかけているのだ。
それくらいのことはさせてもらいたい。そのつもりで今まで話していた。
しかしこれで最後だ。
「大切な人にこれ以上ちょっかいをかけるのは許さないから」
黒川たちは声も出せずにただ黙っていた。
「颯太くん、若葉ちゃん、藤川くん。……行こ」
花音は俺たちに視線を向ける。
俺たちは頷くと花音の隣を歩き、黒川たちを一瞥して横を通り過ぎていった。
花音なりの決別。
途中から沈黙したままの黒川たちから返答なかったが、それが花音の解答だった。
段々と祭りの会場から遠ざかる。
しかし、人通りが少ないところまで来ると小さな公園を見つけ、花音はベンチに腰を下ろした。
「……まったく」
俺は花音の隣に腰を下ろすと、若葉も反対側に座った。
そして虎徹は花音の前に立つ。
周りには誰もいない。
それでも、花音の今の崩壊した表情は。見せられないし、誰にも見られたくないだろう。
……俺たちも、誰にも見せたくなかった。
俺たちだけの花音の泣き顔だ。
「落ち着いた?」
「……ありがとう」
花音は鼻をすすりながらも、声色は落ち込んだものではない。
そもそも、落ち込んだから涙を流したわけでもないのだから。
「やっと……、やっとだよ」
絞り出すように、花音はつぶやく。
「やっと言えた。これで、私はもう、大丈夫」
囚われていた過去の呪縛とでもいうのだろうか。
今まで一歩踏み切れなかったところがあったが、花音は黒川たちと正面から話すことでようやく心のモヤが晴れたのだ。
喜びと悲しみ。決着、そして決別。
一歩踏み出すことができたことで、様々な感情が合わさった。
花音の涙は、その感情を吐き出したものだった。
「三人とも、ありがとう。もう私は大丈夫だから」
いつもより晴れやかな表情で花音は言った。
「じゃあ、戻るか」
そう言ったのは虎徹だ。
自分から祭りの会場から離れた手前、言い出しにくい花音の代わりに虎徹は後押しした。
「うんっ!」
「よし、じゃあ改めて楽しもー!」
率先して前を歩く若葉に花音は着いていく。
そして俺と虎徹は苦笑いをしながらそんな二人の後ろを追う。
夏が終わる。
残暑は続くが、俺たちの夏はこれで終わりだ。
この夏、花音の高校生活がようやく動き始めた。
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